第253話◆ケンカするほど仲がいい?

 寒い日が続く中に暖かい日がだんだん増え、庭のリュネの木も花が満開になって、春が近い事を教えてくれている。

 それでもまだ春と言うには寒く、家の周囲にはまだまだ緑は少ない。

 暖かい日もあれば、雪がチラチラする日もある。それでも少しずつ陽が長くなり、暖かい日が多くなってきた。


 先日、冒険者のランクがAになったが、依頼の報酬が少し上がったくらいで以前とほとんど変わっていない。

 ピエモンで受ける依頼はほとんどC以下なので、少しだけAランク手当が上乗せされるだけだ。ランクの高い依頼じゃないと、Aランクの恩恵を大きく実感できない。

 それでも収入が増えたのは嬉しい。アベルの手が空いたら、でっかい町でAランクの依頼も受けてみたいな。


 一日一時間のアベルとチリパーハ語の会話タイムも相変わらず続いていて辛いけれど、それでも装備品を作ったり、保存食を作ったり、畑を弄ったりとすごくスローライフを満喫している。

 冒険者ランクはAになったけれど、それ以前と変わらない平凡な日々が続いている。平穏最高。





 今日はのんびりと地下室でスライムを弄っていた。

 地下室にいると、どこから嗅ぎつけて来るのか、タルバがよくやって来る。そして、おやつを食べて帰っていく。

 タルバの作った地下道は、入り口はすっかり綺麗に整備され、その先のモールの集落に繋がる通路には、妖精君のダンジョンからついて来たと思われる光る苔が、通路の壁に張り付いて通路を照らしている。

 こいつら何食って生きているんだ?


「うん、上手くできた気がする」

「も? 何のスライムも?」

 最近ずっと弄っていたスライムが、大きく成長した為、そのスライムゼリーをお玉で掬ってボールへと移す。

 その作業を、今日もうちの地下室にやって来て、ポリポリとクッキーを食べているタルバが覗き込んでいる。

「ああ、木を燃やしてできた灰ばかりを餌にしたスライムだ。これを乾燥させてパウダーにして料理に使えるかなと思って」

 収納内に貯め込んでいた材木を、整理ついでにアベルに片っ端から燃やしてもらって灰にして、その灰をひたすらスライムに与えてみた。

 植物の灰だけを与えたスライムだ。

 このスライムのゼリーを乾燥させて粉にした物を料理に使う予定で。


「もっ!? 何を作るも!? お菓子も!?」

「いやいや、お菓子じゃないな。小麦と混ぜて麺を作ろうかなと思って」

「麺? 人間の料理のパスタってやつも?」

「そうそう、パスタじゃないけどそんな感じだな。まぁ、すぐにはできないし、ちゃんとできるかわからないから、できてからのお楽しみだな。ちゃんとできたらお裾分けをするよ」

 多分上手くいくと思うけれど、作ってみないとわからないんだよな。

 何事もチャレンジだ!!


 スライムから採取したスライムゼリーは、スライムゼリー乾燥機でカラカラに乾燥させた後、すり鉢ですり潰して粉にする。

 以前は天日干しやアベルに協力してもらって乾燥させていたのだが、スライムの種類も数も増えてきたし、スライムゼリーを活用する事も多いので、少し前に乾燥機を買ったのだ。

 スライム飼育ゾーンが、どんどん充実していってとても楽しいぞー!!

 採取したスライムゼリーを、熱耐性のある器に入れて乾燥機の中へ。これで、一時間くらい放置しておけばカラカラに乾く。



「グランー、またスライム弄ってるのー? うわっ! またモグラがいる!!」

「モグラじゃないも! モールのタルバだも!! いい加減おぼえるも!! あったまピッカピカの、中身スッカスカかっ!? もっ!!」

「頭ピカピカじゃなくてキラキラでしょ! って、誰が中身スカスカだって? このチンチクリンモグラ!」

 何だろう、アベルは昔から小動物系と相性が悪いよな。

 お兄様にダンジョン禁止令を出され、山のように仕事をもらったアベルはずっとうちにいる為、時々息抜きに俺の作業場にやって来る。

 おかげでタルバの秘密の通路は見つかってしまった。元々そんな秘密にするつもりはなかったけど。

 そして、これである。


「そんな事より、早くチョコレートをよこすもっ!」

「相変わらず意地汚いモグラだね! 王都の高級チョコレートと最近はやってるシュークリームってやつあげるから、これで状態異常耐性の土台向きのピアスを十個くらい作ってよ。残った分はあげるよ」

 いや、何だかんだで仲良さそうだな。

 タルバがいる時にアベルが地下室にやってくると、だいたいこんな感じでタルバがアベルに高級菓子をたかっている。

 アベルもアベルで、タルバにちょくちょく装飾品を頼んでいる。

 実は仲良しさんかっ!?


「もん? 魔法白金も? 状態異常なら、前にグランが持ってきたミスリルと魔法白金の合金の方が、すごいのができるも」

「月金だっけ? あれは俺は持ってないよ。グランまだ在庫ある?」

「んー? あれを作れるスライムはシランドル行く時に、元のスライムに戻したからなぁ。今は前に作ったやつが少しあるだけだな。あのスライムは管理が面倒くさいんだよな。たくさん必要ならアベルに捕まえて来てもらうしかないな」

 以前アベルに捕まえて来てもらった火山性のスライムは、スライムが吐き出す酸も、スライムそのものから発生する毒ガスもヤバイので、長期に家を空ける前に、無害化させたんだよな。


「ほら、こないだダンジョンでグランの状態異常耐性用のピアス壊れたでしょ?」

「あー、あれはコカトリスくらいの毒を想定したピアスだったからな」

 そういえば、バジリスクの毒が塗られたナイフをキャッチしてしまった時に砕け散った後、仮の耐性用ピアスで誤魔化していたままだな。

「ちょうどいい機会だから、しっかりしたの作っちゃおうと思って。予備も含めて十個あれば足りるかなって」

「あー、そうだなぁ。じゃあ残ってる月金を使うか。あんまりないから四つくらいしか作れないな。ユニコーンの角もこないだ取ってきたから、それも使えば状態異常にはかなり強くなりそうだな。これなら、バジリスクの毒でも壊れないだろうし、俺とアベルの分を二つずつ作ってもらうか」

 少しだけ残しておいても仕方ないし、こないだみたいな事がまたあるかもしれない。装備には念を入れておく方がいいだろう。


「俺のも月金で作ってもらえるならありがたい。でも月金を使うなら隠蔽効果も付与しておかないとね」

「そうだな、じゃあ月金でピアスを四つほど作ってもらおうかな。俺とアベルのを二つずつデザインはタルバに任せるよ。月金はもうこれが最後だから、残った分はタルバが好きに使ってくれ」

 ピアスを四つ作って、少しだけ余りそうなくらいだ。

「わかったも! じゃあ月金とユニコーンの角でピアスを作ればいいも?」

「そうだね、それならバジリスクの毒や石化は耐えられるよね」

「余裕でいけそうだな。土台ができたら俺が付与をやろう。じゃあ、タルバ頼むよ」

「任せるもっ!」


 タルバならきっとかっこいいピアスを作ってくれるはずだし、楽しみだな!!

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