第310話◆フォールカルテ図書館の七不思議。
「ええ、そのフォールカルテ図書館の初代館長のご長女は、体が弱くて外に出られない為、読書が大好きだったとかなんとか。初代館長もそんなご長女の為にたくさんの本を集めて、彼女の病気を治す方法を探していたとかなんとか……ですが結局見つからず、そのご長女は……うっ。で、その続きがこの図書館の七不思議の一つでして、本好きだったご長女の死後、図書館で身元のわからない金髪の小さな女の子が……」
ピシャアアアアアアアッ!!!
「ふおおおおおおおっ!? 雷、空気読め!!」
「うわああああっ!! っちょ、リリーさんストップ、その話やめっ!」
バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!
「うおっ!?」
「ふえぇっ!?」
「え? ふえぇ……は尊い」
夕方一度弱くなった雨は再びその強さを増し、激しい雷が窓の外で鳴っている。
そして俺達は、リリーさんに絵画に描かれていた家族について聞いていたはずか、いつのまにか図書館の七不思議とかいう怪談風味の話になった時に、大きな雷が近くに落ちてビリビリと窓が震えた。
落雷、空気読め!!
今、俺達がいるのはリリーさんの実家の別宅。
図書館の騒動が一段落し、俺達が知っている事を冒険者ギルドに報告し終わる頃には、時間はすでに夕方を過ぎ、いつもならまだ明るいはずの空は、再び強くなってきた雨ですっかり真っ暗になっていた。
予定では昼すぎには次の町へ向かい、そこで一泊するはずだったのだが、図書館での事情の確認と助けに行ったお礼も兼ねて、リリーさんの実家の所有するお屋敷に招待された。
予定よりかなり時間も遅くなり天候も悪く、図書館で何が起こったのかも気になった為、その招待に応じ今夜はそこに泊めてもらう事にした。
別宅に到着後、俺はすぐに風呂を貸してもらえた。
汚れまくっててすみません。腐臭がするのは図書館にゾンビを放った奴が悪いので、そいつらの事を呪ってください。
あ、ちょ!? やっぱお貴族様の家ってメイドさんがお風呂に入れてくれるの!?
や!? 俺、平民なんで一人で入れます!!
だだだだだだだだ大丈夫です!! 一人で入れますから!! なんで残念そうな顔をしてるんですか!?!?
可愛い顔をしているのに、なんだか迫力のある肉食獣みたいなメイドさん達と妙な駆け引きになったが、なんとかソロ風呂を勝ち取れた。
無事にソロ風呂でスッキリした後は、小綺麗な服に着替えて食堂へ。
そこで、夕食が出てくるのを待ちながら、今日、図書館で自分達が体験した事をそれぞれ話していた。
夕方前に一度弱くなった雨は再び強くなり、現在では嵐と言っても差し支えないような天候となっている。
激しい雨が窓にぶつかり、風で窓がガタガタと音を出している。その窓の向こうでは、時折雷の光が暗い空に走り、その直後轟音が響くというのを繰り返している。
そんな中、リリーさんが図書館の初代館長一家の話なんてするから、雷の音で太ももの間がヒュンッてなった。
ゴースト嫌いのアベルなんか、いい年こいて、ふえぇなんて言っている。
俺よりタッパのある男が、ふえぇなんて言っても可愛くないぞ!! って、リリーさん何か言った!?
図書館のロビーで俺と女の子が本を読んでいる間、アベルは犬のゾンビを倒し周囲にいた人を図書館から避難させ、冒険者ギルドに図書館にゾンビ犬が出現した事を報告に行った。
ゾンビ犬が付けていた首輪型の魔道具が発動して周囲に雷が放たれたらしい。それがおそらく俺が聞いた落雷の音のうち、二回目の方だ。
リリーさんの話によるとこの落雷で、本館の警備用の魔道具が故障してしまい、安全の為館内の人を避難させようと館長と相談していたところ、沌の魔力でほとんどの人が眠ってしまい、気付けば窓も入り口も封鎖されていたと言う。
あの犬のゾンビは、警備用の魔道具故障を狙い、雷を落とすつもりで放たれたものだったのかもしれないな。
報告を終えたアベルは再び図書館の新館に戻り、俺を探したが見つからなかったので、連絡通路から本館へと向かったと言う。
この時、ロビーの柱は正午より十五分前を指していたと言っている。
その時間は、俺と女の子が一緒にロビーにいた時間だ。
長い時間女の子とロビーで本を読んでいて、ロビーを離れる前に自分の時計を確認した時は正午直前だった。
ロビーにあった柱時計は、その時は正午より随分前に止まったままだった。
だがその柱時計、全てが終わって帰り際にどうしても気になって確認に行くと針は動いており、その針は俺の持っている懐中時計とほぼ同じ時間を指していた。
それはまるで、俺達がロビーにいた間だけ、その時計の針が動いていなかったようだった。
その謎の行き違いで、俺とアベルは別々のルートで本館に入る事になったのだ。
俺が中庭から本館の裏を経由しゾンビと遭遇した後、謎の階段から本館に向かっていた頃、アベルもまた俺とは別のルートで本館へと侵入していた。
ストーカー機能付きバッグが反応せず俺の行方がわからなかった為、アベルはまず俺が本館に入ったか確認しようと本館に向かった。本館の入り口には、本館の入場者をチェックする為の職員が配置されている為、そこで俺が本館に入ったか確認すれば無駄に探し回る手間が省けるからだ。
しかし、連絡通路から本館に入る扉は閉じられており、鍵ではなく何かに封印されたようになっていた。
直前に大きな落雷があった為か、もしくは先ほど見たゾンビの影響で、警備用の魔道具が本館を封鎖した可能性があると思ったアベルは、無理に扉の封を破らず本館の正面入り口へと転移し、そこから入ろうとしたが正面入り口もまた固く閉ざされていたらしい。
この時、連絡通路から徒歩で新館へ戻って本館の正面に向かっていたら、俺とアベルは合流していたかもしれない。
しかし、アベルが転移魔法で移動した為、ここで俺達が合流する事はなかった。
正面入り口まで閉ざされている事で、もしかすると俺も本館の中にいるのではと思い、どこか本館に入る事ができる場所がないかと、正面口から本館の建物に沿って入り口を探しに行ったアベルは、そこでゾンビを作り出している怪しい黒いローブの男に遭遇したそうだ。
そのアベル曰く。
「グランはどっか行くし、お腹は減ったし、ゾンビを出してて臭いし、超イライラしてて、反射的に雷を落としちゃったんだよね」
うむ、腹が減ると機嫌が悪くなるのは仕方ないな。機嫌の悪いアベルに遭遇した黒ローブは運が悪かった。
公共の場でゾンビなんか出すから天罰だな。
雷でこんがりした黒ローブの男を縛り上げていると、男性職員が本館の裏の方から歩いて来たらしい。
その職員が着ていたのは他の職員と違う制服。気になって鑑定したが、図書館職員である事は確実で、それ以外にはこれと言って変わった情報はなかったと言う。
そしてアベルはその職員から、本館の出入り口と窓が封鎖されて、中に閉じ込められている人はばら撒かれた沌の魔力で眠らされているという話を聞かされ、屋上からなら侵入できるかもしれないと、その職員に案内され出てくるゾンビを倒しながら外階段から屋上に向かった。
その向かった先の屋上で、黒ローブ二人と犬ゾンビ数匹をしばき倒したとかなんとか。
うむ、俺がそっちのルートだったら無理だったな!!
ティータイム付き幼女ルートでよかった。
で、屋上から入れるかと思ったら、屋上のドアもやはり開かない。
調べてみれば沌属性の魔力で扉が封鎖されている。明らかに図書館の警備用魔道具の効果とは違うものだ。
無理矢理破る事もできそうだったが、あまりに大がかりなものなので強引に破壊すると、余波で何か起こるかもしれないと思い強行突破は断念。
封印を緩める方法を模索していると、急に沌の魔力が弱まり始めドアを開ける事ができたらしい。
そこから職員さんの案内で、リリーさんの部屋に向かってそこで犯人一味と対峙する事になった。
たぶんこれが、俺が通気口の中で魔道具を回収して回っていた頃。
なかなか手の込んだ仕込みをしてくれた強盗団だが、アベルがチラリと奴らを鑑定した結果、シランドルの南にあるプゥストゥイーニアという国の人間だったようだ。
強盗団一味はアベルが屋外で倒した奴らと、リリーさんの所にいた奴と合わせて六人。こいつらは捕らえられ、プルミリエ侯爵家の治安部隊の元で厳しい取り調べを受けているはずだ。
捕まえたのは六人だが、これだけ大規模で金のかかった仕掛けでの襲撃だ。他にもメンバーがおり、背後に大規模な組織がいる事が考えられる。
まぁ、そこらへんはたまたま通りかかった俺達が首を突っ込む事ではないので、後はこの地の役人に丸投げだ。
「俺とアベルを案内してくれた女の子と職員は、やっぱゴーストなのかなぁ」
「ただのゴーストなら俺の鑑定でわかるはずなのに……、あの絵を見るまで全く気付かなかったよ」
「同じく」
彼らが俺とアベルを誘導してくれたおかげで、被害を出さずに済んだ。感謝しかないのだが、この世の者ではないと気付いた時には背中がゾクゾクとした。
思い返せば、違和感だらけの女の子だった。どうして、最後まで気付かなかったのか不思議なくらいだ。
「絵画の中から出てきて図書館の中を案内してくれる職員や、本を読んで欲しいとねだる女の子の話があの図書館の七不思議の中にありますね。絵画に棲み着いているゴーストというか、付喪神や座敷童……あ、いえ図書館に住んでいる妖精みたいな存在じゃないでしょうかね」
「なるほど、妖精かー。強い想いを残して亡くなった者が妖精になる話もたくさんあるしね」
図書館に住んでいる妖精だと思えばあまり怖さはないな。ゴーストが苦手なアベルもウンウンと頷いている。
クッキーを美味しそうに食べていたし、確かに妖精だな!!
「他にも壁の中から女性の声が聞こえる部屋とか、天井の上を何かが這いずり回るのような音が聞こえるとか、七不思議として聞いた事がありますね。あ、そうそう。新館のロビーにある柱時計は元は本館にあったものなんですけどね、柱時計の音が鳴ると違う世界の扉が開くとかなんとかと本館にある頃に言われておりましたの」
カッコーッ!
リリーさんの言葉が終わるタイミングで、部屋の壁に掛けられていた時計から鳥の人形が飛び出して鳴き声を上げ、俺とアベルが揃って息を飲んだ。
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