第263話◆実質肉

 ネライダ湖では偶然遭遇したピンクのフラワードラゴンに、謎の花園へと招待され、最終的にフラワードラゴンの群にもみくちゃにされるというハプニングもあったが、あの後無事に元の場所に戻してもらえた。

 うん、きっとあの巨大ローパーを倒して欲しかったのかな?

 いっぱいフラワードラゴンを見れて、すごく運気が上がっていそうだなああああ!?

 あれだけたくさんいると、ありがたみが全くないけどな!!

 もみくちゃにされた時に、鱗をたくさん落としてくれたので、それで勘弁してやろう。

 その後は特にトラブルもなく、ヴェルソーの冒険者ギルドにリュフシーの討伐報告をして、報酬をもらって帰還。

 特に強い敵と戦ったわけではないが、なんか妙に疲れた。




 その翌日、のんびりとした昼下がり。

 ネライダ湖では多少のハプニングもあったが、アベルも久しぶりに攻撃魔法をバンバン撃ってストレスを発散できたようで、今日からまた本を積み上げてせっせと翻訳作業をしている。

 幼女達は相変わらず楽しそうに箱庭を弄っているし、ジュストは冒険者ギルドの依頼をこなしに朝から出かけて行った。ラトもいつものように森の見回りに出かけている。

 俺は……リュフシーの地下茎の灰汁抜きをしたり、フラワードラゴンの花園で手に入れた小型のローパーの触手を毒抜きしたり、その隙間でジュストとキルシェの為の防具や装飾品を作っている。

 のんびりとした平和な午後である。


 リビングのソファーで本を広げるアベルと向かい合って座り、俺はちまちまとアクセサリーを作っている。

 ジュストには状態異常耐性に特化したブローチ。

 魔法銀の台座に、ユニコーンの角を一センチ弱に輪切りにして滑らかに削った物と、キノコ君に貰ったアメジストをはめ込んだ。状態異常耐性全般を付与して、呪いに対しては特に高い耐性を付けておいた。

 キルシェにはイヤーカフスを二つ。

 一つ目は状態異常耐性用。

 ピエモンの周辺は、毒を持った虫や魔物をよく見かける。あまり強い毒ではないが、対策はしておくにこした事はない。

 ピエモン周辺だけならあまり高い効果でなくてもよさそうだが、念の為にユニコーンの角を削った物に、状態異常耐性全般を付与した。

 もう一つは、ギフト隠蔽用。

 こちらは魔法銀を土台に、ジャスパーという赤い不透明な石を飾り付けてみた。

 ジャスパーは幻惑や隠蔽効果と相性がよく、何故か男性より女性の方が効果が高い。


「よし、できた!」

「まーた、そんな小さい物に色々詰め込んでー」

 出来上がったアクセサリーを机に並べて、出来映えを確認していると、アベルが手を止めて顔を上げて目を細めてこちらを見ていた。

「パッセロ商店で売るアクセサリーとかも作ってるから、細工や付与の腕が上がったんだよ」

「元々おかしかったのが、細工の腕が上がって、おかしさに更に磨きがかかってるよ」

 それは俺の腕を褒めているのだろうか? 褒めているのだよな?


「あ、そうだ。フラワードラゴンの鱗もアクセサリーにしちゃおうかなぁ」

 フラワードラゴンの鱗自体は、素材としてはあまり優秀ではないのだが、幸運のお守りの定番である。

 持っているだけで、なんとなく運が良くなる気がするという気休めみたいなもので、効果は定かではない。

 運なんて体感する方が難しいもんな。まぁ、気持ちの問題である。

「おやつの邪魔はされたけど、いっぱい落として行ったね……あっ!」

「ん? どうした?」

 フラワードラゴンの鱗で幸運のお守りでも作ろうかと、拾って来た鱗を選別している手を止めて、アベルの方を見る。

「いや、そろそろおやつの時間だなって」

 何かと思ったらおやつかよ。

 確かに少し小腹の減ってくる時間だ。


「おやつの時間ですかぁ?」

「ちょうど小腹が減ってきたところよ」

「では、わたくしはお茶の準備をしますわ」

 おやつというキーワードに反応して、箱庭を弄っていた三姉妹がこちらにやって来た。

「ん? 今から作るから、もうちょっとのんびりしてていいぞ」

 今日のおやつはもう決めているのだ。

 選別する為に広げていた、フラワードラゴンの鱗をしまって、キッチンへ向かう。



 今日のおやつは、昨日たくさん持って帰って来たリュフシーの地下茎――略してリュフコンを使ったおやつだ。

 白くて穴がいっぱい空いているリュフシーの地下茎は、皮を剥いで灰汁抜きを済ませてある。

 俺の腕の太さくらいあるリュフコンを四つに切って、それを薄切りにして、素揚げにする。

 名付けてリュフチップス!!


 定番は塩味だけだと面白くないので、今日は他の味も用意しておく。

 塩味は普通の塩と、サルサルで買ってきたサルサル岩塩。

 それから、リュネ干しをスライムゼリー乾燥機でカラカラに乾燥させて、細かく砕いた物を振りかけた、リュネ干し味。

 薄っぺらい海藻をパリパリに乾燥させて細かく砕いた物と塩を振りかけた、磯風味の塩味。

 おろし金で粉にしたチーズを振りかけた、チーズ味。これは上に刻んだパセリを散らしておいた。

 今日のおやつはヘルシーで美味しさ色々、リュフチップスだ!!!




「これはリュフシーの根っこ? つまり野菜? 野菜なのにパリパリしてて食感がいいし、青臭くも土臭くもないどころか、食べやすいしこの食感と塩味で、揚げ物なのに無限に食べられそう」

「根っこじゃなくて地下茎な? そしてリュフシーは魔物だから、実質肉だ」

 リュフシーの地下茎を薄く切って、素揚げしただけなので、見た目がすごく植物っぽい為、アベルには若干警戒をされたが、食べてみたら気に入ったようだ。

「実質肉でも見た目は野菜でしょ!? だけど、野菜でも土の中の物は食べやすいのかな? いや、ニンジンも土の中の物だな、アイツはだめだ。きっと魔物だから野菜でも食べやすいんだ」

 どういう理屈なのかはわからないが、アベルはアベルなりにそれで納得しているのだろう。


 自分も一つ摘まんで口の中に放り込む。

 俺が食べたのはサルサル岩塩味。

 ほんのりピンクで、仄かな甘味のあるサルサル岩塩は、揚げ物との相性がいい。

 普通の塩味よりも、角のないしょっぱさだ。酒を飲まない時は普通の塩味より、こちらの塩味の方が酒が恋しくならなくていい。


「この緑色のがかかっているの、美味しいわね」

 ヴェルは磯風味の塩味が気に入ったようだ。青のりがなかったので別の海藻なので、香りはいまいちだが気分的には磯の香りだ。

「わたくしはリュネ干し味が好きですわ。酸味のおかげで揚げ物なのにさっぱりしていて、どんどん食べられますわ」

 ウルはリュネ干しか。さっぱり上品な味で食べやすいもんな。

「チーズも美味しいですよぉ。ラトがいたらお酒と一緒に全部食べてしまいそう」

 確かにクルの言う通り、ラトがいたら酒のつまみに延々食べそうだ。

「ふふん、ラトには内緒にしておきましょ」

「ですわね、ラトは最近丸くなって来てますしね。ラトには内緒にですわね」

「このままだと、ラトは牛になってしまいそうですねぇ。ラトには内緒の方がいいですねぇ」

 三姉妹達が地味に酷い事を言っているな。


 しかし、ラトは最近ぽっちゃりしてきているような気がするのは否めない。

 ジュストの分だけ分けて残しておこう。ジュストは成長期だからな、野菜もいっぱい食べないといけないしな。

 おっと、これはリュフシーだから肉だったな?

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