第324話◆ふわふわとして甘い時間

「ちょっと!? グラン!! 何を思ってコレを作ったの!? や、面白い事は面白いけど、試運転はしなかったの!?」

「試運転した時は大丈夫だったんだけどな?」

「あらあらあら……、久しぶりに帰って来たけど、大人になってもグラン君はグラン君ねぇ……うふふふふ」

「ははは……ちょっとはりきりすぎたかな?」

 俺の目の前でアベルが呆れながら顔を引き攣らしている。

 リリスさんはおっとりとした困り顔で微笑んでいる。

 先に、謝っておこう。すまんかった。




 リリスさんの紅茶を頂いていると、アベルが甘い物が欲しいと言うので、ドライフルーツの入ったパウンドケーキを出して黙らせたのだが、ふと最近作ったとあるお菓子を作る道具を作った事を思い出して、それも取り出した。

 その道具というのは、綿菓子製造機だ。

 ドリーの所に行くジュストが、故郷のお菓子を食べたくなった時に手軽に食べられるようにと作った物だ。

 どこでもポップコーン君と一緒に持たせたので、ドリーの所で友達と一緒にポップコーンや綿菓子を作って楽しんでくれるはずだ。


 お茶を淹れる時に使う茶漉しの底に、薄い金属の板を張り付け、その茶漉しの上に蓋を付けてその上に取っ手を取り付けただけ。

 この取っ手に風属性の魔石を付け、ボタンを押せば茶漉しが高速で回転するように付与がしてある。

 後は、茶漉しの中にかなり目の粗い砂糖を入れ、深めの鍋の中に置いた小型のコンロの上で回転させながら、茶漉しから飛び出してくる繊維状になった砂糖を棒で絡め取るだけだ。

 絡め取るだけのはずだったのだけれど……リリスさんをびっくりさせようと思って、大きな綿菓子を作ろうしたのがまずかったのかな!?

 うむ……作ろうとした綿飴の大きさに対して、鍋の大きさが小さかったな。

 ジュストに渡す前に試運転した時は、小さい物しか作らなかったから、これは盲点だったぜ。


 鍋の中の小型コンロを起動して、綿菓子製造機を押すと茶漉しの部分がクルクルと高速で回転を始めた。

 最初は中身の砂糖が溶けていない為、やや不安定な回転だったが、中の砂糖が溶けてくると回転は安定し、その速度も速くなる。

 そして、茶漉しの網の隙間から繊維状になった砂糖がふわふわと鍋の中に出てきた。どんどん出てくるそれを木の棒でクルクルとからめてどんどん大きくしていく。

 大きくなれば、下に置いている小型コンロに綿菓子が近付くので、少し上に持ち上げる。

 大きくなった綿菓子は鍋に当たるし、回転する製造機にも触れそうになって作業がどうにもやりにくい。

 それで、つい無意識に手が上に上がってしまい、製造機の茶漉し部分が鍋より上にいってしまった。


 あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ーーーーーーーー!!!


 気付いた時には手遅れ。

 綿のようになった砂糖がふわふわと鍋の外に舞う事に。

 あわてて製造機と綿菓子を鍋の中に戻そうした時には、綿菓子はかなり巨大化していて、それが回転する茶漉しに巻き込まれそうになって、鍋に戻すのを躊躇してしまって、さらにふわああああああああっ!!

 回転する製造機を止めればいいだけの事なのだが、人間テンパるとそんな事すら思いつかない。

 しばらく思考停止で、鍋の上で飛び散る綿菓子をなんとか掻き集めようと、バタバタと腕を振り回して更に綿を撒き散らした後、ハッと我に返って綿菓子製造機を止めた時には、綿状の砂糖菓子があちこちに付着していた。

 見た目はふわふわ、手触りはベタベタ。


 いやぁー、鍋を置いていたテーブルの周辺がベッタベタになったというか、アベルの髪の毛にも付いているな。

 色は大体似たようなものだから、黙っていれば気付かれないよ。

 ……ごめんなさい、浄化魔法お願いします。

 回転する機械が制御を失った時は、まずはそれを止めなければならない、覚えたぞ。

 そして、その注意書きと共に、大きい綿菓子を作る時は大きな鍋を使うように、帰ったらジュストに手紙を書いておこう。







「へー、砂糖が綿みたいになるんだ。ただ甘いだけだけど、口の中に入れると消えるみたいに溶けちゃうの面白い」

「ホントねー、不思議だわ。口の中で消えちゃうわ」


 ちょっと、ふわふわベタベタなハプニングもあったが、無事三人分の綿菓子が完成して実食。

 くくく、不思議だろう……口に入れたと思ったら消えている不思議なお菓子。

「砂糖は手に入りにくいと思うけど、ちょっとの量で大きくなるから、何か行事の時に子供達に作ったら喜ぶかなって思ってさ。もうちょっと改良して、村を離れる前に持ってくるよ」

 今ある綿菓子製造機は構造が簡単で、小型で場所も取らないが、綿菓子を作る時両手が塞がるし、俺がやった失敗も起こりやすい。

 小型コンロと砂糖を入れる部分を鍋に固定して、片手が空くようにした方がいいな。


「これ、見た目がふわふわで、口の中ですぐ溶けるのは面白いけど、味が砂糖の味だけなのがおしいなぁ」

 確かにアベルの言う通り、味は見た目や口溶けほどインパクトがないんだよなぁ。

 子供は喜びそうだけれど、大人にはいまいちだろうなぁ。

「そうだなぁ、所詮ただの砂糖だからなぁ。温かい飲み物の上に載せると、砂糖代わりになるし、見た目もインパクトあるな」

 手に持っている綿菓子の巻き付いた棒を、紅茶を飲み終えたカップの上に載せる仕草をしてみる。

「あ、ホントだ。カップの上に泡……いや、雲が乗ってるみたいだね」

「ホントね、モコモコしてて可愛いわね」

 やっぱ、おんなの人はモコモコふわふわを可愛いと思うよなぁ。

「綿の上に、チョコレートやドライフルーツを細かくした物を振りかけてもいいかもなぁ。そういうのはリリーさん辺りに相談したら、いい感じに商品化してくれるかもしれない」

「そうだねぇ。商品化してバーソルト商会に持ち込んで、王都のカフェやレストランに売り込めば、グランの収入が増えそう。グランとリリーさんの共同開発にして、リリーさんを巻き込めば砂糖や珍しいドライフルーツの確保も楽そうだね」

「面白そうだけど、それは俺がまた忙しくなるな?」

 最近、散財しているので何か小金を稼げる事はしたいが、忙しくなりすぎなのは嫌だな。

 しかも、アベルはリリーさんのコネを使う気満々である。

 見れば、アベルがすごく悪い顔になっている。お貴族様怖い。

「前に作ってた、トウキビを爆発させるのと合わせて、バーソルト商会に売り込んじゃおうよ。ある程度改良して、増産と普及は丸投げしちゃえ」

「お、それならいいかもしれないな。これもトウキビのやつも、もうちょっと改良してみたいと思ってたし」

 冒険者として色々な場所へ行って素材を集めるのも楽しいのだが、こうやって作った物を商品として売る事を考えるのも楽しい。



「ふふふ」

 思わずアベルとの話に夢中になっていたら、リリスさんの笑い声が聞こえた。

「あ、ごめん、ついアベルと商売の話で盛り上がってた」

「いいのよ、二人が楽しそうに話しているから、私まで楽しくなっちゃったわ。いいお友達同士なのね」

 リリスさんの表情が完全に小さい子供を見るそれだ。

「グランの作る物は面白いからね。見ていて楽しいよ」

 発案者は俺ではなくて、前世の世界のすごい人達なので少し心苦しいけれど、今世にある物でそれを再現するのは楽しいから好きだ。

「アベルの反応も面白いけどな」

 毎回、いい反応をしてくれるし、改良点に気付くきっかけもくれるので、何か作った物をアベルに見せるのは楽しい。


「グラン君のお友達がアベル君で良かったわ」

 村にいた頃は色々迷惑をかけたし、魔法がずっと使えなくて、同世代の友人との間には少し壁を作っていたからな。

 相変わらず友達がいないと思われていたのかもしれない。

 たくさんの友人がいるわけではないけれど、友人と呼べる仲になった者とは良い関係を築けている。

 村を出た後の交友関係は、非常に恵まれていたなと改めて思う。


「グラン君とアベル君の未来にたくさんの幸せがありますように」

 リリスさんがシスターらしく、手を合わせて俺達の為に祈ってくれた。

 敬虔な信者ではないけれど、なんだかいい事がありそうな気がした。


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