第401話◆夕焼け小焼けの鬼ごっこ

「夕焼け小焼けのおおおおおおおお、レッサーレッドドラゴオオオオオオオオン!!!」

 レッドドラゴンフライじゃないよ!! レッサーレッドドラゴンだよ!! こんにちは、フロアボスさん!!

 ノット、アカトンボ!! イエス、ドラゴン!!

 いやいやいやいやいやいや、全然イエスじゃない!! 素材は欲しいけれど元気でピンピンしているレッドドラゴンが突然現れるのは、レッサーでもノーセンキューだよ!!!

 そしてそのレッサーレッドドラゴン君に、現在進行系で追いかけられているのは、俺だよ!! オレオレオレオレオレ!!!

 

「ちょっと、グラン、変なこと言ってないでグランの非常識スキルでアレどうにかして!! ゲッ! こっちに連れてこないでええええええ!!!」

「無理無理無理無理無理むうううううううりいいいいいいい!! カリュオンが吹き飛ばされるようなものを俺がどうにかできるわけないだろ!! って非常識スキルってなんだ!! 俺のスキルは九割方コモンスキルだろ!! 俺、普通の人!! めっちゃ普通の人!! 普通の人にドラゴンの誘導とか無理!! そこはやっぱ超天才魔導士さんどうにかして!!」

「グランが普通の人だなんて、バッカじゃないの!! それに魔導師がドラゴン相手に囮なんかできるわけないでしょ!! 逃げるだけでろくに攻撃なんてできないよ!!」

「俺だって、逃げてるしかしてないぞおおおおおおお!!!」

「だから、こっちに連れて来るなああああ!!」


「グランー! アベルー! 立て直すまでもうちょっと頑張ってーーー!! 一応骨は出して牽制はしてるからー!!」

 先生! 牽制じゃない本気の骨を出してください!!

 え? すぐに粉砕されるから高いのもったいない? ネクロマンサーさーーーーん!!

 しかも、レッドドラゴンだから火耐性高くて、得意の火魔法が効かないから氷魔法の得意なアベルとなんとか時間稼いでくれって?

 いやいやいやいやいや、俺ちゃんまだAランクになって日の浅いヒヨッコAランク冒険者ですよ!!

 そんな若輩者にレッドドラゴン相手に時間稼ぎとかむりいいいいいいい!!

 ギャーーー!! 火の玉飛んできたあああああああああああああああ!!!


 って、なんでこんなところにフロアボスのSランクのドラゴンがいるんだああああ!?

 あ、徘徊型フロアボス? そうだよね? そのでっかい翼でお空も飛んじゃうよね!!

 うん、五合目くらいまで降りて来ても不思議じゃないよね?

 いやいやいやいやいや、ギルドで見た資料では山頂付近にいるって書いてあったぞ!! 徘徊しすぎだろ!!

 

 あ、もしかしてメニューはレッドドレイク? うん、さっき残骸あったもんね!! うん、今ならわかるよ、あれ、美味しく召し上がった残骸だよね?

 君がお食事タイムだったから、レッドドレイク君はそれを避けていつもより広い範囲に散り散りになって、その影響で他の魔物が普段より下にずれていたのかな?


 謎は全てすっきり解けたな!! って、ぎええええええええ!! こっちに突っ込んできたあああああ!!

 バケツ、早く復帰してええええええ!!!


 あっるええええええええ!? レッドドレイクを狩っていたはずなのに、なんでフロアボスのレッサーレッドドラゴンと戦っているんだああああああ!?!?








 この状況に陥る少し前、メインルートからかなり外れた場所でウロウロとするレッドドレイクの気配を見つけた。

 念願の高級素材にテンションを上げながら袋叩きにしていると、更にもう一匹レッドドレイクらしき気配が上の方からこちらに来ている。

 俺達が戦っていることに気付いて寄って来たのかな? 飛んで火に入る高級素材ちゃんである。いや、どちらかというと飛ばずに火を吐く高級素材ちゃんだなー。

 狩られてしまって数が少ないのかと思ったけれど奥の方まで来ると案外残っているじゃないか。


 俺達がレッドドレイクを見つけた場所はメインルートから随分逸れた場所で、ボコボコと起伏の多い地形の関係でメインルートからはよく見えた山頂付近の火口がここからでは噴煙しか見えない。

 そのせいで少々視界は悪いが時々火口から飛んで来る小石もメインルートを通っていた時よりも少なくて快適である。


 最初に見つけたレッドドレイクを始末して、次のレッドドレイクの気配がする方へと向かい、それを発見して戦い始めたすぐ後だった。

 大きめの地震があり山頂付近から爆発音と共に空気や岩盤が裂けるようなバリバリという音が聞こえてきた。

 山頂の方を見ると黒い噴煙が上がり山頂付近を覆っている。角度の関係で赤い光――火口から噴きあがる溶岩の光までは見えないが、小規模な噴火があったのだと思われた。


 交戦開始後の噴火で、地震や少ないながら降ってくる小石、斜面を転がって落ちてくる岩といった状況での戦いになったが、そこはメンバー全員悪条件での交戦にも慣れているAランク冒険者。

 揺れる地面やバラバラと降ってくる小石で多少はぐだぐだしたものの、問題なく二匹目のレッドドレイクを制圧した。

 直後、近付いて来ている大きな気配に気付いた。


 火山活動が活発な中の戦闘で、周囲への注意をやや怠っていた。

「何かデカイのが来てる!」

 言い訳になるが、近付いてくる奴が火山活動の噴煙と音に紛れて気配を隠していたのだ。そして移動速度が速く、気配に気付いて注意を促した時にはもう目視できる場所までそれが来ていた。


 山の上から滑り降りるように、斜面ギリギリを滑空する赤い巨体。

 遠目には大きなレッドドレイクにも見えたが、近付いてくるにつれその大きさはレッドドレイクの倍以上はあることに気付いた。

 そして、翼。

 レッドドレイクは前足が翼になっているワイバーンタイプの亜竜種である。しかしこちらに向かって来ている赤い竜には、背中の翼とは別に前足が生えているのが見えた。


「うっわ、レッサーレッドドラゴンじゃん。なんでここまで来てるの!?」

 俺の頭の中に答えが浮かんだのと同じタイミングで、アベルがその答えを口に出した。

「徘徊型のボスではあるが、この辺りまで来ることは滅多にないと思っていたのだがな。どっかのパーティーが突いたか、近くで暴れたかしたのかもしれんな」


 滅多にないだけで来ることがあるのがダンジョンである。

 ボスに手を出してみたものの勝てそうにないので、仕方なく撤退するということはわりとある。そういう時は姿や気配を隠す系のスキルや魔法、魔道具を使いながら離れ、他人を巻き込まないように撤退する。

 その時にボスが大移動してしまったなんてことはダンジョンあるある。ダンジョンのボスってしつこい奴が多いんだよね。


 怒りの矛先を見失ったボスは自分の縄張りに帰っていくが、その時にちょっとお散歩していくことは珍しくない。

 レッサーレッドドラゴン君もお散歩中かな!?

 素材としてはとても美味しいが、いきなり来ちゃったは準備ができていないので困る。 

 レッドドレイクとの連戦でリヴィダスにかけてもらっている強化魔法もそろそろ消える頃だ。


「とりあえず引きつけておくから、その間に体勢を整えて……どわっ!!」

 一直線にこちらに向かってくるレッサーレッドドラコンに向かい盾を構えたカリュオンに、空中からレッサーレッドドラゴンが頭から突っ込んで来た。

 その大きさ、頭から尻尾まで入れると二〇メートル弱はありそうだ。 

 カリュオンが光の巨大盾のスキルを発動しながらその攻撃を受け止めるが、レッサーレッドドラゴンの到着が早かったため、スキルが完全に発動できずに攻撃を受け止めた状態で押し合いになり、力負けをしてカリュオンが大きく弾き飛ばされた。

 マジかよ!?


 カリュオンを吹き飛ばしたレッサーレッドドラゴンはドスンとその場に着地し、俺達の姿を確認するように首を巡らせた。

「カリュオン大丈夫か!? 落ち着いて立て直すぞ!! ぬおっ!?」

 カリュオンの次はそのすぐ近くにいたドリーに向かって火球が飛んでいき、それを大剣で切り裂くようにして振り払ったドリーだったが、その時に発生した爆風で後方に吹き飛ばされた。

 ひええええー、レッサー――"劣る"という名が付いているにもかかわらずこの強さ。さすがSランクのドラゴン。


 カリュオンとドリーが吹っ飛ばされている間に、俺は落ち着いて俺の仕事をする。

 とりあえず倒して回収をしていなかったレッドドレイクの死体をこっそりと回収……あ、やべ、レッサーレッドドラゴンがこっちを振り返った!!

 もしかしてレッドドレイクのお肉が欲しかった? ここまで来たのはこのレッドドレイク君を狙ってた?

 ごめんね、もう収納の中に入っちゃった。

 じゃ、そういうことで!!


 レッサーレッドドラゴンが口を開くのが見えその場から逃げると、俺がいた場所に火球が飛んできた。

 火球は避けたけれど、レッサーレッドドラゴン君は俺に狙いを定めたようでこちらに向かってドスドスと走って来た。

「グラン! ドリーとカリュオンを回復して立て直すまで、ちょっとだけ頑張ってて!!」

 そりゃないよ、リヴィダスママ!!

 そして始まる地獄の鬼ごっこ。


 レッサーレッドドラゴンが俺に夢中なのをいいことに、その背後からアベルが氷魔法をぶち込んだから、レッサーレッドドラゴンの注意がアベルに向いた。

 このまま、俺は避難しようかと思ったら、アベルが俺の方へと転移魔法でやって来たので、ドラゴン君もついて来た。


「ごめん、俺の方に来ちゃったから返すよ」

「いや、返品は受け付けてないでーーーす!!」


 なんてことを言っても、ドラゴンがこちらに来たのを確認してアベルがヒュンッと別の場所に転移していった。

 この野郎!!

「危なくなったら助けるから頑張って!!」

「馬鹿野郎! すでに危ないだろ!!」

 アベルが転移して逃げたものだから、ピュンピュン飛び回るアベルより俺の方が狙い易いと思ったのか、レッサーレッドドラゴン君からものすごい熱い視線を感じた。



 その後はレッサーレッドドラゴン君の猛烈なアピールを受けることになり逃げ回りながら現在に至る。

 本格的にやばい時はアベルが転移魔法で助けてくれるか、そうでなければ自分からアベルになすりに行く。

 結局アベルと二人でレッサーレッドドラゴンをなすり合う形で、ドリーとカリュオンが復帰するのを待っている状況だ。

 それでもやばい時はシルエットが使い捨てのスケルトンを出して注意を逸らしてくれるが、骨は炎に弱く一瞬で焼き払われる。


 ひええええええーーー、Sランクのドラゴンやば!! マジやば!!!


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