第227話◆正統派ミミック

 十四階層ではちょっとテンションを上げすぎてしまい、リヴィダスにお説教をされたりもしたが、たいしたトラブルもなく十五階層に入った。

 十五階層、この階層には宝箱が多く、その大半はミミックである。大半はミミックなのだが、本物の宝箱もちゃんとある夢のある階層なのだ。

 そしてこの階層のミミックは、妖精君の地図にいたようなかくれんぼ下手くそ君なミミックではなく、ちゃんと宝箱をしている正統派でたちの悪いミミックである。


 ミミックだらけの中、たまに本物の宝箱もある。そんな階層のいかにもな場所で、宝箱のふりをしているミミックは非常に見分けにくく、たちが悪く危険な魔物なのだが、先日のアホの子ミミックを見た後なので、なぜか不思議な安心感がある。

 そうそう、これが正しいミミックだよ。


 なのだが。

「ミミックはっけーーんっ!! 肉の回収よろしくー」

 ミミックを発見次第、氷の矢を飛ばして抹殺している奴がいる。

 レンジ弱者の俺もカリュオンも出番なし!!

 チート鑑定ずるい!! そしてミミックの肉はいっぱい手に入る。たまに箱の中から、よくわからないガラクタと一緒に価値のありそうな物も出てくる。


「俺達やる事ねーな」

 金属の棍棒をズリズリ引きずりながら歩くカリュオンが言う。

 地面と金属のこすれる音がうるせぇから引きずるなよ。

 てか、頑丈な棍棒だな!? 堅いダンジョンの地面の方が削れているぞ!?

「楽でいいかな?」

 遠距離からピューッとやられるので、走って距離を詰める頃にはミミックは死んでいて、俺もカリュオンも回収係である。

 ミミック以外にも魔物が出てくるが、纏まって出てくる事もない為、だいたいアベルの遠距離攻撃で終わっている。

 うーん、ヒマだな。


「ヒマだからって、魔物をかき集めてきたり、大型の魔物を連れてきたりしたらダメよ?」

 やる事なくてソワソワし始めている、カリュオンにリヴィダスが言った。

 お、俺は決してそんな事は考えてなかったぞ!!

 そろそろヒマなのも飽きてきたから、カリュオンが何かを適度に連れて来る事に、期待してなんかなかったぞ!!

 底引き網ならカリュオンも得意だからな!

 カリュオンはタンクなので、魔物のヘイトをガッチリ掴む事ができる分、範囲魔法ぶち込んで釣ってくるだけのアベルのトレインより、平和的で安全で安定しているからな!!

 あ? それもダメ? あ、そうだよね? ダンジョン内はトレイン禁止だもんな。

 まぁ、ミミックの肉が旨いしいいか。帰ったら全部干物にしような。


 このダンジョンのミミックは、宝箱があっても違和感のない場所――行き止まりになっている部屋や、大型の魔物がいる部屋の片隅などでよく見かける。

 ダンジョンの地形は滅多に変わる事がない為、調査を終えたダンジョンは詳細な地図が作られ冒険者ギルドで売られており、出現する魔物の詳細や宝箱の出現しやすい場所も記されている。

 王都から近いこのダンジョンは俺も何度も訪れた事があり、内部の構造は地図なしでもだいたい覚えている為、十五階層ではミミックのいそうな場所を片っ端から回っているところだ。




「宝箱めーっけ!!」

 通路の行き止まりあまり広くない小部屋に入ると、部屋の奥にある宝箱が目に入った。

 それと同時にカリュオンの脳天気な声が聞こえて、嫌な予感がした。

「カリュオンそれちが……」

 アベルが何か言いかけたが、その時にはすでにカリュオンが棍棒を地面に打ち付けていた。

 部屋が狭い為、奥にある宝箱までグラグラと揺れる。

 これで宝箱がミミックならピョーンと飛んで来そうなのだが、その気配はない。


 ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!


 直後宝箱から矢が三本飛び出してきた。

 宝箱はミミックではなく、罠が仕掛けられた箱だったようだ。


 カンッ! カンッ! カンッ!


 宝箱から飛んで来た矢は、バケツに当たり乾いた音と共に床に散らばった。

 結果よしだけど、よくないな!?

 どうして、いきなり範囲攻撃した!? アベルより先に攻撃したかっただけだろ!?

 罠解除の手間が省けたけれど、矢じゃなくて槍とか飛んで来たらどうするつもりだったんだ!!

 いや、このバケツ、槍でも平気そうだな。


「ミミックじゃなくて罠箱だったかー。罠解除の手間が省けちゃったな。罠箱って事は何か良い物入ってるのかな~」

 なんて事を言いながらカリュオンが宝箱に近づいていった。

「おい、ちょっとまて」


 ボフッ!!

「うわっ!!」

 宝箱の罠は一つとは限らないんだよなぁ。

 俺が止めるより早く宝箱に近づいたカリュオンの目の前で、宝箱が怪しいガスを吹き出した。

 そのガスをもろに被ったカリュオンがゲホゲホと咽せている。

 ホント、このバケツ、ゴリラ。

「大丈夫かー? ジュスト、カリュオンにアンチドートの魔法をかけてやってくれ」

「は、はい」

 多分毒ガスが吹き出したのだろう。大丈夫そうだけど、一応な。


「おい、罠解除するからちょっと待てよ」

「もう二つ発動したし、大丈夫だろー?」

 だから、罠が二つとは……。


 ドンッ!!


 あ、爆発した。

 カリュオンが箱を開けると、宝箱は小爆発をして蓋が吹き飛びバケツに当たって、ガコンッと音がした。

 蓋以外にも、箱に仕掛けられていたと思われる、金属片のような物が飛び散り、カンカンとカリュオンの鎧に当たって音を出している。

 蓋もなくなったし、流石に罠は打ち止めかなー。中身は大丈夫なのかなー。

 もちろんバケツの中身ではない、宝箱の中身だ。


 カリュオンはタンクというポジションのせいもあり、何にでも真っ先に触ってみる傾向があった。

 ただ、罠や仕掛けの関係は、それらの解除技術を持った者がいたら、任せるのが普通だし、以前パーティーを組んでいた時もそうだった。

 今回のパーティーなら、俺が罠や仕掛けを解除できる。

 なのにどうして……。


「罠解除役いない時は、カリュオンかドリーが箱を開けているからね」

「頑丈だから仕方ないわよね」

 日頃、非人道的な開け方が日常化していると思われる発言が聞こえた。

「ここのとこずっとグランがいなかったでしょ? だから、カリュオンもすっかりあの開け方に慣れちゃったんだよね。最初は罠解除しようとしてたんだけど、ここらのダンジョンならそのまま開けた方が楽だって結論になったみたいだよ」

「もうちょっと奥のエリアまで行くと、ちゃんとガチガチに防御魔法をかけてるわ。カリュオンとドリーなら凡人には即死級の罠でも平気だし」

 合理的なのか、大雑把なのか、それでいいのか? ドリーにジュストを任せるのが、なんだか不安になってきたぞ。

「ジュスト、アレは真似したらダメだぞ。この間教えた手順で解除するんだ」

「大丈夫です! 絶対に真似しません!!」

 よかった、ジュストにはちゃんと常識があった。


 宝箱には罠が仕掛けられている物がある。

 宝箱のふりをしているミミックと罠の仕掛けられた宝箱を合わせると、何事もなく安全に開ける事のできる箱の方が圧倒的に少ない。

 そのような宝箱があるのはランクの低いダンジョンばかりで、高ランクのダンジョンになるほどミミック率は上がるし、本物の宝箱でも罠付きの事が多い。

 その中には凶悪な罠も多く、防御に不安がある者が直撃すれば即死級の罠も稀にある。その為、パーティーには罠を解除できる者を入れるか、そうでなければ高ランクのエリアでの宝箱はむやみに触らない。

 まぁ、時々防御に自信がある者や、強力な防御魔法が使える者が強引に開けたりする事もあるのだが。

 ドリーのパーティーってもしかして、罠を解除できる者がいない時はそうやって宝箱を開けていたのか!? お前らホント頭ゴリラ。


「いやー、前はドリーが解除してくれてたんだけど、ドリーって結構大雑把じゃん? よく罠が発動するんだよね。それで結局、罠解除役が俺になったんだけど、手順を踏んでやってみても罠が発動するし、もう面倒くさくて普通に開けていいかなって?」

 その光景がすごく想像できる。

 というか、手順踏んでやって罠発動するのは、ちゃんと確認をしていないか、手順を間違ってたんじゃないかな????

 あと、それは普通に開けるとは言わない。


「本当にやばそうな箱はアベルに鑑定してもらいながら、念入りに防御魔法をかけて、カリュオンに開けてもらっているから大丈夫よ」

 すごく嫌な連係プレイだな。

「ま、まぁ、このダンジョンはそこまで凶悪な罠はないからな……。カリュオンなら大丈夫か。いや、ジュストの罠解除の練習をしよう。そうだ、それがいい」

 良い子は絶対真似してはいけない開け方にジュストが慣れてしまっては困るし、ここのダンジョンなら難易度の高い罠もあるから練習には丁度良い。

 うむ、宝箱は正しい手順で平和に開けよう。




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