第226話◆爆走!!スケルトン粉砕レース

 次の目的地はミミックが多い十五階層。

 今、俺達がいるのはその手前の十四階層。この階層は普通の洞窟系のエリアなのだが、出てくるのはアンデッド系ばかりだ。

 つまりジュストがぶん殴っても大丈夫な階層だ。

 後ろで補助と回復ばかりだとジュストもストレスが溜まるだろう。この階層で思う存分ぶん殴るといい。

 ヒーラーはリヴィダスがいるしな!!


「というわけで殴るぞ、ジュスト!!」

「は、はい!」

「骨系には突き系の攻撃や刺す系の攻撃は効かない。つまり槍やレイピア、弓矢は効かないんだ。骨だから刺してもスカスカだからな。そして、斬るより殴る方が効く。棍棒でぶん殴るか素手でぶん殴るかだ。アレを見ろ、すごく楽しそうだろう」

 前方でスケルトンをかき集めて棍棒をブンブン振り回し、絶対スケルトン殺すマンと化しているバケツを指さした。

 カリュオンがトゲトゲ棍棒を持ってぐるんと一回転すれば、面白いように骨が粉砕されて飛び散っていく。

 スケルトンの骨の使い道なんて、どうせ粉砕して粉として使うくらいだしな。好きに叩き潰してくれ。たいして高価な素材でもないので、別に持って帰らなくてもいい素材だしな。


「ねぇ、グラン? ジュストは聖魔法が使えるから、わざわざ殴らなくていいのじゃないかしら?」

「……え?」

 リヴィダスのド正論が、俺の心に刺さってしまった。


 そうか、ジュストは聖魔法が使えるんだった。しょんもり。

「体術の練習もしないといけませんし、殴りますよ……っ!」

「無理にグランに付き合わなくてもいいのに」

 うるせぇ、もやし魔導士は黙ってろ。

「そうか! ジュストはわかってるな! やっぱ男なら拳で語る方がいいよな!! よし、行くぞ!!」

「はいいーっ!」

 ジュストは素手で、俺はエンシェントトレントに鉄の釘を刺したスパイククラブで、スケルトンをぶん殴り始めた。

 骨がバッキバキと壊れる手応えたのちー!!


「何匹か倒したら魔石の回収も忘れるな。骨はどっちでもいいぞ」

 スケルトンは闇属性の魔石が動力となっている為、倒した後は魔石の回収を忘れてはいけない。

「はい! これ、結構楽しいですね!」

 ジュストもスケルトンを粉砕する楽しさに目覚めたようだ。

 死して骨になり、文字通り身も魂もなくなり、生への執念と魔石によって無理矢理動かされている哀れな骨を、拳でわからせて成仏させてやるのだ。


「楽しいからってあんまり先行しすぎたらダメよー! 時々身体強化魔法をかけ直すから、遠くに行きすぎないのよー!」

 後ろでリヴィダスが叫んでいるが、まぁここの階層はボス以外はBランク以下だし、多少の先走りは許されるだろう。

 あ、あのバケツ先行して全部粉砕してやがる! 俺達にも残しとけっつーの!!





 で、バケツと競うようにどんどん進んでしまい、B+くらいだと思われるドラゴンゾンビに遭遇してしまった。

 そういえば、この階層奥の方まで行くとドラゴンゾンビが徘徊しているんだったな。

 調子に乗って先走りすぎたせいで、後衛の二人と離れてしまったし、かけてもらっていた強化魔法も切れてしまっている。

 そういえば、さっきリヴィダスが先行しすぎるなって言っていたな。

 しかし、俺達にはジュストがいるから問題ないよな? 最悪、カリュオンを盾にして頑張ろう。


「あれ? リヴィダスとアベルは?」

 現れたドラゴンゾンビを前に、カリュオンが不思議そうに言う。

 いや、後ろの二人と距離が空いているのは、俺でも気が付いていたぞ?

「俺達が先行しすぎて、少し離れたみたいだな」

「少しじゃなくて、すごく離れてると思います。とりあえず、強化魔法をかけますね」

 うむ、後衛組との距離は時々確認しなければならない。

 後でリヴィダスにお説教されそうだから、戦いながら言い訳も考えておこう。

 B+で大型のドラゴンゾンビでかなりしぶとそうだが、タンクとヒーラーがいるし三人でも何とかなるはずだ。


 三人で戦い始めた為、火力不足で少々泥臭い、いや腐敗ガス臭い戦いになった。

 なかなかとどめが刺せず時間がかかった為、ドラゴンゾンビに何度も腐敗ガスを吐かれてすっかり臭くなった頃、アベルとリヴィダスが追いついて来て、上空から降って来たリヴィダスの特大の聖魔法で、ドラゴンゾンビは骨と魔石を残して蒸発した。

 さすがAランクヒーラー、聖魔法の威力ぱない。そして、B+の魔物の魔石旨い。

 いや、そうじゃない。あの聖魔法は生きている者には効かないやつだけれど、めちゃくちゃ殺意が籠もっていた。


 マジ先行しすぎてごめんなさい。

ジュストは俺達に付いて来ただけだから、悪い事をした。


「グラン? カリュオン? アンタ達はどうしてすぐに調子に乗るの? 時々、身体強化魔法をかけ直すから先行しすぎるなって言ったでしょ? 何年冒険者をやってるのかしら? ジュストも彼らの真似をしたらダメよ?」

 ドラゴンゾンビを倒した後、先走りすぎた俺達三人は仲良くリヴィダスにお説教をされる事になった。やんわりとした口調だが、用意しておいた言い訳を全て忘れるくらいの怒気を感じた。

「ジュスト、グランやカリュオンは基本的に非常識だからね、真似しちゃダメだよ。あと、君達すごく臭い」

 ドラゴンゾンビの腐敗ガスですっかり臭くなってしまった俺達に、アベルがシュッシュッと浄化魔法をかける。

 浄化魔法はありがたいが、アベルにだけは非常識って言われたくない。


「いい、ジュスト? ヒーラーが脳筋と一緒に行動する事は悪い事ではないわ。でもそれはコンディション管理と回復を回す為なのよ。強化魔法効果が切れたらすぐに更新をする為に、先行組についていくのは間違ってないの。だけど、強化魔法を更新する暇のない進行速度で、パーティーが予定外に分断されるほど先行すると、それだけ戦力が落ちるでしょ? そして強化魔法を更新できないと、それもまた戦力ダウンになるのよ」

 リヴィダスの言う事が正論すぎてぐうの音も出ない。

「そこのゴリラ二人は体も頭も筋肉でできているから、強化魔法が切れても大丈夫だけど、俺やリヴィダスみたいな、か弱い魔法職は強化魔法の効果が切れると致命的だからね」

 アベルがもやしなのはわかるがリヴィダスは……うわ、睨まれた。余計な事は言わないどこ。


「ヒーラーたる者、脳筋どもに振り回されてはダメよ? カリュオンもグランも、あとドリーも、甘やかすとすぐ暴走するからね。少し厳しいくらいでいいわ。大事になる前にしっかり手綱を握っておくのもヒーラーの仕事よ。グラン、カリュオン、貴方達が足並みを乱したらダメでしょ? 敵が弱い階層でも何があるかわからないのだから、調子に乗りすぎちゃダメよ。ジュストもいるんだからね? 先輩として恥じる事のない行動をしましょうね?」

 一見、慈愛に満ちたリヴィダスの笑顔だが、ものすごい威圧感がある。

 俺とカリュオンはコクコクと首を必死に縦に振る。


 そうだよな! 適当な事をやってジュストが変な事を覚えたらいけないしな!!

 先輩として恥ずかしくない行動をしないといけないな!!

 気を付けよう気を付けよう。俺は立派な先輩だからな!!


 そして、ヒーラー様を怒らせてはいけない。

 回復魔法の範囲外まで先走ってはいけない。

 強化魔法の更新タイミングにはちゃんと戻らなければならない。



 先走りプレイはほどほどにしておこう。

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