第266話◆うちでは飼えません!!

「ホホッ!」

 俺の目の前でバサバサ羽ばたきながら、足で掴んでいる毛玉を俺に渡そうとしている。

 獲物の場合勢いよく落として来るので、いつもと様子が違う。

「ん? 鳥系の魔物の子供か?」

 立派なフクロウの毛玉ちゃんより二回りくらい小さい灰色の毛玉は、普通の鳥の雛にしては大きい、よく見ると翼とは別に毛玉の中に短い前足と後ろ足がある。口も嘴の形をしているが鳥というかは虫類っぽいし、若干魔力を感じるので、間違いなく何かの魔物の類いだ。

 雛のようなので、成体とはかなり姿が違うと思われ、何の魔物かよくわからない。


 両手を出すと、毛玉ちゃんは灰色の毛玉をそっと俺の手の上に置いて、俺の肩の上にとまった。

「ホーホー」

「んー、かなり弱ってるし怪我もしてるな? 森で見つけて拾って来たのか? 手当しろって?」

「ホホホホッ!」

 獲物を持ってきた時とは様子が違うので確認してみると、肯定するように毛玉ちゃんが頭を上下に振った。

 毛玉ちゃんが連れて来た灰色の毛玉ちゃんは、泥や木の葉が付いていて汚れており、怪我をしているようで血も滲んでいる。

 そして、かなり衰弱しているようで、うっすら目を開けて少し尖った口をパクパクしている。

「ここまで弱っているとポーションを使うと逆効果だな。とりあえず綺麗にして傷口を消毒して、ポーションを使わず手当をするよ」


 ポーションや回復魔法のような、魔力を使った回復方法は、回復される側が弱りすぎていると、魔力に当てられて魔力酔いをしてしまい逆効果になってしまう。

 大きな傷も、回復される側に急激な回復についていけるだけの体力がなければ、ショック状態に陥り命の危険がある。

 ポーションや回復魔法とて万能ではないのだ。



 地面に腰を下ろし、膝の上に灰色ちゃんを乗せて、泥や葉で汚れた体を、水の魔石で湿らせた布で綺麗に拭いてやる。

「ビャ……」

 多少抵抗されるが、弱っているので優しく抑えて撫でながら、汚れを落とす。

「おっと、ごめんごめん。でもちょっと我慢してくれな。ばい菌が傷口に入ったら化膿して熱がでると大変だ」

 折れてはないが翼に血が滲んでいる。どこかに引っかけたような感じだ。

 汚れを落とした後は、消毒用の薬草を使って傷口を綺麗にする。

「ビャッ!」

「もうちょっと我慢してくれな。よしよし、良い子だ」

 傷口を綺麗にしたら、化膿止め効果のある軟膏を塗って、柔らかい布を当て包帯を巻いておく。

 他にも細かい傷が体中にあるので、そこも綺麗にして化膿止めを塗っておく。

 その様子を毛玉ちゃんが、首をクルクルと回転するように傾げながら見ている。


「よっし、応急処置はコレで終わり。少し水を飲もうか」

 収納からカップを取り出して、その中に水の魔石で水を注ぎ、痛み止めの薬を少しだけ混ぜる。

 水はそのまま飲ませずに、綺麗な布にたっぷり染みこませ、それを口に添えて口の中を湿らせる。

 弱っているから、そのまま飲ませて気管に入ったら大変だ。

「ホーホー」

 毛玉ちゃんがホーホー鳴きながら、灰色ちゃんをのぞき込むと、灰色ちゃんが布の端っこにちょこっと口を当てた。

「ピョ……」

「よしよし、上手だ。そのままガジガジするんだ」

 灰色ちゃんは俺の意図がわかったのか、カジカジと布を噛んでいる。

「ホー?」

 その様子を不思議そうに首を傾げながら見ている毛玉ちゃん。

 何だろう、こうして膝の上に灰色ちゃんを乗せていると、毛玉だった頃の毛玉ちゃんを思い出すな。

「うん、水分を取ったからひとまずは安心かな? 餌は固形物はやめておいた方がよさそうだな」

 何の魔物かわからないから、何を食べるのかわからないぞ?

 魔物だから、普通の動物より頑丈だと思うが、まだ子供だし迂闊な物はやらない方がいいよなぁ。

 弱っているから、あまり魔力を多く含んでいる物もやらない方がよさそうだし、どうしたものか。

 家に戻ってアベルかラトに相談してみよう。


 弱肉強食の世界に生きる魔物を保護するのはあまり良くないのだが、毛玉ちゃんが助けて欲しそうだったし仕方ないな。

 毛玉の頃の毛玉ちゃんに似ているから、連れて来ちゃったのかな。

 そんな事を考えていると灰色ちゃんは、布を囓りながら俺の膝の上で眠ってしまった。

 灰色ちゃんが囓っていた布を収納にしまい、代わりに柔らかい生地の上着を取り出して、それで灰色ちゃんを包んでおく。

 暖かくなってきたとはいえ、森の中の日陰はまだまだ肌寒い。弱っている時に、風邪など引いたら致命的だ。

「お昼遅くなるけど、この子を家に連れて帰ってからにするか」

「ホーッ!」

 毛玉ちゃんもそれでいいみたいだ。

 薬草採りはいつでも来られるし、今日はこれで切り上げて帰ろう。


 帰り道、俺は灰色ちゃんを抱えているので、たまに近寄って来る魔物は毛玉ちゃんが全部追い払ってくれた。

 毛玉ちゃんはすっかり頼もしくなったな。

 それとも、灰色ちゃんを弟分だと思って張り切っているのだろうか?

 どちらにせよ、すごく助かるし、頼もしくて可愛い。







「ただいまー」

「ホッホー」

 灰色ちゃんを抱えて、毛玉ちゃんと一緒に家に戻ると、リビングで本を積み上げているアベルが手を止めて顔を上げた。

 今日は三姉妹達は森に行っているようで、アベルが一人ティーセットと本を広げて、作業をしている。

「お帰り、早かったね」

「うん、ちょっと拾いものしちゃって、早めに切り上げて帰って来た」

「え? 拾いもの? なんだかすごく嫌な予感しかしないんだけど?」

 さすが付き合いが長いだけあって鋭いな!?

「正確には俺じゃなくて毛玉ちゃんが拾って来たんだけど」

「ホホッ!」

 毛玉ちゃんが妙に誇らしげだな!?


「えっと、これなんだけど、何かわかる?」

 俺の上着に包まって、スヤスヤと眠っている灰色ちゃんを、アベルの前に差し出した。

「うん? どれどれ、えーと……は?」

「ん? どうした? 何かわかったか? もしかして、何かまずい系の魔物だった?」

 やばい、アベルの表情がものすごく険しい。


「うん、すごくまずい。シルキードラゴンって見える」

「は? はあああああああ!?」

「ホッホッホーッ!!」

 予想外の答えに思わず叫んでしまった俺の横で、毛玉ちゃんが楽しそうにピョンピョン跳ねている。

 毛玉ちゃん、もしかして灰色ちゃんの正体を知っていて拾って来たのかな!?

 へ、へぇー……シルキードラゴンの子供って、灰色の毛玉みたいなんだ……一つ賢くなったなー……。

 って、そうじゃない!! とんでもないものを拾って来たな!?


 森に出かける前に、シルキードラゴンらしきドラゴンが飛んでいるのを見たが、まさか群からはぐれて落ちて来たのかな。

 こんな小さい子も、あの高さを一緒に飛んでいたのだろうか?

 いや、あの高さから落ちてこの程度の怪我なわけないか?

 怪我の具合からして徐々に高度が下がって落ちた感じか?

 シルキードラゴンの生態については詳しくないので、考えたところで答えは出なさそうだ。


 それよりこれ、親が迎えに来たりしないよなぁ!?

 一匹どころか一家で迎えに来たりしないよなぁ!?

 あんなんにお宅訪問されると、うちの家なんて踏み潰されてしまいそうだ。

 信じているぞ、ラトとアベルの結界!!


 そんな事より、灰色ちゃんをどうやって穏便に親元に帰すか考えないといけない。

 親がうちまで引き取りに来られても困るし、引き取りに来なかったら来なかったでそれはもっと困る。

 シルキードラゴンって成長すると五十メートル級だぞ!?

「ホッホーッ!!」

 灰色ちゃんを弟分だと認識したのか、毛玉ちゃんだけは妙に楽しそうだ。


 ダメです!!

 うちでシルキードラゴンは飼えません!!!!!

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