第197話◆予定外の訪問者
リリーさんのお店に行った翌日、俺は獣舎の壁になる部分に、ひたすらレンガを積み上げていた。
崩れないようにレンガの中に穴を開けて鉄の芯を通しているので、思ったより時間がかかってしまっている。
分解スキルでレンガに穴を空けているのだが、これがまた加減が難しくて、時々レンガごと分解してしまう。数も多いので、夕飯後などの空いた時間に、コツコツと穴を空けるようにしている。
ここに越してきた時に、住居環境を整える為に山のようにレンガを買って来ていたが、壁を作り終わる頃にはなくなりそうだなぁ。いや、それも足りないかもしれない。
ピエモンの商業ギルドにレンガを大量に取り寄せてもらうように頼んでいるが、すぐには届かないだろうしなぁ。
完成はまだまだ先になりそうだ。
そういえば、ピエモンの商業ギルドは人事異動があったのか、見た事のない人が増えていた。若干女性が増えたのかなぁ? 以前よりなんだか明るくて雰囲気がよくなっていた。
「ねぇええええーー、グランーー、あーそーぼーーーーー!!」
「ホッホッホーッ!!」
「ごめんな、騎獣達のお家を作ってやらないと、この季節は寒いだろ? お家が完成したらいっぱい遊ぼうな? それでいいかい?」
「うん、わかった!」
「ホーッ!」
「ありがとう。じゃあ今日遊べない代わりに、おやつをここに置いておくからな」
「わーい、ありがとうー。じゃあ、お家完成したらいっぱいかくれんぼしようね」
「ホッホーッ」
騎獣達の小屋をせっせと作っている俺に、せわしなく話しかけてくるのは、作りかけの壁の上に座った手のひらサイズの小さな男の子の妖精と、その横にとまっている毛玉ちゃんだ。
秋に行った妖精の祭りで知り合って以来、妖精達が時々遊びに来るのでおやつをあげたり、時には一緒に遊んだりしている。
今日も遊びに誘われているが、今は獣舎を作るのに忙しいから、おやつでなんとか誤魔化している。
コツコツと毎日レンガを積み上げて、三姉妹が時々手伝ってくれることもあり、壁はなんとかなりそうだが、屋根がもっと大変なんだろうなぁ。
とりあえず、骨組みだけは出来ているので、屋根は防水効果のある布が張ってある。
「かくれんぼかー、俺はあんまり得意じゃないなぁ」
隠密スキルはあるけれど、妖精の目を誤魔化せるほどの精度ではない。
「そっかー。こないだね、グランの家の近くでかくれんぼがすっごい上手な人間に会ったんだ。一晩中一緒に遊んでくれたんだけど、朝には疲れちゃったみたいで、もう無理って言うから、遊んでくれたお礼に町まで送ってあげたんだ。また、遊びに来てくれないかなぁ」
「ホッホォ?」
作りかけの獣舎の壁の上に座って、ドーナツをむしゃむしゃと食べながら、妖精君が言った。
その横で毛玉ちゃんが、ドーナツを咥えたまま首を傾げている。頭が上下逆になりそうなくらい、首を傾げている毛玉ちゃんかわいい。
それにしても妖精にかくれんぼが上手って言われるなんて、かなり隠密系のスキルが高いか幻影とか擬態系のスキルか魔法の使い手なんだろうな。しかも一晩中、妖精と遊び倒すなんてどんだけ体力あるんだ。この辺では珍しい、ランクの高い冒険者だったのかもなぁ。
俺も出来なくはないと思うが、やりたくないな……というか朝まで妖精に付き合うなんていい人だなぁ。俺ならおやつを渡して誤魔化すな。
「妖精の目でかくれんぼが上手な人間かー、すごいな。そうだ、かくれんぼならワンダーラプター達とやったらどうだ?」
「グエエ?!」
作りかけの獣舎の中で寛いでいるワンダーラプターが、気の抜けた返事をした。獣舎の中は温度調整の魔道具を置いているので、外より少し暖かく、わらも敷いてあるのでポカポカとして気持ちいいのだろう。
しかし、暖かいからといって昼間からゴロゴロとしていると運動不足になってしまう。ちょうどいいので、妖精さんに遊んでもらうといい。
かくれんぼなら一号が得意そうだしな。二号も魔法が使えるから案外いい線いくかもしれない。三号は……うん、残念そうだ。
「うん、じゃあ一緒に遊んでくる!」
「おう、少し手加減してやってくれよ」
「うん、任せてー!」
「ホッホーッ!」
「日が暮れる前には帰ってくるんだぞ」
「ギュエエエエ?」
妖精と毛玉ちゃんとワンダーラプター達が、ジュストが切り開いてくれた広場の方へ行くのを見送って、獣舎を作る作業に戻る。
コツコツとレンガを積んで壁を作っているが、先はまだ長い。
騎獣達の広場用に森を切り開く作業はほぼ終わっていたので、その作業をやってくれていたジュストは、今日はオストミムス君に乗ってピエモンの町の冒険者ギルドへ依頼を受けに行っている。
一人で行かせるのは心配だったが、いつまでも俺がついて行ってもジュストの為にならないし、邪魔になりそうなので俺は留守番だ。
獣舎も早く完成させないといけないしなぁ。
手が空いたらタルバ達にもお土産を持って行きたいし、スライムも弄りたいし、オーバロで買ってきた食材も弄りたい。
やっぱり、スローライフは忙しい。
「グーラーンーーー!!」
妖精とワンダーラプター達が遊びに行ってしばらくして、今度は三姉妹がやって来た。
今日は三姉妹達は、倉庫でスライムを弄ったり調合をしたりしていたはずだ。
留守中にスライムの世話を任せて以来、三姉妹、特にウルがスライムにハマったようで、俺が帰ってきてからもスライムの世話を手伝ってくれている。
クルはもともと調合が好きなようで、倉庫の作業場で色々作って楽しんでいるようだ。
ヴェルは何やってるんだろう。ヴェルは三人の中で一番ポンコツ女神力が高いから不安だ。
「大変ですぅーーー!!」
え? 大変って何!?
「地下室の下から変な音が聞こえますの」
「ええ? 変な音? スライムでも逃げたのかな? いや、地下室の下からか? とりあえず見に行こう」
地下室は地下一階までしかないはずだし、その下に変な空間がないのは引っ越してきた時に確認済みだ。スライムが逃げて穴掘って地面の中に入るとかまずないと思うのだが、絶対ないとは言えないしなぁ。変な音って何だぁ?
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……。
三姉妹と一緒に倉庫の地下室へ行くと、確かに何か低い音が床の下から聞こえている。
しかも、その音の大きさから言って、床のすぐ下のようだ。
まるで何かを削るような音は少しずつ近づいて来ているような気がする。
ん????
「床の少し下に細い空間が続いてるな。以前はそんなのなかったはずだが」
倉庫を改造した際に、隠し部屋とか隠し地下室とかないかワクワクしながら探して、そんなものはなかったんだよね。
だから、ここに越してきた時に一度、建物の周辺に妙な空間はないか確認済みなのだ。
ぬ!? 音のする辺りに細長い空間があるのだが、その先頭に生き物の気配があり、その注意は俺達のいる地下室の方を向いている感じがする。
そしてそれは、もうこの地下室の真下の辺りまで来ている。
「離れるぞ!」
三姉妹を促して、階段の方へと避難する。
ゴリゴリという音はもう床の真下まで来ており、地下室にあるスライムの入っている水槽がビリビリと揺れている。
何かが地面の中をこちらに向かって掘り進んでいる。そしてその先頭にある気配は――
「もーーーーーーーーーーーっ!!」
「タルバアアアアアアアアアアアッ!!!」
甲高い声と共に床がボコンと盛り上がった後に割れて、そこから土と一緒に、泥だらけのモグラ顔の獣人が顔を出した。
「お久しぶりも! 遊びに来たもっ!」
人んちの床に穴を空けてんじゃねえええええ!!!
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