第393話◆超高級素材
五階層の一番奥――六階層手前にはセーフティーエリアがある。
そしてこのセーフティーエリアが、このダンジョンでBランク冒険者が来ることのできる最深部である。
次の階層からはついにAランク限定エリア。
パーティーメンバーが強いこともあってここまではつい気が緩みがちだったけれど、ここから先はしっかりと気を引き締めて行かなければいけない。
ユキムシノココロに乗っ取られたプリモジロ君と激闘を繰り広げたのは、五階層の入り口とセーフティーエリアの中間地点あたり。
この階層はキノコだらけであまりアクティブな魔物もいないしと油断をしていたら、酷い目に遭ってしまった。
そして、ちょーーーっとよく燃えるポーションを投げて酷いことになってしまってお説教を覚悟したのだが、ドリーもリヴィダスもお説教より先に後始末を手伝ってくれた。むしろあまりの惨事に怪我をしていないか心配された。
その間に事情を説明して謝り倒して無事お説教回避!!
よっしゃ、先手必勝!! 大勝利!! ホントすみません!! ご心配をおかけいたしました!! 後片付けも手伝ってくれてありがとうございます!!
爆弾投げる時はもう少しよく考えて投げます!!
いや、今回は俺は一割くらいしか悪くなくて、だいたいは火耐性があったキノコが九割くらい悪いな。
よって、俺無罪!!
やはりダンジョンで迂闊に炎を使うのは危険だな。炎を伴わない爆弾、そして炎以外で周囲への影響が少ないまろやかで高威力の爆弾を考えよう。
爆弾の中に尖った金属片を混ぜたのはすでに作ってあるけれど、投げると凍る爆弾とか雷が発生する爆弾とかも浪漫があっていいなぁ。毒霧も強そうだがこれは周囲への被害がやばそうだなぁ。
あっ、目くらましの目が痛くなる煙がたくさん出る爆弾とか、睡眠爆弾、麻痺爆弾、錯乱爆弾、爆音爆弾……色々あるな?
よし、帰ったら作ってみよう。
そうだ、セーフティーエリアにいる時に簡単なものを試しに作ってみれば、ダンジョンで安全に実験ができそうではないか。
周囲の被害にびびって、あらかじめインフェルノハイポーションの威力を確認していなかったのは少しまずかったな。
テスト大事、すごく大事。
「すっごいわね、コレ。グラン、ホントよくやったわ! 二つに割れちゃってるけど、どうせ粉にするから関係ないわ。オホホホホホホホ、このユキムシノココロはあたしが買い上げるわ」
そして、あまり怒られずにすんだ最大の理由。
それはこのめちゃくちゃご機嫌なシルエットにある。
その理由は俺達が戦ったユキムシノココロ。
俺達が戦ったのはやはり乗っ取りを繰り返した個体だったようで、調合マニアのシルエットだけではなくその価値にドリーやリヴィダスもテンションが爆上がりして、お説教タイムどころではなくなり、以後気を付けるように程度ですんだ。
うん、以後もっとまろやかで安全な爆弾を使うようにして、安全には配慮するよ!
何度も宿主の完全乗っ取りに成功しているユキムシノココロは非常に稀少で、真偽は定かではないが若返りの薬の材料になるという噂まであり、恐ろしく高値で取り引きをされる。
何度も乗っ取りを成功させた個体は宿主を養分としてきた結果なのか、そうではない個体より魔力を多く含んでおりポーション素材としても優秀だ。
生まれたばかりの個体はそうでもないが、一度でも乗っ取りを成功させた個体は万能な回復薬の素となり、その回数が増えるほど効果は高くなる。
しかし効果の高い万能薬の素に成長するには何か条件があるのか、養殖ではあまり質の良いものができないとかなんとか。
今回手に入れたのは天然物で、何度も――しかも大型の生物を乗っ取っていた個体のため、非常に質が良く、シルエットが即お買い上げを決定した。
俺も胴体分の切れっ端を少しだけ売ってもらうことにした。薬調合スキルがもっと上がったらすっごい万能薬を作るのだ。
「うふふふふふふふふ、まさか新しいダンジョンでこんな気合いの入ったユキムシノココロが手に入るなんて思わなかったわ」
ほんのり赤くて艶のあるユキムシノココロを、両手で大事そうに持って眺めているシルエットはずっとニヤニヤとしている。
すごくわかる。稀少素材が手に入ると、無意味にそれを眺めてニヤニヤしたくなるんだよな。
「ユキムシノココロは生き物にくっついて長距離を移動することもあるからな。どこかで冒険者に付着して入って来てダンジョン内で剥がれたかあるいは……な可能性がないとは言えないな」
ドリーが言いかけて言葉を濁した。その可能性はホラーなので考えるのはやめよう。
いくら冒険者の安全に配慮された規則や施設があっても、ダンジョン内では何が起こるかわからないし毎年多く冒険者が命を落とす、もしくは行方不明となっている。
そう、行方不明になったとしても、よくあることだと事務的に処理をされるだけなのだ。
ほぼ乗っ取られていてもキノコが生えてくるまでは、外見での見分けは付きにくい。
もしかすると、俺達の近くにも――。
おっと、うっかり怖いことを考えてしまった。
「ちょっとドリー、怖い話はやめてよね!」
ははは、相変わらずアベルは怖がりだな。
いや、寄生キノコは怖いな。
「できて日の浅いダンジョンだからそういう可能性もありそうだなぁ。まぁ、ダンジョンだし強い個体をダンジョンが生成した可能性もあるかな? この階層もフロアボスの報告がなかったよね。もしかして、強力な魔物や人間を乗っ取る可能性があるキノコがボスとして生み出されてたりして。乗っ取られたヒト系の種族がボスとして出てきたらやだなー。知り合いの体とかだとさすがにやりにくいし」
おい、カリュオン怖い話はやめろ!!
乗っ取られた冒険者がダンジョンまで入り込んだ可能性も怖いが、ダンジョンで乗っ取られた冒険者がボスとして出てくるのはもっと怖いぞ!!
「そうね、簡単に乗っ取られることはないけど、たかがキノコと侮ってはいけないわね。今日は全員綺麗に頭を洗ったほうがいいわね、とくにグランとアベルは念入りに洗っておくのよ」
「お、おう」
リヴィダスに言われ、なんとなく頭の上にキノコが付いているのではないかという気分になって、ワシャワシャと頭を掻いた。
セーフティーエリアに風呂やシャワーはないので持ち込んだ水の魔石で洗うことになり面倒くさいが、今日は浄化魔法ですませないで綺麗に頭を洗っておこう。
正直カリュオンが来なかったらもっと大事になっていそうだった。
さすがランクの高いダンジョンというか、今回は半分くらい自らの油断と慢心が招いた結果だ。
うむ、しっかり反省しよう。ダンジョンでふざけ過ぎダメ!!
「それで、今日の夕飯は何を作ってるの? 肉肉肉の野菜なしなしで甘いデザートましましの約束だったよね」
そんな約束はした気がするけれど、なんか肉と甘いものが増量されている気がする。
「今日はシチュー。昨日のランポペコラの肉と、この階層で採ったキノコを使ったブラウンシチュー。野菜を入れないとうま味が足りないから野菜は入ってるよ」
「シチューなら野菜は食べられるよ。でもニンジンは小さめに切ってね」
相変わらず注文が多いな!?
まぁシチューならアベルも普通にニンジンを食べるので、他の料理のように手間をかけて野菜を隠さなくていいので楽なほうだ。
今日は四階層と五階層だけしか移動をしていないので、セーフティーエリアにはやや早めに到着した。
夕飯にはまだまだ時間に余裕があるので、少し時間がかかるシチューにすることにした。
せっかく食材ダンジョンに来たのだし、現地で手に入った食材を調理できるように、自称秘伝のスープも用意してきている。
今日使う秘伝のスープはブラックバッファローとゴーゴンのスジ肉や骨を色々な野菜と一緒にコトコトと煮込んで作ったスープだ。
ランポペコラの肉は食べごたえのある程度で一口サイズにカットして表面に焦げ目が付くくらいに焼く。
塩と胡椒を振るついでに少しだけニンニクも。
半透明になるまでじんわりと炒めたタマネギのみじん切りと、焼き色の付いたランポペコラの肉を鍋に入れて、食べやすいサイズにカットしたキノコとトマトの水煮を加え、最後に赤ワインを注いでコトコトと煮込む。
ニンジンは煮崩れを防ぐため後から加える派だ。
今世のトマトは前世に比べて甘味があまりなく、水分も少なくてそのままだとパサパサ感があるのだが、こういう煮込み料理とは非常に相性がいい。
コトコトとシチューを煮込みながら、その間に装備の手入れや道中で採取した素材でポーションも作っておく。
明日からは六階層。
ついにAランク限定のエリアに突入する。
俺がAランクになって初めてのAランク相応の場所。
ここまでの道のりですでに自分の火力不足を改めて思い知ることになったが、この先ついていけるのだろうか?
いや、弱気になってはいけない。
俺は俺にできることをやるまでだ。
俺がAランクになったのだ。あのゴリラ達に食らいついていって俺は俺の仕事をやりきるのだ。
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