第287話◆閑話:赤いギルド長とリザードマンの子供達

 む? お前達またバロンと遊んでいるのか?


 そうか、そうか、バロンと遊ぶのは楽しいか。


 うむ、仲が良い事は麗しい事だな。


 ん? 俺か? 俺はこの島で……いや、この島の冒険者ギルドで一番偉い、冒険者のお兄さんだ。


 おじさん? いいか、小僧、世の中には本音と建て前と言うものがあるのだ。


 なぁに、大人になればわかる事だ。そして、それを上手く使い分ける事ができない奴は長生きができない、よく憶えておくがいい。


 うむ、物わかりの良い子供は好きだぞ。


 こんなところで何をしているかだって?


 ジャングルの見回りだ、見回り。けっして、書類仕事が面倒でサボっているわけではない。


 ジャングルの見回りも、ギルドの責任者の仕事である。


 うむ、お兄さんは偉いので、仕事もたくさんあるのだ。


 責任者とは、現場の事もこの目で見て把握しておかねばならぬのだ。


 何? 冒険者になりたい?


 ふむ、冒険者ギルドの規則では、冒険者になる事ができるのは、基本的に生まれてから十二年を過ぎた者だ。


 ただし、これは人間の基準で、人間以外の種族には特例が認められる。


 何故? それは冒険者ギルドを作ったのが人間で、元は人間だけが対象の機関だった為、その基準も人間に合わせてあるだけだ。


 時が経ち、人間以外の種族も冒険者ギルドに加入をするようになり、人間の基準では不都合が出てくる為、特例というものが認められるようになった。


 人間と他の種族では寿命が異なる為、見た目や年齢だけで判断出来ない事が増えたからだな。


 本来ならこういう規則は、時代と共に柔軟に変更されるべきなのだが、組織が大きくなりすぎた故、規則一つ変えるのも時間と手間がかかるという事だ。


 なんとも人間らしく面倒な話だな。


 故に人間以外はその種族に合わせて特例が認められる。


 ぬ? 難しい事はわからない?


 まぁ、簡単に言うと人間は十二の歳になるまでは冒険者にはなれないという事だ。


 一般的なリザードマンの場合は、寿命の面では人間とは大きな差はないが、成長速度は人間よりやや速く、身体能力も高い。しかしその反面、魔力の扱いが苦手な者が多い。更に気候の変化――主に寒冷地での活動もあまり得意ではない。

 よって、基本的には人間と同じ十二の歳からの登録となる。


 しかし、年中通して温暖で、リザードマン達の得意とする密林や水場といった地形が多いルチャルトラでは、特例としてこの島出身のリザードマンは年齢制限は適用外となる。


 まぁつまり、この島で生まれたリザードマンならルチャルトラに限り十二になっていなくても、冒険者になれるという事だ。


 ただし、十二になるまではEランクまでしか上がれず、戦闘を伴わない依頼しか受ける事ができない。そして、ルチャルトラ以外ではこの特例は無効である。


 そうだ、この島に限りこの島出身のリザードマンなら年齢制限なしで、冒険者になれるという事だな。


 もちろん、登録時に身体、知識、精神的な面での基準を満たしていなければ登録はできない故、幼すぎても登録ができない。


 このように、地域限定でその管轄のギルドが定めた特例が存在する場合もある。


 ぬ? バロン? そうだな、冒険者ギルドの規則、そしてその地域の法が守れるなら、妖精だろうが守護神だろうが冒険者にはなる事はできる。


 バロン、お前の場合、もう少し子供達から島の住人達の常識を学ぶが良い。そうすれば、お前もいずれ冒険者に登録する事はできる。多分。


 そうか、向上心のある事は良い事だ。


 友がいるという事は、お互いを認め、励まし合い、教え合い、切磋琢磨ができるという事だ。


 友を増やし、多くを学び、時にはお前の知る事を友に教えよ。


 うむ、ずっと一人というものは寂しいものだ。お前もよく知っておるだろう。


 他に何か質問はあるか? せっかくなので聞きたい事があれば何でも聞くがよい。この島……の冒険者ギルドで一番偉い俺が答えてやろう。


 ん? 俺とシュペルノーヴァとどちらが強いかだと?


 ハハハ、面白い質問をする。怖いもの知らずで好奇心旺盛な子供は嫌いじゃないぞ。そうやって、多くを学べ。


 いいだろう、特別に教えてやろう。


 もちろん、シュペルノーヴァが強いに決まっている。


 いい機会だ、古代竜について少し話そう。


 古代竜とは、竜種の中でも最上位の種族で創世の時代から続く種族だ。そして、この世のどんな生き物よりも強い存在だ。


 悠久とも言える寿命に、不死身の体、圧倒的な魔力と知能、まさに生物の頂点に立つ存在である。


 燃えるような赤い美しい鱗を持つシュペルノーヴァは、古代竜の中でも長寿で強大な力を持っている。


 つまりシュペルノーヴァは古代竜の中の古代竜!


 そんな完璧で、最強のシュペルノーヴァ様がこの島に住んでいるのだ。


 いいか、シュペルノーヴァの事はもっと敬って、拝んでもいいのだぞ? いや、敬え。


 ん? シュペルノーヴァが普段何をしているかって?


 えーと、火山の中のねぐらで寝ているのじゃないかな?


 え? 寝ているだけなんて敬えない?


 いやいやいやいや、古代竜という存在はそこにいるだけで有り難い存在なのだ。


 その魔力は、その地を豊かに災厄を遠ざける。


 ほら、最近は南の火山が噴火してないだろ? あれもシュペルノーヴァのおかげだからな!!


 うむ、そうだ、シュペルノーヴァはすごいのだ。


 おう、もっと褒めろ。


 ん? バロン、何か言ったか?


 うむ、何も言ってないな? よろしい。


 まぁ、ここのところ火山が活発になり始めて、火山の魔力との親和性の高いシュペルノーヴァの魔力が、島の南部では溢れているからな、数年は御利益があると思うぞ。


 ぬ? そのせいで臭いのが来た?


 うむ、それはすまんかった。ちゃんと、南に追い払っておいたから安心しろ。


 何でそんなにシュペルノーヴァに詳しいかって?


 赤いリザードマンは、島の南部――シュペルノーヴァの住み処の近くに集落を構えているからな、詳しいのだよ。


 ん? 祖父が赤い種族?


 南部は火山活動の被害が大きく、物流の面でも不便だから、数代前からほとんどが北部の集落に移り住んだって?


 北部の種族と混血が進んで、真っ赤なリザードマンの数が減っている?


 ハハハ、そうか。


 どうだ、純正の真っ赤なリザードマンは格好いいだろう。赤はいいぞ。


 うむ、そうだな、南部にはひっそりと自給自足で暮らしている赤い種族も残っているのだよ。


 おっと、そろそろギルドに戻らねばならないな。


 バロン、子供達の事はくれぐれもよろしく頼むぞ?


 よろしい、空気の読める奴は好きだぞ。


 では、また会おう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る