第233話◆なぞなぞモンスターの倒し方
ルビートカゲ君を回収した後は、あまり寄り道をしないでボス部屋を目指した。
二十階層まで行きたいので、少し急ぎ足だ。
メイン通路から近い場所の小部屋だけは覗いておく。この階層もミミックが多い為、ミミックのいそうな場所をチラッと覗いているのだ。
ミミックはアベルが楽しそうに全て倒している。
俺とカリュオンとリヴィダスそしてジュストは、バラバラと現れるゴーレム担当だ。
身軽な獣型ゴーレムだが、鉱石や骨でできている為、生身の魔物に比べて表面が固く斬ったり突いたりより殴る方が強い。
つまり、鈍器二人組の無双状態である。しかもリヴィダスの武器は鎖付きのモーニングスターの為、リーチに加え遠心力による威力の上昇でゴーレムを粉砕していっている。
骨系なんて文字通り木っ端みじんである。
そしてジュストもゴーレムは生き物ではない為、呪いの対象にはならないようで、骨製のゴーレムを素手で粉砕している。
随分と逞しくなったね、冒険者の先輩として嬉しいよ。
あ、ジュストに殴られた小ぶりなゴーレムが壁まで吹っ飛んでいった。ヒーラーこわ。怒らせんとこ。
十七階層のボスは少し特殊である。
獣型ゴーレムだらけの階層の主は、顔は人間、体は獅子の形をした巨大な石像、スフィンクスだ。
スフィンクスといえば、なぞなぞである。
そう、十七階層のボスはなぞなぞを出してくるのだ。
このなぞなぞに正解すれば、スフィンクスは弱体化し簡単に倒せるが、不正解だと強化されてくっそ強くなる。
それに、なぞなぞに正解しようと考え込んでしまうと、集中力に欠く事にもなる。
その上、このなぞなぞは意味不明なものや、超専門的な知識、遙か古代の知識など、普通の冒険者が知らないような偏屈なネタばかりだ。
その為、正解できる者の方が少ないし、しかも正解したからといって、何かいいものをくれるわけでもない。
それでどうするかというと、なぞなぞなど無視でぶん殴るのが一番楽だ。
不正解だと判断される前に倒してしまえば問題ない。
どうせ正解できない確率の方が高いのだから、殴り倒せば解決なのだ。
強引すぎる倒し方だが、ギルドのガイドブックでもこの倒し方が推奨されている。
つまり、不正解と判断されるまでに倒しきるという、火力テストみたいなボスだ。
仕掛け? そんなものは知らん。殴って倒せるなら問題ない。冒険者ギルドもそれでいいって言っている。
スフィンクスは徘徊型のボスではなく、ボス部屋から出て来ないタイプのボスなので、倒しきれなければ逃げてしまえばいい。
時間が経てば強化されたスフィンクスも元に戻る。元に戻ったら再チャレンジするか、無理なら諦めればいいだけだ。
なのだが、実はこのスフィンクス戦には、ものすごく大きな抜け穴がある。
スフィンクスのなぞなぞギミック、これはスフィンクスの攻撃に見えるのだが、実はそうではない。
スフィンクスの部屋自体が仕掛けのある部屋なのだ。スフィンクスが部屋から出て来ないのはその為だと思われる。
それはどういう事かっていうと、こういう事だ。
「朝は黒くて昼は白、夜は灰色になって、首が十個に、足が四つ、丸くて四角くて三角のものなーんだ!!」
スフィンクスのいる大部屋に入って、豪華な台座に鎮座していたスフィンクスが動き出すと同時に、俺が叫んだ。
俺の声を聞いたスフィンクスが、ピクリとして動きを止めて首を捻った。
おお、考えてる考えてる。
そう、スフィンクスより先に、こちらがなぞなぞを出してしまえば、スフィンクスの方が解く側になり、答えられなければ俺達の方が強化される。
そして、なぞなぞを出されたスフィンクスは、律儀に考え始めて動きが遅くなる。
その間に全員でぶん殴る。
うっかり正解されるとこっちがやばくなるけれど、考えている間にボコってしまえばいい。
スフィンクスのいる十七階層のボス部屋は、広いドーム状の空間で、緑っぽい壁や床には細密な幾何学的な模様がびっちりと施されており、スフィンクスが動き出すと、その模様が淡い光を発する。
それは、岩壁の洞窟系ダンジョンには不釣り合いな光景だった。
いや、前世の記憶があるから感じる違和感なのかもしれない。
「あー……」
ジュストも気付いたのか小さく声を漏らした。
前世の記憶にある、近未来の創作物に出てきそうな光景。高度な文明の機器のパーツを連想する模様が、壁と床一面に浮かび上がっている。
この部屋自体が、なぞなぞの仕掛けの本体なのだ。
そして、この部屋が記憶媒体であり、スフィンクスを動かしている本体だと解明されている。
ここに、記憶されている情報を元にスフィンクスがなぞなぞを出し、逆にこちらがなぞなぞを出すと、その記録に基づいて回答する。
スフィンクスが考え込んでいるのは、おそらく部屋が持っている記憶の中から答えを探しているのだろう。
記憶はたくさんあるようだが、それをスムーズに引っ張り出したり、その作業をしながら他の行動をしたりする程のスペックではないようだ。
考え込んでいるスフィンクスをカリュオンとアベルがボコボコにしている。
俺も大弓を取り出して、スフィンクスの頭にアダマンタイトの矢を撃ち込んだ。
強度は高くないので、矢はあっさりと頭部を貫通した。
カリュオンに足を折られ、アベルに胴体を割られたスフィンクスが床に崩れ落ちる。
「答えは、そんなものはないだ」
正解のないなぞなぞを出しておけば、スフィンクスは時間切れまで考え続けるので殴り放題だ。
「やっぱこのやり方、楽でいいよなー」
スフィンクスを倒し終わって、バケツのポジションを直しながらカリュオン。
「前に正解されて酷い目にあったけどね」
うるせぇ、あの時はすまんかった。適当に言ったなぞなぞに、正解があるとは思わなかったんだよ!
一回適当な事を言ったら、太古にそういう生き物がいたらしく、思いっきりペナルティをくらってしまい、しばらく魔力の使用を制限され、部屋から逃げるのにも苦労した事がある。アベルなんかただの顔がいいだけの、モヤシ男になってしまったからな。
ちなみに、この方法で時間切れまでに倒しきれなかった場合、自分達の出したなぞなぞに自分で答えなければならない。それの正解が用意できてない場合、ペナルティをくらうのは俺達だ。
その場合"そんなものはない"は通用しない為、やるなら時間内に倒しきらなければならない。楽な倒し方ではあるが、失敗した時のリスクが大きい為、ギルドではこの倒し方を推奨していない。
世界には人間が知らない事なんて、無数にあるのだ。
「スフィンクスが動いている時の部屋の壁の模様、近未来映画に出てきそうな模様でしたね」
砕けたスフィンクスの使えそうな素材を選んで回収していると、ジュストが俺だけに聞こえるように小声で言った。
「ああ、それっぽいよなぁ。たまにそういう模様が、ダンジョンとか遺跡にあるんだよな」
ズィムリア魔法国の遺跡や魔道具には、似たような幾何学的な模様が入っている物が多い。
もしかしたら、その辺に関係あるのかなぁ。そういう事はアベルの方が詳しそうだな。
スフィンクスを倒した後の部屋は光が消え、ただの洞窟の広い部屋にしか見えなくなっている。
「不思議ですねぇ」
「ダンジョン自体がよくわからない場所だからな、深く考えたら負けだな」
「そうですね」
諸説は多くあるが、ダンジョンの細かい仕組みや形成される原理が完全には解明されていない。
不明な事は多いが人々の暮らす場の近くにあり、それらに深く関わり、危険もあるが生活に不可欠な存在となっているダンジョン。
そのダンジョンを探索する機会が多い俺達冒険者ですら、ダンジョンがどういうものなのか正しくは知らない。
時々見かける、古に滅んだ魔法の国の痕跡。
特に深く興味があるわけではないが、俺の知らない太古の国に浪漫と哀愁を感じる。
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