第402話◆賢いドラゴン
レッサーレッドドラゴンはできるだけ俺の方に来るようにする。その間アベルがチマチマと攻撃をして邪魔をする。
どうしてもやばくなるとアベルが転移魔法で俺を引き寄せる。
俺もサボりたくなったら適当にアベルになすって、アベルもやばくなったら転移で俺になすりにくる。
遊んでいるわけではない、囮役を交代しつつ安全を確保する非常に効率の良い連係プレイだ。
「げええええええ! こっち来た!!」
そりゃ俺は逃げるだけで精一杯で攻撃はほとんどできていないのだから、別方向からバンバン氷魔法を撃っていたら、レッサーレッドドラゴン君もそっちに行くに決まっている。
俺を追いかけていたレッサーレッドドラゴンがアベルの方を振り返り、そちらへと狙いを定めた。
半開きのレッサーレッドドラゴンの口の中にシュルシュルと魔力が集まり、その密度の上昇と共に口の中からメラメラと炎が零れるのが見えた。
アベルの方へ向かって炎のブレスを吐き出すつもりか?
カパッとレッサーレッドドラゴンの口が開き、口の中に溜まっている炎がアベルの方へと向かって火の玉を吐き出した。
「そんな、のんびり溜めてるブレスなんて当たらないよ」
それが吐き出される瞬間、アベルが俺のやや後方に転移で逃げて来た。
それとほぼ同時だった。
アベルが転移するのを予想していたかのようにレッサーレッドドラゴンがこちらに向きを変え、アベルが元いた方向に向かって吐き出した火の玉より大きな火の玉を吐き出した。
一発目はフェイントでこっちが本命か!?
くそ、アベルが何度も転移を使っているから学習したのか!
そりゃ、ダンジョンが作り出した生き物とはいえ、竜種は知能が高いからな。
長寿の竜種ほどではなくても、戦っている相手の行動を先読みするくらいしてもおかしくない。
「くそっ!」
「うっそ!?」
俺だけなら避けることはできるが、俺の後ろにいるアベルが再び転移魔法を使って逃げられるか微妙なタイミングだ。
「秘技! 身代わり丸太~~!!」
咄嗟に目の前に立てるように出したのは一メートル程の長さでやや太めのエルダーエンシェントトレントの丸太。
丸太には炎を引き寄せる付与がしてある。Aランクの昇級試験の最後でバルダーナが炎を躱すのに使っていたやつだ。
自分のいた場所に丸太を出した後は、すぐにアベルのいる場所まで下がる。
それと同時に身代わり丸太君に飛んできた火球がぶつかり、その丸太に吸収されるように燃え上がり火柱が高く上がった。
丸太が燃えると小さな竜巻が発生する効果も付与されてあり、丸太に引き寄せられた炎はそのまま火柱となって上へと逃げる仕組みだ。
バルダーナが使っていた丸太が便利そうだと思って、類似品を作っておいてよかった。まさに備えあれば憂いなし。
「あっぶな。グランの不思議アイテムのおかげで助かったよ」
火球直撃をくらったとしても、装備で火耐性を固めているので致命傷にはならないだろうが、熱いもんは熱い。躱せるなら躱すに決まっている。
「ブレスは躱したが、すぐ次が来るぞ」
そう、火球を躱しただけ。
レッサーレッドドラゴンはピンピンしているし、押されているのは俺達の方だ。
チラリとリヴィダスの方を見ると、カリュオンとドリーは回復魔法をもらって立ち直ったようだ。
後は身体強化をもらえばすぐに復帰してくるはずだ。
もう少し、もう少しだけ時間稼ぎだ。
「アベル、コイツは俺が引っ張るからシルエットの所へ――」
賢いレッサーレッドドラゴンはもしかすると人間の言葉を理解するかもしれない。
「うん、シルエットに伝えるよ」
小さな声でシルエットへの伝言をアベルに頼むと、アベルがヒュッとシルエットの方へと転移をしていく。
収納から新作ポーションを取り出し、炎を吸い込んで燃え尽きた丸太の向こうのレッサーレッドドラゴンを見据えた。
「さぁ、もうちょっと鬼ごっこをしようか」
レッサーレッドドラゴンの方に左腕を伸ばして、指をちょいちょいと曲げて煽ると、いい感じに釣られてくれてこちらに向かって動き出した。
ランクは高いくせに煽り耐性は低いようだ。
口を大きく開けてこちらに走って来るレッサー君をギリギリまで引きつけて、身体強化を最大まで発動して大きく上に跳んでそれを躱した。
そしてそのまま、レッサー君の頭を踏んで更に上にジャンプ。
ジャンプする時に手に持っていたポーションをレッサードラゴンの正面の間に叩き付けた。
投げつけたのはちょっと刺激的な煙が出るポーション。
香辛料系の植物の粉やら、ちょっとパチパチキラキラする雷属性の魔石の粉やら、ついでに粉末にしたドドリンも混ぜたな。
目に入るとシパシパするし、吸い込むとものすごく鼻がむずむずするし、ついでに臭い。
ふはははははははは、人間よりもずっと鋭い感覚を持っている上位生物のドラゴン様には、この超刺激的ポーションはよく効くだろう!!
お、いい感じに頭をブンブンしているぞ!! 防犯用に作った微妙に刺激的なポーションは、ドラゴンにも効いたので人間にもちゃんと効きそうだな!!
そしてジャンプした先に滑るように飛んできた、白い骨に掴まった。
どういう原理で飛んでいるのかわからない、シルエットの出した翼竜タイプのスケルトン。
空飛ぶ骨の翼竜、無駄に格好いいよね。
先ほどアベルにこっそり伝えたのがこれだ。シルエットに俺の上空に翼竜のスケルトンを飛ばすように伝言を頼んだのだ。
そして俺が翼竜君に掴まったら、そのまま上空に上がるように命令しておいてくれと。
その翼竜君に掴まって上空まで舞い上がる。
その頃にはレッサーレッドドラゴンは泥の目潰しから立ち直り、こちらを見上げ大きく口を開いた。
レッサーレッドドラゴンが大きな翼と膨大な魔力を持った種族だとしても、あの大きさの体ですぐに飛び立つことは無理だ。
よって上に逃げた俺に対してレッサー君がとる行動は、ブレスか魔法になる。
口を大きく開けたということはブレスかな?
どちらにせよ俺の方を見上げる体勢になる。
「目には目を、歯には歯を、デカイものにはデカイものをっ!!」
翼竜君に掴まってレッサーレッドドラゴンを見下ろしながら、収納の中に死蔵しているサイクロプスの巨大棍棒を空中に放り出した。
後は重力のままに落下するキンピカ巨大棍棒。
ふはははははははは、巨大落下物の威力を思い知るがいい。
十メートル級のサイクロプス君の持っていた棍棒だ。大きさは四メートルちょいくらいで、レッサーレッドドラゴンに比べたら小さく見えるが、高い所から落とせばそれなりの破壊力がある。
レッサーレッドドラゴンの開いた口を狙ってそれを落としてやった。
その巨体でその体勢からでは、回避行動は間に合わないだろう。
「アベル!!」
「もー、重さを弄る系の魔法は、時間が足りないと威力が低くなるの!! ていうか何を使ったの!? ものすごく臭いんだけど!?」
滑るように飛ぶ翼竜君に掴まったまま、アベルに声をかけると眉を寄せて何か言われたがよく聞こえなかった。
アベルがくるりと手を振るうのが見えて、巨大棍棒の落下スピードが増しレッサーレッドドラゴンの顔面を直撃した。
ふはははははははは、巨大落下物と重力魔法のコンボはSランクのドラゴンといえど、無傷ではすまないだろう。
レッサーレッドドラゴンの顔に当たった棍棒は、ドスンと地面に落ち周囲を陥没させ、硬そうな岩盤にめり込んでいるのが見えた。
そしてその棍棒はレッサーレッドドラゴン君の鼻の辺りに当たったのだろう、少し長細い顔の鼻先から顎にかけてグシャリと潰れているのが見えた。
くそぉ、致命傷まではいかなくても大ダメージくらいにはなるかなって思ったけれど、意外と平気そうだし普通にピンピンしているな。高ランクドラゴンの生命力おそるべし。
しかしこれで顎の骨が砕けて口が開けられなくなったからブレスはこないはずだ。
後は物理攻撃と魔法だけ気を付ければ――。
レッサーレッドドラゴンの攻撃手段を一つ潰して、やや気が緩みかけた。
鼻先が潰れたレッサーレッドドラゴンがこちらをギロリと睨み、バサッと大きく翼を広げたと思うと突風が巻き起こった。
「うおおおおっ!!」
その風で翼竜君がバラリと崩れて、俺は空中に放り出された。
仕方ないよね、本来は偵察用のか弱い飛行型スケルトンだし。翼竜君はよく頑張ってくれた、ありがとう!
なんて呑気なことを言っている場合ではない。
翼竜君が粉砕されてしまい、無防備な状態で空中に放り出された俺に向かって、レッサーレッドドラゴンが炎の矢を放ってきた。
くっそ! 当たり前のように無詠唱で魔法を使いやがって!!
このままで炎の矢が確実に俺に当たってしまうのだが、そこはいつものアレに期待。
ヒュッと視界が切り替わって、俺は自分の足で地面に立っており、空へ向かって飛んでいき消えていく炎の矢が見えた。
「やー、アベルならきっと助けてくれると思ってたよ」
「油断しすぎ」
炎は警戒していたのだが、翼から風魔法は完全に失念していた。
しかし俺が狙われているうちは何かあったら、アベルが転移魔法で引っ張ってくれると信じていた。
持つべきものはチートな魔法使いの友達である。
「ちょっとアンタ達、油断してる場合じゃないわよ!」
アベルの転移魔法で炎の矢から逃れて安心したのも束の間、シルエットの声でレッサーレッドドラゴンの方を振り返った時にはすでに、次の火魔法が発動しようとしているのが見えた。
あんにゃろ……この反応速度、アベルが転移魔法で俺を助けるのを予想していたのか!?
そりゃ、ひたすら逃げている時もアベルの転移魔法に何度も助けられたもんね。
こちらの手の内を察していてもおかしくないよね!?
アベルとシルエットの位置は近いし、アベルが俺を引き戻したところを範囲砲撃すれば効率がいいよね!?
さすがSランクのドラゴンだな、おい!?
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