第397話◆環境に優しい攻撃
「おい、グラン。お前、昨夜なにか変なものを作ってたか? 見張り中に近くのパーティーから、においをなんとかしてくれって苦情がきたぞ?」
いつものように、早朝の見張り役をしながら朝ご飯を作っていると、起きて来たドリーに言われた。
「へ? あ、ごめん、昨夜ちょっとポーションを補充してたから、それかも。セーフティーエリアでポーションを作る時には、消臭用の魔道具をちゃんと使うようにするよ」
あまりにおいの出ない素材だと思って油断していたな。すみませんでした。
「ああ、あんまり怒ってる感じはしなかったが、におい系は敏感な者もおおいし、睡眠の邪魔はトラブルにもなるし、翌日の安全にもかかわるから気を付けるんだ」
「ああ、すまなかった。朝食の準備が終わったら謝ってくるよ」
セーフティーエリアで偶然近所だったというだけでまた縁があるかわからないが、冒険者同士、どこで繋がっているかわからないからな、迷惑をかけた時はちゃんと謝っておかないといけない。
菓子折り代わりに昨夜作ったキノコの甘辛煮をおすそわけするか? あれはほかほかのご飯がないと良さがわからないか。
朝食の時に摘まめそうなものを差し入れしておこう。一口サイズのハッシュポテトをポーの葉を皿の代わりにして、それに山盛りにしておけばいいか。葉っぱだから食べ終わったらそのまま捨てられるしな。そうしようそうしよう。
そうだ、冷たい飲み物のパウダーのサンプルも一瓶付けておこう。
確か七階層目が火山で暑いエリアっぽいしちょうどいいや。またどこかのセーフティーエリアで一緒になって感想を聞かせて貰えれば、今後の改良の参考にもなって一石二鳥だな。
トラブルというほどではないがそんなこともあったが、ご近所さんにごめんなさいをして朝食を済ませたら六階層へ。
差し入れを持って行ったら全然怒っていなかったみたいで逆に感謝をされて、ハッシュポテトのお礼に表面がゴツゴツした薄い茶色の長細い芋を貰ってしまった。
一階層で採れる芋だとかで、皮を剥いたら中身は白くて粘り気があって触ると痒くなることもあるが、あっさりした味で調理方法も色々あるらしい。
知ってる、これヤマイモってやつだよな!? ここに来てまたご飯のお供が!!
そんなものが一階層にあったとは、羊拾いに夢中で見落としていたぜ。
六階層目は明るくて広い草原。
なだらかに続く丘を覆い尽くす見渡す限りの緑!!
ややひんやりしている空気が気持ち良い。寒くはないのだが汗ばむほどの暖かさでもない春先くらいの気候だろうか?
心地の良い風に柔らかい日差し、ほどよい丈でふかふかと生えている草の上に転がると非常に気持ち良さそうだ。
平和な草原に見えるだろ? これでも危険なダンジョンなんだぜ?
「コッケエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
そんなのどかで平和な草原に響き渡る、くっそうるさい鶏の鳴き声。
そして緑の絨毯を踏み荒らしながらドスドスとこちらに走って来るクソデカ鶏。
その後ろには更に追加でクソデカ鶏の群が見える。
俺達が縄張りに踏み込んだため、こちらに向かって走って来たコカトリス君達だ。
うるせぇ!! てめぇら纏めて明日のフライドチキンだ!!
「来るぞ!! グラン頼んだぞ!!」
「了解! シルエット! 先に前方に光を制限する壁を出してくれ!」
「任せなさい!」
「光耐性に自信がなかったら、念のため後ろを向いておいてくれ。いっくぞおおおおおおお!!!!」
六階層ではコカトリスの群と乱戦になることを想定して、石化視線対策の作戦を練ってきていた。
えへへ、その主役は俺だよオレオレ!!
シルエットが俺達の前に闇属性のカーテンのような防御壁を出したのを確認して、収納の中からキラキラとした粉が入っている瓶を取り出した。
その上部は蓋の代わりにくしゃくしゃと丸めた布が詰めてあり、そこからピロンと布の端っこが伸びている。
布のピロンと伸びている部分に火を付けて、身体強化を発動し大きく振りかぶる。
「行くぞ!! 必殺!! 環境に優しいシャイニングボンバーーー!!」
布を燃やす炎が瓶の中に行く前に、それをコカトリスの群の上へ向かって投げた。
ドゴオオオオオオオオオオオオッ!!
俺の投げた瓶はとても気合いの入った爆音と共に強い光を出して爆発し、視界が白くなった。
シルエットの出した闇の障壁のおかげで、視界が白くなって周囲が見えづらくなったもののすぐに元の視界に戻った。
うむ、音は思ったより大きかったが、派手なのは光だけで爆発による周囲への被害はほとんどない。
そして、そのびっくり爆弾を至近距離でくらったコカトリス達は、強烈な光と轟音に驚いて失神したり、頭を地面辺りまで下げてフラフラとしていたりする。
物理的ダメージはほとんどないが、ほぼ動きを止めることができている。
よっし、予想していた程度のまろやか効果のびっくり爆弾!!
「うへー、これは直撃したらさすがに俺でもやばそう。というかこういう単純な目くらましって、予測してないと対処は難しいからなぁ」
カリュオンさー、いつも思うのだけれど、バケツの上にゴーグルを付けているけれどそれ視界どうなの!?
おもしろバケツすぎて、そんなんが視界の中でうろちょろしていると、見ている方も気になって集中できないんだけど!?
「ひえ、装備とシルエットの魔法で目は大丈夫だけど、音もすごいねこれは、耳がおかしくなりそう」
確かに思ったより大きな音が出てしまって、耳がビリビリしている。
「ダメージはほとんどないけど、至近距離で爆発すると、強い光と轟音だけで感覚がおかしくなってしばらく動けなくなりそうね。なかなかおもしろい爆弾じゃない。後で私の持ってる状態異常系の薬剤のレシピと交換でそのレシピを教えてくれないかしら」
こんな金属を粉にしてそれに着火するだけの爆弾を、シルエットのレシピと交換だなんて、俺にとってお得な取り引きすぎる。
「いい感じにコカトリスどもが目を回したな。周囲への影響に注意を払わなければならないが、なかなか良い爆弾だ。よし、今のうちにコカトリスを狩ってしまうぞ」
やったぜ! ドリーに褒められたぞ!!
「次からは防音魔法も使った方がよさそうね。弱い敵なら音と爆発の振動だけでも動けなくなってしまいそうねぇ」
すみません、思ったより勢いよく爆発しちゃったもんで。爆弾系は作ってから実験していないものばかりで、投げてみるまでどのくらいの威力か俺にもわからないのだ。
次回から防音魔法をお願いします。
俺が投げたのは、瓶の中に燃やすと強い光を出す鉱石を細かい粉にしたものと、その効果を更に上げるための光の魔石が入った、目潰し用の爆弾。
火を点けた布には油が染みこませてあり、瓶の中に鉱石がよく燃えるように少量だがバーミリオンファンガスの粉末も混ざっている。
うむ、よく燃えて、よく光ってくれた。
俺達が目を保護する防具を装備した上で、念のためシルエットに光をカットする闇属性の障壁を展開してもらったのでなんともないが、これを裸眼で直視したら強い光と熱で眼球に大きなダメージを負ってしまうはずだ。
これでコカトリスどもは石化の視線は使えないはずだ。
もちろん周囲に人がいないことを確認して使ったよ!
石化の視線が使えなければ、あとは尻尾の毒と物理攻撃に気を付ければいい。
コカトリスは魔法も使うので、回復魔法を使える個体がいればそのうち回復されてしまいそうだが、それまでに数が減らせれば戦いは楽になる。
ついでに強烈な光で視界もしばらく戻って来ない。あとはゴリラ達が蹂躙しそうなので俺は回収係かなぁ。
王都から近い場所にあるダンジョンもコカトリスは棲息している階層があり、そこのコカトリスは比較的大人しく、攻撃をしたり縄張りを荒らしたりしなければ積極的には攻撃してこない。
しかしここのコカトリスは好戦的で縄張りに近付いただけでこちらに向かって来た。
大きさも鶏冠の先端まで入れると三メートルを超えるサイズで、俺が今まで見たことあるコカトリスよりもずっと大きく、羽根の色も茶色や艶のある濃い緑で鶏冠も派手でものすごく威厳がある。
そんなやつらが群れていて、石化効果のある視線を使ってくるわ、尻尾には毒があるわ、嘴でつつかれても痛い、蹴られても痛い、体当たりまでしてくるから、まともに相手をするといくらこのゴリラパーティーでもひどい乱戦になる予感しかない。
こんなのが六階層目で群れているのだから恐ろしいダンジョンである。
「ふいい、こいつらコカトリスはコカトリスでも、限定の特殊個体なのか。どうりで普通よりでかいし、やたら好戦的なわけだ」
「うん。今のところこのダンジョン限定種だね。でも普通のコカトリスより美味しいし、卵もでっかいよ」
石化視線を封じて更に視界を奪って、すっかりチョロくなってしまった大型コカトリス君達をゴリラ達が殲滅して、俺はいつもの回収係。
Aランク限定エリアなのでかなり厳しい戦闘になるかと構えていたが、思ったより楽勝である。この先もこんな感じなのかなぁ。
コカトリスはほぼ片付いたのでアベルも回収を手伝ってくれている。
今夜はこいつらを解体するのかー。すごく肉肉肉肉だなぁ。カラアゲ祭をするしかないな。
このコカトリスは俺の知っているものより随分大きいので鑑定してみると、"コッカ・チャボック"という名前で、素材のレア度も普通のコカトリスよりも高い。
アベルの話では美味しいみたいだし、やっぱカラアゲか。このパーティーの面子はカラアゲ大好きマンばかりだ。よって、カラアゲ祭決定。
「そうだ、卵! 卵も回収しなきゃ!」
コカトリスを倒した後は、巣を漁って卵も回収だ。
運が良ければコカトリスが集めた謎のアイテムがあったりする。
たまーに宝石とかよくわからない装備品とかを拾って巣に持ち帰っていて、コカトリスの巣を漁るのは結構楽しいんだよね。
漁った後に少し鶏臭くなるのが難点だ。
卵がたくさん手に入ったら卵料理もいいな。
このダンジョン、周囲のあらゆるものが食材もしくは調合素材なので本当にワクワクが止まらない。
時々毒物が混ざっているのは、毒も使い方次第では薬になるという意味なのだろうか?
それとも食事に混ぜる毒だからだろうか……いや、これは闇が深そうなので考えるのはやめておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます