第351話◆アンダーグラウンドタコ焼きパーティー

「はいはい~、材料はまだあるからね~、順番に並んでね~! って、なんで俺までこんな事してるの!?」

「やったぜ! 料理のスキルが上がるな!!」

「もっ! 慣れてきたらチョロいも! 頭ピカピカは下手くそだから、ショウガでもかけてるといいも」

「はぁ!? ちょっと指先が器用だからって生意気なモグラだね!! ショウガをかけるのにもセンスがいるの!」

「はいはいはいはい、喋ってないで手を動かそうな。ほい、できた! 中から熱いのが出てくるから気を付けて食えよ。ん? 鉱石? ありがとう!」


 あっれー? 俺ら、いつからタコ焼き屋になったんだー!?

 いやタコじゃないセファラポッドだ。セファラポッド焼きは長いからセファ焼きだな!


 地中にあるモールの集落の中でも特に広く天井も高い広場で、セファ焼き機を出してセファ焼きを作り始めたら、案の定モール達がわらわらと集まって来た。

 こうなる事を見越して材料はたくさん準備して来た。

 あらかじめ材料は刻んで、小麦粉も水と出汁で溶いておいたものを用意していたので、後は焼いてソースをかけてショウガと削り節をかけるだけだ。


 最初は俺が焼いてアベルとタルバは食べる側だったのだが、わらわらとモールが集まってきたせいで、予備で作ったセファ焼き機を出してアベルとタルバもセファ焼きを作る側になった。

 それほど大規模な集落ではなくモールの数はそんなに多くないのだが、それでもそのほとんどがわらわらと寄ってくると、広場にモールの行列ができてしまった。

 小柄なモールなので一人四個ずつだとしても、俺一人で焼くのはしんどいのでアベルとタルバを巻き込んだ。

 予備のセファ焼き機を作っておいて良かったな!!

 ジュストやリリーさんにあげるつもりで作った予備だけれど、これは安全確認の試運転だ。

 念の為にとセファ焼きをひっくり返すピックも予備を持って来ていた大正解。

 備えあれば憂いなし!! 大は小を兼ねる!!


 元々指先が器用なタルバは、俺がやっているのを見てすぐに慣れてコロコロとテンポ良くセファ焼きをひっくり返している。

 恐るべし、モールの器用さ。

 一方アベルは……少々残念な事になっているので、途中からソースをかけて削り節とショウガを振り掛ける係になっている。


 モール総出で来られると材料はあっても皿もフォークも足りないので、食器は持参するようにお願いしたら、皿とフォークを持って行儀良くセファ焼き機の前に並んでいて非常に可愛い。

 そして、セファ焼きのお礼に鉱石を置いて行ってくれるのも地味にありがたい。

 時々、あきらかにセファ焼きの代金には高すぎる鉱石が混ざっているような気がしないでもないが、セファ焼きを焼くのが忙しくてそれどころではない。






 広場に集まったモール達にセファ焼きを配り終えて、ようやく俺もセファ焼きを食べる事ができる。

 そーだよ、アベルとタルバのを焼いた後すぐにモール達が集まって来て、自分は味見で一つ食べた以外、食べていなかったよ!!

 こういうのは焼く係がなかなか食べられないと決まっている。

 あー、腹減った。

 ホント腹が減っている時にひたすら焼いて、生地が焼ける香ばしい香りと、それにかけられたソースが熱せられる香り、そして紅ショウガや削り節の香り、どれも空きっ腹にダイレクトアタックしてくる匂いである。


 ひたすらセファ焼きを焼き続けたため、すっかりセファ焼きの腕が上がってしまった。

 モール達が帰って行った後にやっとこさ焼く事ができた自分用のセファ焼きは、外は焦げ目が付いてふんわり香ばしく、中はトロッとして形も申し分なく整っている。

 何かあって冒険者ができなくなっても、セファ焼き屋にもなれるな!!


「あっつっ!!」

 中がトロトロアツアツすぎて、口の中でジュワッといってしまった。

 これがタコ焼き……いや、セファ焼きの醍醐味である。

「セファラポッドをそのまま焼くのかと思ったら、生地に包んで焼くなんて予想外だよ。だから鉄板がこんな形だったんだね。外は香ばしいのに中はクリームみたいで不思議な料理。一口で食べられるのもいいね。でも中がすごく熱いから油断できないな」

 アベルも途中から焼く側に加わっていたので食べ足りないないのか、自分で追加を焼いて食べているのだが、イケメンが熱い鉄板の前で汗水垂らしながらセファ焼きを焼いている姿はシュールで面白い。

 セファ焼きのできは少し不格好だが、普段料理をしないアベルにしては上達が早い方なのかな?


「もっもっもっもっ! セファ焼きの作り方はもう完璧も! 自分のセファ焼き機作ってもいいも? 商売には使わないも、使う時はグランに連絡するも」

 タルバはすっかりプロのタコ焼き職人並みの腕前になってしまっている。

 そしてセファ焼きがすっかり気に入ったようだ。もしかすると焼くのも楽しかったのかもしれない。

「おう、タルバの協力で作った物だし好きに作っていいぞ。これで作れる料理のレシピを後で書いておくよ。商売なぁ……セファ焼き屋はわりとありだと思うけどなぁ。そうだなぁ、セファラポッドは入手が厳しいから、具を地中で手に入りそうな食材にしてもいいし、生地を甘い生地にすれば一口サイズのケーキにもなるな。小麦も地中だと難しいか……地中で手に入る食材で何か代替えできるものはあるのかなぁ」

「もっ! 食材の事は飯屋おばちゃんが詳しいも!! 飯屋のおばちゃんにこの道具を売り込んでもいいも? 利益の三割はグランに渡すも!」

「ん? そうだな、金のケジメはちゃんとしておいた方がいいか。共同開発だし、タルバの協力がないと作るのは難しいから俺の取り分は二割でいいよ」

「もっ! じゃあ後で契約板を作るも!」

 タルバに限らずモール達は、こういう取り引きの時の報酬のやりとりはきっちりしている。

 装飾技術に特化しておりそれを売りにしている種族だからだろう、自分の技術を安売りする事もないし、相手の技術を買い叩く事もない。

 曰く、取り引き相手の主がドワーフなので、契約でいい加減な事をするとすぐに足元を見られるため、商売上契約や金品のやりとりは親しくてもきっちりやるらしい。


「モールはそういうところちゃんとしてて偉いよね、グランも見習おうね。これ、ちゃんと商業ギルドに登録しとくんだよ。調理器具だけじゃなくて料理もだよ」

 うっ、アベルがニコニコとしているが、その笑顔には威圧感がある。

「お、おう」

 商業ギルドに行くの面倒くさいなぁ。お役所は待ち時間がだるいんだよなぁ。

 また今度でいいか。そのうち暇ができたらいつか行こう。

 やべ、アベルに睨まれた! 考えている事がバレたか!?

 来週、パッセロ商店に行ったついでに商業ギルドに行ってきます。


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