第321話◆すごいヒヨコ
オミツキ様の祠がある場所の脇には、オミツキ様のお気に入りの大きな木と、その傍らには綺麗な池がある。
そしてその大きな木の上からは、村が一望でき、その木の上にオミツキ様はよくいる。
「オミツキ様はぱっと見可愛いヒヨコだけど、本当の姿はでっかくてかっこいいんだよな。でも大きすぎて村の近くで暮らすのは難しいから、祠に現れる時はヒヨコの姿なんだ。オミツキ様は平和を愛する神様だから、村を災厄と外敵から守ってくれてるけど、怒ると大災害を起こして全てを流してしまうって言い伝えもあるんだ」
祭壇の横に座り込んで話す俺の膝の上で、お供え物をバリバリと食べていたオミツキ様がうんうんと頷いた。
「それにオミツキ様は戦士に加護をくれるんだ。俺達も長期間狩りで村を離れる時は、必ずオミツキ様にお参りをしてから旅立つんだ」
大規模な狩りや、冬前に食糧を多く確保しないといけない時期などは、狩人達は長期間村を離れ山に籠もる。
そんな時は、戦士に勇気と加護を与えてくれるというオミツキ様に必ずお参りをしてから行く。
現在進行形でソルトライチョウの繁殖地へ行っている兄貴達も、出発前にオミツキ様にお参りをしてから行っているはずだ。
そういえば、俺も村を旅立つ時はオミツキ様にお参りをしてから行ったな。
「その様子だと、子供の頃から膝の上に載せて餌付けしてたんだね。行く先々でグランが、節操なくなんでもかんでも餌付けしてる理由がわかった気がするよ」
アベルは呆れた顔でため息をつくが、餌付けではないただのコミュニケーションだ。
オミツキ様は平和主義の気さくな守り神様だから、こうして村人の前に姿を現してくれるの!!
「ああ、その癖もまだ続いてるんだ。ガキの頃からよくあったよなぁ……よくわからない魔物と仲良くなって、村に連れて来て大騒ぎになるやつ。まぁ連れてくるのは無害な奴らばっかりだから、村の周囲に居座っても問題ないんだが、獣ならまだしも虫まで連れてくるからな。ゲジゲジと一緒に戻って来た時もあったしな」
ゲジゲジ様は正義の味方だから仕方がない。
あの時は、しばらくゲジゲジ様が村の周辺に住み着いて、変な虫が減ったからよかったじゃないか。ゲジゲジ様は見た目が少し怖いけれど、見た目で差別よくない。
「魔物や妖精をホイホイ餌付けするのってこの村の習慣ってわけじゃないんだね。やっぱりグラン限定の行いだよね?」
「うむ、共存している山の生き物と取り引きの為に食料を渡す事はあるが、グランはちょっとおかしいな」
「そんな事はないと思うけど? ちゃんと適度な距離を保っているぞ」
俺の膝の上でオミツキ様が首を傾げている。オミツキ様はあざとくて懐っこいから仕方ないな。
ふわふわもこもこの羽の付け根をコチョコチョとすると、まぶたを半分閉じて気持ちよさそうな顔になる。
もこもこふわふわの可愛い生き物に、甘くなるのは仕方ない。
「よっし、今日は久しぶりに来たから、オミツキ様の祠を綺麗に掃除してから帰ろうかな。ガロは先に帰ってていいぞ」
「それなら、俺も付き合うよ。グランと一緒にオミツキ様に会ったって言えば、大体納得してもらえるし、仕事に多少遅れても文句は言われないしな!」
何だ、それ? あ、ガロの頭の上に木の実が落ちてきた。
仕事をさぼる口実にオミツキ様を使うとは罰当たりな奴だな!!
「冒険者になって付与も色々憶えたからな、綺麗にしたついでに便利な付与も付けておこうな」
まぁ、守り神様の不思議空間に比べたら、俺の付与なんておままごとみたいなものだけれど。
「ちょっと、グラン? やりすぎないでよ?」
失礼だな、俺が何をやりすぎるって言うのだ。
「ピヨッ! ピヨッ! ピヨォッ!」
俺達がせっせと祠を掃除している横で、オミツキ様が機嫌良さそうに歌いながら、アベルが出したワインを、小さな爪の生えた羽で挟んでラッパ飲みしている。
間違いなく超高級ワインだから、この辺りでなかなか味わえない美味さだろう。
「よしよし、これから温かくなる季節だからな、ひんやりするクッションを祠の中に置いておいたよ。裏側はホカホカするようになってるから寒い季節は裏返して使ってくれな」
「ピヨッ!!」
このクッションは以前から考えていたものの試作品だ。一つのクッションに、ひんやり効果とホカホカ効果を付けるのは少し難しかったが、上手くできた奴の第一号だ。
「またそういう、地味ぃーに器用な事をしてる」
アベルの呆れた声が聞こえてきた。
我ながら、これは頑張った便利クッションだと思う。
「で、こっちの杯。これは東の国で買って来たんだ、綺麗だろ? 汚れにくい付与をしておいたから、酒を飲む時に使ってくれ」
オーバロで買って来た杯を改造した物。
「それから、祠の屋根の雨漏りがしそうな箇所はなおして置いたぞ。ついでに屋根に小さな扉を付けたから、天気のいい日はここを開けば、祠の中から空が見れるし、中から押して天井から外に出る事もできるぞ」
天井の板が朽ちて、穴が空きかけていた場所は撤去して、代わりに新しい板を嵌めるついでに、開閉可能な扉にしておいた。
エンシェントトレントの板材を使って、停滞を付与しておいたので長持ちするはずだ。
「こっちも綺麗になったよ」
「おう、池の方も終わったぞ」
祠の周囲を掃除していたアベルとガロの方も終わったようだ。
暖かい季節になって伸び始めていた雑草も綺麗になり、雨風で汚れていた祠や門も綺麗になった。
「綺麗になると気持ちいいな」
「ピヨッ! ピヨッ!」
オミツキ様も喜んでくれているようで何より。
「そろそろ帰らないと、さすがにかーちゃんと嫁さんに怒られそうだ」
「そうだな、俺達もあんまり遅くなると、朝飯を食いそびれるな」
「朝から動いてお腹空いちゃったね」
綺麗になった祠の周辺を見渡して、作業をした俺達も満足。
「よし、じゃあそろそろ帰るかー。また、村を離れる前にお参りに来るから、今日はこれでなー」
「ピヨッ!!」
綺麗になった祠の中で俺が置いたクッションの上に鎮座して、満足顔のオミツキ様が片方の羽を上げて応えた。
祠の中のクッションの上に鎮座するオミツキ様に手を振って背を向け、階段手前まで戻ると頭の上から赤い大きな羽が三枚ヒラヒラと舞い降りて、それぞれ俺達の手の中に収まった。
祠の方を振り返るとそこにはオミツキ様の姿はなく、続いて見上げた空の上空に立派な長い尾を持った巨大な赤い鳥が弧を描いて舞っているのが見えた。
「うわ、あれがオミツキ様の本当の姿? でっか! 遠近感がおかしくなる」
「言っただろ、でっかくてかっこいい鳥だって」
オミツキ様に貰った羽を懐のポケットに入れ、階段を下り始める。
実は村を旅立つ時にも羽を一枚貰ったんだよな。しかしそれは、王都に着く頃に黒くなって崩れてしまった。
道中何度か危ない目に遭ったが、全て運良く切り抜けられたのを憶えている。
きっとオミツキ様が未熟な俺を守ってくれたのだろう。今度はすぐに黒くしないように大切にしないとな。
「シームルグの羽? 聞いた事のない名前の生き物だね。はっきりとはわからないけど災厄を肩代わりしてくれる効果があるみたい」
「あ、また鑑定してる。そういうありがたい物は正体を知らずに持っておくのがいいんだよ! ありがたい効果だから、アベルもポケットに入れとけよ」
まぁ、俺の鑑定では鑑定できなかっただけだけど。
この羽にはそんな効果があったのかー。やっぱ王都まで無事に辿り着けたのはオミツキ様のおかげじゃないか。
帰る前にしっかりお礼をしておこう。
「うん。で、これまた歩いて降りるの? 絶対、今日の夜には足が痛くなりそう」
「へへ、グランに付いて来たおかげで俺まで羽を貰っちまったぜ。やっぱ、朝の畑仕事もさぼれるし、オミツキ参りはグランと一緒にするに限る……イテッ!」
ガロの上に木の実が落ちてきた。
ガロは次来る時は詫び酒をたくさん持ってこないと罰が当たるんじゃないかな!?
※いつもお読み頂きありがとうございます。
また今週も土日に仕事が入ってしまった為、明日の更新はお休みさせて頂きます。
次回は、日曜の夕方~夜に更新予定です。
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