第342話◆うちのスライムが一番可愛い

「やー、やっぱ自分の家は落ち着くなー。このずらっと並んだスライム各種!! 綺麗に並んだ水槽!! 最の高!!」

 倉庫の地下室に並ぶ水槽を眺めながらうんうんと頷く。

 やっぱこう、ずらっと物が並んでいるのは気持ちいいな!!

 それと、うちのスライムが一番可愛い。


「も? ここは家じゃなくて、倉庫の地下じゃなかったも? 相変わらずスライムまみれも」

 家じゃなくて倉庫の地下だけれど落ち着くの!! スライムが可愛いの!!

「家も落ち着くけど、スライムに囲まれてても落ち着くって意味だよ。いや、なんかこう規則正しく物がたくさん並んでるって、気持ちいいじゃん?」

「も? そうかも? 人間の好みは、たまによくわからないも」

 キョトンとした顔で首を傾げるモールは可愛いな。


 ひんやりスライムを冷蔵室のスライムコーナーに置いて、地下のスライム部屋に戻ってスライムの世話をしていると、タルバがやって来た。

 近いうちにお土産を渡しに行こうと思っていたので丁度良かった。

 今回の旅のお土産を受け取ったタルバは、そのままスライム部屋に残って、俺が作業中につまむ為にテーブルの上に置いていたクッキーをボリボリと食べながら、俺の作業を見ている。

 おのれ、俺のおやつなのに。しかしクッキーをボリボリするモールは、可愛いから許すしかない。

 手土産に鉱石を貰ったししかたないにゃあ……お茶も出してやるか。

 ついでにお願いしたい事もあるし。


 タルバがここにやって来るのは、俺がこの部屋で作業をしている時だなと思っていたら、どうやらこの地下通路の入り口の扉にセンサーのような機能が付いているらしい。

 それで俺の気配を察知して会いに来てくれているのだが、人んちにそんな物を勝手に付けんな!!

 いや、便利だしまあいっか。会いに来てくれる方が、モールの住み処まで行く手間が省けるから、ありっちゃありなのかな?

 モール族は明るい所が苦手で、うちに来ても地下室から出る事はないので、せっかく会いに来てくれても、そこから先は俺を呼ぶ手段がないからなぁ。

 いや、普通に呼び鈴を付ければいい気もするな。うむ、呼び鈴にしよう。



「そうそう、タルバにお願いしたい物があるんだ」

「なんだも?」

 旅先で考えていた物の簡単な設計図を、収納から取り出してテーブルの上に広げた。

「調理器具かな? これを下から熱して使うんだ」

「んー? でっかい鉄板に半球型のへこみをたくさん並べればいいも?」

「そうそう、全体の大きさはこのくらいで、へこみの大きさはこのくらい、この半球型のへこみの中に小麦粉を溶いた物を入れて焼くから、焦げ付かないように厚みも欲しい。だいたいの寸法は設計図に書いてある通りだ」

 俺がタルバに見せたのは、厚みのある鉄板に半球型のへこみがたくさん並んでいる調理器具――セファラポッド焼き機だ。


 この穴の中に小麦を溶いた液体を流し込んで、小さく切ったセファラポッドの足入れて焼くのだ。それを焼きながらクルクルとひっくり返したら丸くなるのだ。

 タコのような魔物、セファラポッドをフォールカルテで買って来た。

 魚の削り節もある。お好み焼きを作った時にそれっぽいソースも作った。ツァイでネギっぽい薬草も手に入れた。

 紅ショウガはショウガもあるし、リュネ漬けを作ればリュネ酢も一緒にできる。

 マヨネーズもあるし、青のりの代わりになりそうな海藻もある。

 後はたこ焼き機さえあれば、たこ焼きパーティーができる!!

 間違えた、セファラポッド焼きパーティーだ!!


 上の鉄板部分は頑張れば自分でも作れそうな気はするけれど、自分でやると失敗を繰り返して最終的に歪んだ物が出来上がりそうだし、素直にタルバに頼る事にした。

 上を作ってもらえれば、下に火の魔石を使った加熱機部分を作って取り付ければいい。

 着火や火力調整の機能は、以前家や作業場のキッチンを作った時にもやったし、そこはもう問題なく作れる。


「ふむー、設計図の通りだと分厚い鉄板になるもね。この鉄板を加熱道具の上に嵌めるもね。ふむふむ、わかったも、作るも。素材は魔法鉄でいいも?」

「ああ、そうだなぁ、魔法銅でもいいけどやっぱ魔法鉄でいいかなぁ」

 前世だと溶かした金属を鋳型に流し込んで作るのだろうが、今世は魔力で加工できる魔法金属があるから、粘土感覚で金属を変形させる事ができるので非常に便利である。

「も? 急いでないなら、オイラの工房でグランも一緒にやってみるも?」

「ん? 確かに急いでないな。だが、俺がやると歪みそうだも?」

 タルバの口調がうつってしまった。

「何事も練習もっ!!」

 何事も練習か。

 確かにタルバと知り合ってからは、細かい作業や難しそうな物は、ほとんどタルバに丸投げしていたな。

 以前はやってみて上手くいかないとタルバにお願いしていたのだが、最近では失敗するのが怖くて、やろうと思えば器用貧乏の恩恵でなんとかなりそうな事まで、最初からタルバを頼っていた気がする。

 タルバの言う通り、失敗にびびっていないで、何事も練習しないと上達しないよな。


「わかった、じゃあ一緒にやりたい。いつがいいかな? 俺は、明日と明後日はポーションを作って、パッセロさんのとこに持って行かないといけないし、畑も弄らないといけないから、明明後日だな。材料を用意してそっちに行くよ」

「わかったも! じゃあ明明後日にオイラの工房まで来るも。それじゃあ今日は帰るも。クッキーとお土産ありがとも!」

「おう、こっちも鉱石ありがとう、それじゃ明明後日にな」

 タルバは立ち去る前にクッキーを小さな手で掴めるだけ掴んで、床の扉から帰って行った。

 手が小さいので少ししか掴めていないのが、なんだかあざとくて可愛いから小動物はずるいな。


 タルバが帰った後、暫くスライムの世話をして、ついでにフォールカルテで買って来た魚を、サルサルラゴラを摺り下ろしたものに漬けておいた。

 ほぼ塩でできているみたいなものである、サルサルラゴラに漬けておけば日持ちがするし、そしてそのまま調理するのとは違った味が楽しめる。

 それが終わって倉庫から外に出ると日は西の森の上に見えた。だんだん日が長くなる季節になり、夕方だというのにまだまだ明るい。

 さぁて、今日は久しぶりに料理をするかー。

 実家の台所はお袋の縄張りだったから、あまり料理をしていなかったからな。


 

 

 さぁて、今日は何にしようかなぁ。

 ガロが熊肉をくれたんだよなぁ……アベルは暫く熊肉は見たくないって言ってたっけか。

 それなら、フォールカルテで買って来た魚かぁ?

 そうだな、実家にいる時は肉がおおかったし、風邪引いていた時はスープばかりだったし、今日は魚だな!!

 焼くのがいいかなぁ……それとも煮ようかなぁ、やっぱ揚げ物かぁ?

 そんな事を考えながら、倉庫から母屋に戻り玄関のドアを開けた。


「グラン! 大変だ!!」

 玄関を開ける音で俺が戻って来た事に気付いたアベルが、リビングのドアを開けて顔を出した。

 え? 大変って何?

「何かあったのか?」

「大変ってほど大変じゃないかもしれないけど、でもやっぱり大変かも!?」

 ええ? どういうこと?

 アベルの言う事に首を傾げながら、早足でリビングへ向かった。

 リビングに入ると、三姉妹達が箱庭を囲んで楽しそうに笑っている。

 あまり大変って感じはしないけれど、何があったんだ?

 



「グランが戻って来ましたわ」

「ねぇ、見て見て!!」

 ウルとヴェルがピョンピョンと跳ねながら手招きをする。

 何だ、あんま大事でもなさそうだな。アベルも大袈裟だなー。

「キノコ君にお嫁さんが来たんですぅ」


「はぇ?」

 クルの言葉に変な声が出た。


 嫁?


 俺は彼女すらいないのに!?


 確かにこれは大変だ。



 リビングに置いてある箱庭に向かい、その中を覗き込むと、こぢんまりとしていたキノコ君の家が、増築されたのか少し大きくなっていた。


 畑も増えている。

 これはキノコ君が頑張ったのかな?

 家の周囲の草原や森もなんだか生えている植物の種類が増えて、すごく豊かになっている気がする。

 池というか湖。

 なんか黒い小さな点々が見えるのは、ミニチュアのせいでわかりにくいが魚か!?

 湖の真ん中の洞窟は相変わらずだが、なんか黒い靄がかかっているのは気のせいか?

 変なものが爆誕していなければいいのだが。

 キノコハウスの周囲がやたら自然が豊かになっているのは、三姉妹とラトの仕業に間違いない。

 そして、ラトが森の中に植えたご神木のような木もすくすくと育っているどころか、育ち過ぎて箱庭から飛び出しているみたいになっている。

 ものすごくキラキラしていて、聖の魔力が出ている気がするけれど知らない、俺は何も知らない。


 で、問題のキノコ君の嫁さん。

 箱庭を覗き込んだ俺に気付いたのか、キノコハウスの中からキノコ君と、キノコ君より一回り小さいキノコちゃんが並んで出てきた。

 二匹で寄り添うように家の玄関の前に立ち、俺の方を見上げてモジモジとして、ちょこんと傘を傾けた。

「おう、結婚? おめでとう。それから、ただいま」

 お祝いの言葉と帰宅の挨拶の言葉をかけると、キノコ君がいつもの箱を差し出してきたので、それを受け取った。

 留守にしていた間の収穫物かなぁ。

 なんか受け取った箱が、気持ち大きくなっているのは気のせいだろうか。


 中身はやはり俺が留守にしていた間の収穫物。

 おー、コーヒー豆がある。しかも焙煎済み!!

 量は一杯か二杯分かな、それでもありがたい。

 コーヒー豆の他に果物や鉱石、うちの裏の森で見かける薬草が入っていた。

 森で採れる薬草は幼女達が種をあげたのかな?

 量は少なくても取りに行く手間が省けるから。これも助かる。


 お返しはツァイで買って来たアオドキの株やネギっぽい薬草、アベルに投げつけられたクルミでいいかな。

 クルミは栄養価が高いし、おやつの材料にもなるからな!

 コショウはまだダメか……コショウどんだけ難易度が高いんだ。

 そうだ、結婚祝いをあげないとな。何がいいかな。

 トンボ羽君のダンジョンでキノコ達に貰ったミステリーマッシュルームの種か?

 ……いや、これはやめておこうかな。なんか嫌な予感がする。というかキノコが増えそうな気がする。

 しかし、少し怖い物見たさもある。

 うーんうーん……ええい、男は細かい事で悩むもんじゃねえ!!

 結婚祝いはミステリーマッシュルームの種!!


「ん? キノコ君の結婚祝い?」

 俺がキラキラとしたミステリーマッシュルームの種を、キノコ君の箱に入れているとアベルが結婚祝いだと気付いたようだ。

「じゃあ俺からのもあげる」

 アベルがよくわからない木の実を出して来て、キノコ君の箱に入れた。

 何だっけ? なんか見覚えがある木の実だけれど思い出せないな。どっかのダンジョンで採れる木の実かなぁ?

「結婚祝いか……、それなら私からも入れておこう」

 おい、ラト、変なもの入れるなよ!?

「じゃあ、わたくしは大地に加護をあげましょう」

「私は森に加護をあげますぅ」

「じゃあ私は湖!」

 おい、やばくないか!?

 と思っても、俺に止められるわけもないし、元々三姉妹のままごと用にって思っていた物だし、気にしない気にしない。俺は何も気にしない。

 うん、とりあえずお祝いは渡しておくね。

 末永く爆は……じゃなくて、お幸せに。


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