第214話◆箱庭の収穫物
「ねぇ、グランの部屋だけにコタツがあるのずるくない?」
キノコ君の箱庭を弄り終わってそろそろ夕食の準備の為、コタツタイムを解散しようとした時、アベルの一言で俺の部屋にあったコタツはリビングへと移動する事になった。
最後までコタツの吸引力に抗い続けたアベルも、完全に陥落してしまったようだ。
リビングにあった応接セットは、暖かくなるまで収納の中に封印する事になり、リビングは掃除をして土足禁止になった。
おかげで俺の部屋は広くなったが、コタツがリビングに移動したため、リビングにいる時間が長くなりそうだ。
あのコタツは全員で入っても平気なように大きめに作ったので、俺の部屋にはデカすぎたし、部屋用にもう一つ小さなコタツを作るか?
箱庭も三姉妹とラトが楽しそうに弄っていたので、いつでも弄れるようにリビングに持ってきた。
リビングの日当たりのいい場所に箱庭を置いておく用の棚を作っておくか。棚が出来るまでは、コタツの上に置いておこう。
「このコタツ、今年はもう無理そうだけど、来年の冬に売れないかな?」
前世でもコタツは冬の友だったし、きっと爆売れすると思うんだけど。
「ダメだ。こんな悪魔のような魔道具が普及すると、コタツの魔力に取り憑かれてコタツから動かなくなって、仕事をしない人が続出する」
「いや、そんな。大げさな」
「それに俺は冒険者だから、床に座る事に抵抗はないけど、貴族の中には床に座る事に抵抗ある者も多そうだしね。特に女性はマナー面で気にしそうだし、商品化するなら貴族より平民をターゲットにする方が良さそうかな。コタツなら部屋全体を暖める魔道具より安く上がる面も、平民には人気が出そうだけど、平民向けなら質より値段を重視する事になるから、安全対策をしっかりしないといけないね。布と火の魔石が近くて火災が怖いから、商品化するなら安全性の基準をしっかり決めて、粗悪な類似品が出てこないように対策をしないといけないよ」
言われてみたら、お貴族様から見たらあまりお行儀のいいくつろぎ方ではないかもしれない。安全面についてもアベルの言う通りだな。
安全対策をきっちりして粗悪な類似品対策しないと、うっかり火事になると人命にもかかわるし、商品化するのは色々大変そうだな。
やっぱ、身内で楽しむだけにするか!?
夕食の後も再びコタツに戻り、ラトと三姉妹は箱庭で遊んでいた。俺も何だかんだで嵌まってしまい、チマチマと家具を作ってしまった。そして、三姉妹はそのままコタツで寝落ち。ラトも酒を飲みながら、いつの間にか寝ていた。
久しぶりに用事が無かったアベルには申し訳ないので、次アベルが暇な日はどこかのダンジョンにでも遊びに行く事にしよう。
まぁ、そのアベルも結局はコタツの引力に引かれてしまい、ずっとコタツに入って俺達の作業を見ているか、本を読んでいるかしていた。
ジュストはー……、俺と一緒にキノコ君の為に家具や道具を作っていたが、気付いたら寝落ちしていた。
毛玉ちゃんもコタツから全員離れるまで、毛玉状態でコタツに埋まっていた。コタツが解散になると、名残惜しそうに森へと帰っていった。
コタツの吸引力恐ろしい。
「ねぇ、グラン。俺の鑑定で変な効果は見えないけれど、このコタツってやつ、やっぱり生き物堕落させる呪いかかってない!?」
アベルが疑うのもおかしくないほど、コタツの堕落効果は凄まじかった。
そして、その翌日の朝。
我が家で一番朝が早いのはラトだ。ラトは毎朝俺達が寝ているうちに起き出して、森の見回りに行っている。
ラトの次に起きるのがだいたい俺。
朝食の準備の前に軽い鍛錬は必ずやっている。いくら冒険者だと言っても、ここに来る前に比べ随分のんびりと暮らしているので、体を動かしておかないと鈍ってしまう。いざという時に動けないと命取りだからな。
ジュストが来るまでは一人で黙々と剣を振っているだけだったが、ジュストが来てからは毎朝一緒に体を動かしている。
時々ジュストと軽く組み手をする日もある。
それが終わると、騎獣達の世話だ。餌と水をやって、広場に放してやる。獣舎の入り口は開けっぱなしなので、寒ければ勝手に中に戻ってのんびりしている。
それが終われば、畑で朝食に使う野菜を収穫だ。
畑で野菜を収穫していると、だいたい毛玉ちゃんがやって来るので、朝ご飯代わりに何かおやつをあげるのが毎朝の日課になっている。
毛玉ちゃんもよく手土産を持ってきてくれるが、毛玉ちゃんの場合仕留めた魔物や果物や木の実が中心で、物騒な物が混ざってる事は滅多にないので安心だ。毛玉ちゃんマジ優秀。
毎朝のこの時間はすごくスローライフ感ある。このあたりの作業も、ジュストが来てからは一緒にやっている。
朝食の準備が終わる頃、アベルと三姉妹達が起きて来て、ラトも森から戻ってくる。
ラトもよく森から手土産を持って帰って来るのだが、こちらは時折物騒な植物が混ざっているので油断できない。
朝食前の日課を終わらせて、キッチンで朝食の準備をしていると、なんだかリビングの方が騒がしい。
「グラン、ちょっと来て」
アベルがキッチンまで呼びに来たので、何かあったのだろう。
料理を一時中断してアベルと一緒にリビングへ行くと、三姉妹とラト、ジュストがコタツの周りに集まって、箱庭を覗き込んでいる。
「どうした? 何かあったのか?」
「あ、グランさん。何だかキノコさんがグランさんを呼んでるみたいです」
「え? 俺?」
ジュストに言われて箱庭を覗き込むと、箱庭の中の小さな畑の前にいたキノコが、俺に気付いてピョンピョンと跳ねた。その手には小さな箱の様な物を持っている。
どうやらそれを俺に渡したいらしい。
その箱を受け取ってみると、小さなキノコの妖精に合わせた小さな箱だが、どうやら収納機能が付与された箱のようだ。
俺の指先ほどの小さな箱だが、中身を取り出してみると、赤くて丸みのある小さなカブ――ラディッシュが十個ほど入っていた。
「これ俺にくれるの?」
キノコに尋ねると、肯定するようにうんうんと傘を前後に振った。
「ありがとう。じゃあお礼はこの箱の中に入れて返せばいいのかな?」
キノコの妖精が傘を前後に振る。どうやら、正解のようだ。ラディッシュのお礼に、収納から取り出した焼きたてのパンとリンゴを、キノコ君から渡された箱に入れて返した。
箱が小さいからこれくらいしか入らないな。いや、パンもリンゴも俺達に合わせたサイズだから、キノコ君のサイズには大きいかな?
少し気になったが、返された箱を見てキノコ君がぴょんぴょんと跳ねて、ペコリと傘を下げた。可愛いな、おい。
「お家のお礼ですかねぇ」
「みたいですわね」
「この畑で作った物かしら」
「グランを箱庭の持ち主と認識しているようだな」
そして、その日の朝食に貰ったラディッシュが追加された。
箱庭でキノコ君が作ったと思われるラディッシュは、何だか美味しかった。
そしてその日の夕方、箱庭の家の横に小さな木が一本増えていた。
「リンゴの木って見えるよ」
帰宅したアベルが箱庭を覗き込んで、呆れた顔で言った。
「朝、リンゴあげたからかな? 畑もなんだか広がっているな」
「俺の勘が正しければ、この箱庭、ただのおもちゃじゃない気がするんだけど?」
俺が渡した植物を、キノコ君がこの庭の中で育てるのだとしたら、収穫量がそんなに多くないとしてもすごく便利な箱庭だよなぁ。
稀少な薬草とか増やせないかな?キノコ君にまた箱を渡されたら、試してみよう。
「まぁ、妖精のおもちゃだしなぁ。妖精にとってはおもちゃなんだよ」
苦笑いしながら無理やり納得していると、隣のアベルからものすごく生温い視線を感じた。
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