第212話◆本格おままごとセット

「やばい、このままだと一日コタツでダラダラ過ごしてしまう」

「今日は雪が降ってるし諦めろ。時には何もしない日も、人間には必要だ」

 日頃忙しいのに慣れているのか、アベルはコタツでダラダラする事に罪悪感があるようだが、昼ご飯の後もコタツから動く気配はない。

「くっ、せっかくの予定のない日を無駄にだらだらと過ごす勿体ない……でも、動く気を削がれるこのコタツってやつ、何か変な呪いかかってるんじゃないの」

 鑑定では見えないが、人を……いや、生き物を堕落させる効果ならありそうだな。


「アレを見ろ。森の守護者と番人ですら堕落しているのだから、俺達人間がコタツの魔力に抗えないのは仕方ない」

 ラトはクラーケンの干物を食べながら酒が欲しくなったと、昼間っから酒を持ち出して、そのままコタツで寝てしまった。番人の威厳全くなし!!

 そのラトを挟むように三姉妹も一緒に寝ている。その横には昼ご飯前に読んでいた本が置きっぱなしになっている。

 ジュストはギリギリ起きているようで、少しうとうとしながら魔法銀を加工して、ブレスレットを作っている。

 時々寝落ちしているようで、微妙にブレスレットの鎖がゆがんでいる。ブレスレットを作りながらたまにカクンとなって、鼻をコタツの板にぶつけて目を覚まし、再び作業を再開しているのが見ていてとても面白い。

 毛玉ちゃんが俺の横でコタツの中に埋まって、まさに毛玉のようになっている。

「絶対やばい、このコタツって魔道具やばい。生き物を堕落させる呪いがかかっている悪魔の魔道具だよ」

 アベルは真剣な顔をしているが、やはりコタツの魔力からは抜け出せないようだ。

 

 コタツを作って以来、コタツで出来る作業をしているので、さすがに装飾品関係は作りすぎた感がある。

 何か他の物を作ろうにも、倉庫に行くのが寒くてめんどくさい。騎獣達の世話だけは忘れる訳にはいかないので、それだけはやりに行っているが、それ以外では外に出たくない。

 騎獣達も寒いようで、いつもなら森を切り開いた場所で遊んでいるのだが、今日は獣舎に籠もりっぱなしだ。

 妖精さん達ががんばってくれたおかげで、立派な獣舎が完成したし、温度調整の魔道具を置いてあるので、中はとても暖かい。

 騎獣達も暖かい獣舎の中で堕落しているようなので、俺もコタツでのんびりするんだ。


 装飾品はこれ以上作っても、売り捌くのに時間がかかりそうだし、そろそろ他の事をしようかなぁ。

 あ、そうだ、妖精のダンジョンから持って帰って来たあの模型を弄ってみるか。高価な素材をたくさん突っ込んで、出て来たのが模型だったので、ちょっと心に深い傷を負った気分になって、帰って来てからも収納にいれたまま見ない振りをしていた。

 幼女たちにままごと遊び用にあげるにしても、せっかくだからちょっと改造して豪華にしてみようかな。


 コタツの上を整理して、収納からあの模型を取り出した。

「わっ? 何それ!?」

「妖精とかくれんぼした報酬?」

 コタツで寝てしまった三姉妹達が途中で読むのを止めてしまって、コタツの横に置いてあった本をアベルが開こうとしたが、その前に俺が取り出した模型に興味を示した。

 アベルは一度手に取った本を三姉妹の横に戻して、模型を覗き込んだ。

「妖精の箱庭? おままごと? アミダモゼニデヒカル? レアリティだけはすごく高いけど、何コレ?」

「俺にもわからん」

 アベルの鑑定でも俺と同じ程度しかわからないのか。ラトはー……、ダメだ、完全に堕落している。

「でも、ただの模型って言うにはすごくよく出来てますよね。まるで、本物をそのまま小さくしたみたいですね」

 ジュストがしげしげと模型を覗き込んでいる。

 そうなんだよなぁ。レアリティが高いから、細工が細かいとかそういうのじゃなくて、まるで本物なんだよな。

 家も地面も庭に生えている木も、全て本物そっくりで、触ると本物のような質感なのがわかる。

 その感じからしてただの模型ではなく、魔道具なのは察するのだが、リアリティを追及して限りなく本物に近づけただけの、気合いの入ったただの模型の可能性もある。

「用途わからないしなぁ。ラトも三姉妹もコタツで寝ちゃったし、起きたら聞いてみるかな。それでただの模型なら、人形を付けて三姉妹にあげる事にするか」

 レアリティが高いからコレクターアイテムとしていい値段が付きそうだが、"妖精の"と冠しているので迂闊に市場に流すのは少し怖い気がする。

 まぁ、どっちにしろラトと三姉妹が起きたら、聞いてみよう。もしかしたら、この模型の正体がわかるかもしれない。


 せっかくだから少し弄ってみようかなぁ。

 箱庭の中には二階建ての可愛い家があって、その傍らに木が生えており、家の玄関の前には花壇があって小さな花が咲いている。

 そして家の周りは柵に囲まれており、その外側は草がはえているだけだ。

 柵があるだけで門がないので、門を付けてみようかな。

 収納からエンシェントトレントの材木の切れっ端を取り出して、ナイフで木を削り、樹脂を使ってパーツを接着していく。出来上がった門を柵と柵の間に嵌めて、少し隙間があるところは柵を追加した。

 ん? 色が違うのが気になるな。マニキュアで色を付けるか。茶色っぽい色はないけど、白っぽいピンクなら違和感ないかな?

 とりあえず今ある柵を一度抜いて色を塗って戻すか。前世でプラモデルってやつ作った時の事を思い出すな。


「相変わらず器用だねぇ。よくそんな小さい物に色を塗れるね」

 ちまちまと柵に色を塗っていたら、アベルがずっとその作業を見ている。

 前世でプラモデルを作った時はこんなに綺麗には塗れなかったから、これはクリエイトロードの恩恵かな。

「生産系のギフトがあるからな。よし、出来た。次は庭石で門から玄関まで舗装してみるか」

 ガーゴイルの破片がまだいっぱいあるから、それを小さく砕いて飛び石風に並べてみよう。


 庭の空いた隙間に家庭菜園でも作ってみるか……植える物はないけど。いや、だったらベンチとかの方がいいのか? ブランコとかのが可愛いかな? あ、ブランコは家の横に生えている木にくくり付けるか。

 悩んだ末に、木にブランコを下げて、庭の土を少し耕して家庭菜園を作った。畑の周りも柵で囲ってみた。

 畑を作ったら水も欲しいよなぁ。家の近くに小さな池でも作るか?

 家の柵の外の草しか生えてない場所を掘り返して、周囲を石で囲って池を作って、水の魔石で水を入れてみた。

 なんかすごくそれっぽくなってきたぞ。やべぇ……、これは楽しいかもしれない。


 何がすごいって、この箱庭、サイズが小さいだけで全て本物なんだよ。何この、本格的なおままごとグッズ。超楽しいんだけど!?

 次は何を作ろうかな。森とか作りたいけど、小さい木なんてないからなぁ。

 ダンジョンでキノコ達が置いて行った種は? いや、アレはよくわからないから止めておこう。

 うーん、植物を植えるのは諦めて、家から池に行くまでの道を舗装しておくか。草むらの中は歩きにくそうだしな。


「うわっ!! なんかいる!!」

「あ、キノコさんだ!」

 箱庭弄りに夢中になっていたら、アベルとジュストの声が聞こえて我に返った。

 え? キノコ?


 顔を上げると、コタツの上にすごく見覚えのある青紫の小さなキノコが一匹、モジモジしながらこちらを見ていた。

「グラン、またどこかで変なもの餌付けしたでしょ?」

 アベルの呆れた声が聞こえた。

 違う! そんな事は断じてしていない!! あ、やったか!?

 いや、待て、俺は無罪だ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る