第254話◆ほんのり黄色い

「よーーーーっし! できた!!」

 出来上がった麺を見て、倉庫の一階の作業場で一人ガッツポーズをする。


 先日採取した、木を燃やしてできた灰を与えて育てたスライムのスライムゼリーから作った、アッシュスライムパウダー。略して灰粉。

 これを塩と一緒にぬるま湯に溶いて、小麦粉、水と一緒に混ぜ、ひたすら捏ねる。捏ねる。とにかく捏ねる。疲れても捏ねる。

 そしてそれを一晩、寝かせる。

 一晩寝かせた後は、薄く引き延ばしてシート状に。それを畳んで細く切る。

 出来上がったのは、ほんのり黄色いふにふにとした感触の麺。


 やっぱ、困ったらスライムなんだよなああああああ!!

 スライムまじで神!!


 そしてオーバロのダンジョンで採ってきた海藻。

 鮮やかな緑色の薄くてペラペラしたその海藻をカラカラに乾燥させて、パリパリになった物を手で細かく砕く。


 それから、オーバロで買ってきた青魚を木の幹かってくらいに、カラカラに乾燥させた物。鈍器や投擲武器にしても強そう。あ、いやいや、食べ物で遊んではいけない。人を攻撃してもいけない。

 いったい何節なのだろう。鑑定してみるとよく知らない魚だったが、青魚なので前世の記憶にある、何とか節の代用になるはずだ。

 これを、自作したスライサーですごく薄くスライスして削り節に。

 薄くスライスしすぎて、ちょっとした空気の揺らぎでふわっと飛んでいってしまいそうだ。だが、それがいい。


 更にキャベツ。大きめの物を丸ごと一個、全部千切りにしてしまう。

 うおおおおおおおおー!! 刻んだらすごい量になったぞおおおおお!!

 だが、俺の記憶ではこのくらいは使っていた気がする。


 もちろん肉もある。ワイルドボアのバラ肉をスライス。

 味付けのメインは、色々な野菜を時間をかけて煮込んだソースに、醤油やハチミツ、イッヒ酒、トマトソースを加えて更にコトコトと煮込んでできた、黒くてドロッとしたソース。

 おっと、小麦粉を水で溶いておかなければ。

 後は、卵とマヨネーズも必要だな。

 他にも具材を追加してもいいが、とりあえず定番の材料でいこう。

 キャベツが山盛りになってしまったせいで、材料がすごい量になったが、とりあえず収納に突っ込んでおけば問題ない。


 ふっふっふ、ほんのり黄色いふにふにとした麺ことチュウカ麺!!

 今世だとなんと言ったらいいのかなぁ。アッシュスライムから取って、アシュ麺とでも言っておこう。

 今日から君はアシュ麺君だ!!


 そして、今日の為に作った大きな鉄板の魔道具。鉄板の下には、火の魔石が複数と温度調整の装置がつけてあり、鉄板を熱する事ができる。

 それから、俺の手のひら程の大きさの金属ヘラ。これがないと話にならない。

 これで今日の夕飯の下準備は大体終わりだ。

 後は、俺次第。少し自信がないが器用貧乏さんと転生開花さんが何とかしてくれると信じよう!!






「あー、もうっ! 翻訳自体は問題ないけど、量が多すぎ!! 兄上酷すぎ!! 頭使いすぎてお腹がすごく減ったよ!! うわぁ……それキャベツ? すごい量……もしかして夕飯はキャベツ? そんなにキャベツばっかり食べてると、アオムシになっちゃうよ」

 夕飯より少し早い時間、食堂のテーブルの上に鉄板の魔道具をドーンと設置し、練習も兼ねて一つ作ってみようと、作業をしていたらアベルがやって来た。

 それと、キャベツを食べすぎても、アオムシにはならないから安心しろ。


 鉄板の上にはキャベツがこんもり。確かにぱっと見はすごい量だ。

 俺も、初めて見た時はびっくりしたな。

 今日の夕飯のメニューは前世の記憶に少しだけ残っている料理。学生の頃に行った旅行先で、目の前で作ってもらったのを食べたんだよな。

 アシュ麺を作った時にふと、その時の事が頭をよぎり、転生開花さんに頼って記憶を掘り返した。

 その旅行中の苦い思い出が、ちょっと一緒に出てきて頭を抱えたが、作り方と材料はだいたい思い出せたから結果よし。


 今、俺が作っているのは前世の記憶にある料理。

 ラーメンにも挑戦したかったが、スープが難しそうだし、麺をズルズルと啜らないといけないから、お上品そうなアベルには難しそうだな。

 ラーメンはもう少し食材を集めて、スープを研究してからだな。

 と言うわけで、今日は小麦粉とキャベツと肉と卵そしてチュウカ麺ことアシュ麺を、熱々の鉄板の上で焼く料理、お好み焼きだああああああああ!!

 それも、具を混ぜて焼く方ではなく、積み上げていく方。

 少し難しそうだったけれど、チャレンジしてみたかったのだ。

 

 引っ張り出してきた記憶に従い鉄板を熱くし、その上に滑らかになるまで水でよく溶いた小麦粉をお玉一杯分ほど垂らし、それをお玉の底でくるくるとかき混ぜるように丸く広げていく。

 水で溶いた小麦粉を薄く引き延ばせば、鉄板の熱で水分が飛び、クレープの皮のようになる。

 その上に削り節をパラパラと散らし、更にその上に千切りにしたキャベツをドサッと載せた。

 そのキャベツの上に、スライスしたワイルドボアのバラ肉を五枚ほど載せて、小麦粉を水で溶いた物を上から少しかけたところで、アベルがやって来て、この反応である。


「火が通るとキャベツの水分が抜けてすごく小さくなる予定だから安心しろ」

 最終的には薄っぺらくなる予定だ。

 キャベツが山盛りになっているが、加熱により水分が抜けて小さくなるし、最終的に上から抑えて平べったくするので、たくさんキャベツが入っていても気にする事なく食べられるはずだ。

「ふーん? それでこれはこの後どうなるの?」

「これはこれから、こうやって……それっ!」

 俺は金属のヘラを両手に持ち、積み上げられた具の一番下、薄皮状になっている小麦粉の下に差し込んで、勢いよく裏返した。


 バサアアアアアアアアアアアッ!!


「…………」

「…………」

 やべぇ、失敗した。

 薄皮は破れなかったけれど、キャベツがめちゃくちゃ飛び散ってしまった。肉も少しはみ出てしまった。

 記憶だけで料理を作るって難しいな!!

 俺の記憶の中では、この料理を作っていたおばちゃんは、めちゃくちゃ簡単そうにホイホイ作業していたのに。


「ねぇ、グラン? キャベツが散らかっちゃったけど大丈夫? キャベツ減らした方がいいよ?」

「こ、こうやって中に戻せば、大丈夫だ、問題ない」

 散らかってしまったキャベツをヘラでかき集めて、裏返した為一番上になった薄皮の下に入れていく。はみ出した肉もぐいぐいと押し込んでおく。

 よし、なんかそれっぽい。

 おっと、ここで手を止めてはいけない。

 このキャベツがもりもり入っているやつは、しばらくこのまま鉄板の上で火を通す。


 その間に、鉄板の空いたスペースでアシュ麺を焼いていく。

 少し水を足してほぐした後、作っておいた野菜ベースの黒いソースを絡めて炒める。

 そしてその上に、先ほどのキャベツいっぱいのやつを、スススッと移動させて載せるつもりなのだが……。


 ポロッ!


 ヘラで掬って移動させようとしたら、キャベツが隙間から天板の上に少しこぼれてしまった。

 難しいな、おいっ!?

 散らかってしまったキャベツを、再びヘラでかき集めて薄皮の下へ。

 ちょっとキャベツが横からビヨンビヨン飛び出している気がするが、まぁこんなもんだろう。

 ヘラで形を整えつつ、上から軽く抑える。

 キャベツの水分が抜け、上から抑えた事もあって、具がたくさん入っているとは思えない厚みだ。


 だが、具はこれだけではない。

 鉄板の空いた場所で鶏の卵を割って、ヘラで黄味を割り、卵白と軽く混ぜるように円形に広げていく。

 キャベツとかアシュ麺とかが入っている方と同じくらいのサイズに卵を広げたら、その上にそのキャベツのパーツをヘラで持ち上げて載せる。

 卵に火が通った頃を見計らって裏返して、最後に黒いソースをかけ、その上に削り節と緑の砕いた海藻を振りかけて完成だ。

 好みでマヨネーズもかけてもいい。

 形はあまり良くないが、記憶を頼りに作ったのだから上出来だろう。


「うわー、キャベツいっぱいでどうなるのかと思ったけど、すごくお腹の減る匂いだね。この黒いソースの香りかな? 振りかけた緑のはハーブか何か? これも独特の匂いがするね」


「ただいま帰りましたー」

 ちょうど出来上がったタイミングでジュストが戻って来た。

「お? お帰り。ちょうど夕飯の試作品ができたところだけど、試食してみるか?」

「はい! お腹空いてるのでいただきます! あ、これはヒロシ……えっと、あー……そうそう、ヒロシさん!! そう、故郷のヒロシさんが作っていた料理に似てます!」

 どういうごまかし方だよ。って、ヒロシさんって誰だよ!?

 ジュストは意外とうっかり属性だから、たまに残念な子になるな。 

「へぇ、初めて見る料理だけどジュストの故郷の辺りの料理なの?」

 あーやべぇ、アベルに飛び火した。

「へー、ジュストの故郷の料理なのかー、どこで見たのかなー、どっかで本で読んだんだよなぁ」


「今日は何だかいつもと違う香りがしますわ」

「グランー、お腹すいたー」

「ただいまですぅ」

「うむ、戻った。ぬ、今日はなんの料理だ?」

 三姉妹とラトも戻って来た。


 くそ、試食する暇がなかったぞ。

 味見できていないが、ソースと麺は作っている時に、味は確認したから大丈夫のはずだ。

 とりあえず、ヘラで人数分に切り分けて、食べている間に次を焼こう。

 あれ? これ焼いている人は食べられないパターンじゃね?


 よし、面倒くさいしジュストを巻き込もう。

「ジュスト、全部混ぜて焼く方は作った事あるか?」

「ありますあります。そっちなら僕もできますよ」

「よし、じゃあそっちはジュストに任せよう」

「ジュストも料理できるのですねぇ。難しくないなら私もやってみたいですぅ」

 ジュストを巻き込んだら、クルも釣れた。

 みんなで焼くのも楽しいんだよな。

「私は食べる方がいいわ」

 ヴェルは……うん、あまり料理は得意そうではないし食べる専門でいい。

「お皿とカトラリー用意しますわ」

 食べるようの小さめのヘラも用意していたが、いきなりヘラは難しいかな?

「これに合う酒は何だ?」

 ラトはやっぱり酒か!?

「俺のはキャベツ抜きの肉増量でいいよ」

 アベルよ、それはもう別の料理だろっ!?


 相変わらず騒がしいが、すっかりこの賑やかな食卓に慣れてしまい、それがまた居心地がいい。



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