第203話◆チョロいダンジョンだと思った?
「うげぇ! あんなでかいキノコどうすんだよ! 轢かれたら普通に死ねるぞ! 兄ちゃんアレどうにかなるのか!?」
「多分?」
キノコとはだいたい柄の部分より傘の部分の方がでかい。
そして、俺達の前に現れたキノコもそれに違わず、柄の部分より傘の部分の方がでかい。
そんなものがまっすぐ転がって来るわけがない。
「…………」
「…………」
「…………」
予想通り、キノコは根元の部分を中心に、その場でゴロゴロと回り始めた。
「でかいだけであんま強くなさそうだし、斬っちまうか。食えるのかなぁ」
ぼそりとそう言うと、キノコの傘がビクンと揺れた気がした。
「でも、あの色、なんか毒キノコっぽくないですか?」
ジュストがコテンと首を傾げる。コロコロと回転しているキノコの速度が、心なしか遅くなった気がする。
確かに、巨大キノコは青紫色で見た目は毒々しいな。
「まぁ、斬ってみて鑑定すればいいんじゃねーの? キノコなら食えなくても、調合素材になるかもしれねーなぁ。あのサイズなら量的にいい値段になりそうだし。まぁ、斬るのは俺じゃなくて兄ちゃんだけど」
ハックの言葉にキノコがピタリと動きを止め、プルプルと震えだした。
え? このキノコは俺達の言葉を理解しているのか? というか、キノコからは殺気も感じないし、プルプルと震えられると何だか攻撃し辛いな……。
そんなことを考えて、キノコを斬るのを躊躇っていると、キノコは更に大きく震えだした。
「おい、アレ大丈夫か? 爆発するんじゃね?」
「うーん、爆発するならもっとこう魔力が膨張するはずだ。これはどちらかというと……」
「なんか、粒々した感じの魔力がたくさん集合している感じですねぇ」
ジュスト正解。
このキノコ、震えが大きくなるほど魔力がどんどん不安定になって、積み上げられた積み木が崩れる直前のような揺らぎを感じる。
パァン!!
魔力が弾ける音がして、巨大キノコも弾けた。いや、弾けたというか崩れたに近いかもしれない。
巨大キノコがバラバラと崩れて、崩れた破片が床に散らばった。散らばった破片は跳ねるように床を転がり……ん?
跳ねるようにじゃなくて、実際跳ねている。そして、ぱっと見で破片だと思ったが破片ではない。
小さいキノコだ!!
こいつら、さっき飯を食っている時に、結界の外にいたキノコ達と同じキノコだよなあ!?
あのでかいキノコは、小さなキノコの集合体だったようで、この階層の最後の部屋で出て来たって事は、この階層のボスか?
ということは、やはりこいつらを倒さないと、あのモノリスの下にあると思われる階段は出てこないのかな?
チラリとキノコを見ると目が合った。俺と目があったキノコがビクンと震え、他のキノコの方を向いて、何かヒソヒソと話し合っているように傘の部分が揺れた。
ヒソヒソ話をするように、集まって傘をゆらしている小さいキノコが可愛くてつい様子を見ていたら、キノコ達が一斉にこちらを向き、わらわらと走ってきた。
足がないのにどうやって走っているのかわからないが、キノコの群れがガサガサとこちらに向かって来ている。
「うげぇ! こっち来たぞ! だから言っただろ! 可愛いつっても魔物だって!」
「いや、大丈夫だ」
向かってくるキノコの群れに焦るハックを宥め、キノコの行動を見守った。
キノコ達は俺達の横を通り過ぎ、次のエリアへの入り口を塞いでいるモノリスを取り囲み、それをひょいっと持ち上げ、走り去って行った。
え!? それ動くのか!? 高そうだから欲しい!! 半分くらいでいいから、分けてくれないかな?
なんて、思ってモノリスを担いで走り去るキノコを見ていると、最後尾の一匹がこちらを振り返ってブンブンと傘を振った。
やっぱダメか。
力尽くで奪うのはなんか可哀想な気もするしなぁ……と物欲しそうな目で持ち去られるモノリスを見ていると、キノコ達がブンブンと傘を振りながら、何かキラキラした物をポロポロと落として行った。
「なんだこれ?」
その一つを拾ってみると、小さなキノコの形をした宝石のようだ。
【ミステリーマッシュルームの種】
レアリティ:A
品質:上
属性:光/闇/土
効果:なにがでるかななにがでるかな?
用途いろいろ
おい、なんだその嫌な鑑定結果は。
そもそもキノコなのに種ってなんぞや!?
まぁ、妖精の持ってきた地図だしな、多分人間の常識で物事を考えたら負けなんだ。
キノコに種があってもいいじゃないか!!
「何かの種なのか? しかし、これは植えたくないな。キノコの形をしているが、宝石みたいで綺麗だしこのまま売ってもいい値段になりそうだな」
ハックも鑑定したようで、明らかに怪しいキノコの宝石に警戒を示している。
「用途はいろいろあるみたいですね。魔石の一種なんですかねー? もしかして食べられるのかな?」
ジュスト、さすがに異世界でも宝石を人間は食べないと思うぞ。
「食用にはちょっと見えないかな? 粉にして調合に使える可能性がありそうだが効果がよくわからないな。使うとしたら装飾品に加工して何か付与に使う感じか」
宝石っぽいので装飾品に使えそうだが、詳細がよくわからないので少し怖い。それでも光と闇属性の素材は珍しいので、そのまま売ってもいい値段になりそうだ。売った先で何かあったら……それは、不幸な事故と言うことで。
持って帰ってアベルかラトに鑑定して貰ったら、もっと詳しくわかるかもしれないな。
キノコ達がキノコの種なる物をばら撒いて行って、モノリスが持ち去られた後には、次の階層へ続くと思われる階段があった。
「この先が次の階層ですねー。妖精さんがもっと強い鬼を準備しておくって言ってましたね」
「まぁ、兄ちゃんに任せれば何とかなるかー」
「いやいや、限界はあるからな。まぁ、さっきの鬼がトロールだったから、トロールより強い鬼っぽい魔物って言ったらオーガかな? オーガなら変な亜種じゃない限りBランク程度だからなんとかなるかな」
オーガとは、トロールと同じく二足歩行に人型の魔物で、その体高は大きい個体で五メートルを超える。
そしてオーガの特徴として、頭に一本ないし二本の角が生えている。その見た目は、俺の前世の記憶にある日本のおとぎ話に出てくる鬼のイメージと被る。
妖精達に変な遊びを教えたのが、俺やジュストと同じ日本の記憶を持つ者なら、鬼のイメージに近いオーガが出て来てもおかしくない。
オーガはBランク前後の魔物で、基本的にあまり知能は高くないパワー型の魔物だが、トロールと同様に時折強力な魔法を使いこなす知能の高い個体も存在する。
その巨体から繰り出される攻撃は強力で、ランクの低い冒険者や一般人は一撃で即死しかねない威力だ。
Bランクという高ランクに位置づけされる魔物のわりに、その生息域は広く、種類も個体数も多い。時には警備の薄い小さな町を集団で襲って壊滅させる事もある危険な魔物だ。
行動範囲も広いので、近くにオーガの住み処が確認されていなくても唐突に出くわす事もあり、駆け出しの冒険者がそれに運悪く出くわして犠牲になる事も少なくない。
当然のように肉食で、残忍な性格である。そして魔物の中では珍しく、人間を積極的に捕食するタイプの魔物である。
その為、冒険者ギルドから危険度と討伐優先度が一番高い部類の魔物に指定されている。
そんな危険な魔物と鬼ごっこなんかしたくないのだが、妖精の基準に俺達人間の常識は通じない。
トロールより強い鬼を用意しておくと言っていたので、十分に用心しておいたほうがいい。
それでもオーガなら、こちらに不利な条件が揃わなければ何とかなる範囲の魔物なので、そうならないように十分に注意しておけば、オーガ相手に後れを取るということはないだろう。
なんて事を思っていた頃が俺にもありました。
誰が鬼がオーガだなんて言った?
オーガ以外にも鬼っぽい魔物いっぱいいるよね。
わかる、鬼って一つ目の奴がいてもおかしくないよね。
え? 角? もしかしてその頭の左右にちょこんと付いている小さくて可愛いやつ?
サイクロプスさああああああああああああん!!!
階段を下りて次のエリアに入った俺達の目に飛び込んできたのは、巨大な棍棒を持った一つ目の巨人。
やめろ、てめーはAランクでも上の方だ。
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