第209話◆高い授業料
「光と闇の素材以外に、他の四属性もか。呪い系の素材に、聖属性の魔力を持つ素材か……どっちも手に入り難い物だな。それから、アダマンタイトとミスリルかよ! 開けるのに金がかかりすぎだろ!!」
ハックが宝箱に要求されている素材を見て文句を言っている。
確かに値の張る素材ばかりだ。しかしこれだけ高い素材を求められると言う事は、結構いい物が出てくるかもしれないな。
「"アミダモゼニデヒカル"って箱に書いてありますね」
……この地図作った奴は絶対に日本人か、その知識を受け継いだやつだろ!?
「どういう意味だ?」
「神様も金次第。つまりこの世は金でなんとかなるって意味だな」
そのままの意味なら、素材を突っ込めば突っ込むほどいい物が出てくる可能性があるって事か?
だとしても、手持ちに限度はあるからな。
「確かに要求されている素材の時価を考えると恐ろしいな。手に入り辛い素材も混ざっているし開けられるのかこれ? というか開けたとしても、出した素材に対して見合った物が出てくるかわからないしな」
宝箱を前にハックが難しい顔をしている。
宝箱を開ける為に必要な素材は、出そうと思えば俺の収納の中に一通りある。しかし、ハックの言う通り高額な素材や手に入り難い素材も混ざっていて、その価値に見合う物が出てくるかどうかはわからない。
ここまでの二つは、突っ込んだ素材に相応な物は出てきた。最初の箱に至っては、このダンジョンで拾った物だけを突っ込んで、そこそこいい物が出て来た。
この流れならば、三つ目も投入した物に応じた物が出てくると思われる。
しかし、試行回数はまだ二回。もしこれが、くじ引きのようにアタリハズレがあるとしたら? 稀少で高価な物だとしても不要な物だったり、使い難い物だったりしたら?
かと言って中途半端な物を突っ込んだらそれなりの物になりそうだよなぁ。うーん、ううーん。
えぇい! ままよ!
魔石はなんとかなるとして、呪い系の素材はオーバロで買った呪われた魔石があったよな。物騒だし使い道も無さそうだしちょうどいい。
聖素材はユニコーンの角がまだあるよな。俺の技術では加工し難い物だし、森で見かけたユニコーンがまだ生きているなら、そろそろ角が生えてきている頃だよな? 三姉妹の安全の為に見つけ次第、角を没収しようそうしよう。
アダマンタイトは売らなかった分のランドタートルの甲羅が、手つかずで残っているんだよな。だってアダマンタイトは魔力抵抗が高いから、加工するの難しいんだもん。それにニーズヘッグと戦った時に、刃こぼれしてそのままにしている剣もあったよな。
ミスリルはー……、コツコツ貯めたのがあるけど、これあんま在庫がないんだよなぁ。ロングソードは主力武器だから、さすがに博打には使わないぞ!!
「お、俺はやるぞ……っ!!」
「マジかよ!? まぁ俺も何が出てくるか気になるけどよ……。いいのか? 高い素材ばっかりだぞ?」
あるだけ突っ込むなんて事はしないが、余裕がある物や使う目処が立たない物は突っ込んでしまってもいいだろう。
こうなると半端な事をする方が悔いが残りそうだ。
俺は納得して素材を出す事にしたんだ! 絶対に後悔はしないぞ!! 絶対にいいいい!!!
「えぇ……」
「なんと言うか、その……元気出せ」
「お家……の模型ですか?」
収納の中に溜め込んでいた素材を解放して開けた宝箱から出て来たのは、庭付きの家の模型のような物。俺が両手で抱えるくらいのサイズなので、結構大きい。
木の生えた花壇付きの庭に、可愛らしい二階建ての家が建っている模型だ。模型と言っても本物のような質感で、細かいところまで作り込まれていて、ものすごくできがいい。
武器や防具、装飾品ではなく模型?
あんだけ素材要求して模型!?!? 突っ込んだ素材が足りなかったのか!? いや、後に使う分は残しておいたとは言えかなりの量を突っ込んだぞ!?
と、とりあえず鑑定してみよう。何かすごい物かもしれないしな。
【妖精の箱庭】
レアリティ:SSS
品質:マスターグレード
素材:???
属性:無
状態:良好
耐久:15/15
用途:ままごと
アミダモゼニデヒカル
用途ままごとって何だ!! ふざけんな!!
いや、後悔しないって決めてやった事だから、後悔はしないぞ!!
それにレアリティSSSって事は、コレクターアイテムとしての価値は高いのでは!?
いや、おままごと用なら三姉妹にあげてもいいかなぁ。ああ、うん、可愛いよなぁ。これに合うサイズの人形でも買ってやるかなぁ。
少し高い買い物だったと思えばいいか。
なんだか可愛い娘達にプレゼントを買って帰るパパの気分だぞー。
宝箱に書いてあったのと同じ文言が残っているのは少し気になるけれど、何かあっても三姉妹ならなんとかなるだろう。
「この模型は俺が引き取っていいかな? そうなるとハックは最初の箱の短剣になるけど」
「お、おう。俺は別にそれで構わないが、兄ちゃんは……えーと、模型でいいのか?」
「まぁ、素材を出したしな、俺はこれでいいよ」
せっかく素材を出したのだから、結果はどうあれ、これは俺が引き取ってしまおう。
まぁ、何事も調子に乗るなって事だな。高い授業料だったと思う事にしよう。
模型は収納にポイッと投げ込んでおいた。帰ってからもう一回、じっくりと観察してみよう。
「宝箱も回収したしダンジョンから脱出するかぁ」
思った以上にハードなかくれんぼに付き合わされて疲れたので、お家に帰ってゆっくりしたい。
周囲をグルリと見回すが出口のようなものはない。あるのは、通って来た通路だけで、それも扉の閉まる音がしていたので、引き返す事もできないだろう。
そーだよ!! 出口もかくれんぼしてるんだよ!!
探索スキルで地形を探ってみるが、俺達がいるのはただの行き止まりの部屋のようで、隠されている空間の気配はないので、おそらく転送系の出口だ。かなり巧妙に隠されていてどこにあるか全くわからない。
「うーん、わかんねーな。兄ちゃんわかるか?」
「わかんないけど、多分これでいける」
収納スキルからオーバロの露店で買った鏡を取り出した。
まゆつば物かと思ったら、ちゃんと変化系の解除効果が付いている鏡だ。
「ほぉ、変化や隠蔽系の効果を打ち消す鏡か。面白い鏡だな」
何となく買った物だったけれど、こんなに早く出番が来るとは思わなかった。
鏡で部屋の中を映し、鏡の中と実際の違う場所を探す。鏡の中に映し出された本物を見つけ出せば、変化系の効果を打ち消す事ができる仕組みだ。
鏡を覗き込むと、すぐにおかしな箇所は見つかった。というか、おかしな箇所しかなかった。
俺達がいる部屋の壁だと思っていた物、そこに無数の目があった。その目が一斉に、鏡を覗き込んだ俺の方を見た。
「キノコオオオオオオオオオオオ!!!」
壁にびっちりと張り付いていたキノコが、一斉に壁から飛び出して俺達の方へと飛んできて、視界が真っ白な光に包まれた。
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