第394話◆閑話:留守番中の女子会

「あららー、グランが爆弾を投げてしまいましたねぇ。これは木鎧のネズミさんは燃えちゃいそうですね」


「知らないうちに面白そうなものを作ってるじゃない。私もちょっと投げてみたいわね」


「森の近くで投げたらだめですわ。ダンジョンでもあまりよろしくはなさそうですけど。ほら、グランは気付いてませんがアベルは困惑してますわ」


「ほほほ、繊細な料理を作ると思えば、なかなか豪快な男よの。遠くの出来事として見ているだけなら面白いのぉ。なんじゃ花の子は炎が怖いのか? まぁ植物ならしょうがないの。む? 違う? 銀色の困惑した顔がたまらない? そなたなかなか面白い趣向に育ってきておるの」


「わかるわ、それ。アベルの困った顔ってなんか癖になるのよね。アベルの困った顔が見たかったら、食事中にアベルのお皿に苦い野菜を転移させるといいわよ。アベルが自分のお皿の苦い野菜をグランのお皿に移動させた後が、油断してて狙い目よ。え? そうじゃない?」


「でもアベルは苦くないおまじないをかけておけば、気付かずに食べてしまいますよぉ。警戒しているわりにチョロいですねぇ」


「アベルは魔眼と空間魔法に頼りすぎですので、そこを少し誤魔化せばすぐ騙せるんですのよね。その辺はグランのほうが勘がいいですわね。おやつを入れ替えてもすぐに気付いてしまいますわ。普段はボケェってしていてうっかりさんなのに、どうしてそういう時はちゃんと気付くのかしら。あ、あの木鎧ネズミはまだ生きているみたいですわ」


「ほほぉ、寄生キノコに取り付かれているとはいえなかなかしぶといの。うむ、この寄生キノコは長期間生き延びて力を手に入れておるのやもしれんな」


「ひええ……寄生キノコさん達は小さいですからねぇ。ほとんどがすぐ食べられたり潰されたりして、運良く小さい虫や小動物に取り付いても、それもまた食べられる側ですからねぇ。その中で生きながらえて大きな生き物を乗っ取ってしまうキノコさんはすごいキノコさんですねぇ」


「グラン達は大丈夫かしら。他の人達と離れているみたいだけど、ちゃんと倒せるのかしら? 帰ってきたらキノコだったー、はちょっと嫌だわ」


「グランとアベルにはわたくし達やラトが加護をあげているので、植物には強いはずですわ」


「ふむ、キノコは植物ではなくキノコですぞ。まぁ、木の妖精である妾の加護もあるからにキノコにも強くなっております故安心されよ」


「あ、お友達の盾の人が助けにきましたよぉ」


「グランのご友人は変わった人ばかりですわね」


「わかるわかる、この人の着ている鎧は面白い形だけどかっこいいわ。頭の形が倉庫に置いてあるバケツっていうのにそっくりなのも、可愛いくていいわね」


「バケツが可愛いのは妾にはわかりかねますな。ほむほむ、これは森の民の血がまざっておる騎士か。何をどういう掛け合わせをしたら、あの陰険でヒョロヒョロした森の民が、このように暑苦しく筋肉質な生き物に育つのか不思議で非常に興味深いのぉ。ん? 確かに筋肉質だけどバケツを取るとアベルほどではないがイケメン? そういう属性が好きな人もいる? ふむ、花の子はどこでそのような知識を学んでおるのじゃ」


「あ、グラン達が木鎧ネズミを倒しましたわ。若いキノコは燃えてしまったみたいですわね」


「見て、木鎧ネズミを乗っ取っていたキノコが出てきたわよ。他のよりも赤くて少し大きいわね。これが長生きをしたキノコの貫禄かしら」


「あ、グランが赤いキノコも倒しちゃいましたぁ。やっぱり強くなっても中身は小さなキノコですからねぇ」


「小さいながら、よく生き抜いたキノコだったようじゃの。おお、他の仲間も来たようじゃ。グランが派手に燃やしたからこれは後始末が大変そうじゃのぉ。人間の世界はしがらみが多いからの、しかしそれもまた楽しいんじゃよな」


「ミッシィアニエルは人間の町で暮らしてたことがあるって言ってたわね。楽しそうで羨ましいわ」


「人間の町には一度でいいから行ってみたいですねぇ」


「でもこれ以上"木"から離れると更に体が小さくなって、一番近い町に着く頃には赤ちゃんになってしまいますわ」


「ふむう、守護者というのも難儀なものですのぉ」


「そうね、木から離れるとどんどん体が小さくなって力も弱くなるのは不便ね」


「木が大きくなればもっと遠くまで行くことができるのですけどねぇ。それにはまだまだ時間がかかりますねぇ」


「一度くらいグラン達と一緒にお出かけしてみたいですわ。いつか遠くの町や知らないダンジョンに行ってみたいですわねぇ」


「ふむう、ダンジョンにも色々あるから飽きませんからの。グラン達のいるダンジョンも、なかなかユニークなダンジョンですのぉ」


「そうそう、グラン達のいるダンジョンは美味しそうだし、強い生き物がたくさんいて楽しそうよねぇ」


「そうそう、ラトのそっくりさんも出てきてビックリしましたねぇ。水鏡越しでも強そうなのがわかりましたよぉ」


「ラトは東の国の生まれでしたわね。グラン達のいるダンジョンは東の国に近い場所と聞いてますし、もしかすると知り合いかもしれませんわね」


「そういえば番人は東から来たと言っておったの。元からここの番人じゃったわけではないのですかの」


「どうでしょう、わたくし達が守護者として目覚めた時はすでにラトはここにいましたわ」


「ここの木で私達が目覚める前のことは覚えてないのよね。だから私達もラトが時々話してくれる森の外の話くらいでしか、ラトの昔のことは知らないのよね」


「私達は森から出たことはないけど、ラトがたくさん話を聞かせてくれましたぁ。時々ラトの昔のお友達さんが水鏡越しに遠くの景色を見せてくれるのですぅ。知らない森や岩だらけの赤い山と大きな温かい湖、この間は砂ばかりのサバクを見せてくれましたぁ。今度はウミを見せてくれるそうですよぉ」


「ほぉ、海は良いものですぞ。妾は陸の植物故、長い時間海の近くにはおれませぬが、それでもあのどこまでも続く水の世界には心をくすぐられますの。ぬ? 誰か来たようじゃの、客人か?」


「キルシェさんじゃないかしら? そういえば、冒険者ギルドで仕事をして昼過ぎに来ると言ってましたわ」


「冒険者かー、楽しそうで羨ましいわ。いつか町まで行けるようになったら、私も冒険者になるわ」


「私はお店屋さんやってみたいですぅ。そうそう、ミッシィアニエルさん、キルシェさんには私達の正体は内緒ですよぉ。ミッシィアニエルさんは、私達の妹という設定でいきますかぁ」


「いや、守護者様のほうが妾より長寿と言っても、その姿では妹はちょっと無理があるんじゃないかのぉ。従姉妹の再従兄弟の又従姉妹くらいにしておきますぞえ」


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