第222話◆防御ゴリラと魔法ゴリラ

「おー! グランだ! 本物のグランだ! チョーひっさー!! こっちのちっこい子もよろしくー! カリュオンだよー!」

 うるさい。チャラい。そして朝からテンション高い。

「いよぉ、久しぶりだな」

「ジュストです、よろしくお願いします」


 ジュストと王都観光した翌日は、朝一で王都冒険者ギルドの前でカリュオン達と合流した。

 朝から妙にテンションの高い、金髪ロンゲのチャラ男がカリュオンである。

 ヒョロヒョロと細い体に見合わず、冒険者には珍しいプレートアーマーで全身を固めている。

 町の中なので兜は外しているが、強い魔物が出現する場所に行くと、目の部分だけ空いているバケツのような兜を装着し、左手には巨大な盾を持つ。

 すごく防御力高そうなフルプレートアーマーなのだが、兜がバケツに似すぎていて、フル装備の時は俺の中で勝手にフルプレートバケツと呼んでいる。

 カリュオンはドリーのパーティーのタンク役でAランクの冒険者である。タンクなので防御重視でこのバケツ姿なのだ。そして、タンク向けのスキルとバケツアーマーと大盾のおかげでクソ堅い。

 ヒョロヒョロチャラチャラしているが、戦っている時はまさに鉄壁。とても頼りになるバケ……、いやタンクである。


 カリュオンがヒョロヒョロとしているのは、決して体を鍛えていないわけではない。ヒョロヒョロしているが、クソ重そうなバケツを着て、でかい盾と武器を持って走り回るゴリラっぷりは、ドリーといい勝負だ。

 実はヒョロバケツ、ハーフエルフである。そのせいで、ひょろりと背が高い。そして、エルフなので無駄に顔が整っている。行動は暑苦しい男だが、アベルとはまた違う属性のイケメンだ。

 魔法が得意なエルフの血を引いているはずなのに、妙に筋肉質な戦闘スタイルとスキルの持ち主なのだ。筋肉質だがエルフの血が流れている為、魔法もそこそこ使える、タンク型の魔法戦士――それがカリュオンだ。


 そしてこのバケツ男、鈍器使いである。今日はリヴィダスもいるので、鈍器系が二人いるのだ。

 この二人同時に殴られると敵は一瞬でミンチ状態だ。つまり、素材が原形を留めていない。そうなる前に敵を倒して回収するのが、今日の俺のミッションだ。素材大事、すごく大事。

 まぁ、でもカリュオンがいるなら、敵は全部カリュオンになすって、俺は安全地帯から悠々と攻撃すればいいからとても楽だ。

 カリュオンレベルのタンクになると、アベルが纏め狩りする為につれて来た魔物の群れを、ブーブー文句を言いながらあっさり捌いてしまうからな。

 カリュオンがいるなら、久しぶりに纏め狩りしてもいいかもなぁ。


「ドリーがいないからって、無茶な敵の狩り方したらダメよ。特にアベルとグラン、トレインなんかしない事。ジュストに変な事を教えない事」

 うぇっ!? リヴィダスに釘を刺された。後、変な事は教えてない。

「えー、せっかく五人いるのにー? カリュオンも纏め狩り好きでしょ」

「纏め狩りは爽快感あるけど、どっかの魔道士の範囲魔法に巻き込まれるからな!!」

 カリュオンは物理的な防御力も高いが、魔法にも強い。そのせいで、アベルはカリュオンが魔物の群れの中にいても、平気で範囲魔法を撃つ。

 カリュオンもそれには慣れっこなので、上手い事躱すが時々巻き込まれる。それでも文句を言いつつケロっとしているから、バケツすげーな!!

 何というか魔法ゴリラと防御ゴリラ。


 今日このメンバーで行くダンジョンはBランクで、当初はダンジョンで一泊の予定だったが、ラト達が留守番をしてくれると言うので三泊に予定を変更した。

 リヴィダスとカリュオンにはついさっきその話をしたばかりなのだが、俺がいるなら一泊も三泊もたいしてかわらないと言う妙な理論で、あっさりと三泊に変更された。

 一応食料は収納にたんまり入っているけれど、突然二日も予定延びて大丈夫なのか!?

 ダンジョンから戻ったら装備を取りに行く予定だったウーモのところにも、ギルドから手紙を出しておいた。

 ちょこっと不安な物資は、ギルドの売店で買い足して出発!!




 徒歩だと半日ほどかかる距離なのだが、このダンジョンを訪れる冒険者も多い為、ダンジョン行きの乗合馬車が出ている。

 また、ギルドで馬を借りてダンジョンの入り口にあるギルドの出張所で返す事もできる。帰りは現地に馬がいれば、またそこで借りる事ができる。

 今日はアベルがいるので、アベルの転移魔法でピョーンっと行くので超楽ちんだ。


 余談だが、タンネの村での雪玉直撃事件以降、アベルの転移魔法の転移先が距離より安全優先の場所の事が多くなった。そして念には念を入れて、しっかりと防御魔法が使われるようになった。

 あの時は正直すまんかったと思ったが、転移先の安全は重要なので結果よしだな!!


 今回行くダンジョンは、上層は天然の洞窟のような地形ばかりだが、中層からは天然の洞窟以外にも草原や森といった地形の階層がある。下層まで行くと高難易度の火山エリアや雪原エリアもあったりする。

 ダンジョン内部は非常に広く階層も三十階層まである。大型の魔物も多く、そのランクはCからBランクがほとんどだ。奥の方の階層では雑魚敵のランクもほとんどBランクになり、フロアボスはAランクの個体もいる。


 魔物のランクが高く危険なダンジョンだが、それだけ儲けも多いし、採取できる資源も高価な物が多い。

 上の方の階層はBランクパーティーのよい狩り場となっている。中層より奥はAランク以上の冒険者向けで、ここら辺りになると俺は完全に火力不足になる。

 下層まで行くと俺は完全に空気である。


 今回の目的は人の多い上層は通り過ぎて中層。下層は行かない予定だ。

 三十階層まであるダンジョンの為、十一階層目からが中層扱いである。

 大きなダンジョンの為、区切りのよい階層には転移魔法陣が設置されており、今回はそれを使って十一階層の入り口まで移動して、そこから三泊四日でのんびり探索予定だ。


 このダンジョンの十一階層には、サラマンダーが密集して生息している場所があり、戦力が足りていれば非常に美味い狩り場だ。

 ただしその数は非常に多い為、ソロや少人数、火力不足だとサラマンダーの数の暴力により、一瞬で蹂躙されてしまう。

 Cランクの魔物で単体では、吐き出してくる火の玉と突進に気を付ければたいして強い魔物でもないのだが、数の暴力は恐ろしい。



「とりあえずここに来たら、サラマンダーだよなーっ!! あそこなら元から密集してるから、かき集めなくてもいいしな!!」

 何だかんだでカリュオンは纏め狩りが好きである。

 サラマンダー地帯が近づいて来てかなりご機嫌である。

「トカゲの真ん中でトロトロしてると、魔法に巻き込んじゃうからね」

「巻き込まないように魔法使えっつーの」

 範囲狩り大好きの二人のテンションが高い。

「はいはい、そろそろサラマンダー部屋よ。準備しましょうね」

 そんな二人にあきれながら、リヴィダスがパンパンと手を叩きながら、身体強化の魔法を全員にかける。

「カリュオンが集めて、アベルの範囲魔法で纏め狩りでいいか。俺とリヴィダスは漏れ処理、ジュストは回復と回収役かな? 俺も手が空いたら回収に回るよ」

「わかりました!」

 リヴィダスに続いてジュストも全員に、バリア系の魔法をかけた。サラマンダーは火の玉を飛ばしてくるので、バリア系の魔法はありがたい。


 俺はミスリル製のロングソードを取り出して戦闘準備に入るが、アベルの範囲魔法の後に攻撃に向かうつもりなので身体強化はまだ発動しない。

 うっかりアベルの魔法に巻き込まれるとたまったもんではない。あんなん巻き込まれて平気なのはカリュオンくらいだ。

 そのカリュオンは俺の横で、マジックバッグからバケツのような兜を取り出してスポッと被り、自身の体が隠れるほどの大盾を左手でひょいっと持ち上げ、右手に先端がトゲ付きの球状になっている大型の棍棒を持っている。

 総重量どんだけあるんだ……。

 大盾は防御用だが、あんなもんでぶん殴られたらそれだけで大ダメージである。



「それじゃ、いっくぜええええええええええっ!!」

 サラマンダーが密集する部屋に到着し、カリュオンが真っ先に部屋に突っ込んで行く。

 カリュオンに気づいたサラマンダー達が、カリュオンに向かって火の玉を吐くが、カリュオンはそれを全く気にせずにサラマンダーの群れの真ん中を目指して走る。

 その軌道上にいるサラマンダーがカリュオンに突進するが、三メートルを超えるサラマンダーが逆に跳ね飛ばされて地面に転がる。

 まるで暴走する猛獣だな!? いや、暴走するバケツだな!?


 サラマンダーの群れのほぼ真ん中辺りまで行ったカリュオンがドンッと盾を地面につき、咆吼のような雄叫びを上げた。

 威圧にも近い闘気がカリュオンを中心にブワッと広がり、サラマンダー達の注意がほぼ全てカリュオンに集まる。

 そしてサラマンダー達はカリュオンに向けて一斉に攻撃の態勢に入るが、サラマンダー達が攻撃をするより早くカリュオンが右手の棍棒を床へと打ち付けた。

「うわっ!」

 その衝撃で周囲の床が震え、カリュオンのスキルを知らないジュストがよろめいた。


「あれがタンクの戦い方だ。いいかジュスト、タンクはパーティーの盾だ。タンクが敵の注意を引きつけている間、他のメンバーはフリーの状態で戦える。その代わりタンクは敵の攻撃を一斉に受ける事になる。カリュオンは頑丈だがダメージを受けないわけじゃない。タンクを支えるのはヒーラーの役目だ。傷だけじゃなく体力にも気を配るんだ」

「はい!」

 敵の注意を一身に引き受ける盾が安定している限り、他のメンバーは自分の攻撃に集中できる。敵の攻撃を気にせず一方的に攻撃を続ける事ができるのだ。

 時々ドリーのような、負傷時に能力が上がるとかいうマゾいギフトの者もいるが、あれは例外だ。


 カリュオンが棍棒で床を打った衝撃で、サラマンダー達の動きが止まり、中にはひっくり返っているものもいる。

「早く範囲外に行かないと巻き込むよー」

 背後からアベルの声がして、冷たい空気が流れてきた。

「っちょ!? 待てよバカ!!」

 サラマンダーの群れの中にいるカリュオンが叫んでいる。


 背後のアベルから無数の氷の矢が発射されるのが見え、カリュオンがそれを躱しながら範囲外に退避するのが見えた。

 避けきれなかった氷は体で受け止めている。普通なら突き刺さりそうだけれど、氷の矢は鎧に当たって砕け散っている。

 あのバケツどんだけ堅いんだ。


「ジュスト一応回復を飛ばしてやってくれ」



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