第252話◆条件付きAランク
「合格だな」
試験の全てを終え、ギルド長室の席に座ったバルダーナがドンッと書類にハンコを押した。
模擬戦は負けてしまったが、その後の筆記と面談の結果、Aランクにはなれるようだ。
模擬戦は悔しかったけれど、あの後の後片付けの方が大変だったよね。
あれどうやって鎮火するのかと思ったら、バルダーナがスライムで作った消火用の薬剤を持っていた。
魔法金属の粉を使った燃焼、爆発攻撃は面白いから、消火用の薬剤と合わせて俺も用意しておこう。
火を使った攻撃になるから、使いどころを考えて使わないとやばいやつだが、粉塵系の燃焼や爆発は浪漫なんだよなぁ。
筆記は冒険者としての知識。危険な罠の解除法や、高ランクのダンジョン、危険な魔物などの知識これは自信がある。
面談は素行や性格の評価だ。これも、真面目に堅実に冒険者を続けてきたから、まぁまぁ自信あるな?
冒険者はどんなに強くて知識があっても、それを扱う者の行動や性格に問題があれば、ランクは上がらない。
力があっても驕りが過ぎる者、メンタルが弱すぎる者、注意力が足りない者……色々あるが、ランクが上がるほど危険な仕事が増え、周囲との協調性や精神力も求められるようになる。
「戦闘面においては、動きはもちろんの事、観察力と咄嗟の判断力と対応力、全て合格ラインを十分超えている。罠の対処法やダンジョンや魔物についての知識は、少々偏りはあるがこちらも合格点を達成している。何事もイレギュラーに対応できて、効率良くするのは良い事だが、基本を忘れるな? 罠解除の為に物を投げるのは、周囲を確認してからだな。もちろん爆弾もだぞ? それから、性格的な面は過去の実績と報告、素行を見ても問題ない。……のだが、調子に乗りすぎて、詰めが甘くなるのはマイナスだな」
うぐっ! 痛いところを突いてくるな!?
おせおせの時はつい前のめりになって、周囲を見落として詰めが甘くなるのは俺の悪い癖だ。
ガーゴイルの台座も、冷静に考えれば壊れてもおかしくない事は、予想できたはずだ。
「その辺りを考慮して、条件付きでAランクだな」
「条件付き?」
Aランクにはなれるようだが、条件が付くのか。
やっぱ、まだまだ実力が足りていないって事なのだろう。
「うむ、Aランクは条件付きの者がほとんどだ。それくらいAとBの間には差があり、仕事も危険が増え、個々で相性の良い悪いの差も激しくなる。お前のお友達もそうだし、俺もAランクだが制限は残っている」
「そうなのか、そんな話アベルからまったく聞いた事なかったから知らなかった」
言われてみたらそうだよな。同じAランクでも力の差もあれば、魔物や地形との相性もあるし、想定する敵が強くなればなるほど、相性による有利不利の差が大きくなる。
「で、その条件なのだが。ランクが上がったばかりなので、単独で入る事のできるAランクのエリアに制限がある。それと単独でのAランク依頼の受注ができない。グラン一人で受けられる依頼はBランクまでになる。ようするにAランクの冒険者を対象にした指名依頼は来ないって事だな。必ずAランク以上の他の誰かと一緒になる。Bランク以下の依頼なら単独での指名もできるが、指名料はAランクだ」
単独でのAランクの指名依頼が来ないのはいいな。Aランク依頼は依頼料も指名料も高いからな、複数が条件になるとそれだけ指名され難くなる。
単独でAランクの依頼が受けられないのは仕方ないが、Aランクの依頼は、難易度からして、複数で受けるものが多いはずだ。
Bランクはまぁ仕方ないな。BとAだと指名料が倍以上違うので、Bランクの依頼にAランクをわざわざ指名する事はあまりないし。
Bランクを偽装したAランクの相当の依頼なら、依頼側の違反になるので、ギルドに報告して断る事もできる。
「つまりランクだけ上がって、一人の時は今までと何も変わらないって事か」
「ま、そういう事だ。これで友達と一緒に行ける場所も増えるだろ。あとAランク限定エリアには入れるようになるが、場所によっては制限があるので自分の行ける場所を、後で確認しておくように。まぁ、だいたいAランクの友達と一緒なら入る事ができるようにしてある」
「行ける場所が増えるのはいいな!」
Aランクになる事にずっと尻込みしていたが、いざ行ける場所が増えると言われるとワクワクしてしまう。
強力な敵が棲息する地域やダンジョン、調査中のダンジョンはAランクしか入れない場所もあるし、未知の素材があると思うとやはり物欲が大きくなる。
「それから模擬戦の後でも言ったが、Aランクの冒険者は火力が高い者が多いが、それが全てではない。特化ではなくとも、バランスよく手数が多いという事は、臨機応変な対応ができるという強みだ。戦い方の幅が広いのは、相性いい仲間も多いと言う事だ。お前さんの仲間は、その手数の多さを強みとして認めてくれているんだろ? 良い仲間じゃないか」
俺の強み……か。
俺と似たような戦闘スタイルで、Aランクそしてギルド長まで上り詰めているバルダーナの言葉は説得力がある。
バルダーナは一発の火力は高くないが、動きの速さや、細かい道具を有効に利用した手数の多さは、非常に戦い難かった。嵌まれば一気に持って行かれるだろう。
ドリーにも過去に散々、俺の強みは火力ではないと言われたが、勝手に劣等感を抱いていた俺が、頑なに火力にこだわっていた。
高火力の仲間が羨ましくて、僻んでいたのかもしれないな。
Aランクになったからには、自分の器用貧乏と向き合わないといけない。
殲滅力に直結する為、冒険者の間では火力にこだわる風潮は強い。そんな中でもドリーは、火力より別の面に目を付けて俺をパーティーに誘っていた。
冷静に考えれば、危険な場所に踏み込む事の多いAランクのパーティーが、ただの贔屓で何度もパーティーに誘うわけがない。
自分の事については、なかなか客観的になれないものだ。
いや、火力に対する引け目が完全に消えたわけではない。消えたわけではないからこそ、火力を補う為に、自分にできる事をもっと模索していく。
「ああ、良い仲間ばっかりだな」
何でだろうなぁ。
Aランクになる事を面倒だと思っていたのに、なったらなったで案外すっきりしているから不思議なものだ。
俺が勝手に、Aランクという肩書きを、過大評価していただけだったのかもしれないな。
「ジャーーーーンッ!!」
「え? 金色? Aランクになったの!? おめでとう?」
試験に無事合格して、ギルドカードがキンピカのギルドカードになった。
今まで銀のカードだったから、金になったら妙な高級感があるな。
そして、なるまではAランクなんて面倒くさいと思っていたのに、いざなってみると誰かに見せびらかしたくて仕方なくて、帰宅するなりリビングで本を広げているアベルの前に、新しく貰った金色のカードをかざした。
試験に落ちたら恥ずかしいと思って、Aランクの試験を受ける事は誰にも言っていなかった。
「ああ、ありがとう。これでAランク以上しか行けない場所も行けるぞ」
「うん、グランと行けるところが増えたのは嬉しいな。でも、ずっとAランクの試験を断ってたのに突然だね? ピエモンのギルド長に無理に言われたとかじゃないよね?」
「以前から受けるように何度か言われてたけど、受けようって決めたのは自分だな」
最初はしつこく誘われていた気がしていたけれど、最終的に納得してAランクになる事を決断したのは俺だし、後悔はしていない。
似たようなスタイルだし、もしかしたら俺の劣等感を見抜いていたのかもしれないな。
言われなかったら、このままズルズルとBランクで過ごしていただろう。
ずっとAランクに上がる事に尻込みをしていたから、背中を押してくれた事に感謝をしないといけないな。
お礼にランドタートルの血液のポーションをオマケしておこう。
「そっか、じゃあ改めてAランクおめでとう。ピエモンが拠点なら指名依頼もあまりなさそうだねぇ。強い魔物が突然出たら強制参加になりそうだけど」
「あー、その件なんだけど、条件付きAランクなんだ。その条件ってのが、他のAランクの冒険者と一緒じゃないと、Aランクの依頼を受けられないんだ。だから単独でのAランクの指名依頼もない」
Aランクの依頼の指名は俺一人だと受けられないし、アベルの言う通り田舎の小さな町で活動していれば目立つ事もないし、貴族や役所からいきなり指名されるなんて事もあまりなさそうだ。
結局、ランクが上がって行ける場所が増えたくらいしか変化がない。
「へぇ、そっか。それなら安心だね。その条件を決めたのって、ピエモンのギルド長だよね。ふーん、そういう落とし所にしたんだ」
「だからAランクの依頼を受けるにしても、アベルやドリー達と一緒の時になりそう」
「そうだねぇ。うんうん、Aランクの依頼はいろんな意味で面倒くさいし、貴族が依頼主の事も多いし、俺と一緒の方がグランも安心だよね」
そっか、高ランクの依頼は貴族や金持ちからの依頼も多いよな。
条件付きで良かった。面倒くさい事はアベルかドリーが一緒なら丸投げできる。
「じゃあグランがAランクになったお祝いに、今日はパーティーだね」
「え? そんな、大袈裟な!?」
「パーティーだから、いっぱい美味しい物食べようよ。肉ね、肉料理いっぱい! あと豪華なデザート!!」
ん? その美味しい物って俺が料理するって話だよな!?
「あー、はいはい。今日は肉々しい料理だな!!」
結局作るのは自分なのでいつもと変わらない気がするが、お祝いと言われるとなんか特別な日の気分がするな。
ま、お祝いだし、今日の夕飯はアベルのリクエスト通り、肉々しいメニューに豪華なデザートだなっ!!
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