第216話◆ドワーフの鍛冶屋

「すごい、人がいっぱい! 建物でっかい!」

 王都の入り口の検問を抜けて町の中に入るなり、ジュストが周囲を珍しそうにキョロキョロと見回している。

 今日はアベルの転移魔法で、ユーラティア王国の王都ロンブスブルクにやって来た。


「せっかく王都に来たし、装備品や素材見に行くか」

「そうだね、ジュストはローブ以外はちょっと整えた方がいいかもね」

 ジュストのローブは妖精のダンジョンで手に入れた、あの厨二ローブなのだが、アレに更に色々付与をしたら大変な事になったので、隠蔽効果付与して誤魔化してある。もちろんアベルにはすぐにバレて、生温い目で見られた。


 他の部位は、シランドルにいた頃にあり合わせの材料で俺が作った物なので少し不安がある。

 ジュストは妖精のダンジョンで稼いで小金持ちのはずなので、装備をガッツリ更新しても金には困らないはずだ。

「こないだ拾った、ズィムリア魔法国の硬貨をまずは換金しようか。古い硬貨や他国の硬貨は使えないからな、ギルドか両替商で換金するんだ」

「はい! 商業ギルドに換金に行ったら、白金貨は高額過ぎて大きな町へ行くように言われました」

 だろうなぁ。白金貨は大金貨より高いからな、田舎のギルドだと換金は無理だ。

「硬貨の類はだいたい相場が決まっているから、変なところに行くより商業ギルドに行くのが確実だよ。それとズィムリア魔法国の硬貨なら、状態によっては美術商や古物商に売った方が高いよ。でもその場合は、騙されて買いたたかれる事があるから注意するんだ。そういうのの交渉はグランが上手いから、グランに教えてもらうといいよ」

「はい、わかりました!」

 鑑定スキルないと、一般商人との取り引きは騙される事もあるからな。ジュストの場合鑑定スキルがあっても、この世界の知識が心許ないからな。この辺は、生活しながら知識を身につけるしかない。

 まぁ、王都ならバーソルト商会が確実かなぁ。確か美術品も取り扱ってたよな。



 そしてバーソルト商会に持ち込んだ結果、ジュストの持っていたズィムリア魔法国の硬貨は、状態が良かったうえに白金貨が一枚混ざっていたので、おっそろしい値段になった。

「こんなに高くて間違ってないですよね?」

「大丈夫だよ、バーソルト商会は信用できるし、買い叩かれたわけじゃないからね。それに金貨はわりとよく出るから状態良くても、値段は跳ね上がらないけど、白金貨はあまり出ないから状態良い物だと歴史的資料の価値も高いから値段も高いんだ」

「冒険者は装備にも金がかかるから、金はいくらあっても困らないぞ」

「そうだね。じゃあ、次は装備整えに行こうか?」

「はい!」


 良い装備ほど値段は高くなるが、冒険者にとって装備品は命を預ける物だ。良い物を装備していれば、それだけ生存率は上がる。

「ウーモの工房行ってみるかー」

「あー、彼のとこかー。ちょっと怪しい装備も多いけど、腕は確かだしね」

 ウーモは王都に工房を構えるドワーフの鍛冶師だ。ちょっと気難しい面もあるが、腕は確かで、男のロマンも理解してくれる。

 俺が愛用している装備もウーモに作ってもらった物が多い。ガントレットと一体型のクロスボウも彼に協力してもらって作った物だ。

 彼の工房に行けばジュストにぴったりで、使いやすくてかっこいい装備が見つかりそうな気がする。






『ウーモ工房』

 冒険者向けの店が並ぶ大通りから少し裏通りに入った場所に、ウーモの工房はある。

 小ぢんまりとしたレンガ造りの建物に、青銅でできた看板が入口にかかっている。

 入口の扉を開けると、ドアに取り付けられているベルがカランカランとなった。


「こんにちはー、ひさしぶり」

「へいよ、いらっしゃいって、グランじゃねーか。久しぶりじゃのって、うげぇ、アベルも一緒か」

 店に入ると、カラフルなリボンを編み込んで三つ編みにした長いあごひげが特徴的な、背の低いずんぐりとした体型のドワーフ――ウーモが店番をしながら剣を磨いていた。

「うげぇって、相変わらず客に失礼なドワーフだね。まぁ、客は俺じゃなくてグランとこっちのジュストだけど」

「相変わらずエルフみたいにピッカピカな奴じゃのぉ」

 アベルがエルフみたいにピッカピカなのはなんとなくわかる。細くて、無駄に整った顔立ちにピッカピカの銀髪なので、エルフのような長い耳がついてても違和感がない。

 ドワーフとエルフは、大昔にあった種族間のいざこざのせいで、今でもお互いに苦手意識があるらしい。ウーモもそれに違わず、エルフに対しては、客であっても塩対応である。


「早速だけど、こっちのジュストの装備を見繕って欲しいんだ。まだ体が出来てないし、これから身長も伸びると思うから、軽金属系で軽くて動きやすいのがいいかな。あ、これシランドルのお土産と差し入れ」

 シランドルで買って来たウー酒と、つまみ用のミミックの干物をウーモに渡した。

 ドワーフは非常に酒好きである。そして、酒は強ければ強いほど好きだという。酒好きという事は、酒に合う料理も好きだ。

 ウーモに何かお願いをする時は、一緒に酒を差し入れすると非常に機嫌よく、お値段以上の仕事をしてくれる。


「ずっと、見かけないと思ったらシランドルに行っとったのか。おー、ミミックの干物にウージの酒か! ありがたく貰うぞ」

 しばらく来てなかったのは引っ越したからなのだが、まぁ細かい事を気にするようなウーモではない。

「じゃあ、ジュストの装備選んでる間、俺は冒険者ギルドに顔出してくるよ。リヴィダスとカリュオンに伝言頼んで来る」

「了解。俺達も後で冒険者ギルド行くから、そこで合流しよう」

「了解ー」

 アベルがヒラヒラと手を振ってウーモの工房から出て行った。




「ふむぅ、坊主はどんな装備がええんじゃ? 動きやすいのがええんじゃったな」

「えぇと、どんなのがいいのでしょう?」

 アベルが冒険者ギルドへ行ったので、俺達はジュストの装備を見繕い始めた。 

 と言っても、ジュストはこちらの世界に来て日が浅いので、装備品についてもまだあまり詳しくない。俺とウーモで、ジュストの話を聞きながら、ジュストに合う装備を選ぶ予定だ。

 ジュストもどんな物を選んでいいのかわからないようで、店に並んでいる商品を見ながら首をひねっている。


「ジュストはヒーラーだから、基本的に後衛になるけど、戦闘スタイルは体術だな」

「ふむぅ。なかなかええローブを着とるようじゃから、さしあたっては足周りと腰かのぉ。体術なら手は武器と兼用できる物がええかのぉ」

 ウーモがごそごそと棚からブーツとレッグガードを出してきた。

「足回りは命にかかわるからの、必ず納得した物を選ぶんじゃ。それからレッグガード、太ももの急所を守る物じゃ。狙われ易い箇所なうえに、そこに攻撃をくらうと立てなくなる。太い血管もある故、傷が深ければ命にもかかわる場所だの」

 ウーモが出してきたのはやや小ぶりで、青黒い金属のブーツとレッグガード。鋼のようにも見えるが、少し青味がある。

「これは、何かの合金か?」

「これはベースは中型の竜の鱗じゃが、表面はコラン鋼を食って育ったスライムのゼリーで、コーティングしてある。分厚い金属防具ほどではないが、その辺のペラペラな金属鎧よりは強度があって軽量だ。竜の鱗ベースじゃから、魔力に対する耐性も悪くしないし、付与の土台としても優秀じゃぞ」


 コラン鋼とは、青い色をした非常に硬い鉱石で、錬金術の優秀な素材でもあり、需要が多く値段も高い。それをスライムに食わせるなんて贅沢な使い方だな!?

 そんな素材のスライムのゼリーでコーティングしてあるなら、ジュストのローブ自体についている物理耐性を合わせれば、金属防具並みの防御力になりそうだな。

 結構お高そうだが付与もできるし、魔力を阻害する金属でもないので、魔法中心の立ち回りのジュストと相性が良さそうだ。

 硬い金属は防御力は高いが魔力を阻害する物も多く、重さもある為、魔法を中心に立ち回る者は重い金属系の防具を使いたがらない。結果として、魔法職は布や革、鱗製品の装備が中心となり、防御面がやや不安になりやすい。



「俺はこの防具はジュストに向いてると思うぞ? 他にもいいのあれば見せてもらうか?」

「これより硬くなると、重さがでてくるのぉ。軽さを優先すると、金属防具より布や皮になるから、うちよりそっち系の店の方がええじゃろ。他のも持ってくるから、一度試着してみるとええぞ。特に靴はどんなにいい防具でも、自分の足に合わないと意味がないからの。しっかり試着して自分の足に合う物を選ぶんじゃ」

「はい、じゃあ試着させてもらいます!」

 色々試着してみたが、最初に見せてもらったブーツとレッグガードが一番しっくりしたようだ。



 足と腰の防具が決まったので次は手だ。

「武器は体術だったかの。じゃったらブーツには蹴り向けの付与をしてもええの。何ならブーツに武器も仕込めるぞ? ブーツからピュッと刃物が出るのもよかろう。そうそう、手の方はそうじゃの、せっかく袖口の広いローブを着ておるんじゃ、それを生かすのもええかもしらんな」

 妙に楽しそうなウーモの目がキラリと光った。


 ウーモは金属製品なら何を作っても良い物を作るが、その中でも武器が一番得意で、本人も武器作りが大好きである。

 実用性と見た目の良さに浪漫、その全てを詰め込んだ武器作りが大好きな鍛冶職人。それがウーモだ。


 ウーモならきっとジュストにぴったりな、強くてかっこよく、なおかつ浪漫溢れる武器を見繕ってくれるはずだ。

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