第353話◆現場検証
目の前で人が燃やされるというなんとも物騒で予想外の出来事に遭遇してしまったが、騒ぎで様子を見に来た人に冒険者ギルドや町の治安部に連絡してもらい、俺は男達の応急処置を行った。
男達は意識はなく重傷だったが、すぐに応急処置を行ったため、この後診療所で手当を受ければ命には問題ないだろう。
謎の炎に、がっつりこんがり燃やされたので効果の高いポーションを使いたくなるが、迂闊に使ってしまうと急激な回復に体が耐えられずショック状態に陥る危険も考えられるため、一般人でも負担に耐えられる程度のハイポーションを使うに留めた。
ポーションや回復魔法の効果は高いが、弱りすぎている者にいきなり効果の高い回復を浴びせると、体が急激な回復についていけず逆に危険な状況に陥りやすいのだ。
この男達がどういう者達なのか俺にはわからないので、応急処置だけやって後は医者に任せてしまうことにした。
俺が男達を手当している間に、近所の人が冒険者ギルドの職員と兵士を呼んで来てくれたので、俺が見た事を説明して帰らせてもらった。
冒険者ギルドの職員さんとは顔見知りだったし、まだ依頼の途中であることを伝えると、明るくなってから詳しい現場検証をするので、朝になったらギルドに来てくれと言われた。
こういう時、冒険者ランクが高いとすんなり信用してもらえて楽なんだよな。
物騒な場面に遭遇してしまい、すっかり帰るのが遅くなってしまった翌朝、昨夜言われた通り冒険者ギルドを訪れたのだが、昨夜の現場に向かうように言われそちらへと向かった。
朝食の時に昨夜の出来事を話したら何故かついて来たアベルと一緒に。
暇なのか!? お兄様から渡されていた仕事も終わったみたいだけれど、ドリー達とどっか行く予定があるわけでもなさそうなので暇なんだな!?
暇なら庭に生え散らかしている草を毟っておいてくれないかな? 気温の上昇と共に雑草がボウボウと伸びて爆発寸前なんだよ。
え? それは面白くないからやだ? 俺について来ても面白い事なんかないだろ!?
現場に到着するとバルダーナがチェインメイルを着た兵士と話しており、俺達に気付き軽く手を上げた。
「おう、来たか。朝から悪いな、ってアベルも一緒か、これは助かるな」
「グランがまた変なトラブルに巻き込まれたみたいだしー? 現場検証なら俺の鑑定が役に立つかもしれないしー?」
「巻き込まれたんじゃなくて、たまたま通りかかっただけだ」
今日は、これから治安部の兵士を交えて、昨日の出来事を説明しつつ、詳しく検証することになっている。
「やぁ、グラン君じゃないか、久しぶりだな」
バルダーナと話していた兵士が俺に気付いて手を上げた。
あれ? ピエモンの兵士に知り合いなんていたっけ? なんか顔には見覚えあるけれど。
「あ! 何ちゃら商会と揉めた時に色々情報をくれた……えーと、兵士さん!! あの時はすごく助かりました!!」
名前は聞いた記憶がないのだが、顔は思い出した。
この兵士さんのくれた情報でなんたら商会のおっさんを追い詰めることができたのだよな。
なんて名前の商会だったっけ? 忘れた。
「そういえば名乗ってなかったな。エドワだ、グラン君とはこれからも縁がありそうだし、よろしく頼むよ。それとあの時の事は、あまり大きな声で言ったらいけないよ」
あ、しまった! こっそり教えてくれたんだった。
俺がうっかり口を滑らせたので、エドワさんが苦笑いしながら人差し指を立てて口に当てた。
って、縁がありそうってなんだ!? 町の治安部にはあまりお世話になりたくないぞ!?
「あ、すみません!」
「いいよいいよ、バルダーナさんしかいないし、バルダーナさんの情報網ならすでにバレてそうだし」
「んー? なんのことだー?」
バルダーナがとぼけた口調で頭を掻いているが、これはバレているやつだなぁ。
小さい町だがギルド長を任せられている程だし、独自の情報網をもっていそうだな。
ピエモンに越してきて間もない頃から家の場所もバレていたし、冒険者ギルドの情報収集能力恐るべし。
「報告書を見てもしかしたらと思っていたけれど、やっぱり現場にいた冒険者はグラン君だったんだな」
「ああ、たまたま依頼中に通りかかって。あの燃やされた人達は大丈夫だったのか? それと犯人の目星は?」
「男達は重傷だけど命には別状ないな。周囲の聞き込みと簡単な現場検証は済ませたけど、犯人の目撃はなし、魔法らしき痕跡はあるが他の痕跡もなし。男達は火傷が酷くて回復するまでは、まともに話せそうにない」
「目撃者がグランだけだからなぁ。グランが魔法を使えてたら真っ先に疑われてたな」
なっ!? 言われてみれば男達の証言が得られず、目撃者も俺しかいなければ真っ先に疑われるのは俺だ。
魔法が使えなくてよかった。素行が優良な信用のあるAランクの冒険者でよかった。
「それで、その時の事を説明してもらえるか?」
「ああ、俺が馬車で走って来たのはあっちの畑がたくさんある方から。男達が飛び出して来たのが、そこの地面が焦げてる所の路地だな。何かから逃げてるようで、道に出てきた時はすでに服が燃えている奴もいたな。それで、道に出てきた後に路地からでかい炎が出てきて、それで重傷を負った感じだな。すぐに路地の方を見たけど暗くて人の姿は見えず、人の気配もなかったよ」
俺が見た事を順を追って話すと、エドワさんがそれを手帳にメモをしていく。
「人の姿は見えなくて、人の気配はなかったのか?」
さすがバルダーナ鋭い。
「人ではなくて小型の生き物の気配が男達の後ろ――炎が放たれた方向にあったよ。たまたまそこにいて炎にびびって逃げただけかもしれないが、大きな炎の後にその気配は消えた」
そう、あの時路地から走って来ている男達の後ろに感じた小さな気配。
バタバタという男達の足音はハッキリと聞こえていたが、その後ろから来ていた気配には足音がなかった。
「人間以外の可能性か……。しかしあの男達以外に襲われた者がいないとなると、誰かが使役している生き物か?」
「さぁ、どうかなぁ。普通、町の中で炎を使う生き物を使役するか? それに、近くには他に人の気配はなかった」
男達を襲撃した生き物を使役していた者が完全に気配を消しているか、離れた場所にいた可能性もあるが、他にも腑に落ちない点がある。
町の中で炎の使用――騒ぎを起こさず男達を始末したいなら火ではなく、氷や風魔法の方が向いている。
そう考えると火魔法しか使えない、そしてそれで騒ぎになることを気にしていないことになる。
騒ぎになれば住人が起きて、姿を目撃されてしまう可能性だってある。
人が人を狙って町の中で攻撃を仕掛けたにしては少々違和感があるんだよなぁ。
「まぁ、そうだよな。じゃあやっぱ魔物の仕業か。あの男どもが話せるようになったらわかるか」
男ども。
バルダーナは日頃から言葉使いはやや荒い方だが、それでも被害者に使うような言葉ではない。
「その被害者って町の人だったのかい?」
アベルもやはり気になったようだ。
「んんんんー、バルダーナさんもいるしグラン君なら話してもいいか。被害者の三人は、最近この辺りで多発してた空き巣や倉庫荒らしの犯人のようなんだよ」
は? 空き巣? 倉庫荒らし?
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