第223話 ◆春の草原

「結構本気だったのに、あれでほぼ無傷とか、ホントどういう防御力してるの? 何なの? 体アダマンタイトなの?」

「アホかっ! 当たってもたいして痛くないけど、当たる衝撃はあるんだからな!? あんな氷を次々ぶつけられると、鎧がグワングワンしてうるさいだろ!?」

 アベルの氷の矢のとばっちりを食らって、ほぼ無傷のカリュオンが叫ぶ。バケツからはみ出している金髪が少し湿っているくらいだ。

 いや、マジ、あれで無傷とかどうなっているのか俺も知りたい。というか、痛いよりうるさいなんだ……。


 カリュオンのこの恐ろしい堅さは、おそらく何かのギフトなのだろう。アベルもそれをわかってやっていそうだ。

 カリュオンにはアベルの魔法がほぼ利かない為、カリュオンが魔物をかき集めたところに、アベルが容赦なく魔法をたたき込める。

 非常に強引で非人道的な戦い方だが、効率は非常に良い。


 カリュオンが集めて、アベルが範囲魔法をぶっぱして、俺とリヴィダスが生き残りにとどめを刺して、ジュストが回収。

 なんという流れ作業。これぞパーティーでの協力プレイ!!

 効率の良い流れ作業で、サラマンダー部屋のサラマンダーはいなくなってしまった。

 ダンジョンなので時間が経てば、再びここにはサラマンダーが発生する。ダンジョンって不思議だなぁ! 美味しいなぁ!


 すぐには発生しないので、今日のサラマンダーはもう終わりだ。というかこの数のサラマンダーを解体すると思うと、少しゲッソリする。

 解体する時はジュストを巻き込もう。カリュオンもきっと手伝ってくれる。

 カリュオンはドリーやリヴィダスより器用だからな!! マジ頼りになるバケツ。

 アベルはきっと手伝ってくれない。というかアベルの解体スキルもやばいから、任せられない。

 めんどくさくなったら、そのままギルドに売ってしまおう。


「グラン、腹減った」

 早いな!?

 サラマンダーを回収し終わった頃に、バケツを外してカリュオンがぽつりと呟いた。

 昼までまだ少し時間がある。


 カリュオンのスキルの弱点はこれである。

 どういうスキルか詳しくは知らないが、激しい戦闘の後はとにかく腹が減るらしい。

 燃費の悪い防御スキルなのだろうと思っている。いや、あれだけの鉄壁防御だから、腹が減るくらいなら燃費はいいのか!?

 これはカリュオンとパーティーを組む時は予想できる事なので、あらかじめ歩きながら食べられる物を用意してきている。


 俺の手のひらくらいあるチーズを生ハムで何重にも包み、挽き肉の中に詰め込んだ巨大ハンバーグ。それにたっぷりとドミグラスソースをかけ、更にマヨネーズまでかけて、レタスと一緒にでかいパンで挟んだ、アホみたいにでかいサンドイッチをカリュオンに手渡した。

 俺特製カリュオン専用スペシャルハンバーグサンド!!

 ポーの葉で包んであるので、歩きながら手を汚さず食べる事ができる。


「ありがとう!! ポーションで魔力を回復させれば空腹感は治まるけど、それだと水分多くてトイレが近くなるんだよねぇ。ダンジョンでトイレが近くなるのは嫌だし、食べ物の方が満足感あるしね。あー、これはいいね、ものすごく食べてるって感じ。やっぱこれだよなぁ、グランがパーティーにいるとこれがあるからな」

 作った俺自身でも胸焼けがしそうなサイズのサンドイッチを、カリュオンがペロリと平らげて言った。

 魔力を激しく消耗するとすごく腹が減るので気持ちはわかるが、それでもすごい量だと思う。アベルもよく食う方だが、そのアベルもあのサイズであの肉の量には顔を引きつらせている。

 カリュオンの言う通りトイレ事情もあるから、ポーションは飲み過ぎたくないし、飯で解決できるなら飯のがいいよな。

 セーフティーエリアにはトイレが設置されているけれど、そうではない場所は……ね……。


 ちなみに冒険者ギルドの売店では、野外でも安全に用を足せる"どこでも安全トイレキット"なんて物も売られている。

 最低限の魔物避けと周囲から認識されなくなる結界が張れる魔道具と、浄化分解効果のあるポーションと、浄化効果付きの紙のセットだ。

 生き物だからどうしようもない事もあるからね……備えは大事である。


「この階層サラマンダー部屋しか美味しいとこないし、次の階層に行く? ミミックいっぱいいるのってどこだったっけ?」

 アベルのメイン目的はミミックなのか!?

「ミミックは十五階層だった気がする。あそこの階層はミミックだらけで人気ないんだよな。そこまで行く途中の階層は広さもあるし、この後は十二と十三階層散策して、ミミックは明日でいいんじゃないかな」

 十二階層は草原の階層で、広くて戦い易いし敵の強さもほどほどだし、薬草や果物も生えているし、普通に旨い階層なんだよな。

 草むらにはニトロラゴラも生えているけれどな!!

「十二と十三かー、あそこはあんまりめんどくさい敵はいないから俺は暇そうだなぁ」




 なんてのんきな事を言っていたカリュオンだが、十二階層では大活躍だった。

 草原エリアである十二階層は、ダンジョンの外は冬真っ只中だというに、年中春うらら。

 緑のあふれる草原には美しい花が咲き乱れている。時々変な肉食系植物が混ざっているが、そんなの気にしていたら冒険者なんてやってられない。


 そしてその草原の片隅に、場違いな木製の箱がいくつも置かれている。その大きさ成人男性の背丈ほど。

 草原にある場違いな箱、それはダンジョンにより生成された物ではなく、冒険者ギルドが設置している物だ。

 花の咲き乱れる草原、そこには無数のミツバチの魔物が棲息している。

 本来なら草原のブッシュの中や、周囲の木に巣を作るのだが、中身を回収しやすい人工的な巣箱を花畑の付近に設置しておけば、そこにも巣を作る。そちらにできた蜂の巣を回収すれば楽なので、冒険者ギルドが巣箱を設置しているのだ。

 そこで蜂の巣を採っていいよ、という事だ。もちろん採れるものなら……という条件付きだが。


 ちなみにこの人工的な巣箱、ダンジョンに吸収され難いように加工がされている。ミツバチの魔物が巣を作ると更に吸収され難くなるようで、設置してから一年くらいは持つらしい。

 劣化する頃に冒険者ギルドの職員、もしくはその依頼を受けた冒険者が、蜂の巣の回収と、新しい巣箱の設置に来る。

 管理費用はかかるが、箱を置くだけでハチミツがたっぷり貯まった蜂の巣を持ち帰る冒険者が増えるので、ギルドとしては儲かるという事だ。


 もちろん、蜂の巣を荒らすので外に出てくる蜂たちからは攻撃をされる。

 というわけで、ここはバケツ……タンク様の出番である。


「いいか、ジュスト。外に出ている蜂は攻撃性が高い。それをタンクが引きつけているうちに、巣箱の中の巣を回収するんだ。巣箱の中にいる蜂は大人しいから、上から叩けば下に逃げていく。上の方に蜂がいなくなったら、巣の上の方だけを切り取って回収するんだ。たまに反撃してくる蜂もいるから、スリープの魔法をかけてもいいぞ」

「はいっ!」

 視界の端っこには、ミツバチの魔物にたかられているカリュオンの姿が見えるが、細かい事は気にしない。


 いやー、この巣箱、タンクなしだと回収するの大変だから助かるなー。

 ミツバチのサイズ自体は手のひらサイズくらいなのだが、たかられて刺されると痛いなんてもんじゃないし、たくさん刺されると普通に死ねる。

 一人でやる時は、隠密スキルを駆使して催眠効果のある香を大量に焚きながらになるので、儲けがイマイチである。

 ありがとう、カリュオン。


 ちなみにミツバチがいるという事は、その天敵のスズメバチ系の魔物もいる。

 こちらは肉食でめちゃくちゃ凶暴で好戦的でやばい。

 今日はアベルとリヴィダスもいるので、蜂の巣の回収中に寄って来るスズメバチ系の魔物は処理してくれている。


 持って帰った蜂の巣を帰ったら絞らないといけないなぁー。いやー、ハチミツいっぱい取れそうでうれしいなあ。

「ちょっとグラン! ハチミツを取るのはいいけど、これタンクの使い方間違ってない!? って、熱っ!! なんかこの蜂ちょっと発熱してない!?!? なんかものすごく蒸し暑いけど!?!?」

 なんか向こうでミツバチにたかられてるカリュオンが叫んでいるけれど気にしない。


 ミツバチさんは巣箱を攻撃すると、防衛の為攻撃してくるが、基本的にハチミツを集めてくれる良い魔物だからな。無駄に殺さない為に、カリュオンにデコイになってもらうのが、平和的で効率的なハチミツの採り方だと思う。

 後で肉肉しいご飯を渡せば許してくれるだろう。


 春の陽気の草原エリアは今日も平和である。


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