第330話◆拗らせ男達の結末
「グラン! 来てくれたのか!!」
現場に着くと、崩れた土砂を撤去している村人の中に、昨日教会に行く時に会った、猪三人組の姿もあった。
俺の姿に気付いて、崩れた土砂の上に登り、泥まみれで土砂の撤去作業をしている彼らがこちらに向かって手を振った。
土砂が川を塞ぎ天然のダム状態になっており、その除去を最優先にしているようだが、崖崩れの規模の大きさに加え、崩れた土砂の不安定な足場と堰き止められて溜まり続ける川の水で、作業は難航しているようだ。
「ああ、ガロに話を聞いて来たがこれは思ったより酷いな。道の復旧もだが、川の方を先にした方がいいな。こりゃ多分土砂向こうに堰き止められた川の水が溜まってるはずだからここも相当危険だな。だが、この量はさすがに収納スキルを使っても回収しきれないし、どうしたものか」
「グランのあの、物をドバーッって吸い込んだり出したりするスキルか?」
子供の頃に小規模な崖崩れの土砂を収納スキルで撤去した事があるので、俺の収納スキルの事が土砂の回収に便利な事を思い出したようだ。
「ああ、収納でなんとかなるかと思って来たが、この量の土砂を全ては無理だな。アベルの空間魔法だとどうだ?」
「うーん、無理だね。堰き止められてる水も一度回収しないと洪水になりそうだし、その事を考えると、グランと二人がかりでも全部撤去は厳しいかも。しかも回収した後どうするの? 俺は土砂をコレクションする趣味はないし、グランでもこんなにいらないでしょ?」
まぁ、こんなには、いらないかなぁ。ていうか入らない。
「うーん、ダンジョンに捨てに行く?」
ダンジョンなら大量の土砂を捨てても、吸収してくれるし?
「俺、ダンジョン禁止令中」
あ、そうだった。
「アベルにダンジョン前まで送ってもらって、捨てて来たらダメかな?」
「ダンジョンの中に入るのにも移動するのにも、時間がかかるでしょ? まさか入ってすぐの場所に、この量の水と土砂捨てるつもりじゃないよね? そんなの、絶対怒られるよ」
ダンジョン内の移動時間を考えていなかった。
入り口付近に捨てるのは、さすがに怒られるかー。
第一階層は難易度が低めで入り口も近い事もあり、過疎な場所はあまりないからなぁ。
分解しても砂になるだけで、量が減るわけではないし、困ったな。水は分解したら……絶対ダメだな!?
「いや、全部じゃなくていい。とりあえず川だけでも急いでなんとかしたい。その後の復旧は俺達でどうにかする」
「本当はたまたまいただけのグランの力に頼らず、自分達で復旧しないとならない事なんだ」
「このままだと溢れた水でこの土砂が、下流に押し流されてしまう。どう考えても時間が足りない、グランの力を貸して欲しい」
そうだ。普段村にいない者の力をあてにした解決方法は、今後同じ事が起こった場合、その者がいないとその方法が使えない。
特定の誰かを頼る解決方法は、本質的な解決にはならないのだ。
だが、今は時間がない。
天然ダムはいつ崩壊するかわからない、巨大熊も徘徊しているかもしれない。
たまたま帰省していただけの俺だが、その巡り合わせを幸運だと思って、故郷の人の為に働くのは当然だと思う。
「ああわかった、川がこれ以上溢れないようにすればいんだな?」
「ああ、道から水が引けば、猪で土砂の上を越えられるし、川を塞いでる土砂の撤去も楽になる」
泥濘んでいて崩れやすい足場は、体重の重い猪でも通るのは厳しいが、デコボコしただけの足場なら乗り越える事ができる。
とりあえずはソルトライチョウの繁殖地から帰ってくる者達が、通れる道を確保するだけならそれでいけるはずだ。
後にそこをきちんとした道として復旧させるのは村の者達がやればいいのだ。
それなら、溢れている水を回収するだけなので、なんとかなりそうだ。
「わかった。じゃあまず土砂の向こうに溜まっている水を減らして、土砂が押し流されないようにしよう。水が減っている間に川を塞いでいる土砂を減らして、少しずつ水の流れを戻そう」
手順を踏んで流れを戻さないと、溜まった水と土砂が纏めて下流の村に流れ込んで非常に危険だ。
「グラン!」
猪三人組の一人が、ワンダーラプターを繰って崩れた土砂を超えて、その向こうに行こうとする俺の名を呼んだ。
「どした? まだなんかあるか?」
「いや、その……協力してくれて助かる。……ありがとう」
照れくさそうに目を泳がしながら言った言葉は少し小さい声だったが、雨の音にかき消される事はなく俺の耳に届いた。
「村は出たけど、俺の故郷には変わりないからな。力があれば貸すのは当然だ。それと、礼は解決してからだ」
改まって言われると照れくさいので、礼を言われた事は嬉しかったが、つい素っ気なく返してしまった。
顔が緩みそうになるのを我慢しながら、身軽なワンダーラプターに乗って崩れた土砂を超えその向こうを目指す。
「仲が悪いのかと思ったら、そうでもないんだ」
俺と並んでワンダーラプターを操りながら、アベルが不思議そうな顔をしている。
「まぁ、ケンカはよくしてたけど、なんだかんだでガキの頃は一緒に遊んでたし、一緒に悪さもして仲良く怒られてた仲間だしな」
俺もアイツらも、お互いが嫌いだとか憎いとかではない。
ないものねだりのコンプレックスの気まずさをそのままに、長い時間が空いたせいで、お互い拗らせすぎて、今更どう接していいのか、わからないだけなのだ。
「あ、見えた。思ったよりかは水は多くないね」
「ああ、元々そんなに水量が多い川じゃないからな。よっし、それじゃやるかー」
ワンダーラプターから降りて、水の流れが緩やかな場所を選び、そこへ手を入れ溜まっている水を収納の中へと引き込んだ。
一時的にでも水が減れば、川を塞いでいる土砂がすぐに押し流される心配はなくなり、土砂の撤去作業が進めやすくなる。
水が流れるべき場所を優先的に確保すれば、この後は大規模に水が溜まる事は防げるはずだ。
土砂の撤去は手作業だけではなく、土魔法も使われる。
これ以上崩れないように、土魔法で作られた石壁が設置され、埋まった川が少しずつ掘り返されて行く。
しばらくするとガロや他の村人達もやって来て作業速度がいっきに上がった。
すぐに動かすのが困難な大きな岩や、土砂と一緒に崩れ落ちた木は俺が回収。
おっと川の水がまた溜まってきたな、増えすぎる前に回収しておこう。
これは災害復旧の為である。ここぞとばかりにコレクションを増やしているわけではない。
あ、アベルが目を細めてこちらを見ている。
べ、別に岩や木や水のストックが増えるのが楽しいわけではないぞ!?
う、上から転がり落ちてくるとやばそうな大きな岩も、回収しておかないとな?
ほらアベル、崩れた場所の上の方で倒れて引っかかったままの木を転移魔法で回収してくれ。アレが落ちて来たら危ないからな!!
作業中に崩れやすい場所が減れば、作業はどんどん捗るだろぉ?
回収した木は俺が責任を持って預かっておくから安心してくれ。
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