第399話◆偶然の産物

「うっわー、すっげえええー。フェニクックも集まれば業火となる?」

「よくわからないこと言ってないで、グランもマジメに戦ってよ!!」

「そう言われましても、この炎の中に突っ込む術はないし、矢を射っても届く前に燃え尽きるし、ナイフを投げたくらいじゃ倒せないし回収できそうにないからもったいない。爆弾を投げたらさすがにまずいだろ? 全部倒し終わるまで回収もできない。つまり上から槍でつつくくらいしかない!!」

 ドヤァ。


 フェニクックの群を砂地に嵌めたはいいが、数が多すぎてフェニクックの纏う炎がすごいことになっている。

 とてもではないが近付けないので、魔法を使える組が砂地の外から光または闇属性の魔法で一匹ずつ倒している状況だ。

 火の勢いもあるし数も多いので、集まったフェニクックを俺達のパーティーと連れてきた二つのパーティーで等分することで話を付け、俺達もフェニクックの始末を手伝っている。

 こんなのに時間をかけるくらいなら分け前が減ってもさっさと始末して、次に行くほうが稼げるからな。

 Aランクまで上り詰めるような冒険者となると、その辺の損得勘定がしっかりしているので、効率優先の交渉になると非常にスムーズなのだ。


 そんなわけでフェニクックの後始末に参戦することになったのだが。魔法の使えない俺、上から槍でつつくのが限界。ここぞとばかりに槍のスキル上げをしている。

 いいぞおおおお、フェニクックはなんだかんだでBランクだからきっと槍スキルがもりもり上がるぞーーー!!

 しかし槍はレンジに優れているとはいえ、炎との距離が近くて火の粉が飛んできて熱いし、ヘルムを着けているので中が蒸れ蒸れだし、飛んできた火の粉で髪の毛がチリチリしている。

 やめろ! 髪の毛はロングなフレンドなんだ!!


 魔法は使えるが得意ではないドリーも俺の仲間だと思ったら、上から斬撃を飛ばしてものすごい勢いでフェニクックを倒している。何それ、ずるい。

 バケツはバケツであの火の中に飛び込むのかと思ったら、上から魔法を撃っている。バケツのくせに、魔法の得意なエルフずるい。

「いやー、俺棍棒使いだからさ、炎の中に入るのは平気だけど棍棒を振り回したらフェニクック潰れちゃうからね」

 たしかにそのクソ痛そうなトゲトゲハンマーで殴られると、素材ごと潰しそうだな。

 そして、魔法使い様やヒーラー様は炎の届かない位置からピュンピュンと光やら闇の矢を放っている。ずるい、ずるい、ずるい!!

 他のパーティーの皆さんも少し離れたところから魔法を撃っている。くそぉおおおお! みんなずるいぞおおおおお!!

 嫉妬の心で嫉妬大魔神になりそう。


 ちなみにフェニクックは倒すと纏っている炎は消えるが、その羽毛に包まれているうちは火耐性が非常に高く燃えにくい。特にフェニクックの炎に対しては完全な耐性を持っているようで、その炎で燃えてなくなることはない。

 つまり、この地獄のようなフェニクックの炎の中でも倒したフェニクックが燃えることはなく、全部倒し終えてから回収すればいいのだ。





「ふむ、だいたい片付いたかな」

 汗を拭いながらドリーが手にしている大剣を背中の鞘に戻した。

 くっそー、俺と同じ近接専門のレンジ弱者のはずなのに、斬撃を飛ばしまくって一番討伐数を稼いでいそうだ。

「ありがとうございます、ご迷惑をおかけ致しました」

「力添え、非常に助かった。巻き込んでしまって申し訳ない」


 乱戦みたいな状態になってしまうと取り分で揉めることもあるのだが、さすがAランク冒険者、人当たりの良さそうな人ばかりのようだ。

 Aランクまで上がるには人格面も見られるからな、こんなダンジョンのど真ん中で無駄に揉めようなんて奴はほとんどいない。


「困った時はお互い様だからな。それよりこの数だ、まだ時間には余裕がありそうだが回収を急いだほうがいいだろう」

 たしかにすごい数のフェニクックが折り重なるように砂地の上に倒れている。回収に時間をかけすぎると消えてしまいそうだ。

 ドリーに促されて全員でフェニクックの回収に取りかかる。


 あまりに数が多いので、三パーティーで場所を決めて回収することになった。

 こんなん細かく等分している時間で、次の狩りをするほうが稼げるに決まっている。

 その辺の時間効率も考えてスムーズに交渉が終わるのは、さすがAランクパーティー同士である。

 目先の利益にこだわりすぎると、長い目で見ると損をするということをみんなよくわかっている。



「あれ? これは何かしら? 砂の中に赤い石がたくさん落ちているわね」

 最初にそれに気付いたのはリヴィダスだった。

 小石ほどのサイズの少し濁った赤色のガラスのような石を摘まんでいる。

「それ、こっちにも落ちてますよ」

「こっちにもあるぞ」

 他のパーティーのメンバーも同じように、赤い石を見つけたようだ。

「フェニタイトだ」

 そして俺も。

 フェニクックの死体を回収したその下の砂の中に、赤いガラスのような石が転がっている。


【フェニタイト】

レアリティ:A

品質:並

属性:火/聖

効果:火耐性上昇B/再生D

不死鳥族の炎により精錬された石

緩やかなリジェネーション効果がある


「へー、フェニクックの炎でもフェニタイトができるんだ。あれだけ掻き集めて砂地に放り込んだから、炎の勢いが強くて砂がガラスになっちゃったのか。でもフェニクックの炎だからなのか、ただの砂が原料だからなのかあまり品質は良くないね」

 アベルもフェニタイトを見つけたようで、光にかざしながらそれを鑑定したようだ。


 フェニタイトは不死鳥系の魔物が纏う炎の熱と魔力で結晶化した鉱石のことだ。

 その炎の主と元になった鉱石でその質と効果は変わる。主な効果は火耐性や治癒力上昇だが、ランクの高い不死鳥族の炎や元になった鉱石によっては珍しい効果が付くこともある。

 残念ながらこれは不死鳥族でも下っ端のフェニクックの炎からできたものなので、品質は並で特殊な効果は付いていなかった。

 品質が低くても効果自体は悪くないので、それなりの値段で取り引きをされるため、これはちょっとした儲けものだ。

「フェニクックは俺とアベルとシルエットで回収しよう。ドリーとカリュオンとリヴィダスはフェニタイトを探してみてくれ」

 フェニクックは収納持ちが回収するほうが効率がいいからな。ドリー達には水辺で鉱石や貝を採る用のザルを渡してフェニタイトは任せることにした。




「いやー、助けてもらったのにフェニタイトも等分で貰っちゃってなんか申し訳ないな」

「ええ、迷惑をかけたのにすっかり儲けさせてもらってしまって」

「まぁ、偶然の産物だしな。あの量のフェニクックが集まらなかったらできなかっただろう。俺達もたまたま通りかかっただけだしな」

 フェニクックとフェニタイトの回収も終わり、俺が砂地にした場所も徐々に元の岩がゴロゴロしている地面に戻り始めている。

 怒濤のフェニクック騒動とその後始末も終わったので、共闘したパーティーとはお別れだ。


 こうやって見知らぬパーティーと偶然の共闘をすることはよくある。場合によっては偶然どこかで再会し、また再び共に戦うことがあるかもしれない。

 予想外のハプニングでバタバタと共闘になって、なんとなくで連携が上手くいき思わぬ成果が出ると、とてもいい気分になる。

 それが縁で新たな知り合いが増えるなんてことも、冒険者をやっているとよくある話だ。

 一期一会――それは冒険者の醍醐味でもある。


「俺達よくここでフェニクックを狩っているのだけど、今日はフェニクックの場所がいつもよりずれてて、それでうっかり釣りを失敗したんだよな。もしかすると、上の方の強い魔物が降りて来てるかもしれないので、注意しておいたほうがいいかもしれない」

「あー、うちもですうちもです。上からサラマンダーが降りて来て、それがフェニクックを釣ってるタイミングと被っちゃってあんなことに。上の方で何かあったんですかねぇ?」

「む? そんなことがあったのか。群の位置がずれているのはこわいな。この上と言ったらサラマンダー、レッドドレイクか……レッドドレイク辺りが下に降りて来た可能性があるな。登りながら警戒をしておくとしよう、情報感謝する」

 別れる前にそれぞれのパーティーリーダーが周囲の情報を交換している。

 ダンジョンの中は常に危険と隣り合わせだ、ちょっとした違和感があればお互いの安全のため近くの冒険者と情報を共有する。


 この階層は火山を上に登るほど敵が強くなっていく。

 一番下にいるフェニクックよりもその少し上にいるサラマンダー。サラマンダーはフェニクックを捕食するため、時折下まで降りて来るらしい。

 そしてそのサラマンダーの天敵がサラマンダーより上に棲んでいるレッドドレイクだ。

 レッドドレイクがサラマンダーを捕食するために降りてきてサラマンダーが下に逃げ、それを避けてフェニクックの群が移動した可能性が高いな。


 資料によると八階層への入り口がある六合目付近の洞窟周辺はレッドドレイクの縄張りになっていた。

 好戦的なA+の魔物だが個体数は少なく、遭遇率はあまり高くない。

 また遭遇したとしても、体が大きいため八階層前の洞窟に逃げ込めばレッドドレイクは入って来られない。

 まぁ、外から火を吹かれる可能性があるので、ブレスを使う魔物相手に洞窟の中に逃げ込むのは悪手中の悪手である。

 そもそもAランクまできてそんな戦い方をする奴はいないと思う。


 六合目から上はレッドドレイクと同等、それよりランクの高い魔物も棲息しており、非常に危険なエリアらしい。

 七階層のエリアボスは山頂の火口付近に棲んでいる、S-ランクのレッサーレッドドラゴンだ。

 コイツは縄張りからあまり出てこないようで、会いたければ山頂まで登らないといけない。


 ドラゴンの素材は欲しいが、このクソ暑い中を山頂まで登るのはつらいな。

 火口付近なんて、うっかり火山が噴火するのもこわい。ドラゴン素材は欲しいけれど命は惜しい。

 それにエリアに一匹しかいないボスが素材が高価なドラゴンなら、すでに他のパーティーが狩っている可能性が高い。

 個体数が少なく素材が高価な魔物は人気があり、他のパーティーと被る可能性もあるので、そうなると早い者勝ちか共闘になるので、儲けが減ったり交渉が面倒くさかったり。

 ドリーの判断次第だけれど、今日はもう昼を過ぎているし山頂まで行く時間はなさそうだな。


 フェニクック地帯からサラマンダー地帯へ向かいながら上を見上げると、赤い空を背景に遙か先に白灰色の噴煙をあげる山頂が見えた。

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