第198話◆フリーダムなモグラ

「うおおおおおい!! 人んちの地下室に、何てことをしてくれるんだ!!」

「大丈夫だも! 後でちゃんと掃除をして扉と階段を付けておくも!! 建物の基礎は通路に合わせて直しておくから、心配はいらないもっ!」

 泥だらけで穴から出て来たタルバが、えっへんと胸を張る。小動物系獣人は無駄に可愛いな、おい。

「そうか、それならいい……いや、よくないだろ!? ていうか、どこからこの穴を掘って来たんだ!?」

「も? モールの集落とグランの家を繋ぐ隠し通路を作ったも? いつでも行き来できて便利も?」

 全然隠れてねーし……。まぁ、確かにそれは便利だな? というかモールの地下集落は、うちから結構距離あったと思うけど、それをずっと穴を掘って来たのか? さすがモグラ。

「便利だと思うがこのサイズは俺は通れないし、この家には俺以外の人間も住んでて、この地下室にも出入りするぞ?」

「だから、隠し通路も! 大きさはこの後、グランが通れるサイズにするも!」

 だから全然隠れてない気がするけど!? って、俺が通れるサイズの通路って結構な高さになるが、そんな通路をうちの下に作るつもりか!? 


「あら、地面の中には結界を張ってなかったみたいですわね」

「ラトもアベルもうっかりさんですねぇ」

「まぁ、地面の中から穴を掘って来るなんて、モール達くらいでしょ」

 三姉妹に言われて気付いた。地中からの侵入は無防備だった!! いや、どうせ地面からの侵入者なんて、ないと思って気にしていなかった。

 まぁ、力のある妖精の類は結界をすり抜けてくるし、小さな虫や小さな鳥、生まれたばかりのスライムなんかは普通に入って来るしなぁ。むしろその辺まで弾いてしまうと、農作物が育たなくなる。

 うちの侵入者避けの結界は、ドーム状で目の粗い超頑丈な網戸みたいなイメージだ。

 地面かー、モールみたいな例が珍しいだけだと思うが、ワーム系の魔物が突然地面から生えて来ても困るし、アベルとラトが帰って来たら地面も何とかしてもらおう。


「地面にはわたくしが結界を張っておきましょう」

「私も手伝いますぅ。モールさんや小さな虫さんは、通れるようにしておきますねぇ」

「そうね、モールの住み処と繋がっちゃったなら、その先にはドワーフの町にも繋がってるし、防犯対策しておいた方がいいわね」

 どうやら地面は三姉妹が何とかしてくれるようだ、ってドワーフの町もあるのかー。


 ドワーフの鍛冶の腕は冗談抜きで神懸かっている。彼らの作る金属製品は、人間が作るそれとは比べ物にならない高品質で、見た目も美しい。

 金が大好きでかなりがめつく気難しい面もあるが、基本的に陽気な酒好きなおっさんである。

 王都にいた頃に世話になっていた鍛冶屋も、ドワーフの営む鍛冶屋で、俺の持っているアダマンタイト製の装備は、その工房の親方が作ってくれた物だ。

 王都にいる頃にはよく一緒に浪漫武器を試作して、実戦で使ってたまーに予想外の事になって、アベルに怒られてたなぁ。

 そうそう、愛用している左手用のライトクロスボウ付のガントレットも、その親方と一緒に開発した物だ。

 しばらく会っていないから、次に王都に行った時には、お土産にササ酒とウー酒を持って工房に顔を出しに行こう。



 で、うちの地下室の床にでっかい穴が空いて、モールの集落とトンネルで繋がってしまった訳だが、穴の開いた入り口は扉を付けて、トンネルは出入りし易く入り口部分は階段になった。

 この作業全部タルバ一人が土魔法を使いながらやった。

 土魔法で穴を掘って、階段も土魔法で作って、その表面を土魔法で石に変化させる。まだ入り口の扉と階段だけだけど、モールの土魔法すげーな!!

 そして、入り口部分が出来上がったら「疲れたもっ!」と言って帰って行った。フリーダムすぎるモグラである。

 ここまで穴を掘ってきた上に、出入り口を整えて疲れてそうだったので、帰り際にオーバロのお土産と一緒に甘い物を渡しておいた。


 まだ入り口だけだが、そのうち俺が通れるサイズの地下道になるらしい。

 ここを引っ越す気はないが、俺がここを離れる事になったら、この地下道は封印しないといけないなぁ。

 ああ、扉に床と同化するように幻影効果を付与しておこう。まぁ、アベルにはすぐ見つかりそうだけど。



 地下室の床からいきなりタルバが生えて来るというハプニングもあったが、タルバが帰った後は獣舎作りを再開した。

 壁部分は半分以上出来たが、まだ屋根もあるし完成が見えない……明日から本気出すか!!

 使う予定のレンガは収納に戻すの面倒臭いし、このまま防水効果を付与した布をかけておいて、明日からまた頑張ろう。


 夕飯の支度をするには少し早いので、空いた時間でジュストが森を切り開いてくれた時に出た、刈り取った下草や低木、丸太にする為に切り落とした木の枝が、置きっぱなしになっていたのを、倉庫の軒先に移動させておいた。

 切り株は掘り返そうかと思ったけれど、やっぱり面倒臭かったので、そっと土に還ってもらった。

 その後、念願の干し柿の為、柿の皮を剥いて倉庫の軒先に吊しておいた。甘くなぁれ、甘くなぁれ。

 切り干し大根……いや、切り干しララパラゴラも作りたいところだが、そろそろ夕飯の支度の時間だ。




 オーバロでは念願の醤油だけではなく、酢も手に入ったもんなぁ!!

 そうだ、今日はあのにっくきクソ鳥、コットリッチを美味しく召し上がってやろう。

 木の上の日当たりの良い場所に生っているコフェアの実ばかり食っているコットリッチの肉は、非常にジューシーで美味しいと地元の人に聞いた。


 クソみたいな魅了で苦労させてくれたテメェなんか、チキン南蛮にしてやる!!!

 いや、鶏じゃないからチキンじゃないな? それに、今世には南蛮なんてないから何て言えばいいのだろう? コットシランドル南部?

 語感最悪だな!? まぁ、料理には無理に名前を付ける必要なんてない。美味けりゃいいんだ、美味けりゃ!!


 肉を揚げるその前に用意しておかないといけない物が二つ。タルタルソースと甘酢だ。

 ゆで卵を作りながら、その間にタマネギをみじん切りにして、冷水に晒しておく。タマネギは細かい方が俺は好みなので、気合いを入れて細かくみじん切りにした。

 タマネギは、ゆで卵が出来上がって熱が取れるまで、そのまま水に晒しておく。


 その間に甘酢を作る。酢と醤油とイッヒ酒は等しく、砂糖は他の半分ほど入れる。これを混ぜて鍋で一煮立ちさせるだけなのだが、俺はこの甘酢に少し摺り下ろしたタマネギを加えるのが好きだ。


 熱が取れたのを見計らって、ゆで卵は細かく砕き、みじん切りにしたタマネギは布で水分をしっかり取って、卵と一緒にボウルの中へ。そこにマヨネーズをドボンとして混ぜればタルタルソースの出来上がり。

 上に布を被せて、飯の時間まで放置だ。寒い季節なので、その辺に置いておいても問題ない。


 付け合わせの野菜と味噌汁も用意しておいて、アベル達が戻って来る頃を見計らって、メインの肉の準備だ。

 コットリッチの肉の肉質は鶏や七面鳥に近い感じのようで、揚げ物にしても大丈夫そうだ。使うのは胸のあたりの肉がいいかな?

 解体後、部位毎に切り分けて保存していた肉の中から、胸肉を選んで少し厚めに削ぎ切りしていく。

 一枚の大きさは少し小さめのステーキくらいだろうか、大きい肉なので火が通り易くする為に肉には切り込みを入れておく。それに塩とコショウを振って、小麦粉をはたいて溶き卵を絡ませ、油でジュワアアアアアアアアアアっと揚げる。

 人数が増えたし、唐揚げスキーばかりだし、でっかいフライヤー的な物が欲しいなぁ。タルバのところに気軽に遊びに行けるようになったら、炊飯器と併せてタルバに相談してみるかなぁ。


 こんがり揚がった後しっかり油を切った肉は、フライパンで先ほど作った甘酢と絡め、食べ易く一センチ幅に切って、皿に盛ったキャベツの千切りの上にドンと載せた。最後にタルタルソースをかけ、搾り易くカットしたレモンを添えて完成。

 ついでにタルタルソースの上に、刻んだパセリを振っておこう。

 味噌汁とご飯を添えれば、コットリッチのチキン南蛮風定食だあああああああ!!

 おかわりも用意して、アベルとラト対策もばっちりだ。ジュストも結構よく食べるんだよね。ジュストは成長期の食べ盛りだから仕方ないな。


 うちはマヨネーズ嫌いがいないので、今日はタルタルソースだが、タルタルソース以外にも酢と醤油におろし生姜と刻みニンニクを加えたタレも悪くない。その場合は刻みネギをたっぷりかけると美味しいんだよなぁ。これはまた別の機会にやろうかな。

 トマトソースとマヨネーズを混ぜたソースも合うよなぁ……。あーしまった、色々ソースを用意して、食べ比べできるようにすればよかったな。


 どうやら出かけていた組が戻って来たようなので、出来上がった料理をワゴンに乗せて食堂へ。

 最近は食事の時間になると、三姉妹がお茶やカトラリーの準備をしてくれているので非常に助かる。人数が増えたから、一人で全部やるのは結構大変なんだよね。

 そしてお手伝いしてくれる幼女は可愛いので、デザートが増える。可愛いエプロンを着せたくなるな。けっしてロリコンではないが、三姉妹にヒラヒラのエプロンを着せてみたい。小さいメイドさん絶対可愛いよなああ!?


 テーブルに料理を並べていただきます。


 ジュストがうっかり"チキン南蛮"をポロリして、アベルに根掘り葉掘り聞かれるのはすでに予測済みだ。

 俺は助けないから、自分で上手く躱すんだ。これはうっかりポロポロの多いジュストへの試練でもあるんだ!!

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