第250話◆罠と爆弾の昇級試験
「では、改めて行くぞ!」
バルダーナが地面を蹴って俺との距離を詰める。
デカイ体をしているくせに速いな!?
バルダーナはダガー、俺はロングソード。身長はバルダーナの方が高いが、俺の方が得物が長い為、間合いは俺の方が広い。
もちろんバルダーナもその事はわかっているだろう。
俺も相手に張り付く戦い方の方が得意だが、短剣使いの間合いには入りたくない。
下から振り上げるように繰り出されたダガーの攻撃をロングソードで受け止め、次の攻撃を警戒する。
そしてこのダガーの一撃が思った以上に重い。ゴリマッチョだから、やはりパワーもあるようだ。
受け止めたダガーを押し返そうとするが、思った以上にバルダーナの力がある為、それを諦め左手のグローブで電撃攻撃をしようと左手をバルダーナの方へ伸ばした。
先日、ナイフを受け止めた時にグローブは壊れてしまったが、幸い電撃効果を付与していたニーズヘッグの鱗部分は無事だったので、新しくワイバーンの皮でグローブを作り直して、電撃効果を付与している部分も新しいグローブに付け直した。
その新しいグローブでバルダーナに電撃をお見舞いしてやろうと思ったら、ひらりと後ろに下がられた。
やはり、仕込み系の攻撃は警戒されているか。
しかし下がってくれたのは、ありがたい。
下がったバルダーナを追うように左手のアームガードから、フック付きのワイヤーを発射する。
ウーモに作ってもらったアレだ。
そのワイヤーをバルダーナが掴んでグイッと自分の方へと引っ張る。
これで体勢が崩れて、追撃ができないどころか反撃をくらうところなのだが、俺としてはワイヤーを掴んでくれた方が嬉しい。
バルダーナが掴んだワイヤーに、グローブから電撃を流した。
「ぬおっ!?」
電撃攻撃をくらったバルダーナが、ワイヤーを離して更に後ろに下がる。
くそ、強めに流したはずだが、ワイヤーを咄嗟に離すくらいは耐性があったか。
だが、バルダーナは後ろに下がった。
バルダーナが付けている模擬戦用の魔道具の色が緑から黄色に変わりつつある。いいぞ、こっちのペースだ。
ワイヤーを戻し、バルダーナとの距離を詰める。
カンッ!
ん? 何か踏んだ?
何か靴底に堅い物が当たる感覚がして、反射的に横に飛んだ直後、その何かを踏んだ場所で小爆発が起こった。
「罠か!? いつの間に!?」
「おーおー、アレを避けるか。しかもワイヤーに電撃攻撃か、なかなか面白いじゃないか。だが罠は一つじゃないぞ」
「は?」
避けた先でまた何か踏んだ。
すぐに避けるが今度は小爆発の爆風に巻き込まれた。そして、逃げた先でまた靴の裏に堅い感覚が。
舌打ちしながら、それを躱すとまた次が。
ふざけんな! 何個あんだよ!! って、いつの間にこんなに仕掛けたんだ。
次……まだあんのかよおおおおおおお!!
やばい、バルダーナのペースになってしまったぞ。
ここはホホエミノダケ先生で動きを……ん?
罠を避けながら収納から取り出したホホエミノダケを投げようとしたら、こちらに向かって風魔法の風が吹いた
「おい、なんか妙なキノコを持ってるな!」
「キノコ狩りはスローライフの醍醐味だ!!」
風向きをこちらにされるとホホエミノダケは使えないな。
その上、次々と爆発する罠の爆風に連続で巻き込まれたせいで、俺の模擬戦用の魔道具も緑から黄色になっている。
地雷のようにそこら中に仕掛けてある罠を躱す俺に、バルダーナが次々にスロウナイフを投げて来る。
そのスロウナイフをロングソードではたき落とし、身体強化を最大状態で大きく上に飛んだ。
地面が地雷だらけという事は、バルダーナもうかつに動けない。上に飛べばバルダーナの注意は上に向くはずだ。
そして俺の思惑通りバルダーナが、上に飛んだ俺の方を向いてスロウナイフを構えた。
「くらえっ!」
「んな!?」
収納の中に詰め込んでいた、砂や石を空中からばら撒くようにぶちまけた。
試験の為に今朝早起きして、砂とか石ころとか水とか詰め込んで来たもんねー!!
ダンジョンでかなり捨てちゃったけど、やっぱ常備していないと落ち着かないんだよな。
備えあれば憂いなし。
俺が上空から砂や石ころをばら撒いた理由。
上を向いたバルダーナの目潰しと、もう一つ。地面に仕掛けられた罠の解除。
ついでに上空からの石投下は当たると痛い。火力が低い俺にとっては貴重なダメージ源である。
空中から砂と石を地面にばら撒いた衝撃で、地面で次々と罠が爆発する。
どんだけ仕掛けてたんだよ!! ホント、いつの間に!? 最初に消えた時か!?
地面で次々と罠が爆発した為、その煙と砂埃が舞い上がり視界が非常に悪くなる。
まずい。
舞い上がった砂埃と煙で、バルダーナの姿が見えづらくなった。
この状態から攻撃をされると、予備動作が見えなくて危険だ。
「おまけだ!」
大きめのポーション用の瓶に、釘や金属片を詰め込み、瓶の口に蓋の代わりにニトロラゴラを挿した物。
名付けてニトロラゴラ瓶!!
空中で砂と石をばら撒いた後、落下しながらニトロラゴラ瓶を収納から取り出し、砂と煙の中のバルダーナめがけて投げた。
放り投げたニトロラゴラ瓶が爆発するドカンという音とほぼ同時に地面に着地した。
警戒を緩めず、バルダーナがいた方を見る。爆風で舞う砂埃と爆発した煙で悪い視界の向こうから、爆風とは違う感じの風がこちらに向かって吹いた事に気付き、すぐに構えたその直後。
俺が着地した場所を狙って、砂煙の中からまっすぐ何かを伝うように、巨大な炎が飛び出して来た。
「ぬおっ!?」
咄嗟に収納の中から、妖精君のダンジョンで手に入れたガーゴイルの台座を出して炎を防いだが、台座に当たった炎が爆発して熱風と火の粉が飛び散り、チリチリと防具の上から熱と衝撃が伝わってくる。
火の粉は地面に落ちた後もすぐには消えず、燻っている。
台座君のおかげで炎の直撃は免れたが、俺の魔道具の色は黄色から橙になっていた。
魔導士でもないのにこの威力か。台座がなかったら、アラームが鳴っていたな。
「砂やら石やら、訳のわからない爆弾に、なんだそのクソ堅そうな岩の塊は!? 噂通り、何でも出てくる収納……いや、おもしろマジックバッグだな!!」
ぬお!? 収納スキルがバレているのか!?
冒険者になった頃に何も考えずに使っていた為、王都のギルド職員には知っている人もいるから、そこから漏れたのかなぁ。
まぁいっか、建前はちょっといろいろな物が入っているマジックバッグだ。
砂煙の中から姿を現したバルダーナの模擬戦用魔道具の色も、俺と同じように橙になっていた。
俺の攻撃とバルダーナ自身の罠の爆風のダメージが、思ったよりあったようだ。
「マジックバッグの中に、ニトロラゴラや土砂やガーゴイルの台座はマジックバッグ持ちの嗜みだよ。そっちこそ、魔導士でもないのに炎があの威力ってズルくないか!?」
「そんな、嗜み聞いた事ないな? 炎は種も仕掛けもあるただの炎だ」
種も仕掛けもある炎かよ!!
つまりただの魔法ではなく、何かを使って威力を上げた炎って事か。砂埃と煙でよく見えなかったのが悔やまれるな。
しかし、これで地面の罠もほぼ消えたはずだ。
これで行動の制限は外れる。
自分の罠の爆風に巻き込まれたのだから、バルダーナも次は広範囲に罠を置く事はないだろう。
さぁ、仕切り直しだ。
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