第199話◆かくれんぼが得意なお友達

「っちょ……えぇ? これはどういうこと……!?」

 翌日、朝食を終え、今日も獣舎を頑張って作るかと現場へ行って、目に飛び込んできた光景に思わず絶句した。

 そして、獣舎の前で胸を張るトンボ羽の小さな妖精さん。


「どお? すごいでしょ!!」

 すごくすごいけど、獣舎の傍らにぐったりした顔で座り込む、鮮やかな赤のコートに立派なブーツの妖精さん。

 あ、俺この妖精さん多分知ってる。おとぎ話で有名な、家の主人が夜寝ている間に靴を修理してくれる妖精さんだよね!?

 その横にはもう一匹、茶色いもふもふとした少し大きめのネズミのような妖精さんが、死んだ魚のような目をしてうずくまっている。知ってる、こっちもおとぎ話に出てくる、家人が寝ている間に台所の掃除したり、お皿を洗ってくれたりする妖精さんだよね!?


 そして、その二匹の妖精さんがぐったりしている理由――獣舎の方に目を向けると、途中だった壁が出来上がり、木の屋根が取り付けられていた。木製というか木!!

 俺の腕くらいの木の幹が寄り集まって、未完成だった獣舎の壁の上の方から屋根部分をみっちりと塞ぎ、その隙間から緑の葉っぱも見えていて何かおしゃれで可愛い。

 昨日置きっぱなしにしていたレンガが全部無くなっていて、それで足りなかったと思われる部分が木で補われている。

 レンガ造りの壁の部分には、蔦状の木の幹が這って建物が補強されている。

 ええ……もしかして妖精さんがやったのか!? おそらく、そこでぐったりしている二匹が!!

 靴屋の妖精さんなんて体が小さくて、一晩に片方の靴しか作れないから、片靴屋って呼ばれているのでは!? なのに一晩でこれをやったのか!? 大丈夫!?


「お友達に頼んだらやってくれたよー」

 トンボ羽君は頭の後ろで腕を組んで、のほほんとそんな事を言っているが、頼んだというか脅してないよね!?

「ごめんな、屋根ありがとう。これ食べて、ゆっくり休んでくれ」

 何かあった時の為に収納に常備しているおやつの中から、シランドルで購入してきた南国フルーツをたっぷり使ったタルトを、ぐったりしている妖精さんに切り分けて、皿に載せてそっと差し出した。

 トンボ羽君だけあげないのは可哀想なので、トンボ羽君にも一切れ差し出した。


 ぐったりしていた二匹は、すごい勢いでタルトを平らげ、逃げるように森へ帰っていった。やっぱり、トンボ羽君に脅されて、働かされたのでは!?!?

「あー、帰っちゃったー、片靴屋はお願いしたら、宝の地図をくれるのにー」

 そのお願いは脅迫ってやつでは……。宝の地図は気になるけれど、無理矢理はいかんよ、無理矢理は。

 というか、屋根のお礼ちゃんとしたかったな。靴屋と台所の子だったようだから、玄関と台所にお礼を置いておけばいいかなぁ。

 妖精さんに苦労をさせてしまったが、どうしようか悩んでいた屋根が出来たのはよかった。

 獣舎は出来たけれど。フローラちゃんの温室も作りたいし、建物はまだまだスキルも知識も足りないから、やっぱ大きな町の建築ギルドに行って講習会参加してみようかな。


「ねぇ、亜竜君達のおうちできたよね? 約束通りかくれんぼしよ?」

 トンボ羽の妖精君が俺の肩にとまってニッコリと微笑んだ。

 アッーーーー!!




 さすがに何の準備なしで、妖精基準のかくれんぼは嫌な予感がしたので、一旦装備を調えに母屋に戻ると、ちょうどジュストが出かけようとしているところだった。

 冒険者ランクを上げたいジュストには申し訳ないが、問答無用で巻き込む事にした。ヘイトの分散は戦略の基本である。

 それに俺の予想では、妖精とかくれんぼはきっとドリーの筋トレレベルで、いいトレーニングになるはずだ。


「妖精とかくれんぼですか? 何だかメルヘンで楽しそうですねー」

 と二つ返事で了承してくれたジュストがマジ天使で、ちょっと心が痛む。

 アベルはもう出かけた後か……チッ!! 三姉妹もラトも出かけた後のようで、ジュストと二人で頑張るしかないようだ。

 妖精レベルの遊びなんて何があるかわからないので、準備には念を入れまくった。備えあれば憂いなしと、前世の俺が言っている。



 ガッツリ準備を調えて獣舎に戻ろうとしたら、門に付けている来客を知らせるベルが鳴った。

 ん? 来客の予定なんかないはずだけど誰だ?

 ジュストと一緒に門に向かうと、門の外にヒョロヒョロとした見知らぬ男が立っていた。


「えぇと、どちらさん?」

「いあ、その、ホントごめんなさい。もう悪い事はしませんから、お家に帰らせてください……」

 ハシバミ色のさらさらとしたセミロングのストレートヘアが印象的なその男は、虚ろな表情で何かうわごとのように呟いている。

「やっほー! せっかくだから、かくれんぼの上手なお友達連れて来たよー。お友達が一緒だと中に入れなかったから、こっちから来ちゃった」

 死んだ魚のような表情をしている男の肩に、トンボ羽君がちょこんと座っていた。

 ええ!? この人どこから連れて来たの!? もしかしなくても誘拐して来てたりしない!?!?

 かくれんぼ上手なお兄さんって、昨日言っていた一晩中かくれんぼに付き合ってくれた律儀な人の事!? うわあああああああ……気に入られちゃったんだ……ご愁傷様。


「じゃあ、さっそくかくれんぼしよーー!!」

 トンボ羽君が元気に片手を上げるが、彼が連れて来た男の表情は完全に死んでいる。

「ちょっと待ってくれ。その彼、すごく疲れてそうだし、無理させるのはよくないんじゃないかな? ほら、人間は案外か弱いからね? ちゃんと元の場所に返してあげて? その分、俺とジュストががんばるからね?」

 すまん、ジュスト、ここは体力作りだと思って巻き込まれてくれ。


「そっかー、それなら仕方ないね。せっかく片靴屋に貰った宝の地図を使おうと思ったのに」

「「何? 宝の地図だと!?」」

 妖精の言葉に俺とヒョロ男の反応が被った。そして、表情が死んでいたヒョロ男の顔に生気が戻っていた。

「うんー、片靴屋に宝の地図を貰ったんだー。宝探ししながらかくれんぼしようと思ったんだけど、お兄さん疲れちゃってるなら仕方ないよねー。無理矢理連れて来てごめんね。町まで送るよー」

「あーいやいやいやいやいや、元気!! 俺めっちゃ元気!! 宝探し?? かくれんぼ?? 任せろ!! どっちも得意だ!!」

 めっちゃ元気になった。わかる、妖精の持っている宝の地図なんて、どんな面白い宝物があるか気になる。

「ホント!? じゃあ、お兄さんも一緒に遊ぼうね!!」

 妖精基準の遊びなので少し嫌な予感がするが、二人より三人の方がいいに決まっている。何が起こるかわからないから、ヘイトの分散先は多い方がいい。

「宝の地図ですかー? 何だかワクワクしますねー」

 はー、ジュストはマジで癒やし。

「でしょー? じゃあ、行くよー」

 トンボ羽君が巻物のような物をどこからともなく取り出して、それを広げた。


 ブオォンッ!!


 トンボ羽君が開いた巻物から魔力が溢れ出し、目の前にガラス、いやクリスタルのような大きくて豪華な扉が現れた。

「空間魔法がかけられた地図か!?」

 思わず声を上げた。これはもしかしなくてもヤバいやつでは!?!?!?

 そう思ったが、もはや手遅れ感満載。目の前の扉が開いて、俺達はその中に吸い込まれた。 


 備えて来たけど、憂いしかない気がするんだけどおおおおおお!?!?!?




 

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