第221話◆シーサーペント料理を考える会

「お、これはいけるな。少し手間はかかるが許容範囲だな。揚げ物だし腹にも貯まる」

「チーズを入れると更にボリュームも出て、アクセントにもなりそうだな。シーサーペントにチーズは合いそうだし」


 塩抜きしたシーサーペントの干物を、ゆでた後に骨と皮を取り除いて身をほぐし、すり潰す。それにふかして潰したパタイモとみじん切りにしたタマネギを合わせてよく混ぜる。

 塩と刻んだパセリと刻みニンニク、ナツメグを少々加え味を調える。胡椒も足したいところだが、胡椒を使うとコストが跳ね上がってしまう。各地から物が集まる王都でも、胡椒は高価なのだ。

 これを手で握って丸めるのだが、水分が足りなくてパサパサするので、卵黄を少し加えたら綺麗に纏まった。

 最後に小麦粉にまぶして、溶き卵でパン粉を付けて油で揚げたら完成。

 シーサーペントのコロッケである。

 わりとあっさりめなので、パクパクといけそうだ。中にチーズを入れたらアクセントになると思うんだ。


「グランの悪いところだな。何でもチーズを入れればいいと思っている節があるだろう。チーズが好きなのはわかるが、誰もがそうだと思って料理を作ってはダメだぞ」

「うっ!?」

 ばれたかっ!! だってチーズ好きなんだもん。

「気持ちはわかるが、チーズは好き嫌いが出る食材だからな。確かにこれはチーズが合いそうだから、チーズなしとチーズ入りの両方を用意するのが良さそうだ」

 うちはチーズ嫌いがいないみたいだから、つい何でもチーズを入れてしまう。もしかしたら、チーズが苦手な人がいるかもしれないから、気を付けよう。


「こっちは、丸めて揚げる前の状態のやつに、刻みニンニクを更に増量してミルク少量を加えて、しっかり捏ねて釜で表面だけ焼いた物だ。これをこうして崩して、レタスと一緒にパンに挟んで食べるのはどうだ?」

「ん? ああ、これはいいな。ニンニクの香りが食欲を刺激するな。あー、でも昼に食べると匂いが気になりそうだな。夕飯向けの持ち帰り用があってもいいかも? これなら手に持って食べられるから携帯用にもいいし、一人暮らしや宿暮らしの冒険者が気軽に持って帰って食べられる」

 料理しない人や、宿暮らしだと自分用の食器を持っていなさそうだし、手に持って食べられる物がいいんだよね。手に持って食べられる物なら、近場の依頼に行く時の弁当にもなるし。


「後は女性が好みそうな物が欲しいな。脂っこい物やニンニクの香りが強い物は、避ける女性は多いからな」

「うーん、じゃあスープパスタみたいなのは? 先にシーサーペントを焼いて身をほぐしておいて、これはいったん除けておく。パプリカとかタマネギとか野菜類をエリヤ油で炒めた後に、シーサーペントと野菜系のスープを足してサッと煮立たせて、それをパスタにかける感じ? 少量ならニンニクが入っててもいいかな? 素揚げしたメラッサとか青トウガラシとかを後からトッピングしてもいいな。あ、そうだ、煮る時にミミックの干物をちょっと入れてもいいかもな」

「ミミックの干物? ミミックそのままだと少々臭さみが強くてこの辺りでは食用にはしないが、土地が痩せている地方では、ミミックを食用にする地域もあったな」

「そうそう、これこれ」

 スススッとミミックの干物を取り出して、マルゴスに差し出した。


「むっ!? 何だこれは!? ミミックは干物にすると甘みが強くなるのか」

 ミミックの干物を囓ったマルゴスが目を見開く。

「以前その地方の方に行った時に、作り方を聞いてたから作ってみたんだ。塩ゆでして天日干しするだけだな。晴れが続けば一週間くらいだ」

「なるほど、それは簡単だな。近くにミミックの多いダンジョンもあるし、ギルドでミミックの肉を募ればすぐに集まりそうだな。酒のアテにいいし、干物だから日持ちもして携帯食にもなる。持ち帰り用の商品としても売れそうだな」

「スープの素にもなるぞ」

 ミミックの干物ホント優秀。

「とりあえず、グランの案のシーサーペントとミミックのスープパスタを作ってみよう」




「やば、これは美味い。だが、ちょっと胡椒が欲しくなるな」

 できあがったシーサーペントとミミックのスープパスタは、思った以上の美味さだった。

 シーサーペントの干物の塩味と、ミミックの甘みが混ざったスープが麺に絡んで、口の中でほのかに甘い塩味とパスタの小麦の風味が広がる。それでも、もうちょっと何かアクセントが欲しい。


「何にでも胡椒をかけて誤魔化すのもグランの悪い癖だ。しかしこれは確かに胡椒が欲しいな。少し値段が上がるが胡椒を使うか」

 く、胡椒は前世で馴染みすぎて、つい前世の感覚で使いたくなるのだ。

 しかし店で出す物となると、客層を考えてそれに合わせた材料費にしないといけないしな。

 自分の為の料理とやはり勝手が違うな。商売ってやっぱり難しい。胡椒を使わないで、程よいアクセントと風味になる物はないかな?

「そうだ、胡椒じゃなくてアッピでもいいかもしれない」

 アッピとは赤トウガラシに似たスパイスだ。エリヤ油の香りとニンニクと相性のいいアッピを入れるのはありかもしれない。

 後から加えるよりエリヤ油で野菜を炒める時に一緒に入れると、油に風味が移ってよく馴染みそうだ。

「お? アッピか? ピリ辛にすれば、胡椒がなくても気にならないな。アッピを入れてみよう」

 マルゴスがアッピを取りに薬味棚の方へと行った。


 やばい、料理の試作は楽しいが、食べすぎて夕飯が食べられなくなりそう。








「グランさーん、アベルさん達がお迎えに来ましたよー」

 マルゴスと料理作りに没頭していると、ホールからウェイトレスのおねーさんの声がした。

 もうそんな時間か。

「おっと、俺もそろそろ夕方の準備もしないといけないし、ここまでだな。久しぶりにグランと料理出来て楽しかったよ。また、王都に来たら立ち寄ってくれ」

「ああ、こちらこそいろいろ勉強になったよ。また来た時はよろしく頼む」

 楽しいお料理試作タイム終わり!!

 試作に付き合ったお礼といって、試作品の残りとシーサーペントの干物を少し分けてもらえた。少しといってもかなりでっかいのだが。今夜はシーサーペントかなぁ。

 いや、昼からシーサーペントばっか食ってるから、今日は別の物にするか?



 厨房を片付けてホールに戻ると、げっそりとした顔のアベルとジュストが待っていた。

「なんか妙に疲れてる顔をしてるけど、何かあったのか?」

「うん、上で古本を見ていた流れでギルドの本館の図書館に行ったら、ビブリオに遭遇して本の中に引っ張り込まれた。なんであんなとこにビブリオなんているの……」

「僕が開いた本からいきなりでっかい狼出てきちゃって、横にいたアベルさんも一緒に引き込まれちゃいました、すみません」

「いや、ジュストのせいじゃないからね。運の悪い事故みたいなもんだよ、アレは」

 俺のいない間に楽しそうな体験してるなぁ。

 まぁ、たいして害のない妖精だし、本の中に引き込まれている間は、時間が流れないとかなんとかと聞いた事あるけれど、なんでそんな疲れた顔をしてるんだ?


「どんな本に引き込まれたんだ?」

「子供向けの冒険譚? 多分、初心者冒険者向けにおいてあったんだと思うけどさ、主人公は何か妙に格好付けてるし、登場人物の魔道士がすごくキザったらしくて性格悪いし、見てて疲れちゃったよ」

「登場人物はすごく癖ありましたけど、魔物の種類や倒し方の解説が詳しくてわかりやすかったです」

「ああ、それは良かったね。主人公が解説の為にずっとしゃべり通しで、うるさいから疲れたんだよね。俺の知らない情報もあったし、文字で読むには良い本だったかもしれないね」

「へ、へぇ~。ビブリオなんて珍しい体験したなー。俺はまだ会った事すらないよ」

「俺も実際引き込まれるのは初めてだよ。あー、もう疲れたから帰ってコタツでゆっくりしよ。明日からダンジョンに行くし帰ろ帰ろ」

「そうだなー、帰って飯食って明日の準備するかー」




 さぁ、明日から楽しいダンジョンだ!!



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