第205話◆神の箱庭? 悪魔のおままごと?

 ダンジョンとは不思議な場所である。神の箱庭、悪魔のおままごと等と言われる程、人間の理解を超えた現象が起こる場所である。

 ダンジョンの正体や正確な仕組みについては不明な点が多数あるが、それでもダンジョンは人間にとって危険でありながら、豊富な資源をもたらす場として認識されている。


 そんなダンジョンの不思議の一つに宝箱がある。

 誰が置いたわけでもないのに、ダンジョンには宝箱があり、その中には何かしら入っている事がある。

 時には強力な装備、時には人間には作る事が難しい高性能の魔道具、時には高価な貴金属や財宝、時には珍しい素材が入っている事もある。何故そんな物がダンジョンにあるのか不明だが、ダンジョンには宝箱が発生する。そう、まさに湧いて出るかの如く発生するのだ。

 ダンジョン内の高濃度の魔力が具現化した物だと言われているが、詳しい仕組みは解明されていない。

 そういった、ダンジョン内の宝箱探しを主とする冒険者がトレジャーハンターだ。


 ダンジョンで発生する宝箱の中身は、毎回高価な物とは限らず、中身はピンキリである。というかハズレの方が多い。

 ハズレどころか罠だったり、宝箱の形をした魔物だったりと、宝箱を見つけてもぬか喜びになる事が普通だ。

 しかし、極稀に高価な物が見つかる事もあり、そのような物を発見した時の喜びと稼ぎは大きい。



 そんな宝箱が、俺達の進む通路の前方にある。

 不自然なまでに通路のど真ん中にドーンと。

 宝箱は本物の宝箱だけではなく、宝箱の形をした罠や魔物の場合もある。

 そして宝箱の姿をしている魔物――ミミックは、じっと動かず気配を消している時は、本物の宝箱と見分けるのは非常に難しい。

 ダンジョン内の宝箱には鑑定阻害の魔法がかかっている物が多く、それもまたミミックと見分けづらい原因である。

 生き物を鑑定できるアベルの鑑定なら、離れた距離でもミミックを見つける事ができるので、アベルがいればミミックは見つけ次第抹殺されるのだが、今回はそんな頼もしいチート様がいない。

 じゃあどうするかって?


「そぉれっ!! お、やっぱミミックか」

 家の傍の森を切り開いた場所には、大きめの石もゴロゴロしていたので、それを回収して収納に突っ込んでいた物を取り出して、宝箱に投げつけてみた。

 俺の投げた石が当たった宝箱は、変な声を上げて蓋をパカパカと動かし始め、その蓋の隙間から枯れ木のような手と動物の舌のような物がピロンと出て来た。

 どう見てもミミックである。

「なるほど。あれがミミックですね。見た目では全くわかりませんね」

 日本でテレビゲームをやった事があるジュストには、なんとなく馴染みがあるのかもしれない。蓋をパカパカさせるミミックを興味深そうに見ている。

「遠距離から軽く攻撃を加えると正体を現すから、宝箱にはまず石を投げるんだ。あんまり強く攻撃すると本物の宝箱だった時に中身が壊れるから注意しろ。そしてコイツは素早いから近づかれる前に倒す。噛まれると人間の腕くらい食いちぎられるぞ」

 収納から投擲用の槍、ジャベリンを取り出して、ミミックに向かって投げた。ジャベリンはミミックを貫いてそのままミミックは動かなくなった。

 オーバロのダンジョンでは宝箱は見かけなかったので、今回のミミックはジュストのダンジョン学習のちょうどいい教材だ。

「なんで石なんか持ち歩いてるのかわからないが、ミミック対策として先に遠距離攻撃が定番だな。坊主は魔法が使えるから魔法でいいな」

 俺は魔法が使えないから、石は貴重な遠距離攻撃武器なんだ!! べ、別に悔しくなんかないもんねー!!

「はい!! 宝箱の周りは罠がある可能性があるんですよね、それは冒険者ギルドで習いました」

「ああ、そうだ。宝箱の周りにはトラップが仕掛けられている事が多いからな。それにミミックではない宝箱でも、トラップが仕掛けられている事があるから、宝箱を開ける時は十分注意するんだ。じゃあ、ジュストそれを踏まえてミミックの死体を回収しようか」

「わかりました!!」

 宝箱の周囲にこれと言った罠はないようだが、ジュストが念入りに周囲を確認しているようだ。

 ジュストは真面目で勤勉なので、教え甲斐があるなぁ。


「ミミックの魔石採れましたー!! あ、ミミックの中に何かありますねー」

 絶命しているミミックの箱の中に手を突っ込んで、ゴソゴソとジュストが中を漁っている。すっかり逞しくなったなぁ。

 ちなみにミミックの中は、貝の中身みたいな生き物で、実は食べる事もできる。

 本体は箱の中に住んでいて、そこからベロと腕が生えている。魔石はその体の中にあり、魔石以外にもミミックが捕食した物が箱の中にたまに残っていたりする。時には貴金属や宝石など高価な物が出てくる事もある。


「初々しいな。俺にもあんな時期が……って、ミミックの中に何かあんのか?」

 保護者のような表情でジュストを見守っていたハックが、ジュストが見つけたミミックの中身に反応した。

「はい、コインみたいですねぇ。ええと、金貨?」

 ミミックの箱の中から手を引き抜いたジュストの手のひらの上で、金色のコインが数枚チャラリと音を立てた。その中には何枚か銀色の硬貨も混ざっている。状態が良いところを見ると銀ではなく白金か?

「んー、これはズィムリア魔法国の金貨と白金貨か? かなり状態がいいな。こりゃ、かなりいい値段で売れそうだな!!」

 ハックがジュストの手の中の硬貨を見て、テンションを上げている。


 ズィムリア魔法国とは、何千年も前にこの大陸を支配していた今はなき国で、時々ダンジョンや遺跡から、国が存在していた頃に作られた魔道具や当時の硬貨が発見される。

 歴史的資料としてもコレクター品としても人気があり、いい値段で取り引きされている。

 状態のいい白金貨ともなれば、かなりいい値段がつきそうだ。

 なんでそんな物がここで出て来たのかは謎だが、この滅亡した魔法国の物は何故かダンジョンで時々出土する。

 ダンジョンの存在にこのズィムリア魔法国が関係しているのではないかという説もあるが、あくまで推論でありはっきりとした事は解明されていない。

 まぁ、俺は難しい事はわからないから、高価な遺物うまいという感覚しかない。


「ジュスト、ミミックの中身は食えるから回収するぞ。箱から身だけ取り出すんだ。腕とベロはいらないから捨てていいぞ」

 ミミックに投げつけたジャベリンを回収して、ジュストにミミックの肉を回収するように指示する。

「わかりました。あ、貝みたいな感じなんですね。ここが貝柱に当たる部位ですよね? だったらここを切ったら身が外れるのかな?」

「そうだ、上手いぞ」

 箱から身を外して腕と舌を切り落とすだけなので、解体の練習ついでにジュストにお任せだ。

 ジュストは俺と別行動している間に、魔物の解体もやっているようで、随分となれた手つきになっている。


「うぇ……ミミックなんて食えるのか?」

 ミミックを解体する作業をしていると、ハックが微妙な顔をしてその様子を覗き込んだ。

「ああ、俺も昔行ったダンジョンの傍の町で教えてもらったんだ。そのままだとそうでもないが、干物にするとくそ美味い」

「へ、へぇ……」

 ミミックの身は干物にすると、甘みが強くなって美味いんだよな。そのまま食べてもいいし、スープの出汁にもなるし、塩漬けにして発酵させてもいいと教えてもらった。

 持って帰って干物にしよう、そうしよう。酒のツマミにちょうどいいな!!


「おい、あっちにも宝箱があるぞ。あれもミミックかな?」

 ジュストが解体したミミックの身を回収して、通路の先を見ると別の宝箱が見えた。

「通路の真ん中に宝箱なんて、どう考えてもミミックだろう。しかし、通路の真ん中で待ち構えるなんて、ここのミミックはアホなのか? もしかしてかくれんぼのつもりかぁ? 全然隠れてねーし、そんなもん引っかかる奴なんか、いないつーの」

 ハックが鼻で笑うと、離れた位置にありまだ手を出していなかった宝箱が、突然パカリと蓋を開けて口のようにパクパクさせながら、ピョンピョンを跳ねてこちらに向かって来た。

 どう見てもミミックなのだが、なんだかすごく怒っているような気がする。ハックに馬鹿にされたのがわかったのか!?


「うお!? 何だぁ!? 近づいてもないのに動き出したぞ!! 兄ちゃんよろしく頼む!!」

 ハックがサササッと俺の後ろに隠れた。

「んー? ここのダンジョンのミミックは人間の言葉がわかるのか? アホではなく頭はいいかもしれないぞ?」

 俺の言葉に、蓋をパカパカさせながらこちらに向かって来ていたミミックがピクリと反応して止まった。

 隙あり!!

 回収したばかりのジャベリンをミミックに投げつけておしまい。

 人間の言葉はわかるのかもしれないが、少々アホの子だったのかもしれない。

 なんだかちょっと愛嬌があるミミックだったが、ミミックはミミックだ。情けをかけるとこちらがパクッとやられてしまう。

 というか、ミミックが人間の言葉を理解するなんて新発見だな!! 今後、役に立つ場面が思いつかない発見だな。

 倒したミミックの中を漁ってみたが、今回はよくわからない魔物の骨や石ころしか入っていなかった。さすがに連続でうまい思いはできなかったが、ミミックの肉が増えた。


「グランさん、この先にも宝箱が点々とありますよ」

 ミミックの中身を回収し終えて、ジュストが指で示した方を見ると、通路に点々とミミックらしき宝箱が並んでいるの見えた。



 かくれんぼ下手くそ君か!?!?!?!?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る