第224話◆あれば便利なアイツ

「グランってさ、何だかんだで鬼畜だよね」

 もぐもぐと昼飯のハムカツサンドを食べながらカリュオンが言った。


 ハチミツ集めも一段落して、草原の片隅で綺麗な花畑を眺めながらランチタイムだ。ポカポカと暖かいしすっかりピクニック気分である。

 めちゃめちゃ魔物が闊歩しているエリアだが、アベルが魔物避けの結界を張ってくれているので、ボスクラスの魔物が突っ込んで来なければ平気だ。

 絶対的な安全地帯ではないので、昼ご飯は簡単で腹に溜まるシーサーペントのコロッケサンドだ。採れたてのシャキシャキとしたレタスと、特製の自作ソースで思ったよりいい出来だった。


 そんな中で、カリュオンだけは特別メニューだ。

 カリュオンの為だけに作ったハムカツサンド。分厚く切ったワイルドボアのハム二枚で、ワイルドボアのカツが挟んである。

 立派なハムカツサンドである。俺は何も間違っていない。


「え? そんな事は!?」

「あの蜂の群れをなすっておいて何を言うか。てかあれ、鎧の上からだと刺される事はないけど、あのミツバチの張り付き発熱攻撃は辛い。適当に振るい落としてたけど、鎧の中が蒸されて何が辛いって、汗だくになるんだよ」

 この階層にいるミツバチの魔物は強敵に対抗する手段として、その対象に集団で張り付いて自身を発熱させて蒸し殺すという、なんとも恐ろしい戦法を使ってくる。この階層のミツバチの魔物は、天敵のスズメバチの魔物をそうやって撃退しているのだ。

 このバケツ男、その攻撃をくらっても汗だく程度なんだ。恐ろしい熱耐性だな? もしかして溶岩風呂もいけるんじゃないのか!?

「あの後めちゃくちゃ汗臭かったよね。今でも何かちょっと匂う気がするし」

 シュッシュッとアベルがカリュオンに浄化魔法を飛ばす。


 ハチミツ集めが終わって、カリュオンにたかるミツバチを追っ払った後、カリュオンが自分で浄化魔法を使っていたが、アベルも一緒になって浄化魔法をかけていたのを見た。そういえばリヴィダスにも浄化魔法をかけられていたな。

 そんなに汗臭かったのか。

 まぁ、プレートの上から蒸されたら仕方ないよな。

「蜂の巣もたくさん回収したみたいだし、次はどこに行くつもりなんだ?」

「ニトロラゴラほしいなーって思ってた」

 この階層には、あのニトロラゴラも生えている。


 ニトロラゴラは他の植物、主に背の低い雑草が茂っている場所に紛れて生えている。

 コイツは他のラゴラ系と違い自分で地面から出てきて移動する事はないし、引き抜いても奇声を発したりはしない。

 いや、引き抜いたら奇声を発する前に爆発すると言った方が正しい。

 ちょっとした振動で爆発するニトロラゴラは基本的に、人通りがあまりなく、魔物もあまり通らない場所に生えている。

 そういう場所以外に生えているニトロラゴラは、冒険者や魔物に踏まれて爆発するのでほとんど残っていない。

 そういえば、さっき蜂の相手しながらカリュオンの足元が爆発しているのが見えたな。


 まぁ、ある程度ランクの高い冒険者で、しっかりとした装備を着けていれば、一個くらいニトロラゴラを踏んでも少し吹き飛ばされるくらいだ。

 しかし衝撃に対して耐性がないと、うっかり足の一部に重傷を負う事になるので、軽装の者やランクの低い冒険者だと油断はできない。


「グランはニトロラゴラ好きだよね」

「そんな事は……」

 ないとは言い切れないな……だって便利なんだもん。

「ニトロラゴラは爆発させるのは得意だが、回収するのはやった事ないな。あの密集地帯を揺らすとポンポン連鎖するの楽しいよな」

 やめろ、ニトロラゴラ地雷原の地面を鈍器で揺らすのはやめろ。いくら衝撃耐性のある防具でもニトロラゴラ連鎖爆発には巻き込まれたくない。


「そういうわけで、俺はジュストとニトロラゴラ回収に行くから。他はどっかで何か狩っててくれ」

「僕もですか?」

 ジュストにはニトロラゴラの生態と回収方法を教えておかないといけない。一応冒険者ギルドの初心者講習でも習うはずだか、うっかり踏まない為に実物で説明もしておいた方がいい。

「え? ジュストも連れて行くの? グラン一人で行かせるよりはいいけど、変な事教えたらだめだよ」

 どれだけ信用ないんだよ、俺。

「そうね。ジュスト、グランが暴走しそうになったらすぐに逃げていらっしゃい」

 リヴィダスまでひどい。

 ニトロラゴラは、駆け出しの冒険者がうっかり踏んで大怪我する事の多い魔物だから、ちゃんと教えておかないといけないの!





 そんなわけで、アベル達とは別行動で草原の外れへ。

 人も魔物もあまり立ち入らない草むら、そこに奴らはいる。

「ジュスト、そこにいるのがニトロラゴラだ。わかるか?」

「えっと、ただの草むらにしか見えないし、ぜんぜん魔物っぽい気配も感じないです」


 ラゴラ系のような根菜系の魔物は、地面に埋まって大人しくしている時は、気配もなく他の植物と見分けがつきにくい。

 それがラゴラ系の恐ろしいところだ。しかもニトロラゴラは、踏んだら爆発してしまう。いや、近くを駆け抜ける衝撃だけでも爆発する。

 とりあえず何をやっても爆発すると言っても過言ではない。

 生命体として全くもって意味がわからない生き物だが、ニトロラゴラはダンジョンにしか棲息せず、ダンジョンが生み出すだけの魔物なので、深く考えたら負けである。


「その草の中に、ニンジンの葉っぱみたいなやつがあるのはわかるか? って、ニンジンの葉っぱはわかるか?」

「あ、はい。小学校の菜園で植えていたの見た事あるので、それはわかります。あ、あれですね」

「そうそう、ちょっとだけ根っこの頭の部分が見えるだろ? その茎との付け根をよく見ると赤い魔石があるだろ? あれがニトロラゴラだ」

 雑草に混ざって地面に埋まっているニトロラゴラを指さす。

「あ、ホントだ。よく見ないと全くわかりませんね。知らないと普通に踏んじゃいますね」

「そうそう。人通りの多い場所にはあまりいないけど、全くいないわけじゃないから、ニンジンそっくりな葉っぱを見たら気を付けろ」

「はい!」

「では、これからニトロラゴラの爆破実験を行う」

「え?」

 どれくらいの爆発が起こるかは実際に見た方がいい。


「少し後ろに下がるぞ」

 ジュストを促して、ニトロラゴラが混ざっている草むらから距離を取る。

「爆破しても大丈夫なんですか?」

「ああ、地面には水分が含まれているし、普通のサイズなら他の爆発系素材と混ぜて威力を上げない限り、そこまで大爆発にはならない。いくぞ!」

 地面に落ちていた石ころを拾ってニトロラゴラのいる草むらへと投げ込んだ。



 ドーンッ! ドドーンッ! ドドドドドーンッ!! ドゴオオオオオオオッ!!


 おお、デカイのが混ざっていたな!?

 俺が投げ込んだ石で一つ目のニトロラゴラが爆発し、その衝撃で周囲に埋まっていたニトロラゴラが連鎖して爆発した。

 一匹でっかいのが混ざっていたようで、思ったより大爆発になってしまい、パシパシと泥と小石が飛んできていた。


「ひええええええ……。こんなの、踏んだら普通に死にそうですよ」

「ああ、死ななくても重傷を負う事になるから、ダンジョンでは致命的だと思っていい。衝撃耐性のある装備なら衝撃を軽減できるから、足回りはしっかりした装備にしておくといい」

「は、はい、わかりました。ウーモさんに作ってもらったブーツは衝撃耐性の付与をしてます」

 靴に衝撃耐性系の付与は、高い場所から飛び降りた時の着地時の衝撃も軽減できるし、ブーツに付ける付与としては鉄板だな!

「湿気た土の中でこの威力だから、乾燥した場所や、採取した後にしっかり乾燥させて投げると更に威力が上がるから、取り扱いには注意が必要だ。では、これよりニトロラゴラの採取に取りかかる。この辺のニトロラゴラは吹き飛んでしまったから、別のところに行こう」

「はいいいい」


 ニトロラゴラの採取は、スリープ系の魔法で眠らせるか、催眠効果のあるポーションを使って眠らせてから、そっと魔石を取り出して周囲を水で浸した後に回収する。

 水で濡れていると爆発しないからだ。

 水で濡れていると爆発しないからといって水をぶちまけると、その衝撃で爆発するので、魔石を抜き取ってからそっと水を流し込むのだ。

 その後はゆっくりと引き抜いて収納の中へ。

 こんな物騒な素材の為、収納スキルかマジックバッグがないと回収できない。

 しかも使い道が爆弾ポーションくらいしかない上に、そのポーションも衝撃で爆発するので、売る事もできずにたくさん作っても持て余す。

 それに爆発物で魔物を倒すと素材が傷つく為、使い所は限られる。

 そんなニトロラゴラだが、ここのとこニーズヘッグ騒動やらシランドル旅行でやたら使った気がする。

 あると便利だし、少し余裕を持って多めに補充しておこう。



 この後ジュストとめちゃくちゃいっぱいニトロラゴラを採取した。

 帰ったら一緒にポーションにしような。

 ちなみに爆弾ポーションの作成は、屋内ではやらない。曇った日に、屋外の広い場所でやるのだ。何事も安全第一である。


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