第346話◆コガネ色のアイツ

「うひゃーーーー!! ニンニクとショウガはマジでありがたいな!!」

 まずはうちにあまり植えていないニンニクとショウガから頂く事にした。

 品質もいいし、ホントにありがたい。

 帰ったらショウガの入ったクッキーでも作ってキノコ君にお裾分けしよう。


 ん? ニンニク畑の土を掘っていたら、プクプク太ったミミズ君だ。

 うむうむ、こんなに丸々として、ここは良い土って事だな。これからも、健やかに土の中で暮らしてくれ。

 ミミズ君が頑張っている、土はふかふかして気持ちいいなぁ。


 む、ショウガ周辺の土の中に若干黄色味がかった汚い白の芋虫が……。コ、コイツは……コガネムシの幼虫だああああああ!!

 テメーは、幼虫のうちは作物の根っこを食うし、大人になったら葉っぱを食うから駄目だ。

 お袋は普通に素手で握りつぶしていたけれど、多感な年頃の俺にはちょっと厳しいな。

 お、あんなとこに小川があるぞ、うむ……小川にポイポイしてしまおう。

 すまないな、コガネムシ君、運が良ければ生き延びられるさ、さらばだ!!

 ぬ、こっちにもいるな。お前ら、纏めて小川の中にポイポイポイポイだ。

 カナブンに生まれ変わって、また来たまえ!!


 ふーーーー、ニンニクとショウガを堀りながら、コガネムシの幼虫をかなりの数、小川の中に投げ込んだぞ。

 ニンニク側にはあまりいなかったが、ショウガ側には結構いたな。

 うむ、いい仕事をした。

 土の中でうごうごしていて、よく見るとキモ可愛いのだが、コガネムシは作物の根を食う害虫なので、畑を弄る者としては慈悲などない。

 カナブン君の幼虫は腐葉土を食べるいい奴なので、見つけてもそっとしておいてやる。


 それにしても、ご自由にお取り下さいって書いてあったけれど、根こそぎ持って行くのはなんだか気が引けるな。

 ただのダンジョンだったら普通に全部持って行くのだが、キノコ君の畑かもしれないしなぁ。

 思った以上にたくさんあるから、半分くらいなら貰っていいかな。

 うん、ポストにお礼を追加して、半分くらい貰って帰ろ。

 他の野菜も半分くらい貰って、その分対価を追加しておこう。




 せっせと野菜を収穫して、植えてある野菜をそれぞれ半分くらい貰って、ポストが置いてある入り口から外に出て、ポストの中にお礼に植物の種や、ピエモン周辺では採れない果物を突っ込んでいると、遠くからこちらに近付いてくる生き物の気配を感じた。

 気配と共に聞こえてくる、耳障りな音。


 ブーーーーーーーーーンッ!!


 それは虫の羽音。

 聞こえて来る方向は、畑の傍を流れる川の下流から。

 嫌な予感がする。 

 羽音のする方を見ると、黄色味がかった緑の大きな虫が、羽を広げて少しフラフラしながらこちらに飛んで来ているのが見えた。

 あの頭の形は……。


 コ……コガネムシの成虫だあああああああああ!!!


 しかも、デカッ! キモッ!!

 見えたのは、人の頭よりも大きいコガネムシの成虫。

 他に生き物の気配はないので、そいつ一匹がこちらに向かって飛んで来ている。

 デカイせいで安定が悪いようで若干フラフラとしている。

 しかし、そいつの殺気は俺の方へ向けられている。

 あぁん? コガネムシって葉っぱを食べる昆虫じゃないのか!?


 先ほど、川に捨てたコガネムシの進化形か!? 幼虫を川に捨てたから怒っているのか?

 いや、あれは普通の幼虫だったと思うし……、ここがダンジョンならダンジョンボスなのだろうか。

 まぁいいや、殺気をまき散らしながら向かって来るなら倒すしかないな。

 あの大きさなら弓が当たるかな? 飛ぶの下手くそ君みたいで速度も遅いしいけるか!?

 というかなんかキモいから、近付いて斬りたくないから、遠くから弓で打ち落としちゃお。


 収納からあのくそ重い大弓を取り出して、金属の矢を番えた。

 あまり強そうな感じはしないが念の為だ。

 魔物相手、しかもダンジョンボスの可能性のある相手に油断をしてはいけない。

 狙いを定めて弓を引き絞る。

 少しフラフラしているが、低速でまっすぐこちらに向かって来ているので、非常に狙い易い。


「いけっ!」


 俺の放った矢は、ヒュンッと空気を切る音をさせながら、コガネムシの方へと飛んで行き、その体を易々と貫いた。

 貫いただけなら良かったのだが、ちょおおおおおっと威力が高すぎたのか、大コガネムシ君は矢が貫通した時の衝撃で、バラバラになってしまった。

「ウワアアアアアアアアア……」

 どのみち倒すつもりではあったのだが、予想外の惨い倒し方になってしまい、思わず心の声が口から出てしまった。

 ウワアアアアアアアアア……。

 すまない、思ったより脆い体だったのね。そうだよな、虫だもんな。すまんかった、安らかに農園の土に還ってくれ。

 次、生まれて来る時はコガネムシではなくカナブンに生まれてこられるといいな。

 カナブンはいい虫だからな……、コガネムシ君の来世にカナブンあれ。

 って、バラバラになったコガネムシ君の破片が思ったより大きいなから一応回収しておくか……。少し光沢があるしもしかすると装飾品に使える素材かもしれない。

 まぁ、コガネムシなのだけれど……。一応。黙っていればコガネムシってバレないかもしれないし、コガネムシマニアには売れるかもしれない。


 せっかく倒したのだし、もしかすると何かに使えるかもしれないので、バラバラになったコガネムシ君の破片を大きめのものだけ掻き集めて収納の中に。

 なんだろう、なんか自分がすごく猟奇的な人間に思えてきたぞ?

 違うこれは、ダンジョンボスらしき魔物を倒して、その素材を回収しているだけだから、冒険者として当たり前の行動なのだ。

 あ、魔石だ。あまり大きな魔石ではないが無事だったようだ。

 ……さっさと集めて帰ろ。出口はどこにあるのかな?


 近くに魔物の気配は感じられないが、念の為周囲の気配に気を配りながら、コガネムシ君を回収。

 回収が終わると、周囲をぐるりと見回した。

「お? あれかな?」

 畑の入り口の近くに、先ほどまではなかった木が生えているのが見えた。

 近付くと、木の枝に小さな看板がぶら下げてあり、それには文字が書かれていた。


『お帰りはこちら』


 ちょうど看板の下の辺りの幹に、俺の手のひらほどの洞があるのが目に留まった。

 なんとなくそこに手を触れると、地図に引き込まれた時と同じ、吸い込まれる様な感覚に襲われ視界が木の幹の色になった。









「ぶっは!」

 吸い込まれる感覚の後は、放り出される感覚。

 いや、放り出された。

 巻物を開いたのと同じ場所、倉庫の一階の作業場に放り出され床に尻餅をついてしまった。

「ふへええええ、これで終わりのようだな?」

 周囲を探してみるが、農園に入るために使った巻物はどこにもなかった。

 使用回数は一回って見えたし、使ったら消える感じかなぁ。


 コガネムシ君は想像以上に弱かったし、内容は収穫可能な農園だけだったし、難易度Fというのは、ダンジョンの難易度で間違いなさそうだ。

 使用回数と参加人数、場所は見ての通りかなぁ。

 キノコ君に妖精の地図を貰ったのは初めてなので、まだわからない事だらけだが、巻物の鑑定結果と実際に使って起こった事を考えると、妖精の地図は小規模なダンジョンを作り出すアイテムで間違いないようだ。

 鑑定した時に見えた表記から予想すると、おそらく難易度の高いものや参加人数が複数のものもありそうだ。使用回数はどうなのかな、何回も使えるものがあるのかな?

 場所も色々ありそうだなぁ。

 なんだかワクワクしてきたぞ。

 またくれないかなぁ……。

 地図をくれるのは何か条件でもあるのだろうか?

 あー、いや、こういうのって欲をかかない方がよさそうだな。また、地図を貰えるまでのんびり待とう。


 ちょっぴり楽しかった妖精の地図。

 もしかすると色々なバリエーションがあると思うと、好奇心と探究心をくすぐられてしまう。

 次また貰えたら、誰かと一緒に行ける地図がいいなぁ。


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