第246話◆Aランクにならないか?

 少し遅い昼ご飯をご馳走になった後は、パッセロ商店を出て冒険者ギルドへ。

 パッセロ商店に来た日の帰りは、冒険者ギルドに寄る事が多い。

 期限の緩い依頼を纏めて受けて、それを次の週に纏めて報告している。



「こんにちはー、報告に来ましたー」

 ギルドの受付カウンターで、職員のお姉さんに声をかける。

 シランドルや王都に行っていた時以外は、ほぼ毎週依頼を受けに来ているので、受付のお姉さんにはすっかり顔を覚えられた。

「こんにちは、今日はグランさんが来る日だと思ってましたよ。ギルド長がグランさんが来たら、奥に通すようにとの事なので、ギルド長のとこに行ってください。その間に、報酬の精算をしておきますね」

 ん? ギルド長? バルダーナか。しばらく出張だったみたいでしばらく見かけなかった、戻って来たのか。

「わかった、ギルド長室でいいのかな? あ、それとコレ差し入れだからみんなで食べちゃって」

「あら、いつもありがとうございます」

 ポーの葉っぱに包んだトレントの根の素揚げを、受付のお姉さんに渡して、ギルド長室へ。

 差し入れ作戦で、ギルドの職員さん達とは仲良くやれている。賄賂重要。

 それにしても、なんか用事かな? 特に怒られるような事はやらかしていないし、強壮用のポーションかな?


 受付ロビーの奥から上の階に上がる階段があり、そこを登ってギルド長室へ。

 何度かギルド長室でバルダーナと個人的な取り引きをした事があるので、場所は知っている。


 ギルド長室の前まで行ってドアをノックすると中から「入れ」という声が聞こえてきた。

「こんにちはー、グランでッス」

「おう、グラン久しぶりだな!! まぁ、その辺に座れ」

 いつ来てもごちゃごちゃと物が置いてあるギルド長室だな。

 机の上には書類が積み上がっているけれど、小さな町の冒険者ギルドでもこんなに仕事があるのか。管理職は大変だな。

 書類以外にも、部屋に置かれた箱の中には、使い込まれた武器や、よくわからない魔道具が、乱雑に詰め込まれている。

 ギルド長室のソファーの上にもよくわからない魔道具が投げられていたので、それをどかしながらソファーに腰を下ろした。


「ああ、お久しぶり。今日はどうしたんだ? いつものポーション?」

「いや、アレはまだあるな。今回はアレじゃなくて、見た目が飴みたいな自白剤を持ってるんだって?」

 ん? ああ、アレか? ほとんど使った記憶ないけれど、どうしてバルダーナが知っているのだ?

「これの事かな? これはほとんど使った事ないはずだけど、どこで知ったんだ?」

 訝しく思いながら、クレージーアンヘルの自白剤を出した。

「お、これが噂のやつか。ああ、つい最近まで出張で王都のギルドにいてな、少し前にあった事件の犯人の尋問に使われた自白剤の効果がすげぇって噂で、使ってた奴に出所を聞いたらグランだったから驚いたよ。それ、冒険者ギルドに売らないか?」

 あー、あの時のか。という事は、あの時の奴らに使ったのか。効果が一番高くて副作用もキツイやつを渡したからな!!

 冒険者ギルドがこれを売って欲しいと言う事は、ちゃんと役に立ったのかな!?

 以前ロベルト君にも使った事あるが、ジャッジに渡したのはあれより更にキツイ効果のやつだ。

「別に構わないけど、どのくらい? あんまりたくさんは作れないぞ」

 いくら相手方が金を積んで数が欲しいと言っても、俺一人で作るには限界がある。

「ああ、自白剤なんてそんな頻繁には使わない物だし、なかなかいい効果だったから試験的に個人で欲しいなと。なぁに、必要な時の為に備えておくだけだ。王都のギルドも欲しがってた奴がいるから、とりあえず数と金額はこのくらいでどうかな」

「ん? これくらいならいけるな。了解、来週来る時に持ってくればいいかな?」

 バルダーナの出した紙に目を通して返事をする。数も無理なく、買い取りの価格も悪くないので、これなら受けても構わない。

 というか、個人的に欲しい? 他にも欲しがっている奴がいる? 自白剤を個人的に所持するなんて怖い話だな!!

 あ、俺も持ち歩いていたわ。

「一週間でいけるのか。では、それで頼もう。ところでグラン、そろそろAランクに昇級する気にはなったか?」


 うわ、また来た。

 ここに来ると毎回言われるんだよなぁ。

 確かにAだと報酬も跳ね上がるし、Aランク以上の制限のある場所にも行く事ができるようになる。

 その反面、Aランクというランクだけで指名依頼をされやすくなるし、その中には長期間拘束される依頼も多い。

 一応断る事ができるが、国や領主や公の機関からの依頼は、正当な理由がないと断る事が難しく、実質強制依頼である。

 マイホームがあるから、長期間拘束される依頼は嫌なんだよなぁ。

「う、うーん……、Bでいいかな……」

「友達がAランクなんだろ? ランク差があったら一緒に行けない場所もあるだろ?」


 確かにAランクのアベルが行けて、Bランクの俺が行けない場所はある。

 新しく発見されたダンジョンや遺跡の調査は、どんな危険があるかわからない為、Aランク以上の指定が入る。

 優秀な魔導士でなおかつ語学に明るいアベルは、そういう場所の調査ではよく指名される。

 そういう時、俺は留守番だ。

 アベルがAランクになってからは、知り合った頃より一緒に行動する事が減った。

 出会った頃は俺もアベルもまだ子供で、冒険者として活動しながら、仲良く一緒に遊んでいるような感覚だった。

 だけど、俺もアベルも大人になって、お互い自分のやりたい事や、やらないといけない事が増え、別々に行動する時間が増えた。


 アベルはドリーのパーティーの正式なメンバーになってからは、更に別行動が増えた。

 時々メンバーに空きがある時は、ドリーのパーティーに入る事もあったが、基本的にドリーのパーティーは、Aランクのメンバーで固められている。

 Aランクのパーティーとして各地を回るドリー達には、アベルの転移魔法は欠かせないものだった為、アベルはドリーと一緒に活動している事が多かった。

 時々ドリーのパーティーに誘われてついて行く時もあったが、あのパーティーのメンバーと俺との火力の差で、俺だけ場違いな気がしていた。

 あの手この手で自分の火力の低さを誤魔化そうとしたが、彼らほどの殲滅力にはなれなかった。

 それは、ずっと仲の良かった友人が、どんどん遠くへ行ってしまうような感覚だった。

 だから、こちらに引っ越した後アベルが押しかけて来て、気分と欲の赴くまま共に行動するのは、冒険者になって間もない頃、アベルと行き当たりばったりで、あちこち行っていた頃を思い出して楽しかったんだ。


 王都にいる頃にも何度か、Aランクの昇級試験を勧められた。

 だが俺は、それをのらりくらりと躱していた。

 ドリーには何度も、正式にパーティーに入らないかと誘われていた。

 それも、ずっと断っていた。


 すごく、怖かったんだ。

 Aランクになったら、Aランクのくせに低火力だと言われるのが。

 華々しい活躍をするドリーのパーティーに入って、俺だけ火力が低い後ろめたさを感じるのが。


 先日のダンジョンでワイバーンと戦っていた時に感じた、俺だけ何もしていない感覚。

 周りは気にしていなくても、自分が気になるんだよな。

 やる事がなくてボーッとしているのは、後ろめたいし、役に立っていないと思われるのは怖い。


「俺もアベルといつも一緒にいるわけじゃないからなぁ。アベルが行けて、俺が行けない場所は素直に諦めるかなぁ」


「いつも一緒にいるわけでもなくとも、もしお前がランクのせいで同行を断念した場所で、先日みたいな事があったら?」


 少し俯きかけていたが、バルダーナの言葉で顔を上げる。

 その言い方はずるい。

 王都のギルドに行っていて、自白剤の情報を持っていたという事は、俺達のパーティーの事件も知っていたのだろう。


「アベル達は俺より強いし、俺がいたからどうこうなるものでもないし、むしろ俺が足を引っ張りそうだ。昇級試験の件はもう少し考えさせてくれ」

 あの時はたまたまだ。たまたま俺の立ち位置が良かったから気づけただけだ。

 次もまた同じように俺が気づけるとは限らないし、あんな事があった後だ、アベル達も更に用心深くなるだろうし装備にも念を入れるはずだ。

 そうなると、やっぱり俺の出る幕はなさそうだよな。


 軽く肩をすくめて首を振り、ギルド長室を後にした。




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