第278話◆シュペルノーヴァ

「へー、喋れるんだ。グランの家に来る、いたずら好きのピクシーより、よっぽどまともな妖精に見えるね」

 バロンは体が大きく顔が少し怖い為、一見悪そうな魔物に見えるが、纏っている魔力は非常に穏やかである。

「バロン、良い子、いたずらしない。バロン、顔、怖い。でも、友達、できた、うれしい、いたずらしない。昔、仲良くする、失敗、閉じ込められた」

 ん? 昔、閉じ込められた事があるって事か?

 まぁ、無害そうだし、子供達の護衛をしているのならそっとしておいてやろう。


「バロンは見た目が怖いってだけで、昔話だと悪者扱いなんだ」

「悪者だから、ずっと閉じ込められてたのを助けてあげて、仲良くなったんだ」

 んん?

「違うよ、バロンは悪者じゃないよ。ジャングルを守ってたんだよね」

「がんばりすぎて、失敗しちゃったんだって」


 ずっと閉じ込められていたって、封印されていたって事か?

 それを、子供達が解いちゃったのか?

 封印を解いた子供達と仲良くなったって事かな?

 封印されるほどの失敗って何をやったんだ?


「バロン、友達できた。バロン、もう寂しくない。友達、大事、バロン、守る。友達できる、バロン強くなる、バロン、もっと友達もジャングルも守る。バロン、もう失敗しない」

 片言でわかりにくいが、子供達と仲良くなったから、子供達を守ると言う事かな?

 先ほど、俺達から子供を庇おうとしていたし、バロンや子供達の言っている事は本当なのだろう。

「多分大丈夫だと思うよ。この妖精、守護者の称号を持ってるし、あまり気にしなくてよさそ」

 アベルがこそりと俺の横でささやいた。

 つまり、ジャングルを守っていて何かを失敗して、封印されたけれど、今はこの子達の護衛みたいなものって事か?

「そういう事なら、俺達は行くよ。でもジャングルの奥には危険な魔物がいるから、あまり奥に行くんじゃないぞ? バロン、友達を守ってやってくれな」

 バロンはそこそこ強そうだが、ジャングルの奥にはBランクを超える魔物もいる。

 念のため、奥に行きすぎないように釘を刺しておく。これも、冒険者の役目だ。

「ここ、バロンの縄張り、大丈夫。ジャングルの奥、行かない。友達、大丈夫」

 なるほど、この辺りはバロンの縄張りだから、あまり魔物がいないのか。



 気になって寄り道をしてしまったが、

 バロンとリザードマンの子供達に別れを告げて、再びジャングルの奥をめざし始めた。

 歩き出してすぐに、土砂に埋もれた小さな祠のような遺跡を見つけた。

 見えるのは土砂の隙間から覗く汚れた石の扉だけ。

 周囲には植物が茂っており、よく見ないと、木々の隙間からただの岩が覗いているようにしか見えない。

 扉の付近を見ると、最近扉を開けた事を示すように、扉の周囲の泥が擦れて、植物が不自然に折れている。

 ここが、バロンが閉じ込められていたという場所かな?

 祠の中を覗いてみると、バロンがギリギリ入るくらいの広さで、入り口も小さく土砂や植物に埋もれていた為、子供達が見つけるまで誰も気付かなかったのだろう。


 その祠を通り過ぎて更にジャングルの奥へ。

 奥へ進むと、バロンの縄張りを出たのか、そこそこ強い魔物に遭遇する事が増えた。

 ルチャルトラの冒険者ギルドで受けた依頼の対象の魔物がいれば、倒しながら奥へと進んでいく。

 出てくる魔物はCからBランク程度であまり苦戦する事もなく、どんどん奥へと進むと川が大きく曲がって、水流でジャングルが削れて川幅が広がり、三日月型の湖状になっている場所に出た。

 木々が途切れた場所から、川の上流――南の方角を見れば、ジャングルの向こうに薄い噴煙を上げる赤茶色の火山が見える。


 シュペルノーヴァ――それがルチャルトラの火山に棲む巨大火竜の名前だ。

 冒険者ギルドで読んだ歴史の本にも出てくる、古代竜でその強さは不明。暫定でSSSランクという事にされている。

 千年以上前の記録に、すでにこのシュペルノーヴァの存在は記されており、一説では万の年を生きている古代竜とも言われている。

 現在では人間とは敵対する事もなく、不干渉を貫いているが、古い歴史書には彼の怒りに触れた国が蹂躙された記録も残っている。

 時折、火山から飛び立ち、海で巨大生物を狩る姿が目撃される事もあるらしい。

 ルチャルトラの火山の主とも言われ、シュペルノーヴァがこの火山に住み着いて以来、ルチャルトラの火山は小規模な噴火はあるものの、大規模な噴火の記録は残っていない。


 古代竜は全ての生物の頂点に立つ生き物で、知能も身体能力も魔力も人知を遙かに超えた存在であり、神に最も近い存在だとか、天地創造の頃からの種族だとか言われている。

 古代竜は人間に対し不干渉を貫いているようだが、一度暴れ出せば、人間の国など簡単に滅ぼされてしまうであろう存在である。

 絶対にぜええええええったいに手を出してはいけない存在なのだ。


 そして、そんな魔力溢れる古代竜が棲んでいる周りは、彼らの影響で魔力溢れる土地となる。

 竜の住み処の近くに生える、ドラゴンフロウという薬草は、竜の魔力を養分として育つ。

 古代竜に限らず、竜種の住み処の近くに生える薬草だが、強力な竜の住み処の近くほど質のいいものが生える。

 つまり古代竜が近くに棲んでいる、このジャングルに生えるドラゴンフロウはとんでもなく高品質なのだ。

 巣に近付けば、更に品質が上がるが、近付きすぎて竜の縄張りに踏み込んで、逆鱗に触れてしまったら、自分だけではなく周囲まで消し飛ばされてしまう。

 まぁ、古代竜なんていう超魔力を垂れ流している存在がいる周囲に近付けば、普通の人間なんて強すぎる魔力に当てられて体調を崩してしまうので、古代竜に近付きすぎてしまう事はまずない。



「お、ドラゴンフロウ見つけた」

「こっちにもあったよ、根っこがポーションの素材だよね?」

「茎と葉っぱも食べられるから、丸ごと回収してくれ」

 川沿いに転々と生えているドラゴンフロウを、根っこから回収する。

 ドラゴンフロウはポーションになる根っこが最も重要な部分だ。

 長居するほど時間もないし、稀少な薬草の為、アベルも採取を手伝ってくれている。

 川の目の前なので、水中の魔物への警戒は怠らないようにしなければならない。

 水の流れが速い場所や、水深の深い場所は水中の魔物の気配がわかりにくい。

 古代竜が近くに住み処を構えている事もあって、火山に近付くほど魔力は濃くなっていく。周囲に漂う濃い魔力は、魔力に対する感覚を鈍くさせる。

 俺達がいる辺りは、島の中央部辺りなのだが、この辺りですでに強大な古代竜の存在を感じられる程に、濃く重い魔力が周囲を覆っている。

 そしてその魔力のせいで、いつもより周囲の気配に気付きにくい。


「前に来た時より魔力が濃くなってて息苦しいね。これが古代竜の活動期ってやつなのかな?」

「ああ、なんかすごく肩が凝るな。だが、おかげでドラゴンフロウもあちこち生えてるし、質もいいぞ」

 悠久とも言える長い時を生きる古代竜は、活動に大きなサイクルがあるとされている。

 世界中で確認されている強力な古代竜の中でも、シュペルノーヴァは活動が活発な方だと言われているが、年単位で活発に活動した後は、年単位で活動が落ち着くと言われている。

 以前来た時はここまでジャングルを覆う魔力は濃くなかったので、あの時は休息期だったのだろう。

 今は、まるで上から踏みつけられているような息苦しい感覚で、油断をすればその魔力に押しつぶされるのではないかと思えてしまう。

 だが、これだけ古代竜が魔力を垂れ流してくれているのだ、息苦しかろうが、肩が凝ろうが、俺はドラゴンフロウを採るぞおおおお!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る