第232話◆走る高級品
「いやー、なんだかうちのパーティーが、うまい思いさせてもらった感じになっちまったな」
「いやいや、こちらこそ高火力の前衛がいるパーティーと一緒で、すごく助かったよ」
ドリーに匹敵する体格のムキムキマッチョマンとグッと握手を交わす。
背負われている巨大な斧が彼の得物だ。
彼は今朝一緒に朝ご飯を作ったパーティーのリーダーだ。
一昨日のカレーの匂い事件に始まり、昨日の朝の簡単な野外食のレシピ、今朝も一緒に朝食を作ってすっかり仲良くなってしまった。人当たりの良さそうな顔に柔らかそうなブラウンヘアーと、社交的な話し方でなんとなく人懐っこいモフモフの大型犬のような男だ。
王都を拠点にして活動しているランクの高いパーティーは、顔見知りが多いのだが、見た事ないパーティーだと思ったら、西の隣国から遠征に来たパーティーだった。
エルダーエンシェントトレントを倒してから十七階層に行こうと戦闘準備をしていたら、そのパーティーがやって来て共闘する事になった。
ヒーラーがヒョロッとしている以外、他のメンバーはムッキムキのパーティーだ。あのローブを着たムッキムキは魔法使いか!?
めちゃくちゃ筋肉から魔法が飛び出しそうな、魔法使いだな!?
エルダーエンシェントトレントはクソデカイ。木の魔物だからデカイのは仕方ないのだが、とにかくデカイ。
高さは三十メートル近く、太さは根元の部分一周するのに、何人くらい手を繋げばぐるっと一周できるのか想像できないな。
というくらいにデカイ。
そんなサイズなので倒すのも一苦労で、木がデカイという事はその幹も長い。
つまり、後方にもガンガン攻撃が届く。前方の火力が足りなければ、アベルに攻撃が集中するのは容易に予測できた。
正直、今のパーティー編成だと面倒くさい相手だった。
ドリーがいる時は、ドリーが枝にビシビシされながら、強引に叩き切っていた。
時間がかかりそうだしやっぱスルーしたいなと思っていたら、そのパーティーがやって来て、近接火力は高いが遠距離攻撃が手薄なパーティーだった為、共闘する事になった。
リーダーのモフ頭さんが斧使いだったおかげでめっちゃ楽だった。
それと、アベルの水の円盤がやばかった。
エルダーエンシェントトレントは大きすぎる為、殴る系の攻撃に非常に強い。つまりカリュオンやリヴィダスの攻撃が通りにくいのだ。
俺はミスリル製の剣を使っているので、その辺の剣よりは効くのだが、それでも太い幹の部分は斬り付け攻撃で削るのは時間がかかる。
やるならアベルの水の円盤を飛ばす攻撃が主力になるかなと思っていたら、突然の斧使いの登場でとても助かった。
物理攻撃だと、叩き付けると斬る攻撃が同時にできる、斧や大剣の攻撃が最も有効だ。
燃やしてもいいけれど、素材が勿体ないし、こんなデカイもの燃やすと、十七階層へ行く通路にしばらく近寄れなくなる。
アベルが円盤で片っ端から枝を切り落として丸坊主状態にした後、全員で根元を攻撃して切り倒した。
思ったよりすんなり終わって、エンシェントトレントの素材は山分け。
めちゃくちゃデカイから、収納を整理したからと言ってもこんなの、全部入れたらまたキツくなりそうだしな。
ダンジョンの強いボスや面倒くさいボスは、他のパーティーと共闘して倒す事は珍しくない。
人数が増えればそれだけ一人当たりの分け前は減るが、時間がかかるとそれだけ消耗するし、物資も使う。
さっさと楽に終わらせて、早く終わった時間で他の魔物を狩ればいい。
「なんかすごく暑苦しいパーティーだったけど、おかげで楽できちゃったね」
十六階層のボスが終わって、マッシブパーティーとは別のルートで十七階層を進む。
面倒くさい敵があっさり片付いた上に、後方から一方的に魔法を撃ち込むだけだったアベルはご機嫌だ。
一方的に高火力を撃ち込むの大好きだもんな。
「十七階層かー、何か面白いものあったっけ?」
「敵がかっこいい?」
カリュオンの質問に思わず思いついた十七階層の特徴――敵がかっこいい。
十七階層は洞窟エリアである。
十五階層と似ていてここもミミックが多く、主な敵はゴーレム系である。
十五階層との違いと言えば、人型ゴーレムが多かった十五階層と違い、十七階層は獣型のゴーレムが多い。
これがスタイリッシュなゴーレムが多くてかっこいい。骨でできた獣のゴーレムとかめっちゃかっこいい。
「あー、俺、十七階層きらーい。あいつら後ろ狙ってくるんだもん」
機動性を重視した獣型のゴーレムが多い為、タンクが纏めて注意を引きつけていても、不意に離れた場所にいる者に狙いを変える事がある。
遠距離から攻撃するアベルは、特に狙われやすい。
「でも、この階層のゴーレムは魔石が大きいし、素材も質の良いものを使ってるから美味しいのよね。宝石系のゴーレムが出て来ないかしら」
この階層には、たまーに宝石でできたゴーレムがいる。滅多に会えないけれど、会って倒せたらめちゃくちゃ美味しい。
「うおおおおおおおおお!! カリュオン、そっちに行ったぞおおおおおお!!!」
「アーーーーーーッ!! 逃げられた!! アベル、頼む!!」
「これでも喰らうといいよ……へっ? ふぎゃっ!!」
宝石系のゴーレムの話をしていた矢先、広い部屋で真っ赤な超小型ゴーレムに遭遇した。
体長は十五センチほど。しかしその体は真っ赤な宝石でできている。
アベルの鑑定によると、魔力を多く含んだルビー素材のようだ。ルビーで十五センチとか金の匂いしかしねえ!!
というわけで、その超小型ゴーレムを捕獲すべく、追っかけっこ中である。
血のように赤い体の二足歩行の小型トカゲ型のゴーレム君、めちゃくちゃ足が速い。
スピードにはちょっと自信があったけれど、全然追いつけなくて、なんかヘコム。
ただ追いかけるだけでは、トカゲゴーレム君の方が足が速くて無理なので、俺とカリュオン挟み撃ち作戦にアベルが捕縛系の魔法で加わって、三人で追い回している。
俺に追われたトカゲ君が、カリュオンの方へ。それを捕まえようとしたカリュオンの股の下を、トカゲ君がスルリとくぐり抜けた。
それをアベルが光魔法のネットで捕獲しようとしたら、トカゲ君はピョーンとジャンプをして、アベルの頭を踏んづけて逃走。
アベルの頭を踏むとか、なかなか楽しい事してくれるなこのトカゲ。
トカゲ君を発見した広い部屋からはいくつも通路が出ており、その通路は複雑に繋がっている。
道を知らなければ、同じ場所をグルグルする事になる。
そんな通路で、同じ場所をグルグルと回るように、トカゲ君を追いかけ回している。
先ほどまでダンジョンに仕掛けられた罠が時々発動していたが、俺達が走り回った場所はほぼ解除されてしまったようだ。
俺とアベルは一応回避しているが、カリュオンがほぼ踏み倒してくれた。
リヴィダスがガッチガチに強化魔法をかけてくれているし、加速系の魔法ももらっている。それなのに追いつかない。赤いトカゲ恐るべし。
「あー、もう邪魔!!」
脇道からヒョコッと顔だした四足歩行のトカゲ型ゴーレムを、アベルが爆発系の魔法で粉砕した。
こんな所で爆発系の魔法なんて危ないな、おい!?
と思ったら前から来た犬の骨格をしたゴーレムを、カリュオンが体当たりで弾き飛ばした。
「俺の前に立つと危ないぜえええええ!!」
弾き飛ばされた骨犬は、吹き飛んで壁に当たってバラバラになった。交通事故かな!?
魔石だけ回収しとこ。
「うおっと!」
魔石を回収後、走り出した俺の前方に虎型の石でできたゴーレムが姿を見せた。
身体強化をして顔面に跳び蹴りをすると、コロンと頭が取れて床に転がった。面倒くさいから丸ごと回収。絶対に後で整理する!!
「グラン、このまま行くと最初の広間に戻るよ」
「ああ、そこでリヴィダス達が待ち伏せしている」
爆走するトカゲを全力で追いかけるのは結構しんどいのだが、シランドルで散々ドリーの筋トレに付き合わされたからな!!
アベルもわりと平気な顔して走っているので、ドリーの筋トレに巻き込まれた成果だな!!
筋肉論が役に立ったな!?
トカゲ君は通路を爆走して、最初にいた広間へ。そこではジュストとリヴィダスが待ち伏せしている。
「リヴィダス! ジュスト! そっちに行くぞ!!」
「頑張ります!」
広間に駆け込んだトカゲ君に、まずはジュストが光魔法の鎖を投げた。
しかしそれは躱されて、トカゲ君はジュストの足元に滑り込み、その足を払った。
「うひゃっ!」
足払いをされたジュストはその場で尻餅をついてしまい、光の鎖が霧散する。
「やるわね! でもそれはどうかしら!?」
トカゲ君の足元が光り、地面から光の檻が出現してトカゲ君を囲った。
やったかっ!?
……と思ったら、トカゲ君は完成前の檻の天井を飛び越えて、リヴィダスの方へピョーンと跳んだ。
それを捕まえようと、その軌道上にカリュオンが手を伸ばした。
おっ、これは流石に捕まえられそうだ。
が、そのカリュオンの手の僅か手前でトカゲ君が止まって、ガラリと崩れるように地面に落ちた。
あー、動力切れか。
強化魔法もらった上に、身体強化まで使っている俺達が追いつけない程の速度で爆走すれば、動力にしている魔石の魔力も切れるよなぁ。
サイズも小さいから、動力になっている魔石も小さい為、稼働用の魔力は少なかったと思われる。
その証拠に走ったり跳んだりする以外の行動は、ほとんどしていなかったしな。
動かなくなってしまったトカゲ君を回収して一件落着。
トカゲ君はルビーでできているが、パーツごとに分かれていて、継ぎ目もルビーのパーツでできていた。
バラすと一つ一つのサイズは小さくなるが、それでも胴体や頭はルビーにしては大きなサイズだ。
めっちゃ、いい儲けだな。
赤いトカゲ君を追い回すのに夢中で、形振り構わず通路を走り回ったけれど、出てきた魔物はちゃんと処理してトレインはしていないので、他の冒険者には迷惑をかけていない。俺達偉い!!
近くに人の気配はしていたが遭遇はなかったし、多分大丈夫だ!!
カリュオンが片っ端から罠を踏み倒しながら走ったので、やたら罠が多く感じたがそんなもんだろう。矢とか刃物が飛び出してくる系が多かったが、バケツに当たって何事も起こらなかった。
他にも非常に見えにくい透明な細くて頑丈な糸。それが所々張られていて、単純だが勢いよく突っ込むと、軽装だと大変危険な罠だ。
普通なら見つける度に立ち止まって刃物で切って行くのだが、それもバケツがぶっちぎって行った。
ダンジョンには罠がいっぱいある。気をつけなければいけない。
走り回っている間に、魔物もたくさん倒して魔石もうまかった。
さっさとボスを倒して次の階層へ行こう。
宝石系のゴーレムならまた出てきても歓迎だけどな!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます