第334話◆元気になると退屈になる
「グラン、そんな事してると、後でまた具合が悪くなっちゃうよ」
「や、ちょっとだけだし、そんなに魔力は使ってないから。よし、できた! これ、アベルの分な」
昼飯の後からベッドの上に座ってチクチクと弄っていた、弱い冷却効果を付与したハンカチサイズの布をアベルの方へと放り投げた。
食事の後、解熱効果のある薬を飲んだら少し熱が下がって、元気になったので今のうちに、風邪で寝込んでいる時に便利そうな物を作っておこうかなって?
「うわ、冷たっ! 何を作ってるのとか思ったら冷たい布? うえぇ……神代文字が刺繍してある……またそんな物作って」
「シランドルで買って来た適当な布に、水蜘蛛の糸で刺繍しただけだから、すぐに効果が切れて普通の布に戻るよ。でも、それ額に乗せておくと気持ちいいだろ?」
どうせ文字を一つ刺繍するだけだしと、食後にぱぱっと作ったひんやり布。
濡れた布を頭に乗せていると、時間が経つとだんだん生温かくなって気持ち悪いし、その度に妹やお袋がやって来て水に浸け直してもらうのも悪い。
飯を食って、薬を飲んだら少し元気になったし、パパパっと作ってしまった。
安い素材に神代文字を使った付与をしたので、すぐに素材の魔力が切れて、ただの布になってしまいそうだが、俺の予定では明日には熱も下がって元気になっているはずなので問題ない。
自分とアベルの分を作って、この後ぐっすり寝るつもりだ。
「うん、冷たくて気持ちいい。ありがとう、でも風邪を引いてる時に付与なんかしてると、酷くなるから大人しくしときなよ」
「おう、でもまぁ鍛えてるし? 飯食ったら元気になってきたし、ちょっとくらい大丈夫かな?」
俺が渡したひんやり布を額に当てたアベルが、気持ち良さそうに目を細めた。
そうだろそうだろ? 時間が経って生温くなる気持ち悪さからも解放される。
よし、なんだかチクチクと作業していたら元気になってきたし、熱も下がってきたからもう少し何か弄ろうかな?
退屈は回復の証拠だ。
うーん、この布どうにか額に貼り付けられないかな?
くそ、こんな時スライムがいれば!!
とりあえず今は、布の上からバンダナでも巻いておこう。
うむ、ひんやりとして気持ちいい。我ながら、簡単なわりに良い出来だ。
「グラン、まだ何かやるの? ほどほどにしときなよー」
「おう、ちょっと思いついた事だけメモしとこうかなって? 帰った時に忘れてたらいやじゃん? そうだ、喉にいい飴を置いとくから、喉が痛い時に舐めとくといいぞ」
以前作った、喉の炎症にいい薬草とハチミツと柑橘類の果汁を混ぜて固めた飴だ。
「うん、ありがと。じゃあ一個もらうよ。へぇ、飴の中に小さな花が入ってるんだ」
「ああ、食べられる薬草の花だな。たいして効果はないけど、見た目が良くなるから入れて固めてみたんだ」
ハチミツ色の飴の中には、白い小さな花が入っていて、喉にいいだけではなく見た目も可愛い。
実を言うと、寒い季節に冒険者ギルドの受付のおねーさん達に、差し入れしようと思って作って余ったやつだ。
まさか、自分で使う事になるとは思ってもみなかった。
一つ摘まんで口の中に入れると、ハチミツの甘さと柑橘類の爽やかな酸味、そして薬草の仄かな苦みと、スーッとした感覚が口の中に広がる。
声がかれる程ではないが、喉は少しイガイガとしている。
思いついた事を忘れないようにメモをしたら横になるかな。
「俺は飴を食べ終わったら寝るから、グランも無理しないようにね」
「おう、思いついた事を纏めたら、俺も寝るよ」
飴を口に放り込んだアベルはコロンとベッドに横になったが、俺は思いついた事だけ纏めてから横になろう。
ちょっとだけ、ちょっとだけだから。
とりあえず思いついた事を忘れないようにメモしておかなければな。
収納から紙とペン、そしてベッドの上で文字を書くので下敷き代わりの板も取り出す……あー、収納の出し入れも地味に魔力を使うんだよなぁ。まぁ、少しだけだから平気平気。それよりメモだメモ。
即席で作ったひんやり布を、額に貼り付くようにしたい……っと、サラサラと紙にメモしながら、どうやって貼り付けるか考える。
今回は即席で作ったから、コストも再利用も考えていなかったけれど、どうせ作るならコストも考えて、できれば長持ちする方がいいよなぁ。
いや、コストを最低限まで押さえて使い捨ての方がいいのかな?
それなら、安い布……うーん、布だと使い捨ては勿体ないな。
植物繊維系か紙かなぁ? 冷却効果と付着効果を付与して……や、付着効果を付与するよりは、スライムゼリーの粘着力で貼り付けるのがいいか?
あ、そうだ。スライムゼリーをひんやりさせてしまえばいいのか。上手く作れるかなぁー、これは帰ってからスライムを弄るしかないな。
ん、それだったらひんやりする軟膏か……こちらのが楽そうだ。
忘れないようにメモだメモ。
しかし軟膏だと、人によって肌に合う合わないがあるから、テストもしないといけないし、やっぱ貼り付けるやつもあった方がいいな。
ヘチマ……じゃない、ポラーチョの実の繊維は付与に向いているが、乾燥させるとガサガサだからなぁ……リュフシーの葉っぱは、モロ葉っぱで見た目がアレだし、うーん……ちょうど良さそうな植物が思いつかないな。
とりあえず案だけ出して、帰って色々試してみるか。
思い付かなかったらリリーさんか、バーソルト商会に相談してみるのも一つの手だな。
自分だけもんもんと悩んでも視野が狭くなるし、詰まったら他人に意見を聞いてみるのも大事。
あ、額に乗せる布だけじゃなくて、ひんやり枕カバーも欲しいな。
これは暑い季節にも便利そうだし、こちらは良い布を使って、ガッツリ長持ちする物にしたいな。
魔石をビーズ状にして、ワンポイントでビーズを使った刺繍を隅っこにでも入れておけば、長持ちしそうだな。
よし、これは帰って刺繍を練習して試作品を作ってみよう。忘れないようにメモしておかないとな。
そうそう、風邪なんてほとんど引かないから、喉にいい飴はあるけれど、風邪薬はあまり作った事がないし、ストックは少ない。
帰ったら薬草を弄って風邪薬も作っておこう。
あー……粉薬は飲みにくいから、何も効果のないスライムゼリーで、粉薬を纏めてツルンって飲めるものでも作るか。
アベルも苦い粉薬は嫌いだし、子供なんか苦いのが嫌で薬を飲まないもんな。
薬の効果と干渉しないなら、フルーツ系の味を付けると子供が喜んで薬を飲んでくれるかもしれないな。
薬以外にも応用できそうで、なんだか金の匂いがするな。
うむ、これも帰って試してみよう。忘れないようにメモメモ。
色々と考えていたら、なんだかすごく元気になってきた。
うーん、枕カバーを作ってみようかな。さすがにガッツリ刺繍をする元気も技術もないから、布にワンポイントで神代文字を刺繍して、弱い冷却効果を付与しよう。
上手くできたらアベルの分も作ろうかな。
ていうか、俺はもう元気だし、できたのはアベルの枕に使うか。
よぉし、作っちゃうぞおー!!
枕のサイズにちょうどよさそうな布を輪にして縫うだけ!!
隅っこに神代文字をチクチクしてー、冷却効果を付与ーーーー!!
額に乗せる用の布よりでっかいから、付与は楽だし、効果も長持ちするな。
あれ? 枕カバーに付与をしたら、なんかクラッときた。
少し調子に乗りすぎたかー。刺繍なんていう細かい作業もやっちゃったしな。
んー、枕カバーをアベルに渡そうと思ったら、なんだもう寝てしまったか。
起こすのも悪いし、自分で使うか。
少しこめかみ辺りがズキズキするな……思いついた事は大体メモに残しておいたし、ここら辺で素直に寝ておくか。
この後、めちゃくちゃ熱が出た。
酷い風邪の時に魔力を使ってはいけない。
薬を飲んで下がった熱は、薬が切れると戻ってくる。
しっかり覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます