第217話◆性能と浪漫の両立
「あー、いや、ジュストは事情があって生き物を殺せないんだ。できれば殺傷能力低めで、行動不能にできるような仕掛けがいいかな」
「仕掛け」
ジュストが不思議そうに復唱しているが、装備の見えない箇所に色々と仕込みをするのは、冒険者の嗜みであり浪漫である。
「ふむぅ、不殺武器かー。以前グランと作ったクロスボウの付いたガントレットのような物か」
「ああ、あれは今でもよく使ってる。だけど、ジュストにはどうかな? ジュストは魔法が使えるから遠距離より近距離から中距離を強化する方がいいかもしれないな」
ジュストは魔法が使える為、威力を殺した遠距離武器を使う必要はない。
「そうじゃのぉ……ではこれならどうかな?」
ウーモが持ち出して来たのは、ぱっと見ただのガントレット。魔法銀製で魔力との相性も良い為、魔法職でも気にせず装備できる物だ。
そしてそのガントレット、指先が全体的に尖っており、その中でも右手の中指が少し大きめに作ってあり、先端が突出している。おそらくそこに何か仕込んであるのだろう。
「右手の中指に何か仕掛けがあるのか?」
「うむ、そうじゃな。右手中指に毒を仕込めるようになっておる。相手を掴んだ時に先端の尖っている部分を突き刺せば、仕込んだ毒が出るようになっておる。行動不能狙いなら麻痺毒がええかの」
なるほど、致死性のある毒を仕込んだら恐ろしい武器になるやつだな。しかし、中指が少し目立つから、知能の高い相手には警戒されそうだな。
「中指の形が、あからさますぎないか?」
「安心せいそれは釣りじゃ。中指だけではなく手首の内側に針が仕込んである。握手するふりをして、プスッといけるぞ」
「どう見ても暗殺用の防具じゃねーか!!」
「ついでに、甲の部分からは三発だけじゃが、小さい針が打ち出せるようになっておる。まぁこれは、魔物より対人間用じゃな」
「やっぱり、暗殺用じゃないか!」
物騒すぎるガントレットだな!?
「左手にも仕込みがあるぞ。左手には、接着効果が付与してある爪が付いているワイヤーが仕込んである。魔力を通すと伸縮自在の素材でできたワイヤーが伸びて、先端の爪は引っ掛かった場所に接着効果でしっかりくっつくようになっとるぞ。扱いには慣れが必要じゃが、高い場所に登る時や、落下した時に役に立つぞい。魔力を流すのを止めると爪の接着効果は消えて、ワイヤーも縮んで手元に戻るようになっとる」
む、なんかそれはかっこいいな? そして、便利そうだな!?
「その爪付きワイヤー、俺の腕防具にも付けて欲しいぞ!?」
「ぬ? そんな複雑な物でもないからええぞ」
「よっしゃ! って、先にジュストの装備を選ばないと」
面白そうな装備だったので自分も欲しくなったが、まずはジュストだ。
「そうじゃったの。坊主は何か希望はあるか? 何となくでもええぞ」
やっぱジュストの使う物だしジュストの希望に添うのが一番いいよな。
「えぇと、左手は爪付きのワイヤーがいいです。右手は体術向きの装備で、なおかつ魔法が強化される物とかできますか? 体術と魔法を併用するなら杖が持てないので、杖の代わりを兼ねた素手用の装備が欲しいです」
「ふむふむ、なるほど。それだけなら、そう難しくないぞ。そうじゃのぉ、拳で殴るのに向いた小手に、魔法強化系の付与をするかの。その手の付与なら、わしよりグランがやった方がいいかもしらんな。じゃが、それだけでは面白くないのぉ」
「面白くない?」
ウーモの言葉にジュストがコテンと首を傾げた。
確かに体術用の装備に、ただ魔法強化系の付与をするだけでは面白くないな。もっとこう、かっこよさと浪漫が欲しい。
「左手は先ほどの爪付きワイヤーを入れるとして。右手はどうしようかのぉ」
「ジュストは小柄だから、リーチが短い。下がって避けられるだけで攻撃が届かなくなる。そこをついて、攻撃の後に追加で前方に伸びるギミックを仕込めないかな?」
ジュストと素手で手合わせをしていて感じた事だ。
ジュストのリーチは俺より圧倒的に短い。ジュストが距離を詰めても、俺が一歩下がればジュストの攻撃の範囲外になる。そして、その状況で俺の腕はジュストに届く。体格の差でジュストが圧倒的に不利なのだ。
これから身長は伸びると思われるが、日本人のジュストは体格に恵まれない可能性がある。
それを逆手にとって、リーチが短いと見せかけたところから、急に伸びる攻撃を出せば、相手が油断しているところをつきやすい。
「ふむ……、ガントレットに火炎放射機能でも付けるか?」
「ええ!?」
ウーモの突然の火炎放射機能発言でジュストも戸惑っている。
炎系は森や閉所では使い難いから却下かな。それにパンチと言えば、やっぱアレだよなぁ。
「腕がバーンって発射されるみたいな?」
「腕防具がか? 発射したらもう一度装着するのが難しいじゃろ?」
「腕が発射されるのはちょっと……」
ロケットパンチはダメか!?
「ふむ、前方に追加攻撃が出る感じか。致命傷になり難い小型の刃物を甲の部分に仕込んでおくか。左手のワイヤーと同じ仕組みで、打ち出した後すぐに回収できるようにしとけばええかの。ついでじゃから毒が仕込めるようにしといたろう」
「お、いいなそれ。ワイヤーが長すぎると隙ができるから、後ろに下がって避けた相手を追尾する程度の長さが良さそうだ。ジュストどう思う?」
「それなら、練習すれば使えるようになりそうです」
「では先ほどのガントレットを改造すれば、すぐにできそうじゃの。甲の部分をワイヤー付きのナイフにして、他の仕掛けはそのままでええな」
あの物騒な暗殺者みたいな仕掛けは残すのか。まぁ、備えあれば憂いなしだな。
「それにしても、その伸縮自在のワイヤーは面白いな」
「触手が伸び縮みするタイプのローパー種の触手だな。最近見つかった種で、伸縮性と弾力があって強度がやたら高いのがおってな。ローパーの触手だから中が空洞じゃし、中に薬品も仕込めるぞ」
「へー、面白そうな素材だなぁ」
ローパーとは、ずんぐりとした筒状の胴体から大量の触手が生えている魔物で、その触手には何かしらの毒を持っている種が多い。触手で獲物を捕捉し、毒で行動不能にした後、その獲物の体液を啜る。触手で獲物の体液を啜る為、触手の中は空洞になっている。
ローパーの触手は種によって色々タイプがあり、装備品に適した物から、食用にできる物まで様々だ。
ちなみに食用にできるローパーの触手は、歯ごたえがあってなかなか美味い。ローパーの触手グラタンは俺の好物だ。
「伸縮性と強度がある程度あるという事は、すべての指の先端に仕込んで捕縛用にできないかな? こう、ガントレットの指先部分が飛び出すみたいな。左手に仕込んでおいて左手で捕縛して、右手でぶん殴るみたいな」
伸縮性と強度のある素材なんて、装備に色々仕込めそうで想像すると楽しくなってきたぞ。
「ぬ、面白そうじゃな、捕縛用なら麻痺毒を仕込んでもいいのぉ」
「ローパーの触手を網状にして、手防具から飛び出すようにするのも悪くないな」
「網は作るのがめんどくさいのぉ……いや、それは軽犯罪の捕り物に使うには良さそうじゃのぉ。兵士の装備に需要があるやもしれん」
それはなんか金の匂いがするな?
「ジュスト、指先が飛び出るようにしてもらうか?」
「面白そうですけど、僕に使いこなせますかねぇ?」
「何事も練習だな! ついでに毒以外にも、ワイヤーを通して電流を流せるようにしておくと楽しそうだな!? ウーモ、この素材を使ったら電流を流せないか?」
「電流」
使っていないニーズヘッグの素材をウーモに手渡した。ジュストは不思議そうな顔をしているが、電撃系の武器は戦闘以外にも使えるので、一つあれば何かと便利だ。
「なんと!? これはニーズヘッグの牙ではないか!? どこでこんな物を手に入れたんじゃ!? まあいい、これがあれば電撃を流すくらいなら造作もないな」
ニーズヘッグの出どころを、深く追求されなくて良かった。ウーモはそういう細かい事を気にする性格ではないしな。
「拳はかなり強化されたな。ついでに足防具にも何か仕込んでもらうか?」
「足防具」
「ほら、炎を纏ったキックとか? ああ、いや、炎は燃えやすい物がある場所では使えないから、氷か電撃がいいな。炎が一番かっこよさそうだけど仕方ないな」
「かっこいいでしょうか? あ、いえ、何でもないです。もしかしてこれ、止める人がいないとまずいやつでは……アベルさん、帰って来ないかな……」
ジュストが何かブツブツ言っているが、装備に色々仕込むのは冒険者の浪漫だし、備えがあれば憂いは減るのだ!!
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