第228話◆遠距離高火力の弊害

「あーっ! 跳んだっ!」

「おいこらアベルッ!!」

「うわっ! こっちに来た!!」

「あ、ちょっと!? アベルさんどこへ!?」

「この骨、いらないから返すわよ」


 ここは十五階層の最後の部屋。

 そして現在、絶賛ボス戦中である。

 十五階層はミミックの他にゴーレム系が多い階層で、この階層のボスは人型のボーンゴーレムだ。


 ボーンゴーレム――骨を利用して作られている為、ぱっと見はアンデッド系に見える事が多い。

 しかし、それはアンデッドではなく骨から作られたゴーレムである。

 俺達が戦っているのは、人間の骨格に似たゴーレムで、体長は三メートル程。腕が四本あり、尾てい骨の部分が長い尻尾になっている。

 頭には兜、胴体には部分的にプレートアーマーを付けており、骸骨騎士風で無駄にかっこいい見た目をしている。四本ある腕にはそれぞれ剣、槍、棍棒、盾を持っている。


 ボーンゴーレムは素材が骨で、鉱物に比べ軽量な為、ゴーレムのくせに機動性に優れている。

 そして、ゴーレムなのでわりと堅いしタフい。骨なので突き系や弓系の攻撃が効かない、骨だけれどアンデッドではない為、聖属性の魔法で浄化できない。

 つまり、めんどくさい系のボスである。


 カリュオンが張り付いて攻撃を引き受けながら、俺が横からちまちまと攻撃をしているが、骨格系なので、剣で切りつけてもあまりダメージがない。

 スパイククラブもあるのだが、あれは雑魚敵用なので、堅いゴーレムを殴ると武器の方が折れる。

 仕方ないので剣でちまちま斬っている。あまり効いていない。

 金属製の鈍器を作っておくか? 金属鈍器は重いから嫌なんだよなぁ。



 そんなところに、アベルが後方からドーンと大きな岩の塊をぶつけた為、ボーンゴーレムの注意がアベルに向いてしまい、俺達の目の前からアベルの方へピョーンとジャンプをして跳んで行ってしまったのだ。

 ドリーがいれば前衛火力が安定していて、アベルが狙われる事は滅多にないのだが、今日は前衛が俺とカリュオンで、カリュオンの火力は高いがアベルほどではない。骨系と相性の悪い俺は言わずとも。

 タンクが敵を引きつけていても、後方の火力が圧倒的に高ければそちらにピョーンする事は珍しい事ではない。


 で、ピョーンしたボーンゴーレムを避けてアベルは転移魔法で空中へ。

 アベルが転移してしまい、代わりに近くにいたジュストとリヴィダスの方に、ボーンゴーレムが棍棒を振り下ろしたが、リヴィダスがすかさず反射効果のある魔法盾を作り出して、ボーンゴーレムを弾き飛ばした。

 三メートルとゴーレムとしては小さめだが、俺達よりでかいゴーレムがポーンと吹き飛ばされて俺達の方へと戻って来たが、骨はアベルの方へ向かって行ってしまった。


「あー、もうめんどくさい骨だね」

 ふわふわと空中を移動しながらアベルがドスドスと、ボーンゴーレムの上に岩を降らせている。

 ボーンゴーレムは盾で岩を防ぎながら、空中にいるアベルを狙ってピョンピョンとジャンプをするが、アベルが浮いている場所にまでは攻撃が届かない。

 非常にシュールな光景である。



「しぶとい骨だね!! このまま削り殺せるけど魔力をすごく使いそう」

 上空から骨に岩を降らしながらアベルが文句を言っているが、骨はアベルの事を気に入ってしまったようだし、こちらに引き戻すのは難しそうだ。

 アベルが降らしている岩に巻き込まれないように、俺とカリュオンはボーンゴーレムから距離を取って、様子を見ている。

「あれ、近づきたくねーなー」

「でも、あれだと倒すまで時間かかってアベルも消耗しそうだし、かと言って近づきたくないしなぁ。何かでかくて投げられそうな物ある?」

 でかくて投げられそうな物。丸太か? 岩か? それくらいじゃ、あの骨を倒すのは無理か。

 あ、いや、丁度いい物があるな? んんー? でかすぎかな? カリュオンならいけるか?


「えーと、コレでいいなら?」

「うっわ、すっげぇ。コレなら一発粉砕いけるんじゃね? グラン、強めの身体強化ポーションある? あと、リヴィダスー、筋力系の強化ちょうだーい」

 俺が取り出したのは、先日手にいれたサイクロプス産の巨大トゲトゲ棍棒。元は十メートル級のサイクロプスの持ち物だった為、そのサイズもサイクロプス用のサイズである。

 四メートルちょいくらいあるだろうか、要するにボーンゴーレムよりでかい。

 しかもキンピカ。間違いなくクソ重い。俺には持ち上げられない重さなので、そのまま地面にゴロン。


 リヴィダスに筋力系の強化を貰い、俺の渡した身体強化ポーションを飲んだカリュオンが、地面に転がる金ぴか棍棒に両手をかけた。

 バケツを被っているのでその表情は見えないが、絶対にすごく楽しそうに笑っている。

 空中を移動しながらボーンゴーレムに岩をぶつけていたアベルが、その様子に気付き顔を引き攣らせた。

「ちょっと!? それどうするつもり!?」

「どうするって? そんなの一つしかないだろおおおおおおおお!?」

「は? ちょっ!!」


 ブォンッ!!


 物理的に空気が揺れた。

 巨大キンピカ棍棒に手をかけたカリュオンが、それを持ち上げてピョンピョンと跳ねているボーンゴーレムの胸から上の辺りに狙いを定め、力任せにぶん投げた。

「俺の対角線上は危険だぜええええええええええ!!!」

 何を意味のわからない事を言っているのだ、このバケツは?


 カリュオンがぶん投げた巨大棍棒は、ボーンゴーレムの胸から上を粉砕して更にその先へ。

 下から斜め上に投げ上げる形だったので、その先には引き攣った顔のアベルが。

 アベルが転移魔法でその軌道上から逃げて、俺達の横に現れて悪態をついた。

「どんなバカ力なの!!」

 投げた棍棒は天井にぶち当たって、その衝撃で崩れた天井の瓦礫と共に轟音を立てて床に降ってきた。

 非常に渋い顔をしたリヴィダスがその瓦礫が砕けて飛び散った破片を、魔法の壁で防いでいる。

 ボーンゴーレムは……終わったな……。

 ぶん投げられた巨大棍棒に胸から上を粉砕された、ボーンゴレムの下半身がガラリと崩れるのが見えた。

「リヴィダスとジュストを巻き込まない角度を狙ったらそうなった。悪気はない、警告もして投げた、骨は倒した、大団円」

 確かに大団円……なのかなぁ。





「ふー、ピョーンしたけど何とかなったな」

 ボーンゴーレムの後片付けも終わって、カリュオンがバケツを外して汗を拭う。

「今回はドリーがいないからな。アベルは少し火力を加減した方がよさそうだな。俺とカリュオンも頑張るけど、火力はアベルが一番高いからな」

 ドリーがいたら前衛の火力は安定するんだけどなぁ。いないものは仕方ないので、ピョーンを避ける為にはアベルに少し火力を抑えてもらうしかない。

「ん、そう言われたらそうだね。じゃあ少し加減するよ」

「じゃあ、俺はヘイトの固定を優先するよ」

「そうねぇ、後ろ三人だから私も前に行くわ。ジュストは回復に専念するから、これで前の方が火力は安定するわね。でもアベルが全力を出すと、アベルの方が狙われそうだから気を付けてね」

「ああ、わかったよ」

 リヴィダスの方が俺より火力高そうだよなぁ。ゴリラヒーラーこわいわー。

 ヒッ! 睨まれた。


「ところでグラン、そんな棍棒を持ってたんだ。サイクロプスの棍棒って見えるけど」

「あー、うん。こないだの妖精ダンジョンで拾った。って、この棍棒すげーな。カリュオンがぶん投げて天井にぶつかって、あの高さから落ちてきたのに無傷か」

 棍棒は無傷だが、あのでかさの金属の塊が落ちて来た床は、見事に凹んでいる。

 天井もまだパラパラと小さな破片が降ってきていて危ない。

「なかなか、良い武器だね」

 スポッとバケツを被り直したカリュオンが、バケツの左右を掴んでポジションを調整している。

「いる? 安くしとくよ?」

「なかなか破壊力ありそうで魅力的だけど、そんな物をマジックバッグにいれると容量食うし、でかすぎて広い場所でしか使えないから、いらないかな」

 俺も、これの使い道が思いつかない。

 カリュオンなら扱えそうな気がするけれど、やっぱでかすぎると取り回し難しいもんな。

 もしかするとまたどこかで、予想外の使い道があるかもしれないから、収納の中にそっとしまっておこう。


 十五階層のボスも終わったし、次は十六階層――便利な材木エンシェントトレントの棲息する森林エリアだ。

 バッサイダーーーーーッ!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る