第339話◆閑話:都会育ちの魔導士と山育ちの狩人達

「そういえばさ、グランってガキの頃、ひどい熱で死にかけた事あるよな?」


「そんな事あったっけ?」


「どいつもガキの頃に、一回くらい風邪拗らせて死にかけてんじゃん」


「まぁ、そうだけどさ。ほら、教会で算術を習っている時に、グランがいきなりぶっ倒れたやつ。そのまま、熱出してしばらく姿見なかったと思ったら、なんか雰囲気が変わっててさ、話しかけづらくなったんだよな」


「あー、思い出した! あったあった! 元から一人遊び好きな奴だったけど、あの頃からだっけ? いつの間にか一人で山に行ってる事が多くなってたよな。その頃だっけ? ガロ、覚えてるか?」


「ああ、うん。そんな事もあったな。あんま風邪とかひかない奴だったから覚えてるな。何日も熱が下がらなくて、回復した後もボーッとしてたり、一人でずっとブツブツ言ってたり、ちょっと不気味な時期あったな。って、アベルそんな睨むなって」


「あー、思い出したグランの奇行が増えたのも、その後だよな?」


「熱で頭がおかしくなったんじゃ……って、アベル睨むなよー、今はそんな事は思っていないから……いや慣れたから」


「川とか溜め池の水を吸い込んでよく怒られていたのも、その頃だよな? 収納だっけ? 便利だよな」


「そうそう、毎日一人で溜め池に行って水を出したり入れたりしてて、溜め池を使っている家の人にめちゃくちゃ怒られていたな」


「まぁ、当然だよな。その後、川でやり始めたから、今度は川で仕事している人らにめっちゃ怒られてさ」


「その後は大人しくなったけど、なんであんな事をしたんだろ?」


「ん? 収納スキルと魔力を鍛えてたんじゃないかって? へー、そうやって鍛えるものなのか」


「珍しいスキルなんだ。なるほど」


「あのスキルのおかげで、崖崩れがあった時はすぐ復旧できたし、洪水を回避できた事もあるからな」


「ゲジゲジ様を連れて来たのも、その頃だよな? 山で助けてもらったって? 人間は襲わないって言ってもあの見た目だから、その時は大騒ぎだったよなあ……」


「慣れたら意外と感情が豊かで可愛いけどな」


「普通の虫は感情なんかない? まぁ、例外のない規則はないってグランが言ってたし?」


「ん? そ、ガキの頃に言ってた。やる事無茶苦茶なのに物知りだよな」


「よくリリスさんと学問の話をしていたし、リリスさん経由じゃね?」


「ん? リリスさん? ああ、物心ついた頃には教会にいたのは覚えてるけど、この村に来たのは、俺らが生まれた後だったって聞いてるよ」


「さぁ? 山の中をヒラヒラの綺麗な服を着て彷徨っているのを、うちの爺さん達が助けたらしい。詳しくは知らないけど、何かの事故に巻き込まれて山に入っちまって、行くとこもないようだからって村に連れて来たって話してた」


「ずっと若いままだよなー、いくつなんだ」


「魔力が多い人は老化が緩やか? ふーん」


「あんな美人で魔法もすごいし、プロポーズしてみようかな? 愛に歳は関係ないっ言うじゃん?」


「うちの兄貴が五年くらい前に玉砕してたぞ」


「あ、うちの兄貴も」


「うちなんか、親父がリリスさん会いたさに教会に通い詰めて、かーちゃんに拳でぶん殴られてたぞ。農作業で鍛えたかーちゃんの拳こえぇ」


「お前んとこのかーちゃん元は狩人だもんな」


「昔、熊を素手で倒したんだっけ? こわっ」


「でもそんなかーちゃんが、リリスさんはもっと強いって言ってた。魔法がなくても熊くらい倒しちまうって」


「まじで? やっぱ拳か? こわ!! 逆らわんとこ」


「あーわかる、ニコニコしながらリンゴくらい片手で握り潰しそう」


「リンゴどころかパタイモもいけそう。怒った時の覇気とか山の主並みだぜ? めちゃめちゃ綺麗な顔をしているけれど、片手で大木とか引き抜いて振り回してても違和感ないな! ひーこえーーーー!!!」


「ガロ! ガロ!」


「やべ! 俺、嫁さんのとこに行かないといけなかった! またな!!」


「俺もかーちゃんに呼ばれた気がする! おう、アベル、またゆっくり話そうぜ!!」


「ん? どした? みんな急にどうしたんだ? え? 後ろ? げええええええええ!! リリスさん!? いつからそこに!? やっべ!! 俺も急用を思い出した!! ちょっと行って来る!! またな!!!」




「あらあら、うふふ、みんな元気ね。アベル君は行かなくていいの? あら、そうなの? じゃあ、せっかくだから星でも見ながらお話でもしましょうか」

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