第201話◆おにさんこちら

 最初のミステリーリザードを発見した後も、通路を進むと所々で壁にミステリーリザードが同化していた。

 ミステリーリザードの他に出現する魔物も、今まで見た事のない魔物ばかりで、その名前はどれもミステリーと冠していて、まさに謎めいたダンジョンである。

 かくれんぼをしている魔物がほとんどなのだが、時々すごくかくれんぼの下手くそな魔物もいて、なんだかほっこりする。

 おい、そこのカバみたいな奴!! ケツが見えているぞ!!


 ダンジョンの壁や床と同化している魔物が多いが、ハックがかなり注意深く探って、俺では見つけられない魔物も片っ端から見つけ出して教えてくれるので非常に助かっている。

 プロのトレジャーハンターすげーな!!


「そっちの壁もトカゲが同化してるぞ! ていうか、あっちの壁もだな」

「了解!! ジュスト、もう面倒臭いから、ここら辺の周囲の壁に軽く範囲魔法をぶちかませないか? トカゲはあんまり強くないし纏めて倒しちまおう」

「え? いいんですか? エクスプロージョン!」


 通路の至る場所で壁に同化している魔物を、ハックがそれを目ざとく見つけて俺が倒すというのを繰り返しながら進んでいたのが、そろそろ面倒臭くなってジュストに範囲魔法をぶっぱしてもらった。

 ジュストの使った魔法により俺達の前方、少し離れた場所で小さな爆発が起こり、空気がビリビリと震えた。

 壁と同化しているミステリーリザードは、少し強めの刺激を与えると姿を現すようだ。

 爆発の衝撃で壁からポロリと剥がれるようにミステリーリザードが姿を現し、のそのそとこちらに向かってくる。

 奴らはあまり素早くもなく、時々使ってくる魔法に注意をすれば難なく倒す事ができる。


 姿を現したミステリーリザードは三匹ほど。それらが近づいて来る前に、ランドタートル戦で使った大型弓で、連続して矢を放ち頭を撃ち抜く。

 重すぎて手に持ったまま動き回るのは難しいが、動きが遅くて的がデカイ相手には大活躍の弓だ。

「弓も使えるのか……。てか、何だその弓? おっそろしく威力高そうだな」

「まぁな。魔法が使えないから、弓は貴重な遠距離攻撃手段なんだ。こいつは自分で改造した自信作なんだ」

 えへへ、少し使いづらい面はあるけれど、攻撃力は申し分ないこの弓は俺の自信作だ。褒められるととても嬉しい。

「へ、へぇ」


 弓を収納にしまって、倒したミステリーリザードと、放った矢の回収に向かう。

 ミステリーリザードはあまり好戦的な魔物ではないようで、今のところこちらが手を出さなければ襲って来ていない。

 見た事のない魔物なのでその習性が不明な為、背後を取られるのは怖いので一応わかる分だけは倒している。

 それに、そんなに強くないわりに、体には魔石が張り付いているのでとても旨い。こいつを狩るだけでもいい儲けになりそうだ。


「それにしても、すごいな。擬態じゃなくて同化を使っている魔物の存在を見破れるなんて、さすがトレジャーハンターだ」

 正直俺の探索スキルでは、かなり近くで念入りに探って、ようやく違和感に気付く程度だ。

 ミステリーリザードがこちらから手を出さなければ襲ってこない魔物でよかった。

 今のところ、こちらが手を出さなければ攻撃してこない魔物ばかりだが、この先、同化を使って奇襲をしてくるタイプがいた場合、俺のスキルでは見つけられず奇襲をくらう可能性が高い。ハックがいて非常に助かった。

「まぁ、俺自身が隠密行動に特化してるからな。似たような行動パターンの奴は何となくわかるってやつ?」

「なるほど? いやー、まじハックが一緒でよかったな。俺達だけだったら、この魔物のかくれんぼは見破れなかったな」

「ですねー。ハックさんありがとうございます」

「いやぁ~それほどでも~」

 目をキラキラとさせるジュストにハックが表情を緩めて頭を掻いている。わかる、こんな純真な眼差しを向けられると照れるよな!!


 その後も、ハックが隠れている魔物を見つけて、ジュストが範囲魔法でそれを刺激して、俺が仕留めるという流れを繰り返しながら、ダンジョンの奥へと進んでいった。

 これが妖精のかくれんぼなら思ったより楽だし、ミステリーリザードからは魔石がザックザクだし、他の魔物もたいして苦労しないで素材が手に入るし、超美味しいな!!

 いや~、まさに宝の地図じゃん!?



 なんて事を思っていたら、トンボ羽君の声がどこからともなく聞こえて来た。

『かくれんぼの子を見つけるの上手だねー。じゃあ次は鬼さんだよー!!』

 なーんて言うトンボ羽君の不吉な言葉の直後に"鬼"が現れた。

「トロールか!?」

 鬼の姿を確認してハックが嫌そうな顔をした。

 トロールとはCランクの二足歩行のずんぐりとした人型の魔物で、その身長は一メートルから三メートルと種類によって幅がある。

 目の前にいるトロールは二メートル程で青緑の気持ち悪い肌の色をしている。

 トロールにもいろいろ種類があり、その姿は様々だが、その前に出て来たのはだいたいトロールの特徴を備えているので、トロールの一種で間違いないはずだ。


 それにしても、鬼っちゃ鬼っぽいけど、角が生えてねーな?

 トロールは、ずんぐりというかでっぷりとした体で、怪力の持ち主である。知能は低くあまり魔法を使う事はないが、小型種のトロールの中には知能が高く魔法を使う個体もいる。稀にだが大型のトロールの中にも、知能が高く怪力と魔法を持つ個体もいるので、油断すると痛い目に遭う。ちなみに雑食で人間も食料だと思っている奴らだ。

 そしてこのトロール、可能だとしても人型なので食べる気にはならないが、肉は食用にはならない。

 その他の部位も魔石以外は素材としての需要がなく、あまりうま味のある魔物ではない為、ハックが嫌そうな顔をするのはもっともだ。

 でっぷりとした体に溜め込んでいる脂肪が、燃料として需要があるくらいだ。しかしこの脂も品質はあまりよくない。

 そんな人気のないトロールなのだが、俺としてはトロールの脂肪は非常に欲しい。

 だって、このトロールの脂肪こそが、俺のお小遣い稼ぎの筆頭、マニキュアの材料なのだ。

 マニキュアに使っている樹脂を薄める為に使っているのが、このトロールの脂肪をスライムに与えて作った、トロールスライムゼリーなのだ。少し匂いが独特で癖になるのが特徴の、スライムゼリーだ。


 そして目の前には、そのトロールが五匹ほど。

 このトロールがどこから連れてこられて、どうやって俺達の目の前に出て来たのか気になるが、妖精の仕業だと思うと気にしても無駄なので、気にしないことにした。

 それに、うちの近所でトロールを見かけなくて、在庫が減る一方だったから、ホントありがたいわー。

 ちなみに、バーソルト商会に生産を任せている分は、商会が冒険者ギルドにトロールの脂肪の収集を依頼しているらしい。

 あの辺は、周囲の森にもダンジョンにもトロールが多いからなぁ。人間に害のある魔物の駆除にもなってちょうど良さそうだ。


「そぉぉぉぉれ!!」

 ミスリルのロングソードを振ってトロールの首を刎ねる。

 いやー、ホントよく斬れるなー。

 出て来た五匹をサクッと倒して回収。君らはマニキュアに生まれ変わって、綺麗なお嬢さんやご婦人方の爪の上で、次の人?生を過ごすがいい。

「なぁ、あのにーちゃんもしかして結構強い?」

「はい、すごく強いです。高価な素材と美味しい食材が絡むと更に強くなります」

「まじかよ、俺達いらなくね?」

「ヒーラーに仕事がない事はいい事だって、グランさんが言ってました」

 何やら後ろでジュストとハックがボソボソと話しているが、よく聞き取れないな。

 まぁ、トロールも倒したし細かい事は気にしない。


『えー、グラン強すぎー。いいもんいいもん、次のエリアの鬼さんは、もっと強い鬼さんにするからねー! 次のエリアで待ってるねー!!』

 不吉な声が聞こえて来たが、この程度の難易度ならまだ何とかなる。だがもっと強い鬼がどの程度かわからないので、油断はしないでおこう。





 しかし、その前に。


「え? こんなところで飯!? 通路のド真ん中だぞ!?」

「まぁ、そろそろ腹が減ったしな。壁に隠れていた魔物も駆除したし、ジュストが結界を張ってくれてるし、大丈夫だろ? それに腹が減っては戦はできない」

「戦?? え? 何と戦争をするつもりだ!?」

 あ、しまった、前世の国のことわざだった。

「まぁ、腹が減っていたら戦えないって事だ」


 どこに魔物がかくれんぼしているかわからないので、魔物の殲滅が終わった比較的広い通路で食事にすることにした。

 このダンジョンの魔物は今のところ隠れているだけで、こちらから手を出さなければ襲ってくる気配はない。

 この階層の終点も近そうだし、次の階層がどうなっているかわからないので、今のうちに飯だ飯!!


 さぁて、ダンジョンでランチタイムよー。


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