第206話◆更にかくれんぼ下手くそ君

「高そうな物が入ってたのは最初の奴だけでしたねー」

「まぁ、肉はいっぱいだったな。帰ったら干物にしてしまおう」

 通路に点々と並んでいた宝箱は、全てミミックだった。しかも中身は最初の奴以外はたいした物は入っていなかったので、ジュストもしょぼんとしている。

「でさ、どう見てもミミックな宝箱に釣られてそのまま進んだけど、途中で別れ道あったよな!? そっちが正解っぽいのわかってて、宝箱に釣られてこっちに進んだんだよな!? 行き止まりというか、罠部屋じゃねーか!!」

 と、言っているハックもわりとノリノリでミミックに釣られていた気がするのだが……。


 いやぁ、ついミミックの中に、もしかしていい物あるかなーとか、たいした物が入っていなくても肉があるしなーとか、どうせ槍投げて終わるしーとか、そんな軽い気持ちで点々と続くミミックを倒し続けて進み、ついに行き止まりの部屋に着いてしまった。

 そして部屋に入った直後、背後で入り口にモノリスが落ちて来て閉じ込められてしまった。

 モノリスはしっかり床に張り付いていて収納でも撤去できなかった。やっちまったな!!


 すごくやっちまった感があるが、そんなトラップの気配なかったし、過ぎてしまった事を悔いても仕方ない。解決方法を考えるのが先だ。

 トラップの気配なしに閉じ込められたという事は、妖精君の仕業の可能性がある。

 そして、悪魔のような生き物をモチーフにした、羽のはえた石像が部屋の四隅にいる。シレッと石像のふりをしているが、どう見てもガーゴイルという魔物である。

 コイツもかくれんぼ下手すぎ君か!?


 ガーゴイルとはゴーレムの一種で、個体によってその能力に幅があり、だいたいの強さはCランクの上の方からAの下の方だ。

 ガーゴイルは人工的に作る事も出来る為、その姿は様々で、人間の屋敷や施設に門番として設置されている事もある。

 ガーゴイルの特徴として、他のゴーレムより複雑な命令を実行できる個体が多く、動き出すと彫像から生物のような見た目に変わる事が多い。

 ダンジョンには時折、ダンジョンが作り出した野生のガーゴイルがおり、彫像のふりをして訪れる者を待ち構えている。

 ダンジョン……いや、ダンジョン以外でも生き物の形をした彫像がある時は、警戒をしなければならない。

 余談だが王都に住んでいる有名なゴーレム技師の家には、美少女ガーゴイルメイドが複数いるという噂を聞いた事がある。彫像に擬似的な人格や知能を付与するなど、恐ろしく高度な技術のはずだが、人間の欲望の力ってすげーな。


 で、行き止まりの部屋に閉じ込められ、部屋の四隅、つまり四匹のガーゴイルがいるわけだ。

『やっほー! 鬼の時間だよーー!!』

 やっぱり出て来やがったな!!

 いや、まぁすごくわかりやすい宝箱に釣られて進んだ俺達も悪いのだが。

『それじゃあ、カンケリはーじーめーるー……あーーーっ! グランずるい!!』


 誰だ妖精にカンケリなんて教えた奴は? そもそもこの世界に"カン"はないだろ!?

 カンの代わりに何を蹴るつもりだ!! どうせ、俺達がカンだとか言い出すつもりだろ!!

 あまいわ!! もういやな予感しかしないから、先に四隅のガーゴイルっぽい石像に爆弾ポーション投げつけて壊してやったぜ!!

 石のガーゴイルだったから簡単に壊れたな!! 

 トンボ羽君に文句を言われたが先手必勝だ。戦いの世界は非情なのだ。のんびり話を聞いて貰えると思うなよ。フハハハハハハハッ!!

 無駄なく、素早く倒す。これ、冒険者の基本だから。たとえヒーローの変身シーンであっても俺は絶対に待たないぞ!!


「フハハッ! 悪いな! ガーゴイル君はちょっとかくれんぼ下手過ぎだったな!!」

『いいもんねーーー!! 最後の部屋で頑張るもんねーーーー!!』

 いや、そこはあまり頑張らないでくれ。

 少し大人げない事をしてしまったので、トンボ羽君はすねた声を残して静かになってしまった。

 こっちは、三人なのでガーゴイル四匹同時は面倒臭いからな、許してくれ。


 ガーゴイルを破壊したことで、入り口を塞いでいたモノリスが消えて部屋から出られるようになった。

 トンボ羽君が撤去してくれたのかな?

 とりあえず、ガーゴイルの魔石を回収しておくか。

 ガーゴイルを含む、制作者の手を離れて動くタイプのゴーレム系は魔石を動力源にしている。

 強力で機能が多いゴーレムほど使われている魔石は品質の良い物だ。ガーゴイルはゴーレムの中でも上位になる。つまり魔石うまい。

 石で出来たガーゴイルだったので、使われていたのは土の魔石のようだ。回収回収。

 ついでに壊れたガーゴイルの瓦礫も持って帰っておくか。石は投げてもいいし、分解して砂にしても使い道あるしな。


「そんな物まで持って帰るのかよ。どんだけ高性能のマジックバッグなんだ」

 ハックが首を傾げているが、ジュストは俺と同じようにガーゴイルの瓦礫を回収している。

 あまり威力の高くない爆弾ポーションだったので、ガーゴイルが乗っていた縦長の台座は上の方が少し焦げた程度で、原形を留めている。

 結構でっかいから、上から落とすと大ダメージを狙えるな!!

「ハックはこの台座いらないのか? 投げるにはちょっと重いが上から落とすと強いぞ?」

「いらねーよ!! こんな物突っ込んだらマジックバッグの容量食うだろ!!」

 自分の収納やアベルの空間魔法の感覚にすっかり慣れてしまっているけど、普通のマジックバッグの容量は馬車四、五台分でも大きい方だしなぁ。

 ジュストの収納スキルもかなり大きいようで、さすが転移チート持ち。

「台座は四つあるけど、ジュストが半分持って行くか?」

「はい! 念の為に持っておきます!!」

 こんなデカイ物落としたらうっかり相手が死んでしまいそうだが、狭い場所で出せば足止めにも使えるから、持っておいても損はないだろう。

「その念の為はおかしいだろ……」

 ハックがブツブツ言っているが、備えあれば憂いなしだ。



 ガーゴイルの魔石と瓦礫、それから台座を回収して元来た道を引き返して、途中にあった別れ道へ。

 探索スキルで探った感じでは、この先がこのダンジョンの最終地点だろう。

 壁や床に潜んでいる魔物を倒しながら、最後の部屋を目指す。

 トンボ羽君が最後の部屋は頑張ると言っていたのが非常に不穏だが、ダンジョンのボスとなると何かいい物をくれるかもしれない。

 道中だけでもかなりうまかったが、ボスならもっと期待してもいいはずだ。


 そして、ついにこの不思議なダンジョンの最後の部屋に入った。


『最後はすごくかくれんぼが上手な子だよーーー!!』


 トンボ羽君の脳天気な声が、何もいない広い部屋に木霊した。

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