第215話◆そうだ、王都へ行こう

 妖精の箱庭に住み着いたキノコ君は、どうやら朝になると箱庭で採れた物を、俺にお裾分けしてくれるようだ。

 ラディッシュを貰った翌日は、ミニサイズのリンゴを二つとラディッシュを十個貰った。

 まだリンゴの木はあまり大きくなくて収穫量は少ないようで、この先もっと大きくなったらいっぱいリンゴが収穫できるようになるのかなぁ。

 キノコ君が持っている収納用の箱を通すと、箱庭の中の物はこちらのサイズに合わせて大きくなるようだが、それでも貰ったリンゴは俺がキノコ君に渡したリンゴよりかなり小さかった。そしてどうやら俺が箱に入れて渡した物は、箱庭の中に入るとキノコ君サイズになるらしい。

 もしかして、これを使えば精巧な作りの防具もいけるか? いや、この収納の箱はあまり量は入らないみたいだから、大きすぎる物は無理か。というか、小さいサイズで作った方が、素材少なくてすむし、がんばって小さいサイズで作るか。


 そして箱庭、もしかして渡した植物が内部に生えてくるのかと思って、胡椒をそのまま渡してみようとしたら拒否された。胡椒は育てられないってことなのかな? 薬草の類も試してみたが、それもだめだった。

 箱庭の中の環境なのかな? それともキノコ君自体に耕作関係のスキルがあるのだろうか。

 とりあえず胡椒と薬草はダメだったので、パンと柑橘類とミルクを渡した。

 すると、その日の夕方には木が一本増えていた。これは、柑橘類の木だったっぽくて、翌朝に柑橘類一つをお裾分けしてくれた。

 これもまたサイズが小さいからキンカンみたいだな!?

 サイズも小さくて数も少ないけど、毎日ずっと貯めているといつの間にかすごい量になってそうだな。


 それにこのまま果物を渡す度にその木が増えるのなら、庭が果物の木だらけになりそうなので、ちょっと柵を弄って庭を広げて、果樹園コーナーを作ってみた。

 次からここに果物の木を植えてくれるといいな?

 なんだろう、前世でこんな感じでひたすら居住環境整えるゲームあったよな!? すごく好きだったけど!!

 倉庫溢れるまで素材貯めるの、すごく楽しかったんだよな。




「グランー、明日以降なんか用事ある?」

 夕飯の後、コタツで酒を飲みながらダラダラしているとアベルに聞かれた。

 先日、アベルが暇そうな日に一日ダラダラしちゃったからな、何かアベルのやりたい事があるなら付き合うかな。

「特に用事はないな。やる事があったとしても、家の事やポーション作りくらいだな」

「じゃあさ、王都の近くのダンジョン行かない? ジュストも一緒にね。ジュストも一回くらい王都行っておいた方がいいでしょ?」

「オウトですか?」

 話を振られてジュストがキョトンとする。

「ユーラティアの王都だな。凄くデカイ町だから店も色々あって楽しいぞ」

「行ってみたいです」

「じゃあ、決定ー。俺の方はだいたい落ち着いたけど、ドリーもまだ忙しいみたいでさ、まだしばらくジュスト引き取りに来られないんだって。ドリーはいつもと違うメンバーで、王都から離れた場所で仕事あるっぽいから、暇になったんだよねぇ。リヴィダスとカリュオンもドリーいなくて暇みたいだし、どっか遊びに行こうよ」

 カリュオンとはドリーのパーティーのタンク担当である。

 どうやら、アベル達はパーティーリーダーのドリーが不在で退屈らしい。遊びに行く、つまりどこかの狩り場に行くという事だ。


「行くとしたら王都の近くのCランクのダンジョンか?」

 王都の付近にはダンジョンが複数あり、手に入る素材も難易度も違うので、自分の強さと目的に見合ったダンジョンを選んで行く事が出来る。

「うーん、Bの方かなぁ。ヒーラー二枚だしカリュオンもいるし、Cだと退屈しそう」

「Aが三人いるから、ジュストもBランクのダンジョン入れるのか」

「そそ、あそこなら仕掛けも多いし、魔物もそこそこ強いから、ジュストの訓練には丁度いいよ」

 いや、ただ単に自分が行きたいだけだろ!?


 ダンジョンにはランクに応じた入場制限があり、冒険者ランク、もしくはパーティーメンバーのランクの平均が、ダンジョンのランクを上回ってなければならない。

 また、難易度の高いダンジョンのランクがそのまま、入場できる冒険者の最低ランクとして設定されている場合もある。

 Aランク以上の冒険者の数は少なく、Sランクともなると世界中に数えるほどしかいない。

 よって平均でAランク以上でしか入場できない、Aランク以上に指定されるダンジョンは数えるほどなく、現在確認されているAランクのダンジョンは、俺が知っている限りでは全て国が管理しており、入場が厳しく管理されている。

 Sランクに至っては存在しているという話を聞いたことがない。むしろSランクのダンジョンなんて、存在したら天災の坩堝みたいなものだろう。

 そんなわけでBランクのダンジョンが、一般的な冒険者が行くことの出来るダンジョンでは実質最高ランクになる。


 そんなダンジョンにいきなりジュスト連れていくのか!?

「だって、あそこのダンジョンミミックいっぱいいるんだもん」

「は?」

 実家からくすねて来たと思われる高そうなワインを飲みながら、一口大に切ったミミックの干物をアベルがパクパクと食べている。

「ミミックの干物がこんなに癖になるとは思わなかったよ。ほんのり甘いのはミミックの肉自体の味なの? ちょっと塩味がするのは干物にする時に塩を使ったの? お酒と交互に延々といけちゃってやばいんだけど?」

「随分前に行ったダンジョンの近くの町でも売ってただろー? そこで作り方聞いたから、真似して作ってみたんだよ」

「あー、どっかの田舎のダンジョンかー。 ゲテモノ料理だと思って、食べなかったよ。こんなのなら、あの時食べてみればよかった」

 アベルが悔しがっているが、それは自分のせいだろ。

「うむ、確かにこれは美味いな。夕食の時のコメの中にミミックの肉やキノコが入っていたやつ、あれは非常に美味かった」

 ラトもミミックの干物とササ酒を交互に延々といっている。

 夕飯の時のは、ミミックとキノコの炊き込みご飯の事か。あれは美味かった。キノコの出汁とミミックの肉のほんのりあまい出汁と、醤油の風味が非常に相性よくて、苦しくなるくらい食べてしまった。

「そうそう、それそれ。あのコメの中にキノコとかミミックの肉が入ってるやつ、また食べたい。毎日でもいいよ」

 ハマりすぎだろ。

 そう話している間にも、アベルとラトはミミックの干物をパクパクと食べている。

「これホント、飲み物あると止まらなくなりますね」

 ジュストもレモネードを交互にモソモソとずっと食べている。

 ジュストは将来、酒飲みになりそうな気がする。


 すでに夜なので幼女は寝てしまっているが、起きている時は幼女達もミミックの干物を摘まんでいた。

 妖精のダンジョンで結構たくさん肉が手に入ったが、確かにこの勢いで食べていると、すぐになくなってしまいそうだ。

 酒のツマミ用だけではなく、料理用にも残しておきたいしな。

「それに、あそこのダンジョン、グランの大好きなニトロラゴラもいっぱいいるでしょ」

 べ、別に好きな訳ではないのだが……。そういえばニトロラゴラの在庫減ってきたな。

「まぁ、深い階層まで行かなかったら平気か」

「そうそう、出来れば泊まりがけでガッツリ狩ってきたいけど」

「ん? ミミックか? いいぞ、留守番は任されよう。干物は美味い」

 ラトもすっかりミミックの干物にハマっている。

「じゃあ、ダンジョンで一泊か二泊くらい? 出かけてる間、軒先に吊してあるミミックの干物食ってもいいぞ。騎獣達はおいていくから、世話をお願いしたい。あと箱庭」

「ん、任された」

「決定ー! じゃあ明日は王都観光して夜は戻って来て、明後日からダンジョン行こうか。ジュストはゆっくり王都見てみたいでしょ?」

「はい!!」


 そうだなー、ジュストはこっちの世界来て、王都のような大規模の町には行ったことなさそうだし、一日王都観光するのもいいかもなぁ。

 泊まりがけだから、食事の準備もしておかないとな。ダンジョンに行く自分達のと、留守番をしてくれるラト達の分、両方だ。

 それに久しぶりの王都だし、どうせ冒険者ギルドにも寄るから、ぱぱっと差し入れ作っておくかー。

 思いつきで引っ越したから、何も言わず王都出て来ちゃったもんな。世話になった人には後で連絡するつもりが、すっかり忘れていたな。

 詫びも兼ねて何か手土産を作って行こう。



 あ、でもコタツから出るの寒い。






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