第231話◆合法投棄

 十六階層のボスは超巨大エンシェントトレントこと、エルダーエンシェントトレント。

 次の階層に行く手前に居座っているのだが、気合いと根性で駆け抜ければ交戦せずに十七階層に入る事ができる。

 めちゃくちゃデカいし、堅いし、タフだしで倒すのに時間がかかる為、無視して進むパーティーが多い。

 しかしあまり長い期間放置するとどんどん成長する為、たまには倒さないといけない。

 トレント系だから際限なく大きくなるしね。大きくなりすぎて十七階層の入り口が封鎖されても困るので、手に負えなくなる前に火力のあるパーティーが倒して行く。

 ドリーのパーティーも、よくエルダーエンシェントトレントをつついてたなぁ。

 くっそデカイんだよね。

 タフで面倒くさいボスの為、今日は十六階層のセーフティーエリアでゆっくり休んで、明日の朝、誰も戦っていないようだったら、エルダーエンシェントトレントを倒してから、十七階層に行く予定だ。


 明日は朝一でボス戦になりそうなので、夕食後は早めに就寝。

 ……したのだが、収納の整理をしないといけない為、自分の見張り番の時間より早く起きて、せっせと収納の整理だ。

 いらない水とか土砂を捨てて収納の空きは増えたけれど、明日は大型の敵だし、帰還前にまたパンパンになったら迷惑かける事になるから、少し整理をしておこうかなと睡眠時間を削る事にした。


 セーフティーエリアには、簡易的な解体場がある。

 誰もが大きなマジックバッグや収納スキルを持っているわけではない。荷物はできるだけコンパクトなほうがいい。

 余裕のある収納スキルやマジックバッグでも、荷物はコンパクトにしたほうがいい。

 俺も今回、それを身を以て学んだ。

 荷物をコンパクトにできるなら、冒険者達が持ち帰る素材も増えて、冒険者ギルドも儲かる。

 そのような理由で、セーフティーエリアには簡易解体場がある。

 解体場といっても本当に簡単な物で、広いスペースに大型の魔物を解体しやすいように吊り下げる為の器具と脚立があるだけで、他の道具は自前の物が必要だ。

 だが、それだけでもかなり解体は楽になる。

 セーフティーエリアで魔物を解体して、不要な部位はダンジョンに捨てて帰る者も多く、早い時間は混み合っている。

 ここで捨てて帰ればダンジョンが吸収する為、持って帰って廃棄する手間も省けて荷物も減って楽なのだ。


 とりあえず、アホみたいにあるサラマンダーを少し減らしておくか。

 肉は美味しいから絶対確保。鱗は防具に向いている。内臓は調合用、血液はいらない、目玉は魔術触媒、骨はー……うーん、調合の触媒に使えるけれど、他に代用できる物も多いし、取り引き価格はそこまで高くないんだよなぁ。

 骨は捨てちゃおう。

 ええい、この際だからいらない物は全部捨てて帰ろう。

 魔物の骨系は結構残していたけれど、品質の悪い物は全部捨ててしまおう。

 ダンジョンで拾った低級装備も金属部分だけ回収して捨ててしまおう。


 このセーフティーエリアの解体場の裏は崖になっており、その下は普通に魔物がいるエリアだ。

 この下の辺りに入る道はなく、人の立ち入らない森や急斜面の崖を越えなければならないので、冒険者はまず立ち入らない場所で、解体して出たゴミは、だいたいここに捨てられている。

 常連の冒険者達はそれを知っているし、地図を見ればわかる事なので、この下辺りに来る者はまずおらず、いらない物を投げ捨てても問題ない。

 そこに向けてポイポイと、いらない物を捨てていく。


 意外とガラクタがいっぱい入っているな。

 結構捨ててきたと思ったけれど、土砂とか瓦礫まだまだあるな。もうちょい減らしておこう。ポイポイ。

 ん? なんか下で魔物の声がしたな。落とした物が当たったか? ま、魔物だし問題ないかー。

 材木系はいらない物はアベルに燃やしてもらって灰にしよう。これは家に帰ってからだな。

 あー、狭いと思ったらシランドル行った時の恐竜か。これは仕方ないな。デカいカニは邪魔だけれど、カニだから仕方ない。

 そういや奴隷商の屋敷から色々持って帰って来たけれど、家具系はいらないよな。

 安物のテーブルとか椅子は金属部分だけ回収して捨ててしまうか。桶とかなんで持って帰って来たのだろう、ポイポイ。

 ん? また下で魔物が鳴いているな。捨てた物が当たったのかな? すまんな。

 おお、そういえば寝る前にトレントの根っこの灰汁抜きをしておこうと思って、桶で浸けていたな。その水も捨てないとな。

 トレントの根っこはしっかり水に浸けて灰汁を抜いた後は、美味しく食べられる。今なら醤油もあるしキンピラや唐揚げにしてもよさそうだ。まぁ、灰汁抜きに使った水は捨てよう。ザバーッ!!


 いやー、すっきりした!!

 たまには片付けないといけないな!!

 おっと、そんな事をしていたら俺の見張りの時間だ。そろそろ、戻らないと。

 次回からは早めに整理整頓だな!!




 朝食の準備をしていると、前回のセーフティーエリアで一緒だったパーティーがお隣さんだったので、一緒に朝飯を作ってすっかり仲良くなってしまった。

 人の多いダンジョンはこういう縁があるのも楽しい。

 他のパーティーと材料出し合って、一緒に料理をすると、一人で作るより品数増えるのもいい。


 朝飯はありがちなメニューだが、お隣さんと色々出し合って作ったので量と品数は多い。

 表面を炙ったパリッとソーセージ、少し厚めに切ったベーコンと、お隣さんに貰ったコカトリスの卵を使ったボリュームベーコンエッグ。

 お隣さんが、森エリアで手に入れたフルーツを色々と分けてくれたので、一口大にカットしてミルクとハチミツをたっぷりかけた。朝飯にデザートがあると、アベルの機嫌が良くなるからな!


 それから、ミミックの干物の入ったクリームスープだ。お裾分けしてもらったキノコと野菜がゴロゴロ入っている。

 お隣さんが堅くて食べにくいと言っていた、携帯用のパンを炭火で炙ってこんがりさせて、小さくサイコロ状に切って食べる前にスープの中に。

 これなら固いパンでもカリカリ美味しく食べられる。日持ちがするパンは固いものばかりなんだよね。嫌われがちな固いパンも一工夫で美味しくなる。

 そして、ミミックの干物のおかげで、スープに程よい塩味とコクあって最高に美味い。

 お隣さんもミミックの干物をすっかり気に入っていたので、干物の作り方を教えて、少しお裾分けをしておいた。

 ミミックの干物のお礼に、ハイポーション用の薬草いっぱい貰っちゃった。


 スープの他にも、細切れにしたパタイモでハッシュドポテトも作った。イモ系は保存が利くし、腹にも溜まる為、出先でちょっとした料理に使えるのがよい。

 それから、お隣さんがやたら持っていた固いパンを少し分けてもらって、砂糖を溶いたミルクに暫く浸して、バターをたっぷり使ってフライパンで焼いてみた。

 元が固いパンなので、ミルクを吸っても柔らかくなりすぎなくて俺好みだ。

 これなら、野営で簡単に作れるし、固いパンも食べやすくなるはずだ。

 朝のパンには好みがあるから、甘いパンだけではなく、甘くないパンも用意しておかないとな。


 色々と作ったら、朝食の品数がすごい事になってしまった。






「今日の予定はー? あー、この厚みがあるのに表面カリカリのベーコン最高」

 するするとベーコンエッグを飲むように食べながら、カリュオンが言った。

「とりあえず、俺は欲しかった物はだいたい回収したしなぁ」

 エンシェントトレント素材は昨日たっぷり回収したし、この後エルダーエンシェントトレントを倒すなら更に増えそうだ。

 ニトロラゴラもいっぱい採れたし、わりと満足である。

「ミミックもいっぱい狩ったしね。朝はやっぱりパリッパリのソーセージだよねー。スープの中のパンもカリカリ感残ってて食べてるって感じでいいね。野菜が入ってるけど、スープの味のおかげで青臭さが気にならないや」

 昨日はミミックもいっぱい狩ったな。

 戻ってミミックやエルダートレントを狩り続けてもいいけれど、まだ戦力に余裕あるしもう少し先の階層に行ってもいいかもな。


 このダンジョンは全部で三十階層あり、十五階層以降はそれ以前より難易度が少し上がる。

 今いるのは十六階層で、この階層からボスがいっきに強くなる。

 ボスだけではなく奥に行くほど雑魚もどんどん強くなっていくし、ダンジョン内の環境も厳しい環境が増えてくる。

 二十一階層以降は更に難易度が上がる。

 三泊四日で二十階層くらいを目安にしていたから、今日は二十かその手前くらいまでかなぁ。

 二十一以降は俺はかなりしんどい。

「ゴーゴンまで行くー? あ、この揚げイモもカリカリで美味しい」

 いやいや、ゴーゴン二十五階層だから!! そこまで行くとなるともう一泊しないといけなくなるだろ!?

 二十五階層のボスはゴーゴンという鉄の皮膚を持つ牛で、素材は美味いのだが、デカいし攻撃力もめちゃくちゃ高い。しかも、取り巻きに中型のゴーゴンが大量にいるので非常にしんどい。

 カリュオンはゴーゴンにもみくちゃにされるのが昔から好きで、このダンジョンに来たら二十五階層に行きたがる。


「明日帰るんでしょ? ゴーゴンは無理じゃない? あ、ちょっとカリュオン、一人で揚げイモ全部食べないでよ」

「でも二十一階層は行きたいわねぇ。ジュストも一回アレ体験しておいたほうがいいでしょ?」

 アレ。二十一階層なぁ。

「二十一階層? 何があるんですか?」

 話を振られたジュストがパンをもぐもぐしながら、きょとんとした表情をしている。

「二十一階層は荒野エリアよ。砂漠ほどではないけど、気温も高くて移動だけで体力を削られる階層なの。ダンジョンにはこういう厳しい環境の階層もあるから、手始めに荒野くらい体験しておいてもいいと思うの」

「そうだねぇ、いきなり砂漠とか雪原とか行くよりはいいよね。とりあえず二十一を目標にしようか。後は進行状況次第だね」

 アベルもリヴィダスに賛成したから、これは二十一まで行くのは確実かな。

 その先はしんどそうだし、アベルの言うとおり目標は二十一がよさそうだなぁ。


 その前にこの階層のボスだ。

 面倒くさいけれど、倒して行くかー。


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