第220話◆お値段以上の物探し

「メインの装備はウーモのところでだいたい揃ったからな。ここでは予備の装備や掘り出し物を探そう」

「予備の装備ですか?」

「どこで何が起こって突然装備が使えなくなるかわからないからな、予備はあった方がいいな。予備の予備まであると完璧だ。それから、何か使えそうな物だ!! いざという時に役に立つかもしれない!!」

「何かに使いそうな物」

 昼食の後、別館の四階の中古品コーナーへとやって来た。

 ここには中古品以外にも、ダンジョンや遺跡で発見されたけれど買い手の付かなかった物や、賊の討伐で回収された持ち主不明な物などもある。まぁ、つまり中古品と売れ残り品、曰く付き品コーナーだ。


「グランが中古品を漁りたいだけでしょ。それに、いつも言ってるけど、何かに使ういつか使うって使ってない事の方が多いよね? いいかい、ジュスト。いつか使うは使わない事の方が多いからね? 買い物をする時は、ちゃんと将来的にどうするか計画を立てて決めるんだよ」

「はい! わかりました!」

 む? まるで俺が無計画に買い漁っているような言い方だな? ちゃんと、いつか使う予定で買っているのだ。

「でもね時々掘り出し物があるから、ひとつひとつ丁寧に鑑定して見るといいよ。一見役に立たなさそうな特殊効果が付いている物でも、じっくり考えてみると、すごく有用な物だったりするからね」

「宝探しみたいで楽しそうですね!」

「うんうん、なかなかそういう都合の良い物はないけど、見つかると楽しいから見て回ってごらん」

 俺が言いたい事全部アベルに言われた。なんか悔しい。


 冒険者ギルドのショップの商品は、精度の高い鑑定持ちのギルド職員が確認した後に店に並ぶ為、性能や価値に見合った値段が付けられている。

 だいたいの物は適正な価格が付いているのだが、ごく稀にぱっと見ではイマイチな効果でも、自分のスキルと相性が良く、自分にとってはお値段以上の価値がある物が見つかったりする。

 俺の場合分解スキルがある為、ごくわずかでも高額素材が混ざっている物が安く売られていたら買いである。


 お、こっちのは少しだけミスリルが使われているな。箱庭のせいでミスリルの在庫が減ったし、分解して取り出せばいいから買っておこう。

 む? これは魔法銀のスロウナイフセットか。かなり使い古されるが、研ぎ直して付与を対アンデッド系に書き換えたら使えるな。安いし買っておこう。

 こ、これは竜の鱗のマントかっ!! ああ、真ん中が破れているのか。何か強力な攻撃を食らったのだろうな。このままだと破れていて使えなくて安いのか。

 しかし、竜の鱗のマントにこれだけの傷だと、元の持ち主は無事だったのだろうか。まさか、曰く付きか!?

 いや、安いから買っちゃうけどな。破れている部分で分割して、ほかの装備に作り直そう。竜の鱗だから付与素材にもなるしな。


「あー、グランはもう自分の世界に入り始めてるね。ジュスト、あっちには古本コーナーもあるから、あっちも見てみるといいよ」

「はい、わかりました!」

 アベルに何か言われた気がするけれど、俺は今忙しいのだ!!


 お、小型のマジックバッグじゃん。あんま高くないし財布にちょうどいいな。

 うわっ! 何だこのめちゃくちゃ錆びた剣は!? 触ったら手に錆が付いたぞ!! 汚っ!! 錆びる前は結構きれいな装飾だったようだが、腐食してボロボロだな。

 これが前世のゲームとか物語だったら、伝説の剣なのだろうけれど、どう見てもただの魔法鋼の剣だな。

 こういう時、鑑定スキルがあると夢も浪漫もないんだよなぁ。って、めちゃくちゃ安いな、分解すれば素材としてプラスになるから買っておくか。



 何だかんだでいろいろ買ってしまったな。

 中古品とかジャンク品を漁るのはすごく楽しいから仕方ない。しかも安いから量の割に金もあまり使っていない。つまりお得な買い物なのだ!!


 む、アベルとジュストは古本コーナーか。

 古本コーナーには、魔法や調合、魔術などの古本が多くある。古本コーナーも、浪漫があるんだよな。

 古本も漁りたいところだが、料理長のところに行く約束があるし、またの機会だな。


 余談だが、本がたくさんある場所には、ビブリオという本の妖精が住んでいる。ギルドの古本コーナーくらいの数だと無理だが、大きな図書館や書店に行くと、時々ビブリオの痕跡を見つける事ができる。

 本好きの妖精で、本が好きな人間も大好きらしい。大好き過ぎて、本好きの人を本の中に引きずり込んでしまうという妖精だ。

 引きずり込むと言っても、物語の中に入って物語を間近で見せてくれるくらいで、キリの良いところで元の場所に返してくれるそうだ。

 俺も話で聞いた事があるだけで、実際にビブリオに出会って本の中に招待された事はない。

 出会った人の話によると、大きなモフモフした狼のような姿をしているらしい。何それ、すごくモフってみたい。 



 アベルとジュストは古本コーナーをまだ物色するようなので、買い物が終わった俺はガストリ・マルゴスへ。

 俺はこれから料理長と一緒に料理をするので、後でアベル達がガストリ・マルゴスに迎えに来る予定だ。

 人が多く集まる料理屋なので、食材の種類も豊富だ。

 いくら俺が食材を貯め込んでいて、アベルが頻繁に肉を持ってくるといっても、人が多く集まる料理屋の在庫には敵わない。





「お、来たか!」

 ガストリ・マルゴスの店内に入ると、カウンターで夕方のピークに向けて仕込みをしていた料理長のマルゴスが笑顔で迎えてくれた。

 昼のピークも過ぎて人が来なくなる時間の為、店は夕方まで準備中になっている。店員さん達は店のすみっこで賄いタイムのようだ。


「エプロンを貸してもらえるかな? あと浄化魔法もかけてほしい」

 小汚い冒険者装備で厨房に入るわけにいかないので、ぱぱっと装備を外してエプロンを借りた。

「相変わらず魔法が使えないんだな」

 マルゴスに浄化魔法をかけてもらって厨房の中へ。


「北の方は秋から冬がシーサーペントの旬だからな。ちょうど今の時期はそのシーサーペントの干物が、王都にもたくさん入ってくるんだよな」

 シーサーペントとは海に棲む巨大なウミヘビのような龍種魔物で、海上での戦闘となる為そのランク付けは成体でAの上からS以上という非常に強い魔物である。

 世界中の海にいる魔物だが、気温が下がると活動が鈍くなりBランク程度まで弱体する為、寒冷地では冬場にシーサーペント漁が行われる地域もある。

 ユーラティア王国だと国の北側の沿岸部が、冬になるとシーサーペント漁が盛んになる。

 そして冬場のシーサーペントは脂がのっていて美味い。


 ユーラティア王国の王都ロンブスブルクは、王国の西部の平野部に位置し、西側に大きな内湾があり近隣の町から多くの海産物が入ってくる。

 また、北西部の沿岸部とはやや距離はあるものの、街道が整備され険しい道もほとんどない為、国北西部から物資も多く入ってくる。

 その中に、冬場が旬のシーサーペントがある。

 とはいえ、やや距離があるのと、シーサーペントはそのままより干物の方が旨味が増す為、王都に入ってくるシーサーペントのほとんどは、塩漬けにされた干物である。


 適度の大きさに切られて、塩漬けにした後に干物にされたシーサーペントの切り身が、調理台の上に水に漬けて塩抜きをされている。

 俺が昼に食べた日替わり定食のシーサーペントも、こうして塩抜きをされて調理された物だ。がっつり塩漬けしてあるから、そのままだと少し塩辛いんだよね。

 そうだ、帰る前にシーサーペントの干物を買って帰ろう。


「では、今が旬のシーサーペントの干物を使ったメニューを考えるか」




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