第241話◆閑話:とある冒険者ギルドの捜査官

「やあ、待たせたね。君がベシャイデンの冒険者ギルドから来たって捜査官?」

 眩しいくらいピッカピカに磨き上げられた銀色の鎧に、これまた眩しいくらいにピッカピカの金髪の優男が、俺の目の前で貼り付けたような胡散臭い笑みを浮かべて立っている。

 すごく既視感がある。

 昨日まで潜っていたダンジョンで会った男――そして今回の事件の被害者側の当事者。色合いは違うが似たような胡散臭い笑みのピッカピカの男。

 一目で血縁者だとわかる。

 知り合いって、そういう事かよおおおおおおお!!!


 ここはユーラティア王国の王城内にある騎士団の応接室。

 冒険者間のいざこざの報告場所には不釣り合いな程の、厳重な防音魔法がかけられており、キンピカ優男の部下だと思われる騎士が数名部屋の壁に沿って控えており、その中には書記らしき騎士も見える。

 えっと、最初は冒険者トラブルの報告の予定だったよね。犯人を捕まえたのがユーラティアの王都管轄のダンジョンだったせいで、ユーラティア側の担当が王都の騎士団になるんだよね。

 やー、当事者が騎士団に伝手があるって言うから、面倒くさい手続きや連絡待ちの時間をすっ飛ばせるならと、軽い気持ちで口添えを頼んだよね。

 

 そして、すぐに連絡をくれたのが、目の前にいる今回の事件のユーラティア側の担当者。というか事件の当事者の兄。

 身内をそのまま担当者に突っ込んでくるのやめてくれないかな!? すごくやり難いだろ!!


 相手は大国ユーラティアの貴族の中でも上から数えた方が圧倒的に早い地位の人物。

 何なんだよ! なんでそんな人物が騎士団で隊長クラスに紛れ込んでいて、冒険者間の事件に出てくるの!?

 あ、弟さんからのお口添えですよね。はい、すみませんでした。

 普通に考えて、小国のギルド職員が会えるような相手じゃないよ!! やだもう、帰りたい!!


「ベシャイデン、ケルナー支部所属のジャッジメント・ウラーニオです。この度は……」

「あー、面倒くさい挨拶はいらないいらない。とりあえず座って話そ」

 うわ、この感じ、ギンギラギンの弟と同じ雰囲気。マジそっくり。

 促されて、ソファーに腰を下ろしながら、思わずマジマジとキンキラキンな騎士をガン見してしまった。

「ん? 僕の顔がどうかした? この国であんま貴族の顔ジロジロ見ると、怒り出す奴もいるから気を付けた方がいいよ」

「あ、はい、失礼いたしました。いえ、弟君とあまりによく似てらっしゃるもので」

 やべ、つい素直に言ってしまった。

「え? マジ? 俺そんなにエクシィと似てる!?」

 え? なんか急にテンションが上がったけど、何だ!?

「ええ、お顔とか雰囲気とかそっくりで思わず、失礼いたしました」

 キンピカの方が暑苦しい感じはするけれど、顔といい雰囲気といい間違いなく兄弟だよなぁ。

「いや、いいよいいよ。へへー、エクシィと似てるかー。うんうん。あ、それでうちの可愛い弟に手を出したバカの話を聞かせてもらえるかな?」

 可愛い弟って聞こえた気がするが、空耳かな?

 おっと、報告報告。


 先日、当事者のパーティーに話を聞いた後、彼らにボロカスにやられた強盗犯パーティーに回復魔法を少しだけかけ、自白剤を使用し事情聴取をした結果を纏めた書類を取り出した。

 驚く事に奴らは、かのパーティーがダンジョン入りした初日から、彼らを襲撃して失敗を繰り返していたらしい。

 なお、当事者のパーティーからはそんな話は一切出なかった。



「えー、奴らは西諸国で所属を変えながら転々としていた冒険者で、今はベシャイデンの冒険者ギルドの所属になっています。この度はうちの所属の冒険者が……」

「あー、そういうのはいいよ。とりあえず報告聞かせて」

 うげ、この謝罪をさせてもらえない状況はやばい。すごく軽い感じだけれど、絶対やばい。

 くっそぉ、たまたま奴ら最後の登録を移したのがベシャイデンのギルドだったせいで、非常にベシャイデンの立場がやばい事になっている。

 いや、まだ表向きは冒険者同士のトラブルだ。

 ここで上手く話を纏められなければ非常にまずい。あれ? これギルド職員には重すぎる役目じゃね!?

 なんで俺、ここにいるんだろうなぁ……。


「はい、では、ダンジョン内での足取りから報告します。アベル殿……ああー……あーと」

「ああ、アベルでいいよ。エクシィは冒険者の時はそう呼ばれたがってるからね」

 兄が騎士団に紛れ込んでいるなら、弟も弟でなんで冒険者なんかやってんだよ!!

 ダンジョンから戻って彼らと話した後、冒険者ギルドでこちらの国の情報をもらって、びっくりしすぎて胃がひっくり返るかと思ったわ!!

 そういう情報は、先に教えておいて欲しかったなああああああ!!

 雰囲気的に貴族出身者だとは思っていたが、冒険者になる貴族なんて下級貴族だって思うじゃん!?!?!?


「あーでは、アベル殿のパーティーがダンジョン入りした初日、十二階層、草原エリアにて同パーティーが蜂の巣箱の採取をしている際に、魔物使いがスズメバチ系の魔物をけしかけるも撃退。その後二手に分かれた際、襲撃を試みようとするが直前に付近で謎の大規模爆発が発生し、それに巻き込まれ負傷一時撤退」

「謎の爆発? あー、あのエリアはニトロラゴラがいっぱい生えてるからね。勝手に踏んで自爆したのかな? マヌケか?」

 奴らはBランクの冒険者のはずだが、そんな奴らがニトロラゴラで自爆するかぁ? しかも大規模ってどんだけ踏んだんだ?


「その後、十三階層で再び魔物をけしかけた模様ですが、こちらも失敗。十四階層では宝箱に罠を仕掛けたようですが、こちらも解除されたようですね」

「まぁ、あそこのパーティーAランクメンバーだらけだからねぇ」

 資料によると、ギンギラギンと確かタンクの鎧男とヒーラーのお姉ちゃんがAだったな。十六階層のボスで共闘したが、あの堅さとあの火力に、あの強化魔法はやばかったな。

 ただでさえ固いタンクがアダマンタイトの塊みたいになっているし、元から超火力のアタッカーが更に火力爆上げで、草でも刈るみたいにトレントの枝を刈っているし、凄腕ヒーラーっていうのは大きな仕事をしていてもわかり難いから恐ろしい。


「えー、それで十六階層ではこれまでの経過を踏まえ少々慎重になって、魔物を使って偵察していたようですが、それも撃退されてます。こそこそと後ろを付けていたら、大型のエンシェントトレントの生息地で道が大量の瓦礫で封鎖されており、存在を感づかれたと思い遠距離から魔物を使っての襲撃に切り替え、それもまた失敗」

 大型のエンシェントトレント地帯で足止めをされた為、エンシェントトレントに囲まれ、それを抜け出す時にかなり消耗し、抜け出した先で魔物を使って襲撃をしようとしたら、突然大洪水に見舞われたとかなんとか。

 あの辺は地図上で何もない岩地だったはずなのになぁ。雨でも降ったのかな? 森林系ダンジョンだしスコールくらいあるだろう。

「ふーん、まぁそんな何度も襲撃試みて失敗したうえに、尾行していたら普通は気付くよね。うちの弟はすごく優秀だし」

 お兄さん、そのすごく優秀な弟さんは最終日まで気付いてなかったって、言っていましたよ。


「それでその日の夜、十六階層のセーフティーエリアにて、入場記録を残さない為、入り口ではなく崖側から魔物を使って侵入しようとして失敗してますね。上から材木や瓦礫の他に椅子やテーブルが落ちてきたとかと供述しておりますが、こちらは盗品の証拠隠滅の可能性も踏まえ、ロンブスブルクの冒険者ギルドに報告済みです」

「ふーん。それはもう、流石にダンジョンに吸収されちゃってそうだよねぇ」

 あいつら以外にも賊まがいの冒険者がいた可能性もあるんだよなぁ。まぁ、それはうちの国とは関係ないし、こちらの国のギルドに丸投げだ。

 俺は、何も知らない。


「その翌日はー、えぇと洞窟エリアでは罠と魔物を使ったようですが、やはり失敗してますね。十八階層の墓地では、暗闇から狙撃系を試みたようですが、準備中にゴーストにいたずらされまくり、その対応に追われているうちに、狙撃ポイントに予定していた小屋を用意した武器もろとも、アベル殿によって吹き飛ばされた模様」

「さっすが、エクシィやっぱり優秀だなぁ!」

 本人は、最終日まで気付いていなかったって、言っていたけどな!!

 じゃあ、なんで小屋を吹き飛ばしたんだ? やっぱ気付いていたのか? この兄弟、ぱっと見、何を考えているかよくわからないしな。


「で、問題の最終日ですね。アベル殿のパーティーは、その日は荒野エリアの人の少ない区画を散策しており、そこを狙ったようですが、どうやらタンブルウィード処理中の火災とその消火による洪水で近寄れなかった為、離れた場所からワイバーンを連れて来てけしかけたようですね。その際、ワイバーンが従属魔法に逆らい魔物使いに攻撃、その者は瀕死に。その者から犯罪が露見する事を恐れ、証拠隠滅の為に強引な襲撃をしたところ返り討ちになったようですね」

「へぇ、ワイバーンの群れごと使役するなんて、なかなか腕のいい魔物使いだったみたいだね」

 そうなんだよなぁ。資料によると、魔物使いはランクはBだが、実力はAランク相当。性格面で問題があり、Aランクへの昇級試験を落とされ続けていた。

 今回の報告書を見る限りでも、現地で従属させた魔物を使い捨てのようにして襲撃に使っていたようで、あまり気分のいい魔物の運用方法ではない。


「それと、奴らにアベル殿を狙うように示唆した者がいますね。その為、アベル殿がダンジョン入りするのを、待っていたようですね。ダンジョン入りする前日に、冒険者ギルドのロビーでアベル殿が、カリュオン殿とダンジョン行きの計画を話しているのを、盗み聞いたみたいです」

 失敗を繰り返しているにもかかわらず、明らかに格上のパーティーを執拗に狙っていた理由がこれである。

 何者かに、あの銀色の魔法使いを狙うように依頼されていたのだ。

「へぇ。で、その相手は特定できそう?」

「いえ、おそらく幻惑系の魔道具を使っていたと思われ、顔をよく覚えてないようです。自白剤を使った供述なので間違いはないですね。取り引きもあったようなので、取り引き場所を部下に張らせてますが、今のところ何も」

 グランにもらったあの自白剤、試しに使ってみたがやばかったな。麻痺の苦痛を伴う自白剤が綺麗な色をした飴のような見た目だなんて、鑑定スキルがないとうっかり食っちまうぞ!?


「なるほど、まぁそんなところだろうね。彼らって西の方だと有名だったの?」

「そうですね。素行があまり良くなく、ダンジョン内でのトラブルも多く、西の諸国を転々としており、冒険者ギルドも目を付けておりましたので、あちらで活動し難くなってこちらに来たのかと」

 現在はベシャイデンの冒険者ギルドの所属だが元は別の国の冒険者で、領土の狭い小国が複数あるあの地域で国境を跨いで、ダンジョン内での強盗や殺人行為を繰り返していた疑惑があった。

 時には報酬を受け取り、暗殺者まがいの事もしていたという報告も上がっていた。証拠も揃い、もうすぐ捕まえる事ができそうになった矢先、ユーラティアへと移動された。

 それが、捜査の手から逃れる為か、それとも何か依頼でもあったのか、その両方か。

 国境を跨いだせいで、手続きやユーラティアの冒険者ギルドとの情報共有で時間を取られ、奴らの足取りを掴んだ時にはあのパーティーを狙ってダンジョン入りする直前だった。


「ふーん、だいたい話はわかったよ。奴らの身柄はこっちで預かっていい? あー、いや、引き出せる事はほとんど引き出してそうだよね。どうせ、何も知らずにやらかしたっぽいし、やっぱいいや。そっちの国での件もあるだろうから、こっちの聴取が終わったら、一度そっちの預かりでいいよ。うちの弟を狙ったのなら、知ってても知らなくても絶対許さないけどね。あ、いやいや、ダンジョン内で事故に見せかけて強盗殺人の常習犯だったね? ホント許し難い奴らだなー、すごく厳しく罰しないとなー。うちですぐに捌き……裁きたいところだけど、それはそっちも困るだろうから、そっちの件の聴取は終わらせちゃって。終わったら、こっちにくれると嬉しいな。うんうん、国を跨いだ犯罪だからね、難しい事はこっちでやっておくよ。報告ありがとう、ご苦労さん」


 ニコニコとした笑みを貼り付けながら、ものすごく軽い感じに言っているが、目が笑っていないし、殺気がチラチラと垣間見える。

 お願い風に聞こえるが、どう考えても命令である。

 大国の上級階級の圧力笑顔こええ……。相手の意向とはいえ、騎士団の応接室で話すような内容ではない。一歩間違えばベシャイデンなんて小国、吹き飛ばされるところだった。


 難しい事はやってくれるって言っているし、もう俺には無理。

 多分、失敗はしていないはずだから、残りは上に丸投げしよ。

 うん、俺はただのギルド職員。これでクビになったら冒険者になるかなー。

 って物理的な首は大丈夫だよなあ!?

 ホントなんて奴に手を出してくれたんだ。




 ゲッソリとした気分で報告を終え、騎士団の応接室から出る。

 これから、奴らの過去の調査と裏付けもある。

 奴らは元々ベシャイデンとは別の国の冒険者で、周辺の国を転々と所属を変えながら移動をしていた。

 最終的に西の方の国々で目を付けられ、ユーラティアに来たようだが、その当時の状況も調べなければならないだろう。

 ベシャイデンより南には、ユーラティアとの関係が微妙な国がある。


 喉に小骨が引っかかったような気持ち悪さが残るが、この国の事は俺にはわからないし、俺が首を突っ込む事ではない。

 面倒事がベシャイデンに飛び火しない事を祈るばかりだ。



 あの時は何も知らないでグランをベシャイデンに誘ったが、あのギンギラギンと一緒だとベシャイデンに来るのは難しそうだな。

 いや、あのギンギラギンと一緒に来て何かあったら、あのキンキラキンがまた出てきそうで怖いな!?

 想像しただけで胃が痛くなってきた。


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